1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス:中立、ただし確信度は60%。
今回の決算は、すべてのセグメントで増収を達成し、特に利益面で大幅な改善を見せた点は非常にポジティブに評価できる。しかし、その利益改善が一時的な要因によるものか、それとも構造的なビジネスモデルの変化によるものかを見極める必要がある。DX&SI事業とパッケージ事業の好調が全体の業績を牽引している一方で、グローバル事業の赤字転落は懸念材料だ。特に、営業利益率が前年同期の4.5%から7.0%へと大幅に上昇した背景にある、事業ポートフォリオの改善とコスト構造の変化を深く分析する必要がある。現時点では、通期計画に対する進捗は順調に見えるが、下期にかけての案件獲得状況や、不振セグメントの立て直しが通期目標達成の鍵となるだろう。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
日本システム技術株式会社(以下、JAST)は、主に法人顧客向けのシステム開発、ソリューション提供、ソフトウェア販売を手掛けるITサービス企業である。事業は以下の4つのセグメントに分かれている。
- DX&SI事業: 製造業、通信業、官公庁などを中心に、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するためのシステムインテグレーション(SI)サービスを提供する。これは、顧客の個別要件に合わせてシステムを構築する受託開発型のビジネスモデルであり、プロジェクトごとに売上が計上される。売上は「プロジェクト単価(P)×プロジェクト数(Q)」で表現される。高付加価値のプライム案件(元請け)の獲得が、Pの向上に直結し、収益性の改善に繋がる。
- パッケージ事業: 大学経営システム「GAKUEN」シリーズや金融機関向け「BankNeo」など、特定の業界向けに開発した自社パッケージソフトウェアを販売する。このビジネスモデルは、「パッケージライセンス売上(P1)+導入支援/保守サービス売上(P2)×顧客数(Q)」で構成される。初期開発コストはかかるものの、一度導入されれば保守・運用サービスによる継続的な収益(P2)が見込めるため、ストック型収益の要素を持つ。これは、受託開発に比べて安定した収益基盤と高い利益率をもたらす。
- 医療ビッグデータ事業: レセプトデータ(診療報酬明細書)を活用したデータ分析サービスや、レセプト点検サービスなどを提供する。この事業は、データ活用というトレンドに乗った成長分野であり、ストック型収益モデルの典型である。売上は「データ利用料(P)×利用者数(Q)」、もしくは「サービス利用料(P)×契約数(Q)」で表される。
- グローバル事業: 海外市場(主にマレーシア)におけるSAP導入支援などを手掛ける。この事業の売上は「プロジェクト単価(P)×プロジェクト数(Q)」に為替変動が加わる構造となっている。海外の市場動向や為替レートに直接的に影響を受けるリスクを持つ。
ビジネスモデルの評価: JASTのビジネスモデルは、収益性の低い受託開発(DX&SI事業)から、高収益の自社パッケージ(パッケージ事業)、成長性の高いストック型(医療ビッグデータ事業)へとポートフォリオをシフトさせている過渡期にある。今回の決算では、特にDX&SI事業において高付加価値のプライム案件が増加したことが増益の主な要因であり、これは受託開発における「プロジェクト単価(P)」の引き上げに成功したことを示唆している。また、パッケージ事業も導入支援サービスやPP(プログラム・プロダクト)販売の好調により、高い収益性を維持している。
競争環境: JASTが事業を展開するITサービス市場は、富士通や日立製作所といった巨大SIerから、TIS、SCSK、大塚商会といった中堅どころ、さらに各業界に特化したニッチな専門企業まで、非常に競争が激しい。JASTの強みは、特定の業界(教育、金融、医療)に特化した自社パッケージやソリューションを持っていることだ。これにより、汎用的なシステムインテグレーション(SI)を主要なビジネスとする競合他社と比較して、顧客のスイッチングコストを高め、価格競争から一定程度身を守ることができている。特に「GAKUEN」シリーズは、大学市場において確固たる地位を築いており、継続的な収益源となっている。一方で、DX&SI事業においては、依然として多くの競合と技術力や価格で差別化を図る必要があり、市場の動向に左右されやすい脆弱性も抱えている。
