投資スタンス:中立、確信度 65%
株式会社共和コーポレーションの2026年3月期第1四半期決算は、アミューズメント施設運営事業の好調に牽引され、売上高および各利益項目で大幅な増益を達成しました。しかし、アミューズメント機器販売事業とその他事業における課題が顕在化しており、成長の持続性には不確実性が残ります。全体としては堅調な決算であるものの、通期計画に対する進捗率はまだ低く、残りの四半期で計画を達成するためには、より強固な成長ドライバーが必要です。投資判断は、現時点では中立と評価します。
3行サマリー: アミューズメント施設運営事業の好調な景品ゲーム需要と店舗数増加が牽引し、全社的に大幅な増収増益を達成しました。この成長は、インバウンド需要と国内の個人消費回復というマクロトレンドに強く依存しており、成長の持続性には注視が必要です。今後、アミューズメント機器販売事業の不振とその他事業の収益性低下をいかに改善し、成長の多様性を確保できるかが鍵となります。
主要カタリストとリスク:
ポジティブ・カタリスト:
- インバウンド需要の継続的な増加と個人消費の回復: 主力のアミューズメント施設運営事業が最も享受する恩恵であり、客単価や来店頻度の向上に直結します。
- 新規出店ペースの加速: 第1四半期に2店舗の新規出店を実施しており、この勢いが継続すれば、売上高のトップライン成長を力強く押し上げる可能性があります。
- アミューズメント機器販売事業の回復: 景品ゲーム機販売の改善や、オリジナル景品販売の成功が、低迷している同事業の収益性を向上させる可能性があります。
ネガティブ・リスク:
- インフレと物価上昇による個人消費の冷え込み: 家計の可処分所得減少は、娯楽費の削減に繋がり、主力事業の売上高に直接的な悪影響を及ぼします。
- 競合他社の攻勢と景品ゲーム人気の一巡: 業界全体で景品ゲームが好調な中、競争激化による集客コストの上昇や、ブーム終焉による売上減少のリスクがあります。
- その他事業の不振継続: 海外卸売事業の低迷や、広告代理店事業の収益性低下が続けば、全社的な利益率の圧迫要因となります。
事業概要とビジネスモデルの深掘り
株式会社共和コーポレーションの主要事業は、主に
アミューズメント施設運営事業、アミューズメント機器販売事業、およびその他事業の3つに分類されます 。
ビジネスモデルの評価: 同社の主力であるアミューズメント施設運営事業の収益モデルは、「売上高 = 店舗数 × 客数 × 客単価」と分解できます。
- 店舗数: 第1四半期に「アピナ松阪店」と「アピナ鳥取店」の2店舗を新規出店し、総店舗数は67店舗となりました 。これはトップラインを押し上げる最も直接的なドライバーです。
- 客数: 「明るい・安心・三世代」をテーマにした店舗運営と、景品ゲームの好調、そしてアプリを活用した販促活動が客数増加に貢献しています 。
- 客単価: 景品ゲーム機増台やバラエティ豊かな景品の充実は、客単価の向上に繋がります 。
このビジネスモデルの
強みは、景品ゲームという特定のジャンルが市場で好調である限り、強い成長モメンタムを維持できる点です。また、店舗の清潔さや丁寧な接客といったサービス品質を差別化要因としており、顧客ロイヤルティの構築を目指しています 。しかし、
脆弱性として、景品ゲームの流行に業績が大きく左右されるリスクが挙げられます。また、アミューズメント施設という物理的なインフラを必要とするため、新規出店や設備投資に多額の資本を必要とします。
競争環境: 同社は、アミューズメント施設運営において、ラウンドワン、GENDA GiGO Entertainment、イオンファンタジーといった大手企業と競争しています。これらの競合と比較した際の同社の相対的な強みは、地域密着型の店舗展開と、ニッチな顧客層(三世代家族など)に焦点を当てたサービス提供にあると考えられます。一方で、弱みは、店舗規模やブランド力において大手競合に劣る可能性があり、特に都市部での集客力やマーケティング予算で不利な状況に置かれるリスクがあります。
業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2026年3月期 1Q (百万円) | 2025年3月期 1Q (百万円) | 前年同期比 (増減率) |
売上高 | 4,357 | 3,679 | +18.4% |
営業利益 | 238 | 153 | +55.0% |
経常利益 | 234 | 153 | +52.7% |
純利益 | 142 | 93 | +53.0% |
Google スプレッドシートにエクスポート
売上高は、アミューズメント施設運営事業の好調に牽引され、前年同期比で18.4%増加し、4,357百万円となりました 。特に、景品ゲームジャンルの人気継続と、新規出店がこの成長を後押ししました 。
