1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)
投資スタンス:中立、ただし弱気に傾斜(確信度:50%)
本レポートは、日本製麻の2026年3月期第1四半期決算を詳細に分析した結果、売上高は増加したものの、収益性が大幅に悪化している現状を深く懸念しています。各セグメントで原材料費や人件費の高騰が利益を圧迫しており、特にマット事業の収益性急落は看過できません。通期業績予想が「未定」であることは、経営陣が足元の事業環境を正確に把握し、将来の収益性を予測する上で困難に直面していることを示唆しており、市場の不確実性を高めています。
3行サマリー:
- 事実: 2026年3月期第1四半期は売上高が前年同期比2.3%増となった一方で、営業利益は93.5%減と大幅な減益を記録した。
- 本質: 売上増加は円安による輸出事業の押し上げや一部製品の好調に支えられたが、原材料費・人件費の高騰がコストを急増させ、収益構造の脆弱性が露呈した。
- 注目点: 今後、コスト高騰分を販売価格に転嫁できるか、そして進行中の連結子会社売却がどの程度キャッシュフローと将来のポートフォリオに影響を与えるかを注視すべき。
主要カタリストとリスク:
主要カタリスト(Positive):
- 原材料価格の安定とコスト転嫁の成功: 主要事業における原材料価格が下落に転じ、同時に販売価格へのコスト転嫁が進むことで、収益性が大幅に改善する。
- 連結子会社売却による財務体質の改善: 連結子会社であるサハキット社の株式譲渡が完了し、特別利益の計上と併せて財務体質の改善が進む。
- レトルト工場新建屋の稼働: 食品事業のレトルト工場が予定通り稼働し、生産効率の向上と新製品投入による売上拡大に寄与する。
主要リスク(Negative):
- コスト高騰の長期化: ウクライナ情勢や中東情勢を背景としたエネルギー価格、人件費の高騰が長期化し、利益率の改善が困難となる。
- 自動車用フロアマット事業の収益性悪化: 中国のレアアース輸出規制による得意先の車種販売減少や、海外子会社のコスト上昇が続き、同事業の収益がさらに悪化する。
- コメ不足の常態化と影響の拡大: コメ不足がレトルト食品や米麦用紙袋の販売減少に直結しており、この影響が長期化することで事業基盤が揺らぐ。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
日本製麻のビジネスモデルは、食品事業、産業資材事業、マット事業の3つの異なるセグメントから構成されており、それぞれが異なる収益モデルとリスク特性を持つ分散型ポートフォリオです。
ビジネスモデルの評価
- 食品事業:
- 収益モデル: 売上 = (パスタ、レトルト食品の販売数量)×(単価)。
- 強み: 消費者の**「簡便・時短」ニーズ**に対応する製品ラインナップ(冷凍食品、レトルト食品など)を保有している点。 インバウンド需要の増加による地域食材・土産品への需要拡大は新たな収益機会となり得る。
- 脆弱性: コメ不足の影響を受けて主力製品であるカレーの販売が一時的に減少し、外部環境に左右されやすい脆弱性を露呈している。 また、価格競争が激化しており、原材料高騰分の価格転嫁が難しい可能性がある。
- 産業資材事業:
- 収益モデル: 売上 = (黄麻製品、紙袋、フレコンなどの販売数量)×(単価)。
- 強み: 農業用資材からインテリア分野まで、多様な顧客層と用途を持つ製品ポートフォリオ。黄麻製品の輸入販売は、円安を追い風に売上総利益率の改善に寄与している。
- 脆弱性: コメ不足による米麦用紙袋の販売減少が課題であり、特定の農作物生産量に依存するリスクを抱えている。
- マット事業:
- 収益モデル: 売上 = (自動車用フロアマットの販売数量)×(単価)。
- 強み: 自動車産業という安定した顧客基盤を持つ。
- 脆弱性: 特定の得意先や車種に依存しており、中国によるレアアース輸出規制といった地政学的なリスクが直接売上を減少させる要因となっている。 また、海外子会社の人件費・光熱費高騰によるコスト上昇は、グローバルなサプライチェーンを持つ事業の脆弱性を示している。
全体として、各事業は特定の外部環境リスク(コメ不足、地政学リスク)に晒されており、ポートフォリオとしての真の分散効果が限定的になっている点が大きな懸念です。
競争環境
日本製麻は、各事業セグメントで独自の競争環境に直面しています。
