通常、会社が退職までの税金や社会保険料の手続きを行っていますが、退職後はこれらのことを自分自身で理解し、対応する必要があります。この変化は多くの人にとって戸惑いの原因となります。実際、退職すると、次のステップへ進むか、家族の扶養に入るかによって必要な手続きが異なります。この過程は複雑で、適切に行わないと、必要以上の税金や社会保険料を支払うことになるかもしれません。
記事を通じて、退職後に必要な税金や社会保険料の手続き、支払いに困ったときの対処法について、わかりやすく解説します。手続きが遅れたり、適切に行われなかったりすると、不必要な支払いが発生する可能性があります。このような状況を避けるためにも、自分に必要な手続きを正確に把握し、適切に実施することが大切です。
退職後の所得税に関する手続きについて
通常、所得税は私たちが1年間に得た所得に基づいて、自分で税務署に申告し、納付する必要があります。これは「申告納税制度」として知られており、自己申告の原則に基づいています。
退職後の所得税に関する手続きは、状況に応じて次のとおりです。
状況 | 手続き |
退職金がある人 | 退職所得の申告書を提出して退職金から所得税を源泉徴収してもらう |
同年中に再就職する人 | 前職の源泉徴収票を再就職先に提出して年末調整をする |
同年中に再就職しな人 | 退職時に源泉徴収票を発行してもらい確定申告をする |
しかし、会社員や公務員の場合は少し異なります。これらの職業の方々は、毎月の給料から源泉所得税が自動的に天引きされています。このプロセスは「源泉徴収」と呼ばれ、所得税の予測に基づいて行われますが、実際の所得とは異なる場合があります。これは概算で計算されているため、年間通じての正確な所得に基づいて調整する必要があります。
そのため、企業では従業員の1年間の所得が確定する年末に「年末調整」を実施します。このプロセスを通じて、会社員などは通常の確定申告をする必要がなく、勤務先がこの手続きを代行してくれる形になっています。これにより、実際の所得に基づいて適正な税金が計算されます。もし実際の所得が予測より少なければ、過払い分の税金が還付されます。逆に、所得が予測を上回っていた場合は、不足分の税金を納める必要があります。
退職後は、これまでの会社の源泉徴収や年末調整のシステムが使えなくなるため、自分自身で所得税の申告と納付を行う必要があります。この変化は、多くの方にとって新しい挑戦となるかもしれませんが、正しい情報を得て、適切な手続きを行うことで、スムーズに対応することができます。この記事が、退職後の所得税の手続きに関する理解を深め、適切に対応する手助けとなれば幸いです。
退職金を受け取る際の税金処理について
退職金に関しては、通常の所得とは別に所得税が源泉徴収されます。この方式は「源泉分離課税」と呼ばれ、退職金に特有の税務処理です。具体的には、退職金を受け取る際に、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出することが求められます。この申告書の提出により、退職金にかかる税金の計算が行われ、確定申告の手間を省くことが可能です。
申告書を提出しない場合、収入全体に対して一律に20.42%の所得税及び復興特別所得税が課されます。例えば、退職金が500万円の場合、申告書を出さなければ約102万1,000円の税金が引かれることになり、これは退職金の大きな部分を占めることになります。
もし申告書を提出せずに退職金を受け取った場合、通常は所得税を過剰に納めてしまうことになりますが、その後の確定申告を通じて過払い分の税金を取り戻すことができます。この確定申告は、余計に支払った税金を返還してもらうための重要な手段です。
退職所得の申告書を忘れずに提出することで、退職金にかかる税金の適正な計算が可能になり、より多くの手取り金額を確保できます。提出後の税金計算や手取り金額については、この記事の後半で具体的な計算方法をご紹介します。これにより、あなたは退職金の正確な金額を把握し、退職後の計画をより効果的に立てることができます。
年の途中での退職とその後の再就職(転職)に伴う税務手続きについて
