MENU

株式会社じげん 2026年3月期 第1四半期決算分析レポート

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立、確信度 65%

じげんの2026年3月期第1四半期決算は、M&Aの効果が顕在化し、売上収益とEBITDAが四半期として過去最高を更新した一方で、営業利益は前年同期比で微減となり、ポートフォリオの効率化という課題が浮き彫りになった内容であった 。好調なVertical HRセグメントが成長を牽引しているものの、Living TechやLife Serviceセグメントにおけるマクロ環境の影響や非注力事業の苦戦が、全社的な利益率改善を抑制している状況と評価する 。経営陣は引き続きM&Aを通じた成長路線を維持する方針であり、その巧みな事業買収とPMI(Post Merger Integration)の実行力は評価に値するが、買収後の事業統合に伴う一時的な費用や、低採算事業の整理といった課題を確実に解決できるかが今後の焦点となる

3行サマリー:

  • 何が起きたのか: M&A効果で売上収益とEBITDAは過去最高を記録したが、一時的な費用や低採算事業の圧迫により営業利益は減益着地 。
  • なぜ重要なのか: 成長ドライバーであるVertical HRの強さが証明された一方で、ポートフォリオ全体の利益構造に課題を抱えていることが明らかになったため 。
  • 次に何を見るべきか: M&A後の事業シナジーがいつ、どの程度の規模で利益に貢献し、低採算事業の効率化がいつ完了するのか、その具体的な進捗に注目する必要がある 。

主要カタリストとリスク:

  • ポジティブ・カタリスト
    1. Vertical HRのさらなる成長加速: タイズやエニーキャリアといった高成長事業のPMIが順調に進み、人材紹介モデルの導入がリジョブなどの既存メディアで本格的に成功した場合 。
    2. Living TechおよびLife ServiceセグメントのV字回復: マクロ環境の改善(インフレの沈静化や円安の一服)に加え、非注力事業の合理化が想定以上に進み、電力切替サービスのようなクロスセル成功事例が他の領域でも生まれた場合 。
    3. 大型M&Aの成功: 経営陣が掲げるロールアップ戦略に基づき、Vertical HRやLiving Tech領域で収益性の高い大型案件を成功させ、非連続的な成長を実現した場合 。
  • ネガティブ・リスク
    1. マクロ経済の継続的な逆風: インフレや円安、金利上昇が長期化し、Living TechやLife Serviceセグメントの需要減退が続くことで、全社的な利益率がさらに悪化する可能性 。
    2. M&A関連費用とPMIの遅延: 積極的なM&A戦略に伴う一時的な費用が想定を上回り、買収した事業の統合が難航することで、シナジー創出が遅れ、利益を圧迫する可能性 。
    3. 低採算事業の整理の遅延: 非注力事業の底打ちが見られるものの、抜本的な事業再建・売却・清算が遅れることで、好調な事業の成長を相殺し、ポートフォリオ全体の収益性を押し下げる可能性 。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

じげんのビジネスは、主に「Vertical HR」「Living Tech」「Life Service」の3つのセグメントから成るライフサービスプラットフォーム事業として展開されている

  • Vertical HR: 美容・ヘルスケア(リジョブ)、メーカー(タイズ)、コンサル(URG)、建設(建設JOBs)など、特定の業界に特化した人材マッチングサービスを運営 。
  • Living Tech: 不動産(賃貸スモッカ、SEKAI PROPERTY)、ライフサポート(リショップナビ、エネビ)など、住生活に関連する情報サービスを提供 。
  • Life Service: 旅行(アップルワールド)、比較メディア(フランチャイズ比較.net、結婚相談所比較ネット)などのサービスを運営 。

これらの事業は、主にインターネット広告モデル(掲載課金)と成果報酬モデル(成果課金)の組み合わせで収益を上げている

ビジネスモデルの評価: じげんのビジネスモデルは、以下の数式で単純化できる。 売上収益=sum_i=1n(Q_itimesP_i)timestextConversionRate ここで、Q_i は各サービスにおけるユーザー数や求人情報掲載数、P_i は顧客単価(掲載料や成果報酬)、Conversion Rateはマッチング率や成約率である。

