「国民年金って、本当に将来もらえるの?」「今払っている保険料より、将来もらえる年金の方が少ないんじゃない?」
SNSやニュースで「国民年金は払い損」という言葉を目にするたび、こんな不安が頭に浮かんでいませんか?
私も20代の頃、毎月届く国民年金保険料の納付書を手に、同じような疑問を抱いていました。「月16,590円も払って、本当に元が取れるのか?」「どうせ年金制度は破綻するんでしょ?」そんな気持ちで、実は1年間ほど保険料を滞納していた恥ずかしい過去があります。
しかし、大手銀行で10年間、個人向け資産運用のコンサルタントとして働き、数千人のお客様の家計と老後資金について相談を受ける中で、国民年金制度の真の価値と、「払い損」という言葉の誤解について、深く理解するようになりました。
今回は、国民年金の損得計算を数字で徹底的に検証し、制度への不信の根本原因を探りながら、あなたが納得して年金と向き合えるよう、包み隠さずお話しします。
国民年金「払い損」論の正体 – なぜこの議論が生まれるのか
そもそも「払い損」とは何を指しているのか
「国民年金は払い損」という議論の根底には、主に3つの不安があります。
1. 支払総額と受給総額の単純比較への疑問 「40年間で払う保険料と、実際にもらえる年金額を比べたら、マイナスになるのでは?」
2. 制度の持続可能性への不信 「少子高齢化で年金制度は破綻する。今払っても無駄になる」
3. 機会損失への懸念 「年金保険料を投資に回した方が、もっと増えるのでは?」
これらの不安、実はとても自然な疑問です。限られた収入の中から毎月1万6千円以上を拠出するのですから、その価値について慎重に考えるのは当然のことです。
私が20代で年金不信に陥った理由
振り返ってみると、私が年金制度に不信を抱いた最大の理由は「情報不足」でした。
当時の私は、国民年金を「ただの貯金の強制版」だと思っていました。毎月16,000円ちょっとを40年間払い続けて、65歳から月6万円程度をもらう。単純計算すると:
- 支払総額:16,590円×12カ月×40年=約796万円
- 受給開始から20年間で:65,000円×12カ月×20年=約1,560万円
「なんだ、20年生きれば元は取れるじゃないか」とも思いましたが、同時に「でも20年後にもらえる1,560万円と、今の1,560万円の価値は同じなのか?」「その間のインフレは?」「本当に制度は続くのか?」といった疑問が次々と湧いてきました。
単純な損得計算が見落としている重要な要素
しかし、銀行で実際にお客様の資産形成を支援する中で、国民年金の価値は単純な損得勘定だけでは測れないことを痛感しました。
国民年金には、一般的な投資商品にはない、極めて重要な特徴があるのです。
数字で見る国民年金の真の価値 – 保険としての機能を含めた損得計算
年金は「貯蓄」ではなく「保険」である
多くの人が見落としているのが、国民年金の本質は「長生きリスクに対する保険」だということです。
通常の貯蓄や投資の場合、あなたが90歳まで生きても、100歳まで生きても、用意できる資金には限りがあります。しかし国民年金は、あなたが生きている限り、一生涯にわたって給付が続くのです。
実際の損益分岐点を詳細計算
【前提条件】
- 20歳から60歳まで40年間保険料を納付
- 2023年度の保険料:月額16,590円
- 2023年度の満額年金:年額795,000円(月額約66,250円)
【支払総額】 16,590円×12カ月×40年=7,963,200円(約796万円)
【受給総額(受給開始からの年数別)
- 10年受給:795,000円×10年=795万円(支払額とほぼ同額)
- 15年受給:795,000円×15年=1,193万円(支払額の1.5倍)
- 20年受給:795,000円×20年=1,590万円(支払額の2倍)
- 25年受給:795,000円×25年=1,988万円(支払額の2.5倍)
つまり、65歳から75歳まで(受給開始から10年間)生きれば、ほぼ元は取れるのです。
平均寿命から見た現実的な受給期間
厚生労働省の「令和4年簡易生命表」によると:
- 男性の平均寿命:81.05歳
- 女性の平均寿命:87.09歳
これを65歳受給開始で計算すると:
- 男性:約16年間受給(65歳〜81歳)
- 女性:約22年間受給(65歳〜87歳)
男性の場合の受給総額 795,000円×16年=1,272万円(支払額の1.6倍)
女性の場合の受給総額 795,000円×22年=1,749万円(支払額の2.2倍)
長寿社会での「超長生きリスク」
さらに重要なのは、これらは「平均」寿命だということです。
2人に1人は平均寿命より長生きします。内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によると、65歳の人が95歳まで生きる確率は:
- 男性:約10%
- 女性:約20%
もし95歳まで生きた場合: 795,000円×30年(65歳〜95歳)=2,385万円
支払額796万円に対して、受給総額は2,385万円。約3倍のリターンです。
障害基礎年金という「見えない保険価値」
国民年金には、老齢年金以外にも重要な給付があります。それが「障害基礎年金」です。
障害基礎年金の給付額(2023年度)
- 1級:年額993,750円(月額約82,800円)
- 2級:年額795,000円(月額約66,250円)
この給付は、年齢に関係なく、初診日の前日において保険料納付要件を満たしていれば受給できます。
私がこの制度の重要性を実感したのは、銀行時代に担当したお客様のケースでした。30歳の会社員の方が、交通事故で重い障害を負われ、働けなくなってしまったのです。しかし、きちんと国民年金保険料(厚生年金保険料)を納めていたおかげで、障害基礎年金2級を受給することができ、「これがなかったら本当に困っていた」とおっしゃっていました。
この障害基礎年金を民間の障害保険で補おうとすると、月額数千円の保険料が必要になります。国民年金は、老齢年金と障害年金、さらには遺族年金の機能を併せ持つ、極めて効率的な社会保障制度なのです。
インフレと経済成長を考慮した長期視点での価値評価
年金額の「マクロ経済スライド」による調整機能
「将来の年金額が今と同じ価値を保てるのか?」という疑問もよく聞かれます。
国民年金には「マクロ経済スライド」という仕組みがあり、物価や賃金の変動に応じて年金額が調整されます。完全ではありませんが、インフレによる貨幣価値の下落から、ある程度年金受給者を守る機能を持っています。
過去のデータから見る年金額の推移
実際に、過去の年金額がどのように変化してきたかを見てみましょう:
国民年金(満額)の推移
- 1995年:年額651,600円
- 2000年:年額672,100円
- 2005年:年額794,500円
- 2010年:年額792,100円
- 2015年:年額780,100円
- 2020年:年額781,700円
- 2023年:年額795,000円
この28年間で、約22%の増加です。同期間の消費者物価指数の上昇率(約15%)と比較すると、実質的な価値も維持されていることが分かります。
民間投資との比較 – リスクとリターンの観点から
「年金保険料を株式投資に回した方が得では?」という声もあります。確かに、過去の日本株式市場を見ると:
日経平均株価
- 1990年:約38,900円(バブル最高値)
- 2023年:約33,000円
33年間でマイナス15%。この間の配当を含めても、年率1-2%程度のリターンです。
一方、米国のS&P500指数は同期間で約10倍になっていますが、これは「結果論」であり、将来も同様のパフォーマンスが続く保証はありません。
何より重要なのは、株式投資には元本割れのリスクがあるということです。2008年のリーマンショックでは、多くの投資家が資産の30-50%を失いました。老後資金の基礎部分を、そのようなリスクにさらすのは適切ではありません。
年金の「確実性」という価値
資産運用の世界では、「リスクフリーレート」という概念があります。これは、リスクを取らずに得られる収益率のことで、通常は国債の利回りが基準となります。