まず、年の途中で退職し、その後再就職(転職)した場合、退職した会社からの源泉徴収票の提出が重要です。この源泉徴収票は、年末調整の手続きに不可欠で、新しい勤務先での年末調整を行う際に必要となります。年末調整は、その年の税金の最終的な調整を行うプロセスで、これを経ることで基本的に確定申告の必要はなくなります。
ただし、例外的な状況もあります。特に医療費控除が受けられる場合や、住宅ローンの初年度にあたる場合などは、確定申告をすることで税金をさらに節約することが可能です。これらの控除は、年末調整だけでは完全には処理されないため、確定申告を通じて適切な税額の調整を行う必要があります。
また、退職した会社で源泉徴収されていた所得税は、毎月給与が支払われることを前提に計算されています。そのため、給与を受け取っていない期間(退職期間)が長い場合、過剰に納めた税金が還付されることが一般的です。この還付を受けるためにも、退職時には必ず源泉徴収票を発行してもらい、新しい職場で年末調整を行う際に提出しましょう。
もし再就職後、同じ年の12月までに再び退職している場合、年末調整が行われていない可能性が高いです。この場合は、次の章で紹介する「年末調整を行っていない場合の手続き」を参考にしてください。
年末調整を受けていない場合の確定申告について
通常、年末調整は会社が従業員のために行う税務手続きで、一年間の所得税を調整します。しかし、年の途中で退職し、新たな職場で再就職していない場合、その年の税務処理は完了していません。このような状況では、自分自身で確定申告を行う必要があります。
この他にも、以下に当てはまる人は確定申告をしたほうが税金を抑えられるので、該当する人は確定申告しましょう。
- 退職所得の申告書を出していない人:退職所得控除が適用されるので税金(所得税)が還付される
- 医療費控除を受けられる人:医療費控除が適用されるので税金が還付される
- マイホームの取得・リフォームをした人:住宅ローン控除が適用されて税金が還付される可能性がある
確定申告を行う際には、退職時に発行される源泉徴収票が非常に重要です。この源泉徴収票には、その年に受け取った給与の総額や、すでに徴収された税金の額が記載されています。この情報は確定申告の際、過払い税金の還付を受けるために必要となります。そのため、退職時には必ず源泉徴収票を発行してもらうことを忘れないでください。
確定申告の手続き自体は、税務署または国税庁のウェブサイトで行うことができます。また、税務署で直接手続きを行うことも可能です。このプロセスには、源泉徴収票のデータが必要になりますが、その他にも様々な書類が必要になる場合があります。例えば、医療費控除を受ける場合は、医療費の領収書や、寄付金控除を受ける場合は寄付を証明する書類などが必要です。
確定申告の具体的な手順については、別の記事で詳しく解説しています。この記事では、必要な書類の準備から申告書の作成、提出までの手順を分かりやすく説明しています。また、確定申告に関するよくある質問や注意点についても触れています。
退職後の住民税手続きについて
住民税は前年の1年間の所得に基づいて計算されます。これは、所得税の申告とは別に行われる地方税の一種で、通常は翌年の6月から翌々年の5月までの期間にわたり、給与から天引きされて納付されます。この方法を「住民税の特別徴収」と呼びます。
それぞれ以下のとおりですので、確認してみてください。
状況 | 手続き |
退職金がある人 | 退職金から住民税を源泉徴収して支払う |
1月から5月に退職した人 | 最後の給与で住民税が一括で天引きされて支払う |
6月から12月に退職した人 | 原則として市区町村から送付された納付書をもとに自分で分割して支払う(一括支払いも可能)が、給与から一括天引きも可能 |
すぐに再就職する人 | 再就職先で給与から天引きされて支払いを継続する |
例えば、2021年の所得に基づく住民税が年間12万円である場合、2022年6月から2023年5月までの期間、毎月1万円ずつ給与から天引きされて支払われます。
しかし、退職をする場合、この特別徴収の方式にはいくつかの異なる対応が必要になります。退職時期やその後の収入状況によって、住民税の支払い方法が変わるため、注意が必要です。
