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株式会社タウンズ (197A) 2025年6月期 通期決算分析レポート:感染症POCT市場の潮目と新工場投資の成否


1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス: 中立、確信度 65%

株式会社タウンズ(以下、同社)の2025年6月期決算は、新型コロナウイルスとインフルエンザの流行規模縮小という逆風下にもかかわらず、増収増益を達成した。これは、先行投資として確保した潤沢な在庫による安定供給と、高利益率のコンボ検査キットへの需要シフトを捉えた製品ミックス改善が主因であり、経営陣の市場予測と供給管理能力が一定の成果を出したと言えるだろう。しかし、成長の屋台骨であったインフルエンザ単体検査キットの売上減少と、第4四半期の急激な失速は、感染症流行という極めて不確実な外部環境に依然として収益が大きく依存している脆弱性を露呈している。次期以降の成長シナリオは、新工場稼働による生産能力増強とコスト削減、そして提携企業を通じた販売網拡大に大きく依存するが、これらの施策が不安定な需要をどこまで吸収し、利益を安定化させられるかが投資判断の鍵となる。現時点では、リスクとカタリストが拮抗しており、中立的なスタンスを維持する。

3行サマリー:

  • 事実: 2025年6月期は感染症流行の縮小という逆風下で増収増益を達成したが、第4四半期は急減速した 。
  • 本質: 安定供給と高利益率製品への需要シフトで利益率を改善したが、依然として事業はマクロ環境の不確実性に大きく左右される。
  • 注目点: 新工場投資による生産効率化と安定供給能力の強化が、不安定な市場環境下で利益を安定化できるか。

主要カタリストとリスク:

カタリスト(強気材料)

  1. 新工場稼働による利益率改善: 2026年2月稼働予定の新工場による生産効率化と内製化が、原価を大幅に引き下げ、利益率を押し上げる 。
  2. コンボキットの需要拡大: インフルエンザと新型コロナウイルスの同時検査ニーズが高まる中、高単価・高利益率のコンボキットの市場シェアがさらに拡大する 。
  3. 販売提携によるシェア拡大: 塩野義製薬やロシュ・ダイアグノスティックスとの販売提携が、新たな顧客層(特にクリニック)を開拓し、売上を底上げする 。

リスク(弱気材料)

  1. 感染症流行の想定外の収束: 新型コロナやインフルエンザの流行が今後さらに縮小した場合、市場規模の縮小が同社の業績に直接的な打撃を与える 。
  2. 新工場投資の固定費負担増: 約112.9億円に及ぶ新工場投資に伴う減価償却費等の固定費負担が、需要減速時に利益を圧迫する可能性がある 。
  3. 在庫評価損のリスク: 不安定な需要動向と在庫管理の難しさから、期末に多額の在庫評価損が発生し、利益を毀損するリスクが継続する 。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

ビジネスモデルの評価

同社の収益モデルは、極めてシンプルに表現できる。

売上高 = 感染症POCT市場規模(テスト数) × 市場シェア × 平均販売単価

このモデルの最大の特徴は、市場規模が季節性および感染症の流行状況という、同社がコントロールできない外部要因に強く依存する点にある 。この脆弱性を補うために、同社は以下の3つの競争優位性(Moat)を確立している

  • 高い製品競争力(品質): 独自開発の「白金-金コロイド技術」や豊富な抗体開発ノウハウにより、感度と特異性を両立させた高品質な製品を提供している 。これにより、医療現場からの信頼を獲得し、他社製品からのスイッチングコストを高めている 。
  • 強固な開発体制: 豊富な業務経験を持つ開発チームと、外部専門家とのネットワークにより、迅速かつ革新的な新製品開発を実現している 。これにより、市場のニーズに合わせた製品ラインナップを迅速に拡充できる 。
  • 効率的な販売体制: 少数精鋭の営業部隊が、スズケンなど主要な医薬品卸業者と強固な協力関係を構築している 。さらに、塩野義製薬やロシュとの提携により、病院だけでなくクリニック向け販売チャネルも強化し、販売力を拡大している 。

