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東海汽船株式会社(9173)2025年12月期 第2四半期決算分析レポート

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立(確信度:65%)

3行サマリー: 東海汽船の2025年12月期第2四半期は、海運関連事業における運賃改定効果や、その他事業の堅調さから売上高は増加したものの、荒天による高速ジェット船の欠航増加や船員労働時間遵守による減便が響き、営業損失は前年同期から拡大した 。この利益率悪化は一時的な要因と構造的要因が混在しており、第3四半期以降の稼働率回復とコストコントロール能力が、通期目標達成の鍵となる

主要カタリストとリスク:

  • ポジティブ・カタリスト:
    • 海上運送法の「輸送の安全確保に関する命令」に対応した安全マネジメント体制の強化が功を奏し、安定的な運航スケジュールを確保できること 。
    • 主力航路である東京-大島間の旅客需要が、インフルエンサー活用や企画乗船券販売の強化により、コロナ禍前の水準まで回復すること 。
    • 商事料飲事業における新規事業参入が具体化し、収益の第三の柱としての貢献度が明確化すること 。
  • ネガティブ・リスク:
    • 天候不順が常態化し、欠航による減収・費用負担が増加すること 。
    • 人材不足に伴う運航体制の制約が長期化し、繁忙期の供給能力が限定されること 。
    • 燃料費高騰が運賃改定効果を相殺し、収益性を圧迫すること。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

東海汽船の主要事業は「海運関連事業」「商事料飲事業」「ホテル事業」「旅客自動車運送事業」の4つである 。中でも「海運関連事業」が売上高の大部分(約87%)を占める中核事業であり、伊豆諸島航路を中心とした旅客・貨物輸送が主な収益源となっている

ビジネスモデルの評価:

  • 収益モデル:
    • 海運関連事業売上 = (旅客数 x 旅客運賃) + (貨物輸送量 x 貨物運賃)
    • このモデルの強みは、地理的独占性公共性の高さにある。伊豆諸島への主要なアクセス手段として、強力な地理的優位性を有しており、参入障壁は極めて高い。
    • 脆弱性は、外部環境への高い依存度である。旅客数は景気動向や観光需要に直接左右され、航路の運航は天候に大きく影響される 。また、燃料費の変動がコスト構造に大きな影響を与えるため、価格変動リスクにも晒されている。今回の決算では、荒天による欠航や船員労働時間遵守による減便といった、外部環境・内部体制の両面からくる脆弱性が顕在化した 。

競争環境: 東海汽船の事業領域は多岐にわたるが、中核である伊豆諸島航路においては、フェリーや高速船を運航する同社は事実上の独占的地位にある。一方で、観光客の代替交通手段として、航空会社(新中央航空など)が主要な競合となり得る。しかし、航空便が発着する調布飛行場はアクセスが限定的であり、東海汽船の運航する竹芝桟橋からの利便性には劣る。したがって、現時点では強力な直接競合は存在しないと見られる。 他のセグメントについても、ホテル事業は大島温泉ホテルに限定され、旅客自動車運送事業も大島島内が中心である 。それぞれの地域における競争は存在するものの、同社は地域に根ざした総合的なサービス提供を通じて、一定の競争優位性を維持していると評価できる。

3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析 | 項目 | 2025年12月期中間期 (百万円) | 2024年12月期中間期 (百万円) | 前年同期比 (増減率) | 前年同期比 (増減額) | |—|—|—|—|—|

| 売上高 | 6,640 | 6,553 | +1.3% | +87 |

| 営業利益 | △606 | △583 | -4.0% | -23 |

| 経常利益 | △632 | △606 | -4.3% | -26 |

| 親会社株主に帰属する中間純利益 | △373 | △390 | +4.4% | +17 |

  • 売上高: 前年同期比1.3%増の66億4千万円。主力である海運関連事業の運賃改定効果が寄与した 。その他事業も全体的に増収基調で、商事料飲事業が5億8千5百万円から6億3百万円、旅客自動車運送事業が1億4千8百万円から1億5千1百万円にそれぞれ増加した 。
  • 営業利益: 前年同期の営業損失5億8千3百万円から、6億6百万円へ損失が拡大した 。これは主に海運関連事業における船舶修繕費の増加や、販管費の増加が影響している 。
  • 親会社株主に帰属する中間純利益: 前年同期の純損失3億9千万円に対し、純損失が3億7千3百万円と縮小した 。これは、税金等調整額が前年同期の△2億5百万円から△2億2千7百万円に減少したことが主な要因である 。

営業利益のブリッジ分析(前年同期比、百万円):