現在の日本の10年国債利回りは約0.7%です。つまり、リスクを取らずに運用できる収益率は年0.7%程度ということです。
先ほどの年金の損益分岐点(受給開始から約10年)を年利換算すると、約2-3%のリターンに相当します。しかも、これは生きている限り一生涯続く「確実な」給付です。
この確実性を考慮すると、国民年金は極めて魅力的な「投資商品」と言えるでしょう。
年金制度の持続可能性 – 「破綻論」の真偽を検証
「年金制度破綻論」の誤解
「少子高齢化で年金制度は破綻する」という不安をよく耳にします。確かに、制度を取り巻く環境は厳しくなっています。しかし、「破綻」という表現は適切ではありません。
年金財政の仕組み – 3つの財源
国民年金の財政は、以下3つの財源で成り立っています:
1. 保険料(約4割) 現役世代が納める保険料
2. 国庫負担(約5割) 税金からの負担。2009年度から基礎年金給付費の2分の1
3. 積立金の運用収益(約1割) 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による運用
GPIFの運用実績から見る制度の安定性
GPIFは、約200兆円という世界最大規模の年金積立金を運用しています。2001年度からの累積収益は約108兆円(2023年3月末時点)で、年平均収益率は約3.7%です。
GPIFの運用実績(2001年度〜2022年度累計)
- 収益額:約108兆円
- 収益率:年平均3.7%
- 最高収益年度:2020年度(約37.8兆円、収益率25.15%)
- 最低収益年度:2008年度(約-9.3兆円、収益率-5.23%)
リーマンショックの2008年度は大きな損失を出しましたが、長期的には着実に資産を増やしています。
財政検証による将来見通し
厚生労働省は5年ごとに「財政検証」を行い、向こう100年間の年金財政の見通しを公表しています。
2019年の財政検証によると、経済成長と労働参加が進むケースでは、現在の年金水準(所得代替率)の約6割程度は維持できるとされています。
確かに、現在よりも給付水準は下がる可能性があります。しかし、これは「破綻」ではなく、「持続可能な水準への調整」です。
制度改革による対応
政府も手をこまねいているわけではありません。これまでも、そしてこれからも、制度の持続可能性を高めるための改革が続けられています:
過去の主な改革
- 厚生年金保険料率の段階的引き上げ(2004年〜2017年)
- 基礎年金国庫負担割合の引き上げ(1/3→1/2、2009年度)
- マクロ経済スライドの導入(2004年)
今後予定される改革
- 被用者保険の適用拡大
- 在職老齢年金制度の見直し
- 受給開始時期の選択肢拡大(60歳〜75歳)
「減額されても受給ゼロではない」という現実
仮に将来、年金額が現在より減額されたとしても、完全に受給できなくなることは考えにくいです。なぜなら、年金制度は国の根幹的な社会保障制度であり、高齢者の基本的な生活を支える最後の砦だからです。
私が銀行員時代に接した多くの高齢のお客様を見ても、年金が生活費の大部分を占めている方がほとんどでした。この制度がなくなることは、社会的にも政治的にも現実的ではありません。
個人の状況別「払い損」リスク分析
年収・職業別のリスク評価
国民年金の「払い損」リスクは、個人の状況によって大きく異なります。
【会社員・公務員の場合】 実は、会社員や公務員の方は国民年金保険料を直接納付していません。厚生年金保険料の中に国民年金分が含まれており、その一部を国民年金勘定に拠出する仕組みになっています。
厚生年金に加入している方は、国民年金(1階部分)に加えて厚生年金(2階部分)も受給できるため、「払い損」になる可能性は極めて低いです。
【自営業・フリーランスの場合】 国民年金のみの場合、受給額は満額でも月額約6.6万円です。これだけで老後生活を賄うのは困難で、追加の備えが必要になります。
しかし、だからといって国民年金が「払い損」ということではありません。月6.6万円でも、生涯にわたって確実に受給できる収入があることの価値は非常に大きいのです。