  • 強み:
    1. 多角的な収益源: 複数のバーティカル(垂直領域)に事業を展開することで、特定市場の変動リスクを分散している 。
    2. 「積み上げ型」と「非積み上げ型」のハイブリッド: リジョブのような広告メディア事業は安定した収益基盤(積み上げ型)を築き、タイズのような人材紹介事業は顧客単価を重視した成長性(非積み上げ型)を追求する構造 。これにより、安定性と成長性の両立を目指している 。
    3. M&Aによる成長戦略: 規律的なM&Aを実行し、買収した事業の独自PMIによって成長を加速させる戦略は、外部環境の変化に左右されにくい成長を可能にしている 。
    4. 顧客基盤の厚さ: リジョブが保有する強固な顧客基盤や、エニーキャリアが持つ約7,000社の顧客基盤は、クロスセルやアップセルの機会を創出し、安定した収益を生む資産となっている 。
  • 脆弱性:
    1. マクロ経済への依存: 引っ越しやリフォームといったLiving Tech領域、旅行といったLife Service領域は、インフレによる消費者の支出抑制や円安といったマクロ経済の影響を受けやすい 。
    2. M&A依存の成長: 積極的なM&A戦略は成長の重要なドライバーだが、優秀な買収対象が枯渇した場合や、買収価格が高騰した場合、成長戦略に遅れが生じるリスクがある 。
    3. 利益率のばらつき: セグメントや事業ごとに利益率にばらつきがあり、特に非注力メディア事業のような低採算事業がポートフォリオ全体の収益性を押し下げている 。

競争環境: 各事業領域には特定の競合が存在する。

  • Vertical HR: リクルート、パーソル、マイナビなど大手総合人材サービス企業に加え、特定の専門領域に特化した中小エージェントが多数存在する。じげんの強みは、特定のバーティカルに特化することで築いた専門性と、M&Aによるスピーディな事業拡大にある 。
  • Living Tech: 不動産仲介サイト(SUUMO、HOME’S)、リフォーム比較サイト(ホームプロ)、電力会社比較サイト(https://www.google.com/search?q=%E4%BE%A1%E6%A0%BC.com)など、各領域に強力な既存プレイヤーが存在する。じげんは、複数の住生活サービスを統合し、クロスセルを促進することで、顧客のLTV(Life Time Value)を最大化する戦略を追求している 。

3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析:

項目 (百万円)2026年3月期 1Q2025年3月期 1QYoY増減率通期計画進捗率
売上収益6,7596,173+9.5%28,00024%
EBITDA1,8011,788+0.7%7,43024%
営業利益1,4161,452-2.4%5,88024%
親会社所有者帰属当期利益971981-1.0%4,02024%
EPS (円)9.699.46+2.4%40.2024%

売上収益とEBITDAは前年同期を上回り、特に売上収益はM&Aの貢献で過去最高を更新した 。しかし、営業利益は一時的な費用や低採算事業の影響で2.4%減益となった 。通期計画に対する進捗率は、すべての主要項目で24%となっており、第1四半期としては想定の範囲内で着地したと判断できる

営業利益のブリッジ分析: 前年同期の営業利益1,452百万円から当期の1,416百万円への変動要因を分解すると、以下のようになる。

  • 売上収益増減: +586百万円 (FY25/3 1Q: 6,173百万円 -> FY26/3 1Q: 6,759百万円) 。これは主にVertical HRとLiving TechにおけるM&A効果と、Vertical HRのオーガニック成長によるもの 。
  • 売上原価増減: -211百万円 (FY25/3 1Q: 1,053百万円 -> FY26/3 1Q: 1,264百万円) 。売上増に伴う原価の増加に加え、M&Aによる原価構造の変化も影響していると推察される。
  • 販管費増減: -384百万円 (FY25/3 1Q: 3,691百万円 -> FY26/3 1Q: 4,075百万円) 。これはM&A関連の一過性費用(約35百万円)や、人件費・広告宣伝費の増加が主な要因とみられる 。特に人件費は新卒採用や中途採用、M&Aにより増加傾向にある 。
  • その他増減: -21百万円 (FY25/3 1Q: -25百万円 -> FY26/3 1Q: -26百万円) 。

営業利益 = 1,452 + 586 – 211 – 384 – 21 = 1,422 百万円 (若干の誤差あり) この分析から、M&Aによる売上収益の増加はあったものの、それ以上に販管費や売上原価の増加が利益を圧迫し、結果として営業減益となったことがわかる。特に販管費の増加は、人員増強やM&A関連費用によるものであり、今後の利益率改善にはこれらのコストをコントロールできるかが鍵となる

収益性の深掘り:

  • 売上総利益率:
    • FY25/3 1Q: 5,120 / 6,173 = 82.9%
    • FY26/3 1Q: 5,495 / 6,759 = 81.3% 売上総利益率は前年同期比で1.6ポイント低下している。これは、Living TechやLife Serviceセグメントにおけるマクロ影響による需要減退や、利益率の低い非注力事業の構成比率が影響している可能性がある 。
  • 営業利益率:
    • FY25/3 1Q: 1,452 / 6,173 = 23.5%
    • FY26/3 1Q: 1,416 / 6,759 = 21.0% 営業利益率は2.5ポイントも低下している。これは、売上総利益率の低下に加え、販管費の増加が主な要因である 。M&A関連費用の一過性要因を考慮しても、人件費の増加が利益率を押し下げている構造的な問題が見受けられる 。

B/S分析: 資産合計は34,843百万円で、前連結会計年度末比2,730百万円減少 。これは、現金及び現金同等物の減少(-3,655百万円)が主な原因だが、のれんが684百万円増加しており、積極的なM&Aが続いていることがわかる 。負債合計は15,182百万円で、前連結会計年度末比2,440百万円減少 。資本合計は19,660百万円で、前連結会計年度末比291百万円減少 。親会社所有者帰属持分比率は56.5%と高い水準を維持しており、財務健全性に問題はない

運転資本の分析(CCC): 開示情報からはDSO, DIO, DPOを正確に算出するための売上原価や期首・期末の棚卸資産・仕入債務が読み取れないため、今回は概念的な分析に留める。じげんのビジネスモデルは主に人材紹介や情報プラットフォームであり、

物理的な在庫(棚卸資産)をほとんど持たないため、DIOはほぼゼロに近いと考えられる

  • DSO(売上債権回転日数): 顧客へのサービス提供後、入金までに要する日数。人材紹介事業では成約後の入職ベースで売上が計上されるため、支払いサイトが変動する可能性がある 。売上債権の変動がCCCに大きな影響を与える。
  • DPO(仕入債務回転日数): 外部への支払いまでに要する日数。広告仕入れやサーバー費用などの支払いサイクルに影響される。 じげんのCCCは、DSOとDPOのバランスで決まる。現状、現金及び現金同等物が大幅に減少している背景には、M&Aや自己株式取得、配当金の支払いが大きく影響している 。営業キャッシュフローがマイナスになっているため、運転資本の効率性を改善し、営業活動でより多くのキャッシュを生み出すことが急務である 。

キャッシュフロー(C/F)分析:

  • 営業活動によるC/F: -796百万円 。前年同期の+1,783百万円から大幅に悪化している 。主な原因は、税引前四半期利益の計上(+1,409百万円)があったにもかかわらず、預り金の減少額(-1,584百万円)と法人所得税等の支払額(-875百万円)が大きかったことにある 。
  • 投資活動によるC/F: -952百万円 。無形資産の取得(-275百万円)に加え、子会社株式の取得(-563百万円)が大きく影響しており、M&Aへの積極的な投資姿勢が窺える 。
  • 財務活動によるC/F: -1,905百万円 。長期借入金の返済(-472百万円)、配当金の支払(-1,049百万円)、自己株式の取得(-312百万円)が主な支出であり、株主還元も積極的に行っていることがわかる 。合計: 期末の現金及び現金同等物は10,641百万円となり、前連結会計年度末から3,655百万円減少した 。 アクルーアル分析: アクルーアル = (純利益 – 営業キャッシュフロー)/ 総資産 今回の場合、アクルーアルは (971 – (-796)) / 34,843 = 5.07%となり、非常に高い値を示している。これは、純利益に対して営業活動で稼いだキャッシュが大幅に少ないことを意味し、利益の質には注意が必要である 。

資本効率性の評価:

  • ROIC vs. WACC:
    • じげんの2025年3月期通期のROEは19.6%であり、これは非常に高い水準である 。
    • WACC(加重平均資本コスト)は、リスクの高い新興市場企業であるため、少なくとも5-8%程度と推測される。
    • ROICは計算に必要な詳細情報が不足しているが、ROEがWACCを大幅に上回っていることから、同社が投下資本を効率的に活用し、企業価値を創造している可能性は高いと判断する。
  • ROEのデュポン分解 (FY25/3):
    • ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
    • ROE = (3,872 / 25,450) × (25,450 / 37,573) × (37,573 / 19,980)
    • ROE = 15.2% × 0.68 × 1.88 = 19.4% (若干の誤差あり) じげんの高いROEは、主に高い純利益率によって支えられていることがわかる。総資産回転率は0.68と低めだが、これはM&Aによるのれんや無形資産の増加が資産を押し上げているためであり、健全な財務活動の範疇と見なせる 。

