時には、「もっと仕事のシフトを増やしたいけど、扶養の範疇を超えてしまわないかしら?」と気を揉む方も少なくありません。扶養を超える年収が具体的にどの程度なのか、皆さんの中にははっきりと理解していない方もいるでしょう。俗にいう「年収の壁」について耳にする機会はあっても、それがどれくらいの額なのかは、意外と知らないものです。
この文章では、扶養控除制度に関する基本情報と、この制度を超えた場合の利点と不利点について、さらに「年収の壁」を形成する4つの範囲に関してもお話しします。扶養控除の詳細や条件を理解し、自身にとってどの範囲が一番メリットがあるのかを見極めることで、どれほどの労働が適切か計算しやすくなります。
扶養控除制度とは?
よく「働きすぎて扶養の恩恵を受けられなくなってしまう」といった声を聞きますが、そもそも扶養控除とはどのようなものでしょうか?扶養控除とは、経済的に自立できない家族や親族を支えるための制度です。この制度によって、家族を支える責任を持つ納税者は、課税所得の減少や家族の保険料の軽減といった形で、税金の負担を少しでも軽くできるようになっています。主に2つの形式の扶養が存在します。
- 税法上の扶養控除
- 社会保険法上の扶養
これらはそれぞれ独自の条件を持っており、扶養の対象になるための基準が異なります。以下で、これら2つの扶養制度について解説いたします。
税法上の扶養控除
税法上の扶養控除では、扶養される配偶者が年収103万円以下であれば、扶養する側は「配偶者控除」を受けることができます。
もし配偶者が年収103万円以上201万6,000円以下を稼いでいる場合は、「配偶者特別控除」が適用されるのです。これらは税額を減らすための措置で、扶養者の所得に応じて控除額が変わります。
扶養者の所得が下記の区分に該当するかによって、具体的な控除額が定められますが、所得が1,000万円を超えると、これらの控除を受けることはできません。
- 年収900万円以下
- 年収900万円超~950万円以下
- 年収950万円超~1,000万円以下
社会保険法上の扶養控除
社会保険法上の扶養控除では、扶養される人の年収が130万円未満であれば、その人の社会保険料は不要となります。ここで重要なのは、扶養者が支払う健康保険や国民年金の保険料に変動はなく、扶養される側もこれらの保険の恩恵を受けられるという点です。
これにより、1人分の保険料で2人の保障を得られるため、非常に経済的です。ただし、扶養される人の収入が扶養者の収入の半分未満である必要があります。
また、勤務形態によっては年収が106万円を超えると扶養から外れてしまうこともあるので、注意が必要です。具体的な条件については後ほど詳しく説明します。
扶養の枠内に収まるのが望ましいの?扶養制度の利点と欠点について
「扶養という選択肢があるけれど、果たしてどの道を選ぶのが最も賢明なのか」と迷われる方も多いかと思います。扶養の枠内にいる場合、税金の負担を減らすことができ、また社会保険料を家族全体で1人分の支払いですむ、という経済的な利点があります。 では、扶養の枠から外れることはただの不利益になるのでしょうか。
実のところ、扶養の枠を超えることには利点もあれば欠点もあるのです。それらについて、次の節で優しく丁寧にご説明していきます。
扶養の枠を超えることの利点
扶養の枠から飛び出すことで得られる2つの大きな利点があります。
- 扶養されていた方が仕事を自由に選べるようになる
- 社会保障が充実し、将来の年金が増える見込み
「扶養の枠に留まっていなければ損をする」とよく言われますが、扶養の枠を超えることの利点は見逃せません。家族の現状や将来の設計によっては、扶養の枠から出ることで、今の生活をもっと充実させたり、未来に向けてより良い準備ができたりするかもしれません。どんな利点があるのか、さらに詳しくお話ししましょう。
①扶養されていた方が仕事を自由に選べる
扶養の枠から抜け出すと、以前は扶養されていた方が、収入に制限なく働けるようになります。扶養の枠内で働いている間は「収入が多くなり過ぎると扶養の枠から外れる」との考えから、働き方を自ずと抑えがちです。
しかし、扶養の枠を超えると収入に上限を設ける必要がなくなり、より多くのシフトに入ることやより条件の良い職場への転職が可能になります。
フルタイムでの正社員として働く選択肢も出てくるでしょう。社会の一員として思う存分に力を発揮したいとお考えなら、扶養の枠を超えて自分らしく活躍する時間が増えるかもしれません。
②社会保障が充実し、将来の年金が増える見込み
扶養の枠を超えると、これまで扶養内であった人の社会保険の保障が充実し、それにより将来的にはより多くの年金を得られるかもしれません。
扶養されている間は社会保険料の負担はありませんが、その分、老後に受け取れる年金は基本的に国民年金のみとなります。
しかし、扶養の枠を超えた場合は、自分自身で社会保険料の負担を背負うことになります。
