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株式会社情報戦略テクノロジー (155A) 2025年12月期 第2四半期決算分析

目次

DX内製支援の「0次」モデルは、M&Aと新規事業投資で成長加速の軌道へ。しかし、利益の質と組織拡大リスクに潜む影


1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立(確信度 65%)

株式会社情報戦略テクノロジー(以下、IST)の2025年12月期第2四半期決算は、売上高が期初計画を大幅に上回る好調な進捗を示し、特に大手企業向けDX内製支援サービスが過去最高の増収を達成しました 。しかし、この成長を牽引する積極的なM&Aや採用活動に伴い、のれん償却費や採用費などのコストも増加傾向にあり、利益の進捗は売上高ほどには加速していません 。ビジネスモデルの根幹である「0次DX」は、新規顧客開拓と高い継続率を維持しており、その競争優位性は引き続き評価できます 。しかし、急激な事業拡大に伴う組織の統合・管理リスク、そして利益率への影響を考慮すると、現時点では「強気」に踏み切るには時期尚早と判断し、「中立」のスタンスを維持します。今後、M&Aで獲得した事業とのシナジー創出や、積極投資が収益として具体的に結実するかに注目が必要です。

3行サマリー:

  1. ISTはDX内製支援事業の好調とM&Aによる連結化で、売上高が期初計画を大幅に上回り、過去最高を更新しました 。
  2. この成長は、新規顧客の獲得と高い契約継続率という堅固なビジネスモデルに支えられていますが、M&A関連費用や採用費の増加が利益成長を鈍化させています 。
  3. 今後は、買収した企業のPMI(経営統合)の成否、積極投資がもたらす収益性改善、そして組織拡大に伴うガバナンスリスクを注視し、利益の質と持続的な成長性を評価する必要があります。

主要カタリストとリスク:

カタリスト(ポジティブ要因)

  • M&A・新規事業の収益貢献: 株式会社エー・ケー・プラスのPMIが順調に進捗しており、特定領域でのインフラエンジニアのアサインが確定しています 。AI関連サービスなど、新規事業が本格的に収益に貢献し始めれば、利益率改善の強力なドライバーとなる可能性があります 。
  • 「WhiteBox」プラットフォームの本格収益化: エンジニアのマッチングプラットフォーム「WhiteBox」の会員数増加と有償化推進が、新たな収益源として成長すれば、スケーラブルな収益モデルへと進化する可能性があります 。
  • 人材の安定的確保と単価向上: 新卒採用の好調な定着率や、コンサル・PM採用比率の増加によるエンジニアの質向上は、中長期的な収益力向上に直結します 。技術力向上による案件単価の上昇が継続すれば、収益性がさらに改善します 。

リスク(ネガティブ要因)

  • 急激な事業・組織拡大による管理コスト増: M&Aによる人員増加と事業所の拡大は、一過性ではない管理コストの増加を招き、利益率を圧迫する可能性があります 。
  • 人材獲得競争の激化: IT人材不足が深刻化する中で、優秀なエンジニアを継続的に確保できなければ、ビジネスモデルの根幹が揺らぎかねません 。特に、新卒採用における内定辞退率15%は懸念事項です 。
  • 利益成長の鈍化と投資回収の遅延: 積極投資が続く中で、売上高の成長率に利益成長率が追いつかない状況が続けば、市場の期待を下回り、株価の下押し圧力となる可能性があります 。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

ISTは、大手企業のDX内製支援を主軸とする、いわゆる「0次DX」を推進する企業です 。彼らのビジネスモデルは、単にシステム開発を受託するのではなく、顧客と一体となり、対話と提案を繰り返しながら、システムの改善と改良を継続的に行っていく点に最大の特徴があります

ビジネスモデルの評価: ISTの収益モデルは、非常にシンプルに表現できます。

売上高 = エンジニア数 x 平均単価

このモデルの強みは、以下の点にあります。

  • 高い継続率とストック性: 案件は四半期ごとに業務委任契約を締結する形式であり、契約継続率が約95%と非常に高い水準を誇ります 。これは、顧客のDX内製という継続的なニーズに応える「0次」モデルが、高いスイッチングコストを生み出していることを示唆しています。
  • 顧客基盤の安定性: 売上の約8割が、売上高1,000億円以上のエンタープライズ企業で構成されています 。大企業はIT投資額が安定しているため、ISTの安定的な事業基盤に寄与しています 。
  • 人材確保の多様性: 自社でエンジニアを雇用・育成するだけでなく、自社運営のプラットフォーム「WhiteBox」を活用して、外部のパートナーエンジニアを調達できる体制を構築しています 。これにより、需要の変動に柔軟に対応し、規模拡大を加速させることができます。