3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2026年3月期1Q | 2025年3月期1Q | 前年同期比増減額 | 前年同期比増減率 |
売上高 | ¥7,039百万円 | ¥6,298百万円 | ¥741百万円 | +11.8% |
営業利益 | ¥493百万円 | ¥284百万円 | ¥209百万円 | +73.8% |
経常利益 | ¥509百万円 | ¥318百万円 | ¥191百万円 | +59.9% |
親会社株主に帰属する四半期純利益 | ¥321百万円 | ¥181百万円 | ¥140百万円 | +77.8% |
営業利益のブリッジ分析:
前年同期(2025年3月期1Q)の営業利益¥284百万円から、当期(2026年3月期1Q)の営業利益¥493百万円への変動要因を分解する。
- 売上総利益の変動:
- 売上高増加分:¥7,039百万円 – ¥6,298百万円 = ¥741百万円
- 売上原価増加分:¥5,107百万円 – ¥4,711百万円 = ¥396百万円
- 売上総利益増加分:¥1,932百万円 – ¥1,586百万円 = ¥346百万円
- 販管費の変動:
- 販管費増加分:¥1,438百万円 – ¥1,302百万円 = ¥136百万円
このことから、営業利益の増加(¥209百万円)は、売上総利益の改善(+¥346百万円)が販管費の増加(-¥136百万円)を大きく上回ったことによる。
収益性の深掘り: 売上総利益率は、前年同期の25.2%(¥1,586百万円 / ¥6,298百万円)から、当期は27.4%(¥1,932百万円 / ¥7,039百万円)へと2.2ポイント改善している。また、営業利益率は前年同期の4.5%から7.0%へと2.5ポイントも大幅に上昇した。この利益率改善は、主にDX&SI事業における高収益案件の増加、およびパッケージ事業での導入支援サービスとPP販売の好調という、事業ポートフォリオの質の向上に起因すると考えられる。DX&SI事業のセグメント利益率は17.9%(¥821百万円 / ¥4,588百万円)、パッケージ事業は26.7%(¥373百万円 / ¥1,397百万円)と非常に高い水準を維持している。一方で、グローバル事業は前年同期の利益から一転して営業損失を計上しており、営業利益率全体を押し下げる要因となっている。この構造は、好調セグメントの好調さによって、不調セグメントのパフォーマンスが隠蔽されるリスクを孕んでいる。
B/S分析
項目 | 2026年3月期1Q末 | 2025年3月期末 | 増減額 |
総資産 | ¥23,374百万円 | ¥22,909百万円 | +¥465百万円 |
純資産 | ¥14,371百万円 | ¥14,828百万円 | -¥457百万円 |
自己資本比率 | 61.2% | 64.4% | -3.2ポイント |
運転資本の分析: 運転資本(WC)は、企業が日常の営業活動を維持するために必要な資金であり、WCの変化はキャッシュフローに直接影響する。
- 売上債権回転日数(DSO:Days Sales Outstanding)
- 2026年3月期1Q:(¥5,501,422千円 / ¥7,039,652千円) × 91日 = 71.1日
- 2025年3月期1Q:(¥8,765,791千円 / ¥6,298,813千円) × 91日 = 126.7日
- 改善: 55.6日の大幅な改善。売掛金の回収が迅速化していることが明確に示唆されている。これは、キャッシュフローの観点から極めてポジティブなシグナルであり、企業がより少ない運転資本で同じ売上を上げられるようになったことを意味する。
- 棚卸資産回転日数(DIO:Days Inventory Outstanding)
- 2026年3月期1Q:((¥217,171+¥214,682) / 2) / (¥5,107,407 / 91日) = 3.8日
- 2025年3月期1Q:((¥100,632+¥253,919) / 2) / (¥4,711,881 / 91日) = 3.4日
- 悪化: 0.4日の悪化。棚卸資産の滞留期間がわずかに増加している。特にDX&SI事業は受託開発が中心のため、棚卸資産は「仕掛品」が主であり、プロジェクトの進捗度合いによって変動する。このわずかな増加は、大型プロジェクトの仕掛かり分が増えたことを示唆している可能性があるが、現時点で深刻な問題ではない。
- 仕入債務回転日数(DPO:Days Payable Outstanding)