特に、6月から12月の間に退職した場合、給与からの天引きではなく、自分で住民税を支払う必要があります。この場合、住民税を一括で支払うことが困難な状況にある方もいるかもしれません。そのような場合は、住民税の減免制度を利用することが可能です。減免制度を利用することで、経済的な負担を軽減し、退職後の生活を安定させることができます。
退職後の住民税に関する具体的な手続きや、減免制度の申請方法については、住んでいる市区町村の役所や、そのウェブサイトで確認することができます。また、住民税に関する相談窓口も設けられていることが多いので、不明な点や困ったことがあれば、積極的に相談することをお勧めします。
退職金の受け取りに関連する税務処理について
退職金を受け取る際には、所得税と同様に住民税も源泉分離課税の対象となります。これは、退職金から直接所得税と住民税が差し引かれるという仕組みです。この手続きは通常、会社によって行われるため、個人が特別な手続きを行う必要はありません。
退職金に関して、所得税と住民税はほぼ同じように扱われますが、税率が異なります。具体的には、課税退職所得金額の10%が特別徴収されることになります。また、100円未満の端数は切り捨てられることも覚えておくと良いでしょう。
この計算方法については、後ほど詳細に解説します。退職金の受け取りに関連する税務処理は、退職後の財政状況に大きな影響を及ぼすため、正確に理解し、適切に対応することが重要です。
1月から5月の間に退職する際の給与や退職金からの源泉徴収に関する手続きについて
この時期に退職する場合、最後に受け取る給与や退職金から住民税が一括で源泉徴収されます。この手続きは通常、会社によって自動的に行われるため、個人が特別な処理をする必要はありません。
住民税の徴収期間は「6月から翌年の5月まで」となっており、この期間が1つの区切りとなります。例えば、3月末に退職する場合、その年の6月から翌年5月までにかかる住民税は、退職時に一括で徴収されます。これにより、退職後に住民税の支払いについて気にする必要がなくなります。
住民税は「6月から翌年5月まで」が1つの区切りになっているので、例えば3月末に退職するなら次のようなイメージです。
住民税額(年税額) | ¥120,000 |
1ヶ月に源泉徴収される住民税額(月割額) | ¥10,000 |
支払った月数 | 10ヶ月分 |
支払った住民税額 | ¥100,000 |
支払っていない残り月数 | 2ヶ月分 |
残りの住民税額 | ¥20,000 |
この例では、退職する3月に支払われる最後の給与や退職金で残りの住民税額2万円を一括で天引きされて支払います。
6月から12月の間に退職する場合の住民税の支払い方法について
この時期に退職する場合、住民税の徴収方法は通常の「特別徴収」から「普通徴収」に切り替わります。特別徴収とは、給与から直接住民税が天引きされる方式です。しかし、退職後は給与がないため、この方法では住民税を徴収できません。
そのため、6月から12月の間に退職した場合、市区町村から納税額通知書兼納付書が送付されます。この納付書には、支払う住民税の額が記載されており、これを基に自分で税金を支払う必要があります。支払い方法は、最寄りのコンビニや銀行で直接支払うか、口座振替の手続きを行うことになります。
この普通徴収の場合、支払いの期限にも注意が必要です。納付書には支払いの期限が明記されており、期限を過ぎると延滞金が発生する可能性があります。したがって、納付書が届いたら、早めに支払いを済ませることをお勧めします。
また、退職後の経済状況によっては、住民税の支払いが困難な場合もあります。そのような場合には、市区町村に相談し、減免や支払いの分割などの手続きを行うことができます。これらのオプションは、特に退職に伴う収入減で困っている方々にとって有益な選択肢となることでしょう。
退職や再就職による収入の変動は住民税の支払いに直接影響を与える可能性がある
退職によって給与がなくなったり、再就職後に以前よりも収入が減少したりする場合、住民税の支払いが負担になることがあります。特に、住民税は前年の所得に基づいて課税されるため、前年の所得が高かったにも関わらず、現在の収入が低い場合、税金の支払いが困難になることがあります。