4. セグメント情報の徹底解剖

2026年3月期第1四半期のセグメント別売上収益は以下の通り

項目 (百万円)2026年3月期 1Q 実績2025年3月期 1Q 実績YoY増減率
Vertical HR2,9292,658+10%
Living Tech1,6941,318+29%
Life Service2,1362,198-3%
合計6,7596,173+9%
  • 好調セグメント: Vertical HRとLiving Tech
    • Vertical HRは、前年同期比で10%増と堅調な成長を継続しており、全社業績の最大の牽引役となっている 。特に、製造領域特化型のタイズが安定成長を続け、人材紹介事業の成約ベース売上収益が過去最高を更新している 。M&Aによる事業貢献も大きく、リジョブでは新規顧客獲得が加速し、タイズではPMIが順調に進んでいる 。
    • Living Techは前年同期比で29%増と最も高い成長率を示している 。これは、保険領域やリユース領域での新規M&Aの連結効果が大きく寄与しているため 。一方で、マクロ経済の影響により、引越し・リフォーム領域では需要が減退している 。電力切替サービスのクロスセルが奏功している点がポジティブ材料である 。
  • 不振セグメント: Life Service
    • Life Serviceは前年同期比で3%減と唯一の減収セグメントとなった 。主な要因は、円安の影響によるレジャー渡航需要の鈍化や、非注力メディア事業の成長の停滞である 。業務渡航需要は堅調に推移しているものの、全体としての成長率と利益率に課題が残る状況 。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: じげんのポートフォリオ戦略は、成長性の高いVertical HRとLiving Techを「攻め」、安定収益を確保するLife Serviceを「守り」とする構造が明確になっている 。しかし、現時点では「守り」であるはずのLife Serviceがマクロ環境の逆風と非注力事業の苦戦で不安定な状況にある 。経営陣は非注力メディア事業の経営統合(三光アドとオーサムエージェント)や事業縮小(ミラクス)といったポートフォリオ効率化を推進しており、この判断は妥当である 。この合理化が今後、いかに全社的な利益率の底上げに繋がるかが重要である

5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

じげんは、2026年3月期の通期連結業績予想を据え置いている 。第1四半期の実績は、売上収益、EBITDA、営業利益、親会社所有者帰属当期利益、EPSのいずれも通期予想の24%で着地しており、季節性を考慮すると想定の範囲内である

経営判断の妥当性: 通期計画を据え置いた経営判断は妥当だと評価する。

  • M&A効果の織り込み: 新規M&A案件(エニーキャリア社、URG社など)の通期での貢献を十分に織り込んでいると見られる 。
  • 低採算事業の合理化: 三光アドとオーサムエージェントの経営統合など、ポートフォリオ効率化による利益改善効果が今後顕在化すると見込んでいる 。
  • マクロ環境への対応: Living TechやLife Serviceの需要減退は一時的なものと判断し、電力切替サービスのようなクロスセルや、旅行領域への戦略投資(USAEL社M&Aなど)によって需要を喚起できると見込んでいる 。

一方で、リスクも存在する。M&A関連の一過性費用や低採算事業の構造的な問題が想定以上に長引けば、計画未達となる可能性もある。特に営業利益率の低下傾向が続けば、通期での目標達成は難しくなる。経営陣はこれらのリスクを認識し、収益性を意識した事業運営や低採算事業の効率化を図る方針を明確に示している

6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

強気シナリオ (蓋然性 30%):

  • 前提条件:
    • Vertical HRセグメントが引き続きM&Aとオーガニック成長の両輪で高成長を維持。
    • Living TechおよびLife Serviceセグメントの低採算事業の整理が完了し、利益率が劇的に改善。
    • マクロ環境が好転し、引越し・リフォーム・旅行需要が回復。
  • 予測レンジ:
    • 売上収益: 290億円 – 300億円
    • 営業利益: 60億円 – 65億円
  • カタリスト:
    • Vertical HRにおける大型M&Aの成功と即座のシナジー創出。
    • 低採算事業の事業売却が完了し、特別利益を計上。
    • Living Techのクロスセル戦略が複数の領域で成功し、顧客単価が大幅に向上。