- 2026年3月期1Q:(¥1,212,890千円 / ¥5,107,407千円) × 91日 = 21.6日
- 2025年3月期1Q:(¥1,509,040千円 / ¥4,711,881千円) × 91日 = 29.1日
- 改善: 7.5日の改善。支払いが早くなっている。これは、買掛金の減少に起因するものであり、サプライヤーとの関係性、もしくはキャッシュの余裕度を示す可能性がある。
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル):
- 2026年3月期1Q:DSO 71.1日 + DIO 3.8日 – DPO 21.6日 = 53.3日
- 2025年3月期1Q:DSO 126.7日 + DIO 3.4日 – DPO 29.1日 = 101.0日 CCCは大幅に改善している。これは、売掛金の迅速な回収によるものであり、企業の資金繰りが劇的に改善していることを意味する。この改善は、営業キャッシュフローの増加にも明確に現れている。
キャッシュフロー(C/F)分析
- 営業活動によるキャッシュフロー(営業CF): ¥4,059百万円の収入(前年同期比+¥1,168百万円増)。これは、売上債権の回収増加と、契約負債の増加が主因である。営業CFが純利益(¥321百万円)を大幅に上回っていることは、利益の質が極めて高く、実態を伴ったキャッシュ創出能力があることを示唆している。
- 投資活動によるキャッシュフロー(投資CF): ¥31百万円の支出(前年同期は¥254百万円の支出)。投資CFの支出が大幅に減少している。これは、主に投資有価証券の取得による支出が減少したためであり、事業拡大に向けた積極的な投資を控えている状況を示している。
- 財務活動によるキャッシュフロー(財務CF): ¥744百万円の支出(前年同期は¥575百万円の支出)。主に配当金の支払額が増加したことによる。
結論: 営業CFが強力である一方、投資CFは抑制されている。この結果、手元資金(現金及び現金同等物)は期首から¥32億52百万円増加し、¥99億95百万円に達している。これは、企業が潤沢なキャッシュを持っていることを示しており、今後の成長投資や株主還元策の余地があることを示唆している。
資本効率性の評価
ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト): 提供された情報だけでは、WACCを正確に算出することはできないが、JASTが投資家から期待されている資本コスト(WACC)を上回るリターンを創造しているかを評価する。
- ROICの算出(簡易版):
- ROIC = EBIT(営業利益)× (1 – 実効税率) ÷ 投下資本
- 実効税率(簡易版):法人税等(¥181,363千円) ÷ 税金等調整前四半期純利益(¥509,539千円) = 35.6%
- 投下資本(簡易版):有利子負債 + 純資産合計 = (¥11,100千円 + ¥52,085千円) + ¥14,371,886千円 = ¥14,435,071千円
- ROIC = ¥493,839千円 × (1 – 0.356) ÷ ¥14,435,071千円 = 2.2%(四半期換算)
- 年率換算:2.2% × 4 = 8.8%
JASTのROICは年率換算で8.8%と推定される。これは、現在の日本の低金利環境を考えると、WACC(一般的に4~6%程度と仮定)を上回っている可能性が高い。つまり、JASTは投下した資本から効率的に利益を生み出し、企業価値を創造していると言える。
ROE(自己資本利益率)のデュポン分解:
- ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
- 純利益率: ¥321百万円 / ¥7,039百万円 = 4.6% (前年同期は2.9%)
- 総資産回転率: ¥7,039百万円 / ¥23,374百万円 = 0.30回転 (前年同期は0.27回転)
- 財務レバレッジ: ¥23,374百万円 / ¥14,371百万円 = 1.63倍 (前年同期は1.54倍) 純利益率と総資産回転率、財務レバレッジのすべてが改善しており、ROEの改善に寄与している。特に、純利益率の大幅な改善は、売上総利益率の向上と、営業外収益・費用・税金項目における改善によるものだ。
4. セグメント情報の徹底解剖
セグメント | 売上高 | 前年同期比 | 営業利益 | 前年同期比 |