このような状況にある場合、多くの市区町村では住民税の減免制度を設けています。この制度を利用することで、住民税の全額、または一定の割合(例えば50%や25%)を減免してもらうことが可能です。ただし、減免を受けるための具体的な要件は市区町村によって異なりますので、減免を受けるためにはまずお住まいの市区町村の担当課に問い合わせることが重要です。
市区町村の担当課では、あなたの現在の収入状況や家計の状況に応じた適切なアドバイスや対応策を提供してくれます。また、住民税の減免申請に必要な書類や手続きの詳細も教えてもらえます。減免申請をする際には、退職証明書や再就職先の給与明細書など、収入状況を証明する書類が必要になることが一般的です。
一例を挙げると、減免を受けるための要件は以下のとおりです。減免を受けるための要件は市区町村によって変わるので、詳細はお住まいの市区町村の担当課に問い合わせてみてください。
- 前年の所得が200万円以下で本年の見込みがその半分以下
- 雇用保険の失業給付を受けている
すぐに再就職する場合、再就職先で引き続き給与から天引きされて住民税を支払える場合もあります。
この場合、実際にどうなるのかについては会社の担当者に聞いてみましょう。
退職後の健康保険に関する手続きについて
退職すると、会社が提供していた健康保険から離れることになります。そのため、新たに健康保険の加入手続きを行う必要があります。具体的には、以下のオプションがあります。
健康保険は、会社に勤めていてもいなくても加入する必要があります。そのため、状況に応じた健康保険の切り替えの手続きが必要です。
状況 | 手続き |
国民健康保険に切り替える | 退職後14日以内に資格喪失証明書と共に国民健康保険被保険者資格取得届を市区町村に提出する |
任意継続健康保険制度を利用する | 退職後20日以内に任意継続被保険者資格取得申出書を会社の健康保険に提出する(2ヶ月以上被保険者期間がある場合) |
被扶養者として家族の健康保険に切り替える | 退職後5日以内に家族の会社を経由して被扶養者(異動)届を年金事務所に提出する |
再就職先の健康保険に切り替える ※ | 退職および就職後5日以内に再就職先の会社を経由して被保険者資格取得届を年金事務所に提出する |
※退職日の翌日に再就職するような場合のみを指します
これらの健康保険の手続きは、退職後すぐに行うことが推奨されます。特に国民健康保険に関しては、加入が遅れると遡って保険料を支払う必要が生じることがあります。また、健康保険の手続きを怠ると、医療費が高額になるリスクがあるため、迅速な対応が重要です。
必要な手続きを判断する際のポイントは下記のとおりです。
- 会社の任意継続健康保険制度を利用するなら任意継続被保険者の手続き
- 退職期間が1日も空かないほどすぐに再就職するなら再就職先の健康保険に切り替える手続き
- 給与収入が年間130万円もしくは106万円未満の見込みで職場の健康保険に加入しないなら、被扶養者として家族の健康保険に切り替える手続き
- 以上のいずれにも当てはまらない場合は国民健康保険に切り替える手続き
これらの手続きは最短で5日以内に行わなければいけません。手続きが遅れた場合、本来加入すべき時期まで遡って健康保険料を支払う必要がありますし、保険証が手許になくて困る場合があります。
国民健康保険料の支払いに困難を抱えている場合の対処法について
退職後に収入が低くなり、国民健康保険料の支払いが難しい状況にある方は少なくありません。このような場合、多くの市区町村では、保険料の減免制度を設けていることがあります。
国民健康保険料は、加入者の前年の所得に基づいて計算されます。退職や再就職がない場合、前年と比べて収入が大幅に低下する可能性があり、その結果、保険料の支払いが困難になることがあります。
多くの市区町村では、このような状況に対応するために、所得に応じた保険料の減免制度を設けています。例えば、名古屋市の場合は以下のとおりです(2020年中の世帯の所得を基準とした2021年分保険料の減免要件)
- 3万円+(給与所得者等の数-1)×10万円以下→世帯均等割額の7割減免