- 食品事業: パスタ市場では日清製粉ウェルナやマ・マー(日清製粉)などの大手と競合し、レトルト食品ではハウス食品、エスビー食品など多数のプレイヤーが存在します。日本製麻の強みは、特定のニッチ市場(業務用太麺パスタなど)でのシェア獲得にありますが、大手に比べてブランド力やマーケティング投資で劣るため、価格競争に巻き込まれやすい構造にあります。 * 産業資材事業: 黄麻製品や紙袋の分野では、複数の商社や中小企業がひしめき合っています。同社の強みは長年の取引実績と信頼関係にありますが、汎用品が多いため、価格競争力が重要となります。
- マット事業: 自動車部品業界は、系列や資本関係によってサプライヤーが固定される傾向が強いです。同社は特定の得意先との関係を強みとしていますが、その反面、得意先の販売動向に業績が左右されるというリスクを抱えています。
3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2026年3月期1Q (百万円) | 2025年3月期1Q (百万円) | 前年同期比 (%) |
売上高 | 1,157 | 1,131 | +2.3% |
売上総利益 | 224 | 267 | -16.0% |
販売費及び一般管理費 | 219 | 186 | +17.7% |
営業利益 | 5 | 81 | -93.5% |
経常利益 | 17 | 92 | -81.5% |
親会社株主に帰属する四半期純利益 | 18 | 42 | -56.4% |
営業利益のブリッジ分析: 営業利益の激減(81百万円から5百万円へ、-76百万円)の背景には、売上総利益率の悪化と販管費の増加があります。
- ①売上数量/ミックス変動: 売上高は26百万円増加しており、これは主に産業資材事業とマット事業の増収によるものです。 ただし、食品事業は25百万円の減収となっており、製品ミックスは収益性の低いセグメントへのシフトを示唆している可能性があります。
- ②価格/原価率変動:
- 売上原価の増加: 売上高が2.3%増にとどまる一方で、売上原価は8.0%増加しています(864百万円 → 932百万円)。これは、原材料価格やエネルギー価格の高騰が直接的に原価を押し上げたことを示しています。
- 粗利率の急落: 結果として、粗利率は前年同期の23.6%から19.4%へと4.2ポイントも低下しました。これは、コスト上昇分を販売価格に十分に転嫁できていないことを明確に示しています。 * ③販管費変動: 販管費は前年同期比で33百万円(17.7%)増加しています。 この増加は、人件費の高騰やその他事業運営コストの増加によるものと推察されます。特にマット事業では、海外子会社における人件費・光熱費の高騰が利益を大きく圧迫したと明記されており、これが販管費増加の一因と考えられます。
結論として、営業利益の急落は、主としてコスト高騰分を価格転嫁できないことによる粗利率の悪化(-43百万円)と、人件費等販管費の増加(-33百万円)が複合的に作用した結果です。
B/S分析
- 総資産: 5,739百万円と、前連結会計年度末から54百万円増加しました。主な要因は、受取手形及び売掛金の94百万円増加です。
- 負債: 2,148百万円と、前連結会計年度末から173百万円増加。短期借入金の150百万円増加、支払手形及び買掛金の129百万円増加が主因です。
- 純資産: 3,591百万円と、前連結会計年度末から118百万円減少。為替調整勘定の減少59百万円と非支配株主持分の減少64百万円が主な要因です。
- 自己資本比率: 42.2%と、前連結会計年度末の43.6%から低下しました。
運転資本の分析とCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル):
運転資本は増加傾向にあり、特に受取手形及び売掛金の増加が顕著です。これは、売上が増加した一方で、顧客からの現金回収が追い付いていないことを示唆しています。
- 売上債権回転日数(DSO):
- 2026年3月期1Q:
(723,723千円 ÷ 1,157,295千円) × 91日 = 56.9日
- 2025年3月期1Q:
(629,588千円 ÷ 1,131,727千円) × 91日 = 50.7日
DSOが6日以上増加しており、現金回収の効率が明らかに悪化しています。
- 2026年3月期1Q:
- 棚卸資産回転日数(DIO):
- 2026年3月期1Q:
((366,950+257,304+351,554)千円 ÷ 932,431千円) × 91日 = 95.5日