DX&SI事業 | ¥4,588百万円 | +16.6% | ¥821百万円 | +29.1% |
パッケージ事業 | ¥1,397百万円 | +17.2% | ¥373百万円 | +57.2% |
医療ビッグデータ事業 | ¥566百万円 | +11.6% | ¥52百万円 | +606.6% |
グローバル事業 | ¥487百万円 | -26.5% | ¥-89百万円 | – |
合計 | ¥7,039百万円 | +11.8% | ¥493百万円 | +73.8% |
- DX&SI事業: 売上、利益ともに二桁成長を達成し、全社業績を牽引している。特筆すべきは、利益が売上を大きく上回るペースで伸びている点だ。これは、製造業や官公庁向けの高付加価値のプライム案件(元請け)の好調によるものとされている。高単価案件の増加は、プロジェクトミックスの改善を意味し、今後も継続的な利益率改善が期待できる。
- パッケージ事業: 売上高が17.2%増、営業利益が57.2%増と驚異的な伸びを見せている。特に「GAKUEN」シリーズの導入支援サービスや、金融機関向けシステムのPP(プログラム・プロダクト)販売が好調。この事業は、一度導入されると継続的なサービス収益が見込めるため、収益基盤の安定化に大きく貢献している。
- 医療ビッグデータ事業: 売上高は11.6%増と堅調な伸びを見せているが、営業利益は606.6%増と爆発的に成長している。これは、データ利活用サービスやレセプト点検サービスの好調によるもの。この事業は成長性が高く、今後のJASTの新たな収益の柱となる可能性を秘めている。
- グローバル事業: 売上高は26.5%減、前年同期の利益から一転して89百万円の営業損失を計上した。主な要因は、マレーシアでのSAP導入サポート案件が前年を下回ったことにある。このセグメントは、JASTの成長戦略におけるリスク要因となっている。早期の立て直しが急務であり、経営陣の対応に注目すべきだ。
ポートフォリオ・マネジメントの評価: JASTは、高利益率を誇るパッケージ事業と成長性の高い医療ビッグデータ事業を成長ドライバーとし、主力のDX&SI事業で安定的な収益を確保するという、バランスの取れたポートフォリオを構築しつつある。DX&SI事業の収益性が改善していることは、全社的な利益率の底上げに繋がり、ポートフォリオ全体の質を高めている。一方で、グローバル事業の不調は、地理的・事業的なリスク分散がまだ機能していないことを示唆しており、この点の改善が今後の課題となる。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
JASTは2026年3月期の通期連結業績予想について、売上高320億円、営業利益35.9億円、経常利益36.6億円、当期純利益27.7億円と、2025年5月14日に公表した数値を据え置いている。
今回の第1四半期の進捗率は以下の通りである。
- 売上高: ¥7,039百万円 / ¥32,000百万円 = 22.0%
- 営業利益: ¥493百万円 / ¥3,590百万円 = 13.7%
売上高の進捗は概ね計画通りだが、営業利益の進捗は13.7%と、四半期ベースの単純平均(25%)を大きく下回っている。これは、季節性や大型案件の計上時期の偏りなど、様々な要因が考えられる。しかし、第1四半期に大幅な増益を達成しながらも、通期計画を据え置いた経営陣の判断には、慎重な姿勢が見て取れる。特に、売上高は前年同期比11.8%増と好調であるにもかかわらず、通期予想の9.1%増を上回るペースで推移していることから、保守的な計画設定である可能性が高い。この背景には、グローバル事業の不振や、下期にかけての案件獲得の不確実性を考慮している可能性がある。経営陣は、現在の好調を一時的なものと捉えず、通期の見通しを慎重に判断していると評価できる。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
将来シナリオ
- 強気シナリオ:
- 前提条件: 好調なDX&SI事業における高収益案件の獲得が継続し、下期にかけても大型案件が順調に計上される。パッケージ事業の「GAKUEN」シリーズが新たな大型顧客を獲得。グローバル事業も第2四半期以降に復調し、損失幅が縮小。
- 予測レンジ: 売上高330億円~340億円、営業利益40億円~42億円
- 基本シナリオ:
- 前提条件: 既存事業は概ね計画通りに推移。DX&SI事業の利益率改善が継続する一方、グローバル事業の不振は継続し、通期での損失計上が見込まれる。