脆弱性は、依然として単一セグメントである体外診断用医薬品事業への収益依存度が極めて高い点にある 。特に、新型コロナおよびインフルエンザ関連製品が売上の大半を占めており、これらの流行動向が業績を直接的に左右する 。これは、今回の第4四半期決算が示すように、流行期がズレたり、流行が予想外に収束したりした場合に、売上と利益が大きく下振れするリスクを内包している。

競争環境

同社の主要な競合他社は、富士フイルムや東亜薬品など、感染症POCT市場に参入している企業である。

  • 強み: 同社は、インフルエンザ、アデノウイルス、新型コロナの各単体検査キット市場でトップシェアを獲得しており、特にインフルエンザでは46%と圧倒的なシェアを誇る 。また、塩野義製薬やロシュといった大手企業との販売提携は、同社の販売チャネルとブランド力をさらに強化するユニークな強みである 。
  • 弱み: 一方で、コンボ検査キット市場では21%と2位にとどまっており、まだシェア拡大の余地がある 。また、富士フイルムのような大手総合化学メーカーは、検査機器とのセット販売や、より広範な事業ポートフォリオを持つため、単体事業での競争は依然として厳しい。

同社は、新工場稼働による安定供給体制の確立とコスト競争力の強化、そして提携先との連携を深めることで、この競争環境での地位をさらに強固にすることを目指している


3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

項目2024年6月期2025年6月期前期比増減率 (%)
売上高18,434 百万円18,627 百万円+1.0%
売上総利益12,498 百万円12,774 百万円+2.2%
営業利益8,030 百万円8,265 百万円+2.9%
経常利益7,840 百万円8,219 百万円+4.8%
当期純利益5,774 百万円6,315 百万円+9.4%

同社の2025年6月期は、売上高が前期比1.0%増、営業利益が同2.9%増と、増収増益を達成した 。これは、新型コロナやインフルエンザの流行規模が前期を下回ったという逆風下での成果であり、評価に値する

営業利益のブリッジ分析(2024年6月期 → 2025年6月期)

変動要因金額(百万円)寄与度(%)
売上高増減(+193百万円)
①数量/ミックス変動+1,093+475.2%
新型コロナ数量要因+163+70.9%
コンボ数量要因+2,366+1028.6%
インフルエンザ数量要因△668△290.4%
その他数量要因△547△238.1%
②価格/原価率変動△1,119△486.6%
③販管費変動△41△17.8%
④その他+446+194.0%
営業利益増減(+235百万円)+235100.0%

※ 上記の数値は決算説明資料のグラフデータを基に当方で概算。合計値は誤差を含む可能性がある。

このブリッジ分析から、以下の重要な洞察が得られる。

  • コンボキットの圧倒的な貢献: 営業利益の増加は、ほぼ全てがコンボ検査キットの販売数量増加によるものであり、同社の成長ドライバーとして定着していることが明確に示されている 。
  • インフルエンザ単体キットの失速: インフルエンザ単体検査キットの数量減が、成長を大きく鈍化させている。これは、需要が単体キットからコンボキットへシフトしていることを物語る 。
  • 単価下落とコスト増の影響: 全製品の販売単価下落と、販管費の増加(主として在庫評価損の計上)が利益を圧迫している。しかし、売上総利益率は68.6%と前期比0.8ポイント改善しており、これは高利益率のコンボキットの売上構成比が増加した結果である 。

B/S分析

項目2024年6月期2025年6月期前期比増減率 (%)
総資産29,261 百万円36,515 百万円+24.8%
流動資産16,915 百万円15,476 百万円△8.5%
棚卸資産4,717 百万円5,883 百万円+24.7%
固定資産12,345 百万円21,038 百万円+70.4%
投資その他資産719 百万円4,922 百万円+584.5%
負債合計15,594 百万円19,097 百万円+22.5%
長期借入金4,307 百万円8,809 百万円+104.5%
純資産合計13,666 百万円17,417 百万円+27.4%

B/Sは、新工場建設と戦略出資を反映して大きく膨らんでいる 。特に、投資その他資産が大幅に増加している点は重要であり、これは将来的な成長戦略を見据えたM&Aや戦略出資に積極的な姿勢を示している 。一方、負債も長期借入金の増加により膨らんでおり、財務レバレッジが高まっている。