【専業主婦(夫)の場合】 第3号被保険者として、保険料負担なしで国民年金に加入できます。この場合、明らかに「払い得」です。
ただし、離婚や配偶者の退職などで第3号被保険者でなくなった場合は、自分で保険料を納付する必要があります。
健康状態・家族歴による寿命予測
「自分は長生きしないから年金は損」と考える方もいらっしゃいます。しかし、将来の寿命を正確に予測することは不可能です。
私の祖父は、60歳の時に医師から「余命1年」と宣告されましたが、結局95歳まで生きました。35年間、年金を受給し続けたのです。
また、たとえ本人が早く亡くなったとしても、遺族基礎年金として配偶者や子どもが受給できる場合があります。
独身者vs既婚者のリスク差
【独身者の場合】 自分の老後資金をすべて自分で準備する必要があります。国民年金は、その基礎部分として極めて重要な役割を果たします。
万が一、障害を負った場合の障害基礎年金も、独身者にとっては生活の支えとなります。
【既婚者の場合】 夫婦二人とも国民年金を受給できれば、世帯全体で月約13万円の収入が生涯続きます。これに住宅ローンが完済していれば、質素ながらも生活は可能です。
配偶者に万が一のことがあった場合の遺族基礎年金も、残された家族にとって重要な収入源となります。
年金保険料の未納・免除制度と将来への影響
保険料免除制度の活用
「年金保険料を払う余裕がない」という場合でも、未納のまま放置するのは得策ではありません。
国民年金には、所得に応じた免除制度があります:
【法定免除】
- 生活保護受給者
- 障害基礎年金・厚生障害年金の1・2級受給者
- 寡婦年金受給者
【申請免除】
- 全額免除:所得が一定基準以下
- 3/4免除:所得78万円以下(単身世帯の場合)
- 半額免除:所得118万円以下(単身世帯の場合)
- 1/4免除:所得158万円以下(単身世帯の場合)
【学生納付特例】
- 20歳以上の学生で所得が一定基準以下
- 社会人になってから追納可能
【納付猶予】
- 50歳未満で所得が一定基準以下
- 10年以内に追納可能
免除期間の年金額への影響
免除期間も、一定の条件下で年金額に反映されます:
【免除期間の年金額算定】
- 全額免除:満額の1/2
- 3/4免除:満額の5/8
- 半額免除:満額の3/4
- 1/4免除:満額の7/8
例えば、40年のうち10年間が全額免除だった場合:
- 保険料納付期間:30年
- 全額免除期間:10年
年金額=795,000円×(30年÷40年)×満額+795,000円×(10年÷40年)×1/2 =795,000円×0.75+795,000円×0.125 =596,250円+99,375円 =695,625円(年額)
全額免除期間があっても、年額約70万円の年金を受給できます。
未納期間がある場合の対処法
【追納制度の活用】 免除・猶予期間分の保険料は、10年以内であれば追納できます。追納すれば、その期間は満額の年金額計算の対象となります。
【任意加入制度】 60歳時点で加入期間が40年未満の場合、65歳まで任意加入して満額受給権を得ることができます。
【付加年金の活用】 国民年金第1号被保険者は、月額400円の付加保険料を納付することで、将来「200円×付加保険料納付月数」の付加年金を受給できます。
例:20年間付加保険料を納付した場合
- 付加保険料総額:400円×12カ月×20年=96,000円
- 付加年金額:200円×240カ月=48,000円(年額)
2年間受給すれば元が取れる、非常にお得な制度です。
他の老後資金準備との比較 – 年金、貯蓄、投資のベストミックス
老後資金の「3階建て」構造
理想的な老後資金準備は、以下の3階建て構造と言われています:
【1階:公的年金】
- 国民年金・厚生年金
- 基礎的な生活費をカバー
- 確実性が高い
【2階:企業年金・個人年金】
- 企業型確定拠出年金(企業型DC)
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
- 国民年金基金
- 税制優遇を活用した追加保障
【3階:自助努力】
- つみたてNISA
- 一般NISA
- 個人年金保険