- 予測レンジ: 売上高320億円~325億円、営業利益36億円~38億円
- 弱気シナリオ:
- 前提条件: 好調なDX&SI事業の案件獲得ペースが鈍化し、競争激化により価格競争に巻き込まれる。グローバル事業の赤字がさらに拡大。人件費などのコスト上昇分を価格転嫁できず、利益率が悪化する。
- 予測レンジ: 売上高310億円~315億円、営業利益32億円~34億円
株価のカタリスト/リスク
- 主要カタリスト(ポジティブ要因):
- 高付加価値案件の継続獲得: DX&SI事業における利益率の高いプライム案件の継続的な獲得。
- グローバル事業の黒字転換: 不振が続くグローバル事業の早期の黒字転換。
- 自社株買いの実施: 潤沢な手元資金を背景とした、株主還元策としての自社株買いの発表。
- 主要リスク(ネガティブ要因):
- 事業ポートフォリオの質の悪化: 利益率の高いパッケージ事業の成長鈍化や、DX&SI事業での低収益案件の増加。
- グローバル事業の赤字拡大: 外部環境の変化(為替変動など)や競合との競争激化による赤字の拡大。
- コスト増加の圧力: IT人材の獲得競争激化に伴う人件費増などが利益を圧迫する可能性。
7. バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法: 2026年3月期の通期予想PERは、株価を¥1,000と仮定すると、¥1,000 / ¥112.01 = 8.9倍となる。同業他社と比較すると、TIS(4365)が約15倍、SCSK(9719)が約17倍、大塚商会(4761)が約13倍である。JASTのPERは同業他社と比較して明らかにディスカウントされている。この背景には、事業規模の小ささや、グローバル事業の不振といったリスク要因が織り込まれていると考えられる。しかし、今回の決算で示された高い利益成長率と、キャッシュ創出能力を考慮すると、現在のディスカウントは過度である可能性がある。
絶対評価法(簡易DCF):
- FCF予測(簡易版): 営業利益の成長を考慮し、2026年3月期のFCFを約30億円と仮定。
- 永久成長率(g): 1.5%と仮定(日本GDP成長率と同程度)。
- WACC: 5%と仮定(日本のIT業界の平均水準)。
- 企業価値(EV): FCF / (WACC – g) = ¥30億円 / (5% – 1.5%) = ¥30億円 / 0.035 = ¥857億円
- 株式時価総額: EV – 純有利子負債 = ¥857億円 – (¥111百万円 + ¥52百万円) = ¥856億円
- 理論株価: ¥856億円 / 24,723,067株 = ¥3,462 簡易的な試算ではあるが、現在の株価(仮定)¥1,000と比較して大幅なアップサイドがある。これは、現在の市場がJASTの成長性と利益創出能力を十分に評価していないことを示唆している。
8. 総括と投資家への提言
今回の決算は、日本システム技術株式会社が単なる受託開発企業から、高収益のソフトウェア・ソリューション企業へとビジネスモデルの転換を成功させつつあることを強く示唆している。特にDX&SI事業における高付加価値案件の増加と、パッケージ事業の堅調な成長が、全社的な利益率の改善を牽引している点は特筆すべきである。また、CCCの大幅な改善に代表されるキャッシュ創出能力の向上は、財務健全性の高さを裏付けている。
一方で、グローバル事業の不振は、成長戦略における明確なリスクであり、今後の業績を注視する必要がある。また、第1四半期に大幅な増益を達成したにもかかわらず通期計画を据え置いた経営陣の判断は、慎重ながらも、市場に対しては保守的な印象を与えかねない。
明確な投資スタンス: 中立。
現時点では、好調なセグメントと不振なセグメントが混在しており、今後の業績動向を見極める必要がある。しかし、そのポテンシャルは極めて高く、特に財務指標の改善は評価に値する。
今後の株価動向を監視する上で、投資家が注視すべき最重要KPIやイベント:
- セグメント別の利益率: DX&SI事業とパッケージ事業の利益率が継続して改善するか。
- グローバル事業の動向: 赤字が拡大するか、あるいは黒字転換できるか。
- 通期業績予想の修正: 第2四半期以降に上方修正が発表されるか。
- 資本政策: 潤沢なキャッシュをどのように成長投資や株主還元に振り向けるか。
これらの点を注視することで、JASTの企業価値が今後どのように変化していくかをより深く理解することができるだろう。