運転資本(CCC)の分析

  • 売上債権回転日数(DSO): 2024年6月期は53.8日だったが、2025年6月期は5.0日と大幅に短縮 。これは期末時点で売掛金が大きく減少したためであり、現金回収の効率が劇的に改善したことを示唆する。
  • 棚卸資産回転日数(DIO): 2024年6月期は93.6日、2025年6月期は113.6日と、約20日増加 。これは、冬の流行期に備えて在庫を積み増した結果であり、安定供給体制構築のための戦略的な行動と解釈できる 。しかし、第4四半期に需要が急減したことを鑑みると、一部の在庫が滞留し、陳腐化リスクが高まっている可能性がある。今回の決算でも4.3億円の棚卸資産評価損を計上しており、今後も在庫の質と適正水準には注視が必要である 。
  • 仕入債務回転日数(DPO): 2024年6月期は14.9日、2025年6月期は12.5日と微減 。

CCC = DSO + DIO – DPO

  • 2024年6月期: 53.8 + 93.6 – 14.9 = 132.5日
  • 2025年6月期: 5.0 + 113.6 – 12.5 = 106.1日

DSOの劇的な改善により、CCCは大幅に短縮し、運転資本の効率性は向上したように見える。しかし、これは期末時点の一時的な売掛金減少に起因する可能性が高く、持続的な改善かどうかは来期以降の推移を見極める必要がある。同時に、DIOの増加は、在庫管理リスクの顕在化を示しており、今後の在庫評価損計上リスクを無視できない。

キャッシュフロー(C/F)分析

項目2024年6月期2025年6月期
営業活動によるCF9,935 百万円6,818 百万円
投資活動によるCF△4,110 百万円△9,258 百万円
財務活動によるCF2,355 百万円2,281 百万円
現金及び現金同等物期末残高9,424 百万円9,266 百万円

営業CFは、税引前当期純利益が増加したにもかかわらず、前期比で約31億円減少した 。これは主に法人税等の支払額増加、棚卸資産の増加、売上債権の減少(前期の一時的な増加からの反動減)によるものである 。投資CFは、新工場建設のための有形固定資産の取得と、投資有価証券の取得により大幅な支出超過となった 。財務CFは、長期借入金の増加と配当金の支払いにより、収入超過を維持している

営業CFと純利益の乖離(アクルーアル) 2025年6月期:営業CF 6,818百万円 vs. 純利益 6,315百万円 。両者の間に大きな乖離はなく、利益の質は健全と言える。しかし、これは棚卸資産の積み増しが営業CFを押し下げる要因となっているためであり、本来の営業活動による創出能力は純利益を上回る。

資本効率性の評価

  • ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)
    • ROICの計算:
      • NOPAT (税引後営業利益) = 営業利益 × (1 – 実効税率)
      • 実効税率 = 1,886,468千円 (法人税等合計) / 8,201,875千円 (税引前当期純利益) = 23.0%
      • NOPAT = 8,265百万円 × (1 – 0.230) = 6,364百万円
      • 投下資本 = 有形固定資産 + 無形固定資産 + 運転資本
      • 運転資本 = 流動資産 – 流動負債
      • 2024年6月期 投下資本 = 7,905 + 3,720 + (16,915 – 10,474) = 18,066 百万円
      • 2025年6月期 投下資本 = 12,279 + 3,836 + (15,476 – 9,529) = 22,062 百万円
      • ROIC (2025年6月期) = 6,364 / ((18,066+22,062)/2) = 31.7%
    • WACCの概念:
      • 同社のWACCは公表されていないが、長期借入金の増加や株価動向から判断すると、一定水準の資本コストが存在する。
    • 評価: ROICが31.7%と極めて高く、WACCを大きく上回っていると推測される。これは、同社が投下した資本に対して高いリターンを生み出しており、積極的に企業価値を創造していることを意味する。新工場への大型投資が今後ROICを一時的に押し下げる可能性はあるが、中長期的には生産効率化と売上拡大を通じてROICを高めることが期待される。
  • ROE(自己資本利益率)のデュポン分解
    • ROE (2025年6月期) = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
    • ROE = (6,315 / 18,627) × (18,627 / 36,515) × (36,515 / 17,417)
    • ROE = 33.9% × 0.51倍 × 2.10倍 = 36.3%
    • 前期ROE (5,774 / 18,434) × (18,434 / 29,261) × (29,261 / 13,666) = 31.3% × 0.63倍 × 2.14倍 = 42.5%
    • ROEは前期比で悪化したが、これは主に総資産回転率の悪化に起因する。総資産が大幅に増加した一方、売上高の伸びが限定的だったためであり、新工場への先行投資がB/Sを肥大化させた影響が表れている。新工場の稼働が本格化し、売上高がそれに伴って増加すれば、総資産回転率は改善する見込みである。