- 43万円+(給与所得者等の数-1)×10万円+(28万5千円×被保険者数)以下→世帯均等割額の5割減免
- 43万円+(給与所得者等の数-1)×10万円+(52万円×被保険者数)以下→世帯均等割額の2割減免
ただし、減免を受けるための具体的な要件は、市区町村によって異なるため、具体的な条件や手続きについては、お住まいの市区町村の担当課に問い合わせることが重要です。
退職後の年金手続きについて
退職すると、将来の年金受給に関する手続きが必要になります。これらの手続きは、退職後の安定した老後の生活を実現するために非常に重要です。
職後の年金の手続きは、健康保険とほぼ同様で以下のとおりです。
状況 | 手続き |
再就職もせず扶養にも入らない | 国民年金保険(第1号被保険者):退職後14日以内に市区町村で手続きをする |
すぐに再就職する | 厚生年金保険(第2号被保険者):退職および就職後5日以内に再就職先の会社を経由して被保険者資格取得届を年金事務所に提出する |
厚生年金に加入している家族の扶養に入る | 国民年金保険(第3号被保険者):退職後5日以内に家族の会社を経由して被扶養者(異動)届を年金事務所に提出する |
退職後の年金手続きは、将来の安心と安定に直結する重要なプロセスです。この情報が、退職後の年金手続きをスムーズに進めるための参考となり、安心して老後を迎えるための準備に役立てば幸いです。何か不明な点がある場合は、年金事務所に相談することをお勧めします。安心した退職生活を送るために、これらの手続きを適切に行いましょう。
国民年金保険料の支払いに困難を抱えている場合の対応について
国民年金は老後の生活を支える重要な資源ですが、時には経済的な事情で保険料の支払いが難しいこともあります。そのような状況にある場合、減免制度を利用することが可能です。
国民年金保険料の減免制度は、前年の所得に基づいて設定されています。具体的には、以下のような基準が設けられています。保険料を全額納付した場合の年金額の2分の1となります。
減免内容 | 減免基準所得 | 老齢基礎年金の受給額への影響 |
全額免除 | (扶養親族等の数+1)×35万円+22万円 | 保険料を全額納付した場合の年金額の2分の1 |
4分の3免除 | 78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 保険料を全額納付した場合の年金額の4分の3 |
半額免除 | 118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 保険料を全額納付した場合の年金額の半額 |
4分の1免除 | 158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 保険料を全額納付した場合の年金額の4分の1 |
減免を受けるかどうかは、前年の確定申告書や源泉徴収票に基づいて計算することができます。申請の際には、これらの書類が必要になるため、準備しておくと良いでしょう。
減免を受けると、将来受け取れる年金額が減少する可能性がありますが、減免された1年間で年金額が半額になるわけではありません。減免された期間に応じて年金額が調整され、最低でも保険料の半分を支払った場合の年金額が計算されます。
また、経済的な状況が改善した場合は、追納制度を利用して、減免された期間の保険料を追納することができます。追納を行うと、将来の年金受給額の減額を取り戻すことが可能です。この制度は10年以内に利用できるため、経済的に余裕ができたら追納を検討することをお勧めします。
退職後の雇用保険手続きについて
まず、雇用保険の基本手当を受けるための主な条件として、退職前2年間に被保険者期間が12ヶ月以上あることが必要です。これは、退職前の2年間で少なくとも12ヶ月は雇用保険に加入していたことを意味します。条件を満たしていれば以下の手続きによって雇用保険の基本手当を受けることができます。
- 退職した会社から雇用保険被保険者離職票を受け取る
- ハローワークに求職の申し込みをして雇用保険被保険者離職票を提出する
- 雇用保険受給者初回説明会に出席して雇用保険受給資格者証と失業認定申告書を受け取る