- 不動産投資
- その他の資産形成
国民年金と他の制度の組み合わせ効果
【会社員の場合】 厚生年金+企業型DC+つみたてNISAの組み合わせが一般的です。
例:年収500万円、30歳から65歳まで35年間積立
- 厚生年金:月額約10万円(国民年金含む)
- 企業型DC:月2万円拠出で約1,200万円積立(運用利回り3%と仮定)
- つみたてNISA:月3万円拠出で約2,000万円積立(運用利回り4%と仮定)
老後収入:月約10万円+退職金代わりの一時金3,200万円
【自営業者の場合】 国民年金+国民年金基金orイデコ+つみたてNISAの組み合わせが効果的です。
例:年収400万円、30歳から65歳まで35年間積立
- 国民年金:月額約6.6万円
- iDeCo:月6.8万円拠出で約4,000万円積立(運用利回り3%と仮定)
- つみたてNISA:月3万円拠出で約2,000万円積立(運用利回り4%と仮定)
老後収入:月約6.6万円+一時金6,000万円
なお、これらの数字は概算であり、実際の運用結果は市場環境により変動することにご注意ください。
年金保険料vs投資の正しい比較方法
「年金保険料を投資に回した方が良い」という議論でよくある間違いは、リスクを同等にして比較していないことです。
【正しい比較のポイント】
1. リスクレベルを合わせる 年金は「確実」な給付なので、比較対象は国債などのリスクフリー資産であるべきです。
2. 保険機能を含めて評価する 年金には障害・遺族給付もあるため、その保険料相当分も考慮する必要があります。
3. 税制を考慮する 年金保険料は社会保険料控除の対象となり、投資利益には税金がかかります。
4. インフレ調整機能を評価する 年金にはマクロ経済スライドによるインフレ調整機能があります。
実践的な資産配分の考え方
私が銀行員時代にお客様にお勧めしていた基本的な考え方は以下の通りです:
【リスク許容度による配分】
保守的な方(リスク回避型)
- 公的年金:生活費の50-60%
- 預貯金・国債:生活費の30-40%
- 投資(株式・投信):生活費の0-10%
バランス型の方
- 公的年金:生活費の40-50%
- 預貯金・個人年金:生活費の30-40%
- 投資(株式・投信):生活費の10-20%
積極的な方(リスク許容型)
- 公的年金:生活費の30-40%
- 預貯金・個人年金:生活費の20-30%
- 投資(株式・投信):生活費の30-50%
どのタイプの方でも、国民年金は老後収入の基礎として重要な役割を果たします。
年金制度への不信を解消するための心構え
「完璧」を求めすぎない重要性
年金制度への不信の根源には、しばしば「完璧な制度」を求める気持ちがあります。
「将来の給付水準が下がるかもしれない」 「インフレで実質価値が目減りするかもしれない」 「もっと良い投資先があるかもしれない」
これらの懸念は理解できますが、完璧な制度は存在しません。重要なのは、不完全でも「確実に機能する基礎的な仕組み」を持つことです。
私が年金制度への見方を変えたきっかけ
私の年金制度に対する見方が大きく変わったのは、母の闘病を経験したときでした。
母は50代で病気を患い、働けなくなりました。しかし、それまできちんと厚生年金保険料を納めていたおかげで、障害厚生年金を受給することができ、経済的な心配をすることなく治療に専念できました。
「年金制度があって本当に良かった」と心から思いました。それまで「損得」でしか考えていなかった年金制度が、実は「人生のセーフティネット」として機能していることを実感したのです。
年金制度の「社会的価値」
年金制度は、個人の損得を超えた「社会全体の安定」に寄与します。
もし年金制度がなかったら、高齢者の生活は完全に自己責任となり、社会全体で大きな格差が生まれるでしょう。生活に困窮する高齢者が増えれば、社会保障費の増大や治安の悪化など、社会全体のコストが増大します。
年金制度は、このような社会全体のリスクを軽減する「社会保険」としての機能を持っているのです。
「不安」との向き合い方