それでも、勤務先が社会保険を完備していれば、より手厚い保障の厚生年金に加入できるため、将来受け取る年金額を増やし、安心した老後を送ることが期待できます。
扶養の枠を超えることの欠点
扶養の枠から離れることには以下の3つの欠点があります。
- 扶養されていた人が住民税や所得税を自ら納める必要が生じる
- 扶養していた人にとっての節税メリットが失われる
- 社会保険料の自己負担が必要となる
①と②は税金に関する欠点で、③は社会保険に関する欠点です。それぞれの欠点について、分かりやすく説明いたします。
①扶養されていた人が住民税や所得税を自ら納める必要が生じる
扶養の枠を超えると、以前扶養されていた方が自分の住民税や所得税を支払う義務を負うことになります。税制上の扶養の範囲内であれば、これらの税金を納める必要はないのですが、収入が増えてその範囲を超えると、納税義務が発生します。
②扶養していた人にとっての節税メリットが失われる
扶養されていた方が扶養の枠を超えると、それまで扶養していた人が享受していた税金の節約効果がなくなります。
例えば、配偶者の所得が扶養の範囲内である場合には、配偶者控除が適用され税金が軽減されますが、扶養の枠を超えた場合、これらの税金の軽減は受けられなくなります。
③社会保険料の自己負担が必要となる
扶養されていた方が扶養の枠を超えると、自分で社会保険料を負担する必要が生じます。社会保険上の扶養内であれば、健康保険は扶養者のものが適用され、国民年金保険料も支払う義務がないのですが、扶養の枠を超えると、これらの保険料を自分で納めなければならなくなります。
「年収の壁」とは?その意味と扶養制度における影響
「年収の壁」というフレーズを耳にしたことがあるかもしれませんね。これは扶養家族として認定されるための年収の限度額のことを指しています。家族を扶養するには、その人の年収が特定の範囲内である必要があり、その範囲を超えるとさまざまな経済的影響が出てきます。
この「年収の壁」には次のような4つの重要な区切りがあります。
- 106万円の壁
- 130万円の壁
- 150万円の壁
- 201.6万円の壁
これらの各区切りがどのような意味を持ち、扶養の状態から外れた場合にどんな影響があるのか、一つ一つ丁寧に説明していきましょう。
①社会保険の扶養範囲を決める「106万円の壁」
もし扶養されている方が以下の5つの条件を満たした場合、社会保険の扶養範囲から外れてしまい、勤め先の健康保険や厚生年金に加入する必要が出てきます。
- 1週間に20時間以上の勤務
- 月給が88,000円以上、すなわち年収が106万円以上
- 雇用契約が1年以上続く見込み
- 勤め先の従業員数が501人以上
- 学生ではない
これらの条件を満たすと、アルバイトやパートタイムでも社会保険料の支払い義務が発生します。
②無条件で社会保険料が必要になる「130万円の壁」
扶養されている方の年収が130万円を超えた瞬間、その人は勤務状況や雇用形態に関わらず扶養の範囲から外れ、社会保険料を自分で支払わなければなりません。
「たとえパートタイマーだとしても?」と思われるかもしれませんが、実はそうなんです。扶養の枠を超えると、国民健康保険や国民年金、あるいは勤め先の健康保険と厚生年金のどちらかに必ず加入し、それに伴う保険料の納付が求められます。
③配偶者控除の恩恵が減る「150万円の壁」
扶養されている人の年収が150万円以下であれば、その配偶者は配偶者控除または配偶者特別控除として最大38万円の控除を受けることができます。
しかし、150万円を超えると配偶者特別控除が徐々に縮小され、結果として配偶者の負担する税金が増えてしまいます。つまり、税金の軽減効果が低下し、扶養者の経済的負担が増大するのです。
④税制上の恩恵を失う「201.6万円の壁」
扶養されている方の年収が201.6万円を超えた場合、どのような勤務形態であっても、また扶養者の収入に関わらず、配偶者特別控除を受けることはできなくなります。
これは税法上での扶養の枠組みにおいても、社会保険の扶養条件においても、完全に扶養対象外となる収入の節目となります。
まとめ:経済的なメリットを得るために扶養制度を賢く使いこなそう
扶養制度に関する理解は、我々の仕事や生活設計において非常に役立つ情報です。そこで、以下の3つの重要な点を忘れずに頭に入れておきましょう。
・扶養という制度には税金と社会保険の面で2つの側面があります。
・扶養制度から抜け出すことは、それぞれの状況に応じて利点もあれば不利な点も存在します。
・扶養制度における年収の制限は、4つの異なるステージに分けられています。
扶養の枠内にいることは経済的に見ると多くのメリットを享受できますが、それに固執し過ぎて仕事の選択肢を狭めてしまうのは賢明ではありません。個人の目指すキャリアパスや生活の計画に合わせて、この制度を上手に活用していくことで、経済的な面だけでなく、精神的な満足感にも繋がるでしょう。自分にとって最適なバランスを見つけ、扶養という制度を利用することで、生活をより豊かにするための一助となります。