営業利益は、売上高の増加に伴い、前年同期比55.0%の大幅増益となり、238百万円に達しました 。売上総利益の増加が販管費の増加を上回ったことが主な要因です 。
営業利益のブリッジ分析(概算)
前年同期営業利益: 153百万円
- 売上増加による利益増: 売上高の増加分 (4,357百万円 – 3,679百万円 = 678百万円) に、売上総利益率 (2,220百万円 / 4,357百万円 = 50.9%) を乗じて算出。
- 売上総利益増分: 678百万円 × 50.9% = 345百万円
- 販管費増加による利益減: 販管費の増加分 (1,981百万円 – 1,726百万円 = 255百万円) は利益を圧迫する要因。
- 販管費増分: 255百万円
- 変動要因合計: 345百万円 (売上総利益増) – 255百万円 (販管費増) = 90百万円
- 当期営業利益(概算): 153百万円 + 90百万円 = 243百万円
上記は概算値ですが、この分析から、売上増加が利益成長の最大のドライバーであり、販管費の増加は成長のための投資(新規出店に伴う費用など)である可能性が高いことが示唆されます。しかし、販管費の増加率(14.8%)は売上高の増加率(18.4%)より低く、売上総利益率が改善していることが利益率向上に貢献していると推測されます。
収益性の深掘り
- 粗利率: 2026年3月期1Qの売上総利益は2,220百万円、売上高は4,357百万円であり、**粗利率は50.9%**です 。前年同期は1,880百万円 / 3,679百万円 = 51.1%であり、粗利率はほぼ横ばいです 。これは、景品ゲームの人気が継続しているものの、仕入れコストの上昇や景品ミックスの変化により、劇的な改善には至っていないことを示しています。
- 営業利益率: 当期は238百万円 / 4,357百万円 = 5.5%、前年同期は153百万円 / 3,679百万円 = 4.2%であり、大幅に改善しています 。これは、売上高が販管費の増加を上回ったことによる営業レバレッジの効果が強く表れていることを示唆します。
B/S分析
当第1四半期末の総資産は15,191百万円で、前連結会計年度末から205百万円減少しました 。
- 資産: 現金及び預金が636百万円減少した一方で、建物及び構築物が157百万円増加しています 。これは、新規出店や設備投資に伴うキャッシュアウトがあったことを示唆します。
- 負債: 未払金が414百万円減少したことが主な要因で、負債合計は345百万円減少しました 。
- 純資産: 利益剰余金の増加により、純資産合計は140百万円増加し、5,012百万円となりました 。
- 安全性指標: 自己資本比率は33.0%に上昇しており、前連結会計年度末の31.6%から改善しています 。これは財務の健全性が向上していることを示唆します。
運転資本の分析とCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)
DSO (売上債権回転日数): 売上債権(売掛金) / (売上高 / 90日)
- 2026年3月期1Q末: 864,138千円 / (4,357,834千円 / 90日) = 17.8日
- 2025年3月期1Q末: 852,260千円 / (3,679,186千円 / 90日) = 20.8日
DIO (棚卸資産回転日数): 棚卸資産(商品+貯蔵品) / (売上原価 / 90日)
- 2026年3月期1Q末: (235,392千円 + 355,364千円) / (2,137,360千円 / 90日) = 24.9日
- 2025年3月期1Q末: (220,760千円 + 300,675千円) / (1,798,469千円 / 90日) = 26.1日
DPO (仕入債務回転日数): 仕入債務(支払手形及び買掛金) / (売上原価 / 90日)
- 2026年3月期1Q末: 1,434,625千円 / (2,137,360千円 / 90日) = 60.4日
- 2025年3月期1Q末: 1,453,953千円 / (1,798,469千円 / 90日) = 72.8日
CCC (キャッシュ・コンバージョン・サイクル) = DSO + DIO – DPO
- 2026年3月期1Q: 17.8日 + 24.9日 – 60.4日 = -17.7日
- 2025年3月期1Q: 20.8日 + 26.1日 – 72.8日 = -25.9日
分析: CCCがマイナスであることは、同社が仕入先への支払いを顧客からの現金回収後に行っていることを意味し、極めて健全な運転資本管理が行われていることを示唆します。しかし、当期のCCCは前年同期の-25.9日から-17.7日へと悪化しています。これは、DPOの急激な短縮(72.8日→60.4日)が主な要因であり、仕入先への支払いが早まっていることを示しています。これは、交渉力の低下や、仕入れ条件の変更が影響している可能性があります。一方で、DSOとDIOは改善しており、現金回収の迅速化と在庫管理の効率化が進んでいることが評価できます。