年金制度への不安を完全に解消することは難しいかもしれません。しかし、不安に支配されて何も行動しないことほど、リスクの高いことはありません。
【建設的な不安への対処法】
1. 情報収集を怠らない 厚生労働省の公式資料や財政検証結果などを定期的にチェックし、感情論ではなく事実に基づいて判断する。
2. 複数の準備を並行する 年金制度だけに頼らず、iDeCoやつみたてNISAなど、複数の老後資金準備を並行して進める。
3. 定期的な見直しを行う ライフステージの変化に応じて、資産配分や加入制度を見直す。
4. 専門家に相談する ファイナンシャルプランナーや年金事務所などで、個人の状況に応じたアドバイスを受ける。
まとめ:国民年金との正しい付き合い方
「払い損」議論を超えた年金制度の真価
ここまで詳しく検証してきた結果、国民年金制度について以下のことが明らかになりました:
【数字から見た結論】
- 平均寿命まで生きれば、支払額の1.6倍〜2.2倍の給付を受けられる
- 受給開始から約10年で元が取れる
- 障害・遺族給付を含めた保険機能の価値は計り知れない
【制度の持続可能性】
- 完全な破綻はほぼ考えられない
- 給付水準の調整はあっても、受給ゼロにはならない
- GPIFの安定的な運用により、財政基盤は維持されている
【他の資産形成手段との比較】
- 確実性とリターンのバランスが優秀
- リスクフリー資産としては高いリターン
- 老後資金の基礎部分として最適
個人ができる最適な戦略
これらの分析を踏まえ、個人が取るべき戦略は以下の通りです:
【基本方針】
- 国民年金保険料は確実に納付する
- 余裕があれば付加年金も活用する
- 国民年金だけでは不足する分を他の手段で補完する
- 年金制度の動向を定期的にチェックする
【状況別の具体的アクション】
会社員・公務員の方
- 厚生年金保険料の納付を確実に行う(基本的に給与天引きなので問題なし)
- 企業型DCがあれば最大限活用する
- つみたてNISAで追加の資産形成を行う
自営業・フリーランスの方
- 国民年金保険料+付加年金の納付を確実に行う
- iDeCoで2階部分を作る(月額6.8万円まで拠出可能)
- 国民年金基金も検討する
- つみたてNISAで長期投資を行う
専業主婦(夫)の方
- 第3号被保険者のメリットを活用する
- 働ける範囲で働いて、厚生年金に加入することも検討する
- 配偶者の年金制度と合わせて世帯全体で最適化を図る
保険料納付が困難な方
- 免除・猶予制度を必ず利用する(未納のまま放置しない)
- 経済状況が改善したら追納を検討する
- 任意加入制度で満額受給権を確保する
最後に:年金制度への信頼回復に向けて
私は銀行員として多くの方の家計相談を受ける中で、年金制度に対する不信の根深さを痛感してきました。しかし同時に、制度の恩恵を受けている方々の安心した表情も数多く見てきました。
年金制度は確かに完璧ではありません。しかし、長い人生の中で起こりうる様々なリスクから私たちを守ってくれる、かけがえのない仕組みでもあります。
「払い損」かどうかという短期的な損得勘定を超えて、「人生100年時代を安心して過ごすための基盤」として年金制度を捉え直してみてください。
そして、年金制度だけに頼るのではなく、個人でできる資産形成も並行して進めることで、より豊かで安心できる老後を実現していただきたいと思います。
お金の不安は一朝一夜で解消されるものではありませんが、正しい知識と適切な行動により、確実に軽減できます。この記事が、あなたの年金制度への理解を深め、より良い人生設計のお役に立てれば幸いです。
【参考資料・データ出典】
- 厚生労働省「令和5年度の年金額改定について」
- 厚生労働省「令和元年財政検証結果」
- 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)「2022年度業務概況書」
- 総務省「令和4年簡易生命表」
- 内閣府「令和5年版高齢社会白書」
※本記事の内容は2023年12月時点の制度に基づいています。年金制度は法改正により変更される場合がありますので、最新の情報は日本年金機構や厚生労働省の公式サイトでご確認ください。