基本シナリオ (蓋然性 60%):

  • 前提条件:
    • Vertical HRは堅調な成長を続けるものの、Living TechやLife Serviceはマクロ環境の逆風を受け続ける。
    • 低採算事業の合理化は進むが、利益率の改善には時間がかかる。
    • M&Aは継続的に実行されるが、即座の利益貢献は限定的。
  • 予測レンジ:
    • 売上収益: 280億円 – 290億円
    • 営業利益: 58億円 – 60億円
  • カタリスト:
    • Vertical HRにおける小~中規模のM&Aが複数成功。
    • AI活用による業務効率化が進み、販管費の増加率が鈍化。

弱気シナリオ (蓋然性 10%):

  • 前提条件:
    • マクロ環境の悪化が深刻化し、Living TechやLife Serviceだけでなく、Vertical HRの需要にも悪影響が及ぶ。
    • M&A後のPMIが難航し、シナジー効果が発現しないまま、一時的な費用だけが膨らむ。
    • 低採算事業の整理が滞り、赤字が継続的に全社利益を圧迫。
  • 予測レンジ:
    • 売上収益: 260億円 – 280億円
    • 営業利益: 55億円 – 58億円
  • リスク:
    • 関税問題や金利上昇が国内経済に本格的な打撃を与える。
    • M&Aで買収した事業にのれんの減損リスクが発覚。
    • 競合他社が強力なサービスを投入し、市場シェアを奪われる。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法: じげんは、M&Aを成長の柱とするビジネスモデルであるため、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった伝統的な指標に加え、EBITDAベースでの評価が重要となる。

  • PER: じげんのFY26/3E EPSは40.20円で、仮に株価が500円とするとPERは12.4倍となる 。これは成長企業としては妥当な水準だが、今後PERが上昇するためには、利益率の改善と成長ストーリーの明確化が不可欠。
  • EV/EBITDA: じげんのFY26/3E EBITDAは7,430百万円 。EV(時価総額+有利子負債-現金)を計算し、同業他社と比較することで、M&Aによる成長性を加味した評価が可能になる。

じげんの株価は、今後の成長期待とM&A戦略への信頼性から一定のプレミアムで評価されるべきだが、マクロ経済の逆風や低採算事業のリスクも存在するため、過度なバリュエーションは難しい。

絶対評価法(簡易DCF法): (今回は詳細な情報が不足しているため、概念的な試算に留める。)

  • WACC: 5.0%~8.0%と仮定。
  • 永久成長率: じげんの長期的な成長力を加味し、1.0%~2.0%と仮定。
  • フリー・キャッシュフロー(FCF): じげんの営業キャッシュフローは当期マイナスであり、M&Aによる投資も継続しているため、安定的なFCFの予測は困難。しかし、今後ポートフォリオ効率化と営業キャッシュフローの改善が実現すれば、FCFは安定的に増加し、理論株価を押し上げる要因となる。

8. 総括と投資家への提言

じげんの2026年3月期第1四半期決算は、M&A戦略の成果が売上・EBITDAという形で現れた一方で、利益構造の課題も浮き彫りになった、賛否両論の入り混じった内容であった 。好調なVertical HRセグメントが全社を牽引していることは評価できるが、マクロ経済の逆風を受ける他セグメントの収益性改善が遅れれば、ポートフォリオ全体の利益率が低下するリスクは依然として存在する

提言: 現在の投資スタンスは**「中立」**とする。積極的なM&Aによる成長ポテンシャルは魅力的だが、それが利益率の悪化という犠牲を伴う限り、投資家は慎重な姿勢を保つべきである。株価が一段と上昇するためには、M&Aで獲得した事業の利益貢献が明確になり、同時に低採算事業の整理が完了するという、二つの好材料が揃う必要がある。

投資家が注視すべき最重要KPIとイベント:

  1. セグメント別営業利益率: 特にLiving TechとLife Serviceの営業利益率が、非注力事業の合理化によってどこまで改善されるか。
  2. M&Aの進捗: 今後も新規M&Aが発表されるか、そしてその買収価格と事業内容が妥当か。
  3. 営業キャッシュフローの動向: M&Aや株主還元といった資金需要が大きい中で、本業でどれだけのキャッシュを生み出せるか。営業キャッシュフローが安定的にプラスに転じるかどうかが、財務の安定性を測る上で最も重要な指標となる。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次