一方で、脆弱性も存在します。

  • 人件費依存の利益構造: 売上原価の大部分を労務費(エンジニアの人件費)が占めており、これはビジネスの性質上、避けられない構造です 。急激な人員増加は、売上増に先行してコスト増を招き、短期的な利益率を圧迫するリスクがあります 。
  • 特定のプラットフォーム依存: 「WhiteBox」は事業拡大の重要なツールですが、その活性度や外部エンジニアの質に依存する部分があります。
  • 組織拡大に伴うガバナンスリスク: 急速なM&Aや人員増加は、組織文化の統合や管理体制の構築において、潜在的なリスクを抱えます。

競争環境: ISTの競合は、メーカー系やユーザー系のSler、さらにはフリーランスのエンジニアまで多岐にわたります 。しかし、彼らのポジションニングマップが示すように、自社で多数のエンジニアを雇用・育成し、かつ顧客と直接的な関係を築く「元請け」案件を多く手掛ける企業は稀有であり、この点で明確な競争優位性を確立しています 。彼らが目指す「0次システム開発」は、従来の多重下請け構造をなくすという明確なフィロソフィーに裏打ちされており、これが優秀な人材や顧客の共感を呼ぶ源泉となっています


3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析:

項目(単位:千円)2025年12月期 2Q累計通期業績予想達成率(%)
売上高3,635,8287,466,39048.7%
売上総利益989,5592,022,21948.9%
営業利益160,332430,07737.3%
経常利益153,042420,97336.4%
中間純利益80,994262,82330.8%

注:2024年12月期中間期の連結数値は非開示のため、前年同期比は決算説明資料の四半期実績データに基づき考察する

  • 売上高の好調な進捗: 売上高の達成率は48.7%と、中間期としては非常に高い水準です 。これは、主たる事業である「大手企業向け内製支援サービス」の増収に加え、2025年2月にグループインした株式会社エー・ケー・プラス(以下、AK+)の業績が第2四半期から連結に反映されたことが大きく寄与しています 。第2四半期の売上高は20.06億円と、前期比で大幅に伸長しました 。
  • 利益の進捗率: 一方で、営業利益の達成率は37.3%にとどまり、売上高の進捗率(48.7%)と乖離しています 。この背景には、積極的な事業拡大に向けた投資が継続していることが挙げられます 。

営業利益のブリッジ分析(簡易):

要因影響額(百万円)考察
2024年12月期2Q営業利益89前期水準
売上増による粗利益増+125売上高は大幅に増加したが、粗利率は低下
のれん償却費-20AK+のM&Aによる費用
M&A関連費用等-40M&Aリサーチ等の積極投資
採用費-99新卒・中途採用に伴うコスト増
地代家賃等-66本社移転、九州支店、AK+本社賃料など
その他販管費-229その他費用増加
2025年12月期2Q営業利益160最終的な着地

このブリッジ分析から、売上増が利益を押し上げている一方で、M&A関連の償却費や、採用・拠点拡大に伴う人件費・地代家賃といった販管費の増加が、利益成長を鈍化させている構図が明確に見て取れます

収益性の深掘り: 売上総利益率は、2025年12月期第2四半期で26.8%と、前年同期の28.7%から低下しています 。これは、AK+の業績取り込みと協力会社のアサイン数増加により、粗利率が低下したためと説明されていますが、それでも当初計画を上回る粗利益を達成しています 。この低下は、利益構造の健全性を評価する上で注視すべき点です。自社社員とパートナー社員の構成比率の変化や、案件ミックスの変化が影響している可能性があり、今後の収益性トレンドを注意深く見守る必要があります。

B/S分析:

  • 総資産の増加: 総資産は41.5億円と大幅に増加しました 。主な増加要因は、現金及び預金(22.25億円)と、AK+買収に伴うのれん(5.5億円)です 。この現金増加は、投資活動による支出(約8.8億円)を上回る財務活動による収入(約11.7億円)が主因です 。
  • のれん: AK+買収により5.7億円ののれんが発生しています 。これは、同社の持つ「将来の超過収益力」が評価された結果であり、今後7年間で均等償却される予定です 。のれんの金額は暫定的なものであり、今後の精査が必要ですが、この金額が示す通り、AK+の統合と事業拡大の成否が、今後のISTの企業価値を左右する重要な要素となります。

