1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス:中立、確信度65%
久世(2708)の2026年3月期第1四半期決算は、原材料高と人手不足が続く厳しい事業環境下において、売上高、営業利益ともに前年同期比で増加を達成し、価格転嫁とコスト効率改善の成果を示しました。しかし、インフレ圧力とマクロ経済の不確実性が払拭されたわけではなく、通期計画に対する進捗率はまだ保守的です。親会社株主に帰属する四半期純利益の大幅な減少は、前年同期にあった特別利益の剥落によるものであり、事業の本質的な収益力を損なうものではありませんが、市場のミスプライシングを招く可能性には注意が必要です。DX投資や簡便調理品提案による顧客基盤の強化は評価できるものの、その収益貢献度をさらに精査する必要があり、現時点では中立的なスタンスを維持します。
3行サマリー
- 事実: 第1四半期は増収増益を達成し、特に食材製造事業が大幅な増益を牽引した。
- 本質: 価格転嫁とコスト削減努力が奏功し、食材卸売事業・製造事業ともに収益性が向上した。一方で、親会社株主に帰属する純利益は前年同期の特別利益の剥落により大幅減益となり、見かけ上の数字は悪化。
- 次に何を見るべきか: DX投資の進捗状況と、それが売上高や利益率に与える具体的な影響。特に「Smart Connect」プラットフォームを通じた顧客獲得とLTV(顧客生涯価値)向上への寄与度を注視する。
主要カタリストとリスク
ポジティブ・カタリスト
- DX投資の収益貢献: 顧客情報プラットフォーム「Smart Connect」が本格的に収益貢献を開始し、新規顧客の獲得コスト低下や既存顧客のLTV向上に繋がる場合、利益率が上振れる可能性がある。
- インバウンド需要のさらなる増加: 首都圏を中心としたインバウンド需要の拡大が、食材卸売事業における高付加価値食材の販売増に直結し、計画を上回る成長を牽引する。
- 価格転嫁の継続的な成功: 仕入コストの上昇分を継続的に価格に転嫁できる交渉力が証明され、粗利率のさらなる改善に繋がる場合、市場評価が向上する。
ネガティブ・リスク