- 必要事項を記入した失業認定申告書と雇用保険受給資格者証を4週間に1度ハローワークに提出する
- 積極的な就職意思があるのに就職できない「失業の状態」の認定を受ける
- 失業認定日の5営業日後程度に基本手当が振り込まれる
なお基本手当の額は下式のように求め、4週間に1度の失業認定を受けるごとに振り込まれます。
<基本手当の計算式>
賃金日額【退職直前6ヶ月の賃金(ボーナス除く)÷180日】
退職金にかかる税金の計算方法について
前提として、退職所得の申告書を提出した場合に源泉徴収される税金の計算方法を解説します。あまり多くはない例ですが、申告書を提出していない場合、源泉徴収される所得税および復興特別所得税は支給額の20.42%です。
退職所得控除は以下のように計算します。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円 × 勤続年数 |
20年超え | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年) |
※勤続年数は1年1日でも2年として計算します。
※退職所得控除額が80万円未満の場合は80万円が退職所得控除額となります。(勤続年数1年でも80万円)
課税退職所得金額を求めます。課税退職所得金額は下式のように求めます。
<課税退職所得の計算式>
(退職収入 - 退職所得控除) × 0.5
※1,000円未満の端数は切り捨て
例えば21年働いて退職金の支給額が1,000万円の人の課税退職所得を求めてみましょう。
退職所得控除額870万円 = 800万円 + 70万円 × (勤続年数21年 - 20年)
課税退職所得65万円 = (退職収入1,000万円 - 退職所得控除870万円) × 0.5
退職金1,000万円が支給されても、課税される退職所得は65万円になりました。このように、退職所得控除は退職金による税金負担を抑える仕組みです。
退職金にかかる所得税の計算方法について
退職金は、多くの場合、退職時に一度に支払われる大きな金額ですが、この収入には所得税が適用されます。正確な計算方法を理解することは、退職後の財政計画を立てる際に重要です。
課税退職所得を求めたら、下表をもとに所得税額を求めます。
<退職金にかかる所得税の計算式>
課税退職所得金額 × 税率 - 控除額
※1円未満の端数は切り捨て
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
先ほどの例では課税退職所得が65万円でしたので、下式のようになります。
<退職金にかかる所得税の計算例>
課税退職所得金額65万円 × 適用税率5% - 適用控除額0万円 = 3万2,500円
※1円未満の端数は切り捨て
なお、2037年までは所得税額の2.1%が復興特別所得税として加算されますので、3万2,500円の2.1%である682円を加算して3万3,182円となります。(1円未満の端数は切り捨て)
退職金にかかる住民税の計算方法について
先ほどの例では課税退職所得金額が65万円でしたので、下式のとおりです。
<退職金にかかる住民税の計算例>
課税退職所得金額65万円 × 住民税率10%(区市町村民税率6% + 道府県民税率4%) = 6万5,000円
※100円未満の端数は切り捨て
まとめると、21年勤務した人の退職金1,000万円は、所得税で3万3,182円、住民税で6万5,000円が源泉徴収され、手取りは990万1,818円です。
退職後の税金や社会保険の手続きに関して準備をすることが大切
退職後の税金の手続きでは必ず源泉徴収票が必要になるので、退職時に源泉徴収票を発行してもらうようにしてください。年末調整を受けていれば確定申告の必要はありませんが、年末調整を受けなかったときは確定申告をしましょう。
これらの手続きを適切に行うことで、退職後の経済的な不安を減らし、新しい生活へのスムーズな移行が可能になります。退職は人生の大きな変化の一つですが、適切な準備と理解によって、その過程をより安心して進むことができます。本記事が退職後の税金や社会保険の手続きに関する役立つ情報となり、新しいスタートを切るための参考になれば幸いです。