運転資本の分析とCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル):

  • 売上債権回転日数(DSO): DSO=売上高売上債権​×90日 (四半期計算) DSO=3,635,828千円808,580千円​×90日≈20.0日
  • 仕入債務回転日数(DPO): DPO=売上原価買掛金​×90日 (四半期計算) DPO=2,646,269千円338,641千円​×90日≈11.5日
  • 棚卸資産回転日数(DIO): サービス業のため、棚卸資産はほとんどありません 。したがって、DIOはほぼゼロと見なせます。
  • CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル): CCC=DSO+DIO−DPO CCC=20.0日+0日−11.5日=8.5日

ISTのCCCは8.5日と非常に短いサイクルを保っています。これは、売上を上げてから現金化するまでの期間が短く、一方で仕入債務の支払いを遅らせることができているためです。特に、棚卸資産を持たないビジネスモデルは、在庫リスクや運転資本の負担を最小限に抑える上で強力な優位性となります。このキャッシュ効率の高さは、事業拡大のための投資資金を内部で生み出す能力を示唆しており、非常にポジティブに評価できます。

キャッシュフロー(C/F)分析:

  • 営業活動によるキャッシュ・フロー(OCF): 98.9百万円のプラスとなりました 。これは、税金等調整前中間純利益152.1百万円に、のれん償却費20.3百万円や減価償却費5.0百万円といった非現金支出を足し戻した結果、プラスを維持しています 。しかし、売上債権の増加額(88.4百万円)や法人税等の支払額(93.7百万円)がOCFを圧迫している点に注意が必要です。
  • 投資活動によるキャッシュ・フロー(ICF): マイナス879.6百万円と、大幅な支出超過となりました 。これは主に、AK+の株式取得による支出(552.5百万円)と、投資有価証券の取得による支出(310百万円)が要因です 。これは、経営戦略として位置付けるM&Aやファンド出資といった「成長投資」を積極的に行っていることの表れです 。
  • 財務活動によるキャッシュ・フロー(FCF): プラス1169.2百万円と、大幅な資金調達を実施しています 。これは、長期借入れによる収入(14.5億円)が主な要因です 。成長投資に必要な資金を、借入れによって賄っている構図が明確です。

資本効率性の評価:

  • ROIC(投下資本利益率): 決算短信には投下資本(IC: Invested Capital)に関する直接的な情報は記載されていませんが、簡易的に試算します。 ROIC=ICNOPAT​ NOPAT=営業利益×(1−実効税率) IC≈純資産+有利子負債 2025年2Q累計の営業利益は160.3百万円、中間期の実効税率は約47%(法人税等71.2億円 ÷ 税金等調整前利益152.1億円) 。 NOPAT=160.3×(1−0.47)=84.95百万円 IC=1,844百万円(純資産)+(425.7百万円+1,055.5百万円)(有利子負債)=3,325.2百万円 ROIC(中間期)=3,325.284.95​=2.55%(年率換算 約5.1%)このROICは、日本のITサービス業界の平均的なWACC(加重平均資本コスト)水準を考慮すると、現時点では辛うじて資本コストを上回る水準か、あるいは下回る可能性も示唆しています。積極的なM&Aや投資が先行しているため、利益がまだ十分に追いついていない状況です。今後のROICの推移が、これらの投資が本当に企業価値を創造しているか否かを判断する鍵となります。
  • ROE(自己資本利益率)のデュポン分解: ROE=純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ 中間純利益は80.9百万円、売上高は3,635百万円、総資産は4,150百万円、純資産は1,844百万円 。 純利益率=3,63580.9​=2.2% 総資産回転率=4,1503,635​=0.88回 財務レバレッジ=1,8444,150​=2.25倍 ROE(中間期)=2.2%×0.88×2.25=4.36%(年率換算 約8.7%)純利益率が2.2%と低い水準にとどまっていることが、ROEを抑制する最大の要因です 。これは、前述の通り、M&A関連費用や採用費といった販管費の増加が影響しています。財務レバレッジをかけているにもかかわらず、利益率の低さがROEの成長を妨げている構図です。

4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

決算短信によると、ISTグループは「DX関連事業」のみの単一セグメントであり、セグメント情報の記載は省略されています 。そのため、事業ポートフォリオの評価は、決算説明資料の情報を基に推測するしかありません。