- 2025年3月期1Q:
((400,705+257,492+352,616)千円 ÷ 864,115千円) × 91日 = 106.3日
棚卸資産回転日数は改善していますが、これは商品及び製品が33百万円減少したためであり、必ずしも在庫管理の改善だけが要因ではない可能性があります。
- 2026年3月期1Q:
- 仕入債務回転日数(DPO):
- 2026年3月期1Q:
(359,100千円 ÷ 932,431千円) × 91日 = 35.1日
- 2025年3月期1Q:
(229,717千円 ÷ 864,115千円) × 91日 = 24.2日
仕入債務回転日数が大幅に増加しており、支払いを遅らせることでキャッシュを内部に留保している状態がうかがえます。
- 2026年3月期1Q:
- CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル):
- 2026年3月期1Q:
56.9 + 95.5 - 35.1 = 117.3日
- 2025年3月期1Q:
50.7 + 106.3 - 24.2 = 132.8日
CCCは改善していますが、これは主に仕入債務回転日数の増加によるものであり、財務的な手腕に依存している側面が強いです。事業活動から生み出されるキャッシュフローの質を評価する上では、DSOの悪化は懸念材料です。
- 2026年3月期1Q:
キャッシュフロー(C/F)分析
当第1四半期連結累計期間に係るキャッシュ・フロー計算書は開示されていませんが、貸借対照表の変動からそのストーリーを読み解くことができます。総資産が増加し、負債も増加している一方で、純資産は減少しています。これは、事業活動で十分なキャッシュを創出できていない可能性を示唆しています。特に短期借入金が150百万円増加している点は、運転資金の不足を補うために借入に頼っている可能性があり、キャッシュフローの質に大きな懸念を抱かせます。
資本効率性の評価
- ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト):
- ROICは
税引後営業利益 ÷ 投下資本
で算出されます。 - 2026年3月期1Qの年換算税引後営業利益は、
5.3百万円 × 4(年換算) × (1-30%) = 14.8百万円
と推計されます。 - 投下資本は、
有利子負債(短期借入金+長期借入金+社債)+自己資本
で、(800+121.6+70) + 2,422 = 3,413.6百万円
(2026年3月期1Q時点)です。 ROIC = 14.8 ÷ 3,413.6 = 0.43%
- 一般的なWACCは5%前後とされており、同社のROICはこれをはるかに下回っています。この数値は、同社が投下した資本に対してほとんど利益を生み出しておらず、企業価値を破壊している状態にあることを示唆しています。
- ROICは
- ROE(自己資本利益率)のデュポン分解:
ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
- 2026年3月期1Q:
ROE = (18.2 ÷ 1,157) × (1,157 ÷ 5,739) × (5,739 ÷ 3,591) = 1.57% × 0.20 × 1.60 = 0.5% (年換算: 2.0%)
- 2025年3月期1Q:
ROE = (42.0 ÷ 1,131) × (1,131 ÷ 5,685) × (5,685 ÷ 3,710) = 3.71% × 0.20 × 1.53 = 1.13% (年換算: 4.5%)
- 純利益率の急落(3.71% → 1.57%)がROE低下の主因であり、これは上述の営業利益率の悪化に直接起因しています。
4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖
各セグメントの業績と要因
セグメント | 2026年3月期1Q 売上高 (百万円) | 前年同期比 (%) | 2026年3月期1Q 営業利益 (百万円) | 前年同期比 (%) |
食品事業 | 328 | -7.1% | 10 | -57.7% |
産業資材事業 | 140 | +25.2% | 1 | +200%以上 (赤字転換) |
マット事業 | 687 | +3.4% | 1 | -97.5% |
その他 | 661 (千円) | -7.7% | 47,700 (千円) | +8,623% |
- 食品事業:
- 売上: 25百万円の減収。 パスタは新製品投入や業務用太麺が好調だったものの、既存製品の販売減で相殺。 主力のカレーがコメ不足の影響で販売が一時的に減少したことが響きました。
- 利益: 13百万円の減益(-57.7%)。 主力製品の販売減に加え、原材料価格高騰が利益を直接圧迫したと推察されます。
- 産業資材事業:
- 売上: 28百万円の増収。 農業用資材やカーペット裏地などの黄麻製品の輸入販売が好調で、円安が売上総利益率改善に寄与。
- 利益: 前年同期の10百万円の営業損失から1百万円の営業利益へと黒字転換。 これは、売上総利益率の改善に加え、人員体制の見直しによるコスト負担の減少が大きな要因です。
- マット事業:
- 売上: 22百万円の増収。
- 利益: 66百万円の減益(-97.5%)。 売上は微増ながら、営業利益はほぼ消滅しています。これは、中国のレアアース輸出規制による得意先の自動車販売減少と、海外子会社における人件費・光熱費の高騰が直接的な原因です。
- その他:
- このセグメントには不動産賃貸事業が含まれており、売上は微減ですが、利益が大幅に増加しています。 報告書の記述だけでは詳細な要因は不明ですが、不動産事業の収益構造の変化、もしくは一過性の収益が発生した可能性があります。
ポートフォリオ・マネジメントの評価
今回の決算は、経営陣の事業ポートフォリオ・マネジメントの脆弱性を露呈しました。
- リスク分散の機能不全: 各事業が異なるリスクに直面しており、特定の事業の好調(産業資材)が他の事業の不振(マット)を相殺しきれていません。特にマット事業の利益急落は、自動車業界という特定の顧客への依存リスクが顕在化した形です。
- シナジーの欠如: 報告書からは、3つの事業間の明確なシナジー効果は読み取れません。各事業が個別にコスト高騰や需要変動に対処しており、企業全体として効率的な経営ができているとは言えない状況です。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
同社は、2026年3月期通期連結業績予想について、現時点で合理的に算定することが困難であるとして「未定」としています。 この判断は、以下の理由から妥当であると評価できます。
- 事業環境の不確実性: 前述の通り、主要な事業セグメントがそれぞれ異なる不確実性(コメ不足、レアアース規制、エネルギー価格高騰)に直面しており、これを定量的に予測することは極めて困難です。
- 先行きの不透明さ: コスト高騰がいつまで続くか、販売価格への転嫁がいつ成功するかを見通すのは難しく、現時点で具体的な数値を公表することは、かえって投資家をミスリードするリスクがあります。
- 経営判断の整合性: 連結子会社であるサハキット社の売却交渉も継続中であり、これが完了すれば業績予想の見直しが必要となるため、現時点で安易に数値を出すべきではないとの判断は合理的です。
しかし、この「未定」という判断は、別の側面から経営陣の需要予測能力や実行力に対する懸念を抱かせます。
- サプライチェーンの脆弱性: コメ不足やレアアース規制といった外部環境の変化に即応できず、売上減少や収益性悪化を招いていることから、経営陣がサプライチェーン全体のリスクを十分に管理できていない可能性が示唆されます。
- 戦略的な価格設定の欠如: 原材料高騰分を販売価格に転嫁できない状況は、同社の価格決定力(プライシングパワー)が弱いことを示しており、競争環境において劣位にあることを意味します。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
今後12~24ヶ月の業績について、以下の3つのシナリオを提示します。
強気シナリオ(蓋然性:20%)
- 前提条件: ウクライナ情勢や中東情勢が沈静化し、エネルギー・原材料価格が安定・下落に転じる。円高基調に反転する。 経営陣がコスト高騰分を販売価格に転嫁することに成功する。サハキット社の売却が好条件で成立し、特別利益を計上。
- 売上・利益予測: * 売上高: 4,700百万円 ~ 5,000百万円
- 営業利益: 100百万円 ~ 150百万円
- カタリスト:
- サハキット社の売却完了と特別利益の計上。
- レトルト工場新建屋の生産効率向上と新製品のヒット。
- 原材料価格の急激な下落。
基本シナリオ(蓋然性:60%)
- 前提条件: コスト高騰基調は続くものの、緩やかな価格転嫁が進む。食品事業はコメ不足の影響から徐々に回復。マット事業の収益性は低迷が続く。サハキット社の売却は進展するが、業績へのインパクトは限定的。