キャッシュフロー(C/F)分析
当期は四半期連結キャッシュ・フロー計算書が作成されていません 。しかし、B/Sの変化からキャッシュフローの動きを推測できます。現金及び預金が636百万円減少しており、営業活動によるキャッシュ創出を上回る投資活動(建物や構築物への投資)や財務活動(借入金の返済など)があったと推測されます 。
資本効率性の評価
ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト): ROIC = NOPAT (税引後営業利益) / 投下資本 WACC = (株主資本コスト × (E / (D+E))) + (負債コスト × (D / (D+E)) × (1 – 税率))
第1四半期のみのデータで厳密なROICを算出することは困難ですが、年間予想の営業利益(1,320百万円)と当期末の投下資本(有利子負債+株主資本 ≈ 9,800百万円)を基に単純計算すると、ROICは約13%となります。一般的に、アミューズメント業界のWACCは5-7%程度と推測されるため、ROIC > WACCであり、同社は企業価値を創造していると評価できます。
ROE(自己資本利益率)のデュポン分解: ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
- 純利益率: 当期は3.3%(前年同期は2.5%)と改善しています 。
- 総資産回転率: 当期は0.28回(年換算)とほぼ横ばいです。
- 財務レバレッジ: 当期は3.03倍(前年同期は3.16倍)と低下しています。
この分析から、当期のROE改善は主に純利益率の向上によるものであり、財務レバレッジの低下がその効果を一部相殺していることがわかります。
セグメント情報の徹底解剖
セグメント | 売上高 (千円) | 前年同期比 (増減率) | セグメント利益 (千円) | 前年同期比 (増減率) |
アミューズメント施設運営事業 | 4,023,511 | +24.7% | 362,299 | +87.2% |
アミューズメント機器販売事業 | 85,011 | △54.0% | 57,697 | +5.4% |
その他事業 | 249,311 | △6.7% | 8,109 | △88.1% |
アミューズメント施設運営事業: この事業は、全社売上高の92.3%を占める
中核事業であり、全社成長の強力なドライバーです 。売上高は前年同期比24.7%増と絶好調であり、セグメント利益も87.2%増と驚異的な伸びを見せました 。この好調は、個人消費やインバウンド需要の増加に加え、景品ゲーム人気の継続に強く支えられています 。新規出店による店舗数増加も寄与しており、今後の成長も期待されます 。
アミューズメント機器販売事業: 対照的に、この事業は
大きな課題を抱えています。売上高は前年同期比で54.0%と大幅に減少しました 。その要因は、「本人の該当する取引の減少」とされており、これは売上計上方法や取引構造の変化を示唆します 。しかし、セグメント利益は5.4%増加しており、収益性の高い取引にシフトした可能性があります 。この事業の不振は、今後の成長戦略において見過ごせないリスクであり、経営陣の説明が求められます。
その他事業: 売上高は6.7%減少し、セグメント利益は88.1%と大幅な減益となりました 。特に、ブルーム社の商品販売において、中国における個人消費の低迷が影響しています 。このセグメントの収益性低下は、全社的な利益率を圧迫する要因となります。
ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、好調な主力事業に経営資源を集中させることで、短期的には高い成長を実現しています。しかし、アミューズメント施設運営事業の一本足打法となっている現状は、特定の市場トレンドに依存するリスクを高めています。アミューズメント機器販売事業とその他事業の不振は、ポートフォリオのリスク分散が機能していないことを示唆しており、将来の成長機会を失う可能性があります。
経営計画の進捗と経営陣の評価
同社は、2026年3月期の通期連結業績予想を公表しており、今回の第1四半期決算を受けても修正はありませんでした 。
項目 | 通期予想 (百万円) | 1Q実績 (百万円) | 進捗率 |
売上高 | 18,300 | 4,357 | 23.8% |
営業利益 | 1,320 | 238 | 18.0% |
経常利益 | 1,295 | 234 | 18.1% |
純利益 | 794 | 142 | 17.9% |
分析: 第1四半期の進捗率は、売上高が23.8%と順調な一方で、営業利益以下の進捗率は18%前後とやや低調です。これは、四半期ごとに季節性や変動要因があるため一概には言えませんが、通期計画達成には、今後四半期で更なる利益成長が必要であることを示しています。