  • 「0次システム開発」の好調: 主力事業である「0次システム開発」は、引き続き好調を維持しています 。新規顧客接触数が例年の2倍以上に増加し、新規受注社数も同様に2倍以上を記録しています 。この強力なトップライン成長は、DX内製支援という時流に乗ったビジネスモデルの有効性を示しています。
  • 「ラボ型内製支援」の貢献: 決算説明資料では、「ラボ型(体制共有型)の内製支援」が好調で、売上が増加していることが強調されています 。特に、AI関連案件の増加やテクノロジー強化による高単価な案件受注は、収益性向上に貢献しているとされています 。
  • M&Aによる事業領域の拡大: AK+の買収により、インフラエンジニアリングサービスやクラウドSIといった特定の強みを持つ事業領域が加わりました 。これは、単一事業に依存するリスクを分散し、サービスラインナップを拡充することで、顧客への提供価値を高める戦略的な動きです 。
  • 「WhiteBox」と新規事業の芽: DXプラットフォーム「WhiteBox」は、パートナー企業やフリーランスエンジニアの調達ツールとして機能するだけでなく、将来的にはSaaSとしてのサービス提供も視野に入れています 。また、サイバーセキュリティサービスやAIの共同研究も開始しており、新たな収益の柱を育成しようとする経営陣の強い意志が伺えます 。

このように、単一セグメントながら、ISTは「0次システム開発」という中核事業を軸に、M&Aや新規事業開発を通じて、サービス提供範囲を広げ、多角的なポートフォリオを構築しようとしています。この戦略が成功すれば、単なる人月ビジネスから、より付加価値の高いコンサルティングやプラットフォームビジネスへと進化し、利益率も改善する可能性があります。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

ISTは2025年12月期の通期連結業績予想として、売上高74.66億円、営業利益4.30億円を掲げています 。今回の第2四半期決算では、売上高の達成率が48.7%と順調に進捗している一方、営業利益の達成率は37.3%にとどまっています

計画進捗の評価: 売上高は計画を上回るペースで進んでいますが、利益は計画に対して遅れを取っているように見えます。この要因は、前述の通り、M&Aに伴うのれん償却費や、積極的な採用・投資による販管費の増加です 。にもかかわらず、経営陣は業績予想を修正していません 。これは、第3四半期以降にこれらの先行投資が収益として結実し、利益率が改善するという強い自信の表れだと解釈できます。

経営陣の評価: 経営陣の需要予測能力と実行力は、売上高に関しては非常に高いと評価できます。新規顧客の開拓が好調に推移し、計画を上回る実績を叩き出しているからです 。しかし、利益面ではまだその能力を証明できていません。積極的な成長戦略は、短期的な利益の犠牲を伴うものであり、その判断自体は妥当な可能性があります。しかし、投資家としては、その判断が本当に中長期的な企業価値向上につながるのか、利益の質と持続性を厳しく評価する必要があります。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

シナリオ分析(今後12~24ヶ月):

  • 強気シナリオ:
    • 前提条件: 国内DX投資需要が継続的に旺盛であり、IT人材不足が深刻化する中で、ISTの「0次DX」モデルがさらに市場で評価される。M&Aや新規事業への投資が計画通り収益に転換し、特にAK+とのシナジーが想定を上回る。採用活動も順調に進み、優秀なエンジニアを低コストで確保できる。
    • 予測レンジ:
      • 売上高: 2026年12月期に75~85億円
      • 営業利益: 2026年12月期に4.5~5.5億円
    • カタリスト:
      • AK+との統合が成功し、インフラ案件の受注が急増。
      • 「WhiteBox」が収益性の高いSaaSモデルとして本格始動。
      • AI関連サービスが大型受注に繋がり、高単価案件の比率が大幅に向上。
      • 競合他社との差別化がさらに進み、圧倒的な価格決定力を確立。
  • 基本シナリオ:
    • 前提条件: DX投資は堅調に推移するものの、景気減速懸念から大手企業のIT予算はやや抑制的になる。AK+のPMIは順調に進むが、当初期待されたほどのシナジーは限定的。採用コストは引き続き高止まりし、利益率の改善は緩やか。
    • 予測レンジ:
      • 売上高: 2026年12月期に70~75億円
      • 営業利益: 2026年12月期に3.8~4.5億円
    • カタリスト:
      • 新規顧客開拓は継続するが、大型案件の獲得ペースは現状維持。
      • M&A関連の償却費や採用費の増加が続くも、売上増で吸収。
      • 契約継続率は高水準を維持し、安定的な収益基盤を堅持。
  • 弱気シナリオ:
    • 前提条件: マクロ経済の悪化が大手企業のIT投資を大幅に減速させ、案件獲得競争が激化。M&A後の組織統合がスムーズに進まず、社員の離職率が上昇。先行投資が収益に結びつかず、販管費の増加が止まらない。
    • 予測レンジ:
      • 売上高: 2026年12月期に60~70億円
      • 営業利益: 2026年12月期に2.5~3.5億円
    • リスク:
      • 景気後退によるIT投資の急減。
      • M&Aの失敗による事業価値の毀損。
      • 優秀なエンジニアの離職率が上昇し、サービス品質の低下。
      • 競合他社による同事業モデルの模倣と価格競争の激化。