4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

同社は「体外診断用医薬品事業」の単一セグメントであるため、セグメント別の詳細な分析は不可能である 。しかし、主要製品別の売上高分析から、事業ポートフォリオの動向を読み解くことができる

主要製品2024年6月期2025年6月期前期比増減率 (%)構成比(25年6月期)
新型コロナ単品4,712 百万円4,854 百万円+3.0%26.1%
コンボ検査キット6,375 百万円7,921 百万円+24.2%42.5%
インフルエンザ単体4,087 百万円3,314 百万円△18.9%17.8%
その他3,259 百万円2,537 百万円△22.2%13.6%
合計18,434 百万円18,627 百万円+1.0%100.0%

ポートフォリオ・マネジメントの評価

  • 成長ドライバーの明確化: 圧倒的な成長を見せたコンボ検査キットが、同社の新たな収益の柱として定着した 。これは、市場のニーズを的確に捉え、製品ポートフォリオをシフトさせた経営陣の判断が成功したことを意味する。
  • リスク分散の課題: 一方で、インフルエンザ単体キットの売上減少は、需要の軸足がコンボキットに移行していることを裏付ける 。今後もこの傾向が続くと予想されるため、コンボキット市場での競争優位性をさらに強固にすることが不可欠である。
  • 新規事業への投資: Craif社、KINS社、アイリス社への戦略出資は、将来的なリスク分散と、感染症領域に偏らない事業ポートフォリオ構築に向けた一歩として評価できる 。しかし、これらの投資が具体的な収益貢献に繋がるまでには時間を要するため、短期的な成長は引き続き既存事業に依存する。

5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は2026年6月期の業績予想として、売上高207.69億円(前期比11.5%増)、営業利益83.23億円(同0.7%増)、経常利益81.43億円(同0.9%減)、当期純利益86.13億円(同36.4%増)を掲げている

計画の蓋然性評価

  • 売上高: 前期に引き続き市場シェアを拡大し、コンボキットの需要増加を見込むことで、増収計画は十分に達成可能と判断する 。
  • 営業利益・経常利益: 営業利益は微増、経常利益は微減を計画しており、新工場関連費用や成長戦略実行に向けたコスト増を織り込んだ保守的な計画であると評価する 。需要動向次第では上振れの余地もあるが、下振れリスクも無視できない。
  • 当期純利益: 大幅増益の要因は、新工場建設に伴う補助金収入を特別利益に計上する見込みであるためであり、これは本業の利益ではない点に留意が必要である 。

経営陣の評価

2025年6月期は、感染症流行規模の減少という予測困難な環境下で増収増益を達成しており、経営陣の市場予測と在庫管理能力は一定の評価に値する 。前期に出荷調整を余儀なくされた反省から、今回は十分な在庫を確保することで、冬の需要増に適切に対応した 。しかし、第4四半期の急激な失速は、市場の不確実性に対する根本的な脆弱性を改めて示している。今後、新工場の固定費を吸収し、安定的な利益成長を実現できるかが、経営陣の真価が問われる点となる。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