経営陣は、第1四半期の好調な結果にもかかわらず、通期予想を据え置くという
慎重な判断を下しました 。これは、景品ゲーム人気の一巡や、個人消費の動向、海外事業の不確実性といったリスク要因を織り込んでいる可能性が高いです。通期計画の未達を防ぐための現実的な判断とも評価できますが、一方で、経営陣が現状の成長モメンタムに対する確信度が低いとも捉えられます。
将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
3つの将来シナリオ
強気シナリオ (蓋然性: 20%)
- 前提条件: インバウンド需要が想定以上に増加し、国内の個人消費も力強く回復を継続。景品ゲーム人気は今後も数年にわたって持続し、他事業の不振も改善。新規出店計画が上振れし、既存店の売上高も増加。
- 予測レンジ: 売上高 19,000-20,000百万円、営業利益 1,400-1,550百万円
基本シナリオ (蓋然性: 65%)
- 前提条件: 現在の好調な景品ゲーム需要とインバウンド需要は継続するが、物価上昇による個人消費への影響は限定的。新規出店は計画通りに進む。アミューズメント機器販売事業の不振は続くが、その他事業は横ばい。
- 予測レンジ: 売上高 18,300-18,700百万円、営業利益 1,280-1,350百万円
弱気シナリオ (蓋然性: 15%)
- 前提条件: 景品ゲーム人気が一巡し、売上高が急減速。インフレによる家計の娯楽費削減が顕在化。競合他社との競争激化による集客コストが上昇し、利益率が悪化。アミューズメント機器販売事業とその他事業の不振が深刻化。
- 予測レンジ: 売上高 17,500-18,000百万円、営業利益 1,000-1,200百万円
カタリスト/リスク
- カタリスト: 新規出店数の上方修正、インバウンド需要回復による既存店売上高の急増、アミューズメント機器販売事業における新たな成長戦略の発表、中国事業の回復。
- リスク: 景品ゲーム人気の一巡、大規模な経済ショックによる個人消費の落ち込み、新規出店の失敗による投資回収の遅延、原材料価格の高騰による原価率悪化。
バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法: 同業他社であるラウンドワン、GENDA GiGO Entertainment、イオンファンタジーのPER、PBRと比較します。現状の同社の株価は、成長性と収益性を考慮すると、同業他社に対してやや割安に評価されている可能性があります。これは、同社の市場における知名度や、アミューズメント機器販売事業の不振といったリスクが織り込まれているためと考えられます。今後の成長性が市場に認知されれば、プレミアム評価にシフトする余地があります。
絶対評価法: ここでは簡易的なDCF法を用いて評価します。
- WACC: 5.0%と仮定
- 永久成長率: 1.0%と仮定
- フリーキャッシュフロー (FCF): 営業利益と減価償却費(533百万円 )を基に推計。
この前提に基づくと、同社の理論株価は現在の株価を上回る可能性があります。しかし、この評価はアミューズメント業界の変動性や景品ゲーム人気の一巡リスクをどの程度織り込むかによって大きく変動するため、あくまで参考値として捉えるべきです。
総括と投資家への提言
株式会社共和コーポレーションは、主力事業であるアミューズメント施設運営事業が絶好調であり、その成長モメンタムは現時点では力強いと評価できます。特に、景品ゲームの継続的な人気と新規出店が、トップラインと利益を力強く牽引しています。
しかし、この成長が景品ゲームという特定のトレンドに大きく依存している点は、投資家にとって最大の懸念事項です。また、アミューズメント機器販売事業とその他事業の不振は、同社の事業ポートフォリオにおけるリスク分散の脆弱性を示しています。経営陣は、通期計画を据え置くことでこの不確実性を認識しているように見受けられます。
投資家への提言: 当レポートは、同社に対して中立の投資スタンスを推奨します。今後の投資判断を下す上で、以下の最重要KPIとイベントを注視することを推奨します。
- 既存店売上高の動向: 新規出店による成長だけでなく、既存店の売上高が引き続き堅調に推移しているか。
- アミューズメント機器販売事業の回復: 売上高が底を打ち、収益性が改善に向かう兆候が見られるか。
- 通期計画に対する進捗率: 第2四半期決算で利益進捗率が計画に対してどの程度改善しているか。
- 景品ゲーム以外の成長ドライバーの有無: 経営陣が次なる成長の柱として何を打ち出すか。
これらの動向を慎重に見極めることで、同社に対する投資スタンスを強気に引き上げるか、あるいはリスク回避のために弱気に転じるかの判断が可能となります。