7. バリュエーション(企業価値評価)

  • 相対評価法: 上場取引所が東証グロースであることから、高い成長期待を背景に、同業他社と比較してプレミアムで評価される可能性があります。
    • PER:ITサービス業界の平均PERは30~40倍程度。ISTの2025年12月期通期予想純利益(2.62億円)と現在の時価総額(約105億円)を基に計算すると、PERは39.9倍となります。これは業界平均に近い水準であり、すでに成長期待が織り込まれていると解釈できます。
    • EV/EBITDA:借入金が増加しているため、EV/EBITDAも重要な指標です。しかし、成長投資フェーズにあるため、現時点での単一指標での評価は限定的です。 ISTは、高い継続率を持つ「0次DX」モデル、堅固な大手顧客基盤、そして優秀な人材確保に向けた積極的な投資姿勢という点で、多くのITサービス企業と一線を画しています。この競争優位性を考慮すると、業界平均を上回るPERで評価されるべきプレミアムが存在すると考えられます。
  • 絶対評価法(簡易DCF): 企業の将来キャッシュフローを現在価値に割り引くDCF法を簡易的に試算します。
    • 前提条件:
      • WACC:日本のITサービス業界のWACCは通常5%~8%程度。ここでは7%と仮定します。
      • 永久成長率(g):長期的なインフレ率や経済成長率を考慮し、2%と仮定します。
    • 試算: 成長投資が続くため、フリーキャッシュフローは不安定な推移が予想されます。将来の収益性を正確に見積もることは困難ですが、2025年12月期以降の営業利益が計画通りに進捗し、その後も堅調に成長すると仮定した場合、現在の株価は、今後の成長をある程度織り込んでいると判断できます。しかし、積極投資が利益に転換しなければ、現在の株価は割高と評価されるリスクがあります。

8. 総括と投資家への提言

ISTの核心的な投資魅力は、大手企業が直面するDX内製化の課題に対し、「0次DX」という独自のビジネスモデルで応え、高い顧客継続率と強固な収益基盤を築いている点にあります 。これは、単なるシステム開発の受託から脱却し、顧客と共創するパートナーとしての地位を確立していることを意味します。

一方で、最大の懸念事項は、急成長を支えるための積極投資が、短期的な利益率を圧迫している点です 。M&Aによるのれん償却費や、採用・オフィス拡大に伴う販管費の増加が続く中で、これらの投資がいつ、どのように利益に転換するのか、その蓋然性を評価することが不可欠です。

投資スタンス: 現時点では、成長戦略の成否がまだ不透明なため、「中立」のスタンスを維持します。株価はすでに高い成長期待を織り込んでいる可能性があり、積極的な投資家を除いて、新規の買い増しは推奨しません。

投資家が注視すべき最重要KPIとイベント:

  • 粗利率の推移: AK+の連結化と協力会社の増加が、今後の粗利率にどのような影響を与えるか。収益性の安定・改善が見られるか。
  • 営業利益の進捗率: 第3四半期以降、売上高の成長に利益成長が追いついてくるか。経営陣の計画通り、積極投資が収益として結実するかが判断できる。
  • のれんの償却状況とPMIの進捗: AK+との事業シナジーが具体的に決算に反映されるか。
  • 新規事業のリリースと収益貢献: AI関連サービスやサイバーセキュリティサービスが、実際に収益の柱として成長するか。
  • 人材関連指標: エンジニアの採用数と離職率の推移。特に、質の高い中途採用や新卒の定着率が引き続き低い水準を保てるか。

これらの指標を継続的に監視することで、ISTの長期的な成長性と、経営陣の戦略的判断の妥当性を評価することができます。

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