3つのシナリオ

  • 強気シナリオ(蓋然性:30%)
    • 前提条件: 次期においても、新型コロナとインフルエンザの流行が想定以上の規模で発生し、特にコンボ検査キットの需要が急拡大する。新工場が計画通り稼働し、生産効率が劇的に改善。ロシュや塩野義製薬との提携が成功し、市場シェアをさらに拡大する 。
    • 業績予測: 売上高 220億円~240億円、営業利益 90億円~100億円
    • カタリスト:
      • 新型コロナやインフルエンザの新たな変異株の流行 。
      • 新工場稼働時期の前倒しと、生産能力の大幅な改善 。
      • コンボキットの改良品が早期に市場投入され、シェアを独占的に拡大する 。
  • 基本シナリオ(蓋然性:60%)
    • 前提条件: 次期における感染症の流行規模は会社予想通りで推移し、新工場は計画通り稼働する。販売単価の微減とコスト増を吸収し、安定した利益を確保する 。
    • 業績予測: 売上高 200億円~215億円、営業利益 80億円~85億円
    • カタリスト:
      • 新工場の稼働と同時に、生産・物流コスト削減効果が計画通りに発現する 。
      • コンボキットの需要シフトが継続し、利益率を押し上げる 。
      • 戦略出資先の事業が順調に進捗し、将来の成長期待が高まる 。
  • 弱気シナリオ(蓋然性:10%)
    • 前提条件: 次期における感染症の流行が予想以上に小規模に留まる、または完全に収束する。新工場の稼働に遅延が生じる、または計画通りのコスト削減効果が得られない 。競合他社がコンボキット市場で激しい価格競争を仕掛けてくる 。
    • 業績予測: 売上高 170億円~190億円、営業利益 60億円~75億円
    • リスク:
      • 感染症流行の想定外の収束や、需要の季節性の消失 。
      • 新工場稼働遅延、または初期段階での固定費負担の増大 。
      • 棚卸資産の陳腐化による大規模な評価損の計上 。
      • コンボキット市場における競争激化と単価下落 。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法

同社のP/Lは感染症流行に左右されるため、PER、PBRなどの指標は変動が激しい。ここでは、相対的に安定しているROICを基に評価する。前述の通り、同社のROICは30%を超えており、同業他社と比較しても極めて高い水準であると推測される。これは、同社が効率的に資本を運用し、高い利益を創出していることを示しており、市場からプレミアム評価を受ける論理的な根拠となる。

絶対評価法

簡易的なDCF法を用いて理論株価を試算する。

  • WACC: 5%と仮定。
  • 永久成長率: 1.5%と仮定。
  • FCF予測:
    • 2026年6月期 営業CF:70億円、投資CF:△50億円(新工場投資減)
    • 2027年6月期 営業CF:75億円、投資CF:△20億円
    • 2028年6月期以降 営業CF:80億円、投資CF:△15億円

これらの仮定に基づくと、理論株価は現在の株価を上回る可能性がある。しかし、これらの予測は感染症流行の動向に大きく左右されるため、あくまで参考値として捉えるべきである。新工場投資がもたらす将来のコスト削減と収益拡大のポテンシャルを考慮すると、現在の株価は割安であると考えることもできるが、流行動向のリスクを考慮すると、過度な強気は禁物である。


8. 総括と投資家への提言

同社の2025年6月期決算は、不確実な外部環境下で経営陣の供給管理能力が光った決算であり、利益率改善の兆候も明確に示された。しかし、事業の根幹が依然として感染症の流行という予測不能な外部要因に依存しているという本質的な脆弱性は解消されていない。新工場への大型投資は、この脆弱性を克服し、安定的な収益基盤を構築するための重要な「次の一手」であると評価できる。

投資スタンス: 中立。新工場投資による生産能力とコスト競争力の強化は大きな成長カタリストだが、感染症流行の不確実性と、それに伴う在庫リスクも依然として高い。現時点ではリスクとリワードが拮抗しており、積極的に買い増す段階ではない。

注視すべき最重要KPIとイベント:

  • 第2四半期以降の四半期別売上高・利益推移: 新工場の本格稼働が始まる2026年2月以降の収益性が、投資の成否を測る上で最も重要である 。
  • 棚卸資産評価損の動向: 季節性の需要予測と在庫管理の精度を示す指標であり、これがどの程度コントロールできるかが利益の安定性を測る鍵となる 。
  • コンボ検査キットの市場シェア: 成長ドライバーであるコンボキットのシェアが、ロシュとの提携を通じてどこまで拡大するか 。
  • 新工場の稼働状況: 計画通りに稼働し、生産効率化の恩恵を享受できるか 。

これらの指標を継続的にモニタリングし、新工場投資が本格的に業績に貢献し、利益構造が安定化する兆候が明確になった時点で、投資スタンスを強気に引き上げることを検討する。

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