  • 2024年12月期中間期 営業損失: -583
  • ①売上数量/ミックス変動:
    • 旅客部門: 旅客数は減少したが、運賃改定効果により運賃収入は増加 。
    • 貨物部門: 貨物輸送量は減少した 。
    • その他事業: 商事料飲事業と旅客自動車運送事業の売上が増加 。
    • 変動額合計: +87 (売上高の増分)
  • ②価格/原価率変動:
    • 売上原価は64億1千2百万円から65億2百万円へ増加 。売上高増加率1.3%に対し、売上原価増加率は1.4%とわずかに原価率が悪化している 。特に海運関連事業では、船舶修繕費の増加が原価を押し上げた 。
    • 変動額合計: -15 (概算)
  • ③販管費変動:
    • 販売費及び一般管理費は7億2千4百万円から7億4千4百万円へ増加した 。これは、インフルエンサー招致費用など若年層向け情報発信の強化策や、全社費用(主に一般管理費)の増加が影響していると推測される 。
    • 変動額合計: -20
  • 2025年12月期中間期 営業損失: -583 + 87 – 15 – 20 = -531…
  • 実際の営業損失: -606
  • 差異: 75百万円の差異は、その他の営業費用(減価償却費、その他)の増加によるものと推測される。特に、海運関連事業の船舶修繕費は「費用面」として言及されており、この項目が損失拡大の主因である可能性が高い 。

収益性の深掘り: 粗利率は前年同期の2.15%から2.09%へとわずかに悪化 。これは、運賃改定による増収効果が、船舶修繕費やその他の費用増加によって相殺されたためである 。営業損失率も前年同期の△8.9%から△9.1%へ悪化しており、売上増にもかかわらず収益性が低下している 。これは、売上高の増加率を上回るペースで販管費やその他の費用が増加したためであり、経営陣は収益改善に向けたコストコントロールに課題を抱えていると言える。

B/S分析

  • 総資産: 217億7百万円(前連結会計年度末比7億9千9百万円減少)。主な減少要因は、現金及び預金が9億2千万円減少したことと、有形固定資産が4億6千万円減少したことである 。
  • 負債: 156億9千1百万円(前連結会計年度末比4億5千5百万円減少)。長期借入金の返済が11億2百万円減少したことが主な要因である 。
  • 純資産: 60億1千5百万円(前連結会計年度末比3億4千3百万円減少)。利益剰余金が3億9千5百万円減少したことが主因 。
  • 自己資本比率: 20.5%(前連結会計年度末の21.2%から低下)。純資産の減少により、財務安全性がわずかに低下している。

運転資本の分析: 本決算短信では、売上債権や仕入債務の詳細な内訳が提供されていないため、正確なCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の算出は困難である。しかし、提供されている情報から傾向を分析する。

  • 売上債権は15億2千6百万円から16億4百万円へ増加している 。これは売上増に伴う自然な増加と考えられるが、売上高の伸び率(1.3%)に対し売上債権の伸び率(5.1%)が大きいため、債権回収効率が悪化している可能性を示唆する。
  • 営業未払金は11億8千6百万円から18億1千4百万円へと大幅に増加している 。これは船舶検査費用などの支払いサイトが長期化していることを示唆し、運転資本のキャッシュアウトを抑制している。
  • 結論: 運転資本の管理効率は一概に判断できないが、売上債権の増加率が売上高を上回る一方で、営業未払金が大幅に増加している状況は、利益の増加とキャッシュフローの増加が必ずしも連動しないアクルーアルリスクの一端を示している。

キャッシュフロー(C/F)分析

  • 営業活動によるキャッシュフロー(CF): 2億7千万円のキャッシュ・イン(前年同期は10億2千9百万円のキャッシュ・イン)。税金等調整前中間純損失が拡大したにもかかわらずプラスを維持しているのは、減価償却費や仕入債務の増加がプラス要因として大きく寄与したためである 。しかし、前年同期からの大幅な減少は、本業でのキャッシュ創出力が弱まっていることを示唆している。
  • 投資活動によるCF: △6千5百万円のキャッシュ・アウト(前年同期は△3億7百万円)。有形固定資産の取得による支出1億3千3百万円や、無形固定資産の取得による支出5千7百万円が主な要因である 。前年同期からの支出減少は、設備投資が抑制されたことを示している。
  • 財務活動によるCF: △11億2千5百万円のキャッシュ・アウト(前年同期は△9千8百万円)。長期借入金の返済10億9千7百万円が大部分を占め、財務レバレッジを低下させる方向で動いている 。
  • 利益の質: 営業CF(2.7億円)が純利益(△3.73億円)と大きく乖離している 。これは、減価償却費(非現金支出項目)や仕入債務の増加(運転資本のキャッシュアウト抑制)が、利益を大きく上回るキャッシュを創出していることを示している 。これは一見ポジティブだが、本業での収益力が低下している中で、借入金返済などの財務活動を支えるために、運転資本の最適化や減価償却費という会計上の調整が不可欠な状況である。将来的な借入金返済能力や収益性を考えると、利益の質は必ずしも高いとは言えない。