- 売上・利益予測: * 売上高: 4,500百万円 ~ 4,700百万円
- 営業利益: 20百万円 ~ 50百万円
- カタリスト:
- 各事業のコスト削減策の奏功。
- 主力製品(パスタ、カレー)の販売回復。
- サハキット社の株式譲渡に関する具体的な開示。
弱気シナリオ(蓋然性:20%)
- 前提条件: コスト高騰がさらに加速し、価格転嫁が全く進まない。食品事業ではコメ不足の影響が長期化し、売上がさらに減少。マット事業の不振が深刻化し、赤字に転落。サハキット社の売却交渉が難航または不成立となる。
- 売上・利益予測: * 売上高: 4,300百万円 ~ 4,500百万円
- 営業利益: -50百万円 ~ 0百万円(営業損失)
- リスク:
- 世界的な景気後退による需要急減。
- 競合他社によるさらなる価格攻勢。
- 為替の急変動(円高)による輸出事業の収益性悪化。
- 連結子会社売却交渉の長期化または中止。
7. バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法
- PER(株価収益率): 2026年3月期1Qの年換算純利益は18.2百万円 × 4 = 72.8百万円。現在の株価が800円と仮定した場合、発行済株式数4,413,320株から時価総額は
800円 × 4,413,320株 = 約3,530百万円
。- PER = 3,530 ÷ 72.8 = 約48.5倍。
- PBR(株価純資産倍率): 純資産3,591百万円。時価総額3,530百万円。
- PBR = 3,530 ÷ 3,591 = 約0.98倍。
競合他社(例:日清製粉グループ本社)のPERが10~15倍であることを考えると、同社のPERは極めて割高に見えます。これは、純利益が異常に低いため、PERが非現実的な高水準に算出されているためです。 PBRが1倍を下回っていることは、市場が同社の純資産価値を評価していないことを示唆しており、将来の収益力に対する市場の悲観的な見方を反映しています。現在のPERは参考にならず、PBRが1倍を下回っていることが、投資家が同社の将来の収益創出能力に疑問を持っていることを最も明確に示唆しています。
絶対評価法
簡易DCF法による理論株価試算は、現時点では困難です。
- WACC: 借入金が増加しているため、WACCは上昇傾向にあると推測されます。
- FCF(フリー・キャッシュフロー): 営業CFが開示されておらず、かつ純利益が不安定なため、将来のFCFを正確に予測することが不可能です。
- 永久成長率: 業績予想が未定であり、成長シナリオを描くことが困難なため、合理的な永久成長率を設定できません。
以上の理由から、現時点ではDCF法による理論株価の試算は無意味であり、将来の業績見通しが明確になるまで、この手法での評価は控えるべきです。
8. 総括と投資家への提言
核心的な投資魅力と最大の懸念事項
- 投資魅力: * 各事業が異なるリスクを抱える一方で、それぞれに潜在的な成長ドライバー(食品事業の新工場、産業資材事業のコスト削減効果)を内包している点。
- PBRが1倍を下回っており、純資産価値から見れば割安な水準にある可能性。
- 最大の懸念事項: * 収益性の急落: コスト高騰分を価格転嫁できない収益構造の脆弱性と、これに伴う営業利益の激減。
- 将来の不確実性: 業績予想が「未定」であり、経営陣が将来を見通せていないこと。
- 劣化した資本効率: ROICがWACCを大幅に下回っており、企業価値を破壊している状態。
投資スタンスと今後の監視ポイント
今回の決算は、同社がコスト高騰というマクロ環境の変化に脆弱であり、事業構造の変革が急務であることを浮き彫りにしました。投資家としては、現状の不安定な収益性、未定の業績予想、そしてキャッシュフローの悪化傾向を鑑みると、新規投資は推奨できません。
今後の株価動向を監視する上で、投資家が注視すべき最重要KPIは以下の通りです。
- 次四半期の業績予想の開示: 経営陣がいつ、どのような前提で具体的な業績予想を公表するか。この内容が、同社の将来に対する最大のヒントとなる。
- 営業利益率の推移: 粗利率の悪化がコスト転嫁の失敗を示しているため、コスト転嫁の進捗を測る上で、営業利益率の回復が最も重要な指標となる。
- 運転資本の変動: 特に、DSO(売上債権回転日数)が改善に向かうか、そして運転資本の増加が借入金増加に繋がらないかを監視し、キャッシュフローの健全性を評価する。