資本効率性の評価

  • ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト): ROICは(営業損失) / (有利子負債 + 自己資本)で計算される。当期は営業損失であるため、ROICはマイナスとなり、資本コストを大幅に下回っている。これは、投下された資本が企業価値を破壊している状態であり、由々しき事態である。長期的な資本効率の改善には、不採算事業の見直し、運賃改定による収益性改善、そして何よりも営業利益を黒字化することが不可欠である。
  • ROE(自己資本利益率): 純利益がマイナスであるため、ROEもマイナスである。デュポン分解を行っても、純利益率のマイナスが全体のマイナス要因となっている。

4. セグメント情報の徹底解剖

セグメント2025年12月期中間期売上高 (百万円)前年同期比 (増減率)2025年12月期中間期セグメント利益 (百万円)前年同期比 (増減額)
海運関連事業5,828+1.3%△420△19
商事料飲事業603+3.1%44+7
ホテル事業160-4.8%3△6
旅客自動車運送事業151+2.0%18+1
  • 海運関連事業: 売上高は運賃改定効果により前年同期比で増加したものの、営業損失は4億2千万円と拡大した 。荒天による欠航や、船員法遵守による減便が旅客数減少の主因であり 、さらに船舶修繕費の増加が利益を圧迫した 。運賃改定というトップラインを支える施策は奏功しているが、コスト面でのコントロールと、外部環境に左右されない安定運航体制の構築が喫緊の課題である。
  • 商事料飲事業: 売上高6億3百万円、営業利益4千4百万円と、売上・利益ともに好調に推移している 。セメントや建材タイヤの売上が好調であり、船内の自動販売機やレストランの価格見直しも収益性向上に寄与している 。この事業は「旅客数・貨物輸送量に左右されない安定的な事業構造」を目指すという経営方針の通り、海運事業の脆弱性を補完する役割を果たしていると評価できる 。
  • ホテル事業: 売上高は減少、営業利益も前年同期の9百万円から3百万円へと大幅に悪化した 。荒天による航路欠航が宿泊客や日帰り利用客の減少に直結しており、海運事業とのシナジーがネガティブに作用した結果である 。事業単体での収益改善には、航路欠航時でも集客できるような独自性の高いサービスや、リピーターを増やすための顧客満足度向上施策が求められる。
  • 旅客自動車運送事業: 売上高は微増、営業利益も微増と堅調に推移している 。貸切バスの集客は低調だったものの、自動車整備部門が好調であったことが全体を押し上げた 。この事業は、大島町からの継続的な支援を受けており、地域インフラとしての役割を担っている 。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は海運事業という外部環境リスクの高いコア事業に対し、商事料飲事業やホテル事業、旅客自動車運送事業でリスクを分散しようとしている 。しかし、ホテル事業のように海運事業の運航状況に依存する事業もあり、真の分散効果は限定的である。特に、ホテル事業の不振は、海運事業の荒天リスクが複合的に作用した結果であり、この二つの事業のシナジーを再考する必要がある。商事料飲事業の安定的な成長は評価できるが、全体に占める割合が小さく、海運事業の損失を補うには至っていない

5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

通期業績予想は売上高146億円、営業利益3.2億円の黒字を見込んでおり、今回の決算を受けての修正はない

第2四半期までの実績は売上高66.4億円、営業損失6.06億円である 。通期予想の達成には、下半期に売上高79.6億円、営業利益9.26億円を達成する必要がある。

下半期は観光客の繁忙期である第3四半期(夏期)を含むため、売上高は上半期を上回る蓋然性は高い。しかし、9.26億円もの営業利益を稼ぎ出すためには、単純な売上増だけでは不十分であり、粗利率の大幅な改善と、販管費の厳格なコントロールが必須となる。 特に、船舶修繕費の増加が上半期の損失拡大の主因であったことを考えると、下半期にこの費用が抑制できるかが焦点となる。また、船員の労働時間問題など構造的な課題も解決されておらず、運航体制の制約が繁忙期の収益機会を限定するリスクも依然として残っている

経営陣が通期計画を据え置いた判断は、下半期の繁忙期における強力な需要回復と、コストコントロールへの強い自信の表れと解釈できる。しかし、上半期の損失拡大要因が構造的なものである可能性を考えると、この予測はやや楽観的であるという批判的な視点が必要だ。計画未達の場合、経営陣の需要予測能力とリスク管理能力に疑問符が付くことになる。

6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

強気シナリオ(蓋然性20%):

  • 前提: 天候不順が解消され、下半期は安定した運航が可能になる。船員労働時間問題が解決し、繁忙期の供給能力が最大化される。インフルエンサー施策などのマーケティングが若年層に響き、旅客数がコロナ禍前水準まで回復する。
  • 予測: 売上高は通期予想を上回る150億円。営業利益は構造改革効果により5億円。
  • カタリスト:
    • 主要航路の安定運航率が前年比で大幅に改善したという発表。
    • 新たな観光促進キャンペーンが成功し、旅客数が前年を大きく上回る。
    • 商事料飲事業における大型受注や新規事業の成功。

基本シナリオ(蓋然性60%):

  • 前提: 天候不順や労働時間制約が一部解消されるものの、依然として不確実性は残る。運賃改定効果は継続するが、コスト増も継続する。需要回復は緩やか。
  • 予測: 売上高は通期予想並みの146億円。営業利益は通期予想を下回る1億円前後。下半期で黒字化するものの、通期では計画未達となる。
  • カタリスト:
    • 第3四半期決算で営業利益が大幅に改善し、黒字化への道筋が見える。
    • 新たな船舶の導入計画など、将来的な競争力強化に向けた投資発表。
  • リスク:
    • 異常気象による欠航が多発し、繁忙期の機会損失が拡大する。
    • 燃料費などのコストが想定以上に高騰し、利益率をさらに圧迫する。

弱気シナリオ(蓋然性20%):

  • 前提: 天候不順が常態化し、上半期と同様に欠航が相次ぐ。船員労働時間問題が深刻化し、運航体制がさらに縮小。旅客需要が物価高や景気減速で伸び悩む。
  • 予測: 売上高は135億円。通期営業損失は5億円前後となり、通期計画から大幅に乖離する。
  • リスク:
    • 国土交通省からの追加の是正命令や行政指導。
    • 大口顧客である貨物事業者の競合への乗り換え。
    • 労働力不足による事業継続性の問題。

7. バリュエーション

  • 相対評価法:
    • 同社は現在営業損失であり、PERは計算できない。
    • PBR(株価純資産倍率)は株価を純資産で割ることで算出される。純資産は60.15億円 、発行済株式数は2,200,000株 。1株当たり純資産は2,734円。仮に現在の株価が8,000円とすると、PBRは約2.9倍となる。これは同業他社と比較して割高な水準である可能性が高く、市場は将来的な収益回復を織り込んでいるか、純粋に流動性の低い小型株へのプレミアムが付いていると考えられる。
    • EV/EBITDAも、EBITDAがマイナスであるため算出は困難。
  • 絶対評価法:
    • DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)を用いる。
    • 仮定: WACC(加重平均資本コスト)を保守的に5.0%、永久成長率を経済成長率と同程度の0.5%と仮定。
    • 営業損失が継続している現状では、フリー・キャッシュフロー(FCF)は不安定であり、DCF法による理論株価の算出は現実的ではない。将来的な黒字化を前提とする場合、そのタイミングと規模がバリュエーションの鍵となる。

8. 総括と投資家への提言

東海汽船は、地域インフラを担う公共性の高い事業モデルによって、安定的な売上基盤を維持している 。しかし、今回の決算では、天候や船員労働時間といった外部環境および内部体制の脆弱性が顕在化し、売上増にもかかわらず収益性が悪化するという厳しい状況が明らかになった

投資家への提言: 現時点では、通期計画達成の蓋然性が低く、収益改善への明確な道筋が見えないため、投資スタンスは中立とする。経営陣が掲げる下半期の目標は非常に高く、その達成可能性を冷静に見極める必要がある。

今後、投資家が注視すべき最重要KPIとイベントは以下の通り。

  • 次四半期以降の営業利益率: 売上増だけでなく、コストコントロールが機能しているかを評価する。
  • 高速ジェット船の運航率と旅客数: 収益の大部分を占める海運事業の稼働状況をモニタリングする。
  • 今後の設備投資計画: 収益力の回復に向けた新たな投資が、キャッシュフローを圧迫しないかを評価する。
  • 第3四半期決算: 繁忙期の実績が、通期計画達成へのロードマップを明らかにする最も重要なマイルストーンとなる。この結果次第で、投資スタンスを見直す必要があるだろう。

結論として、東海汽船は強固な事業基盤を持つが、足元の収益性悪化と通期計画のギャップは無視できない。安易な楽観論は避け、次の決算で具体的な改善策と進捗が示されるまで、慎重な姿勢を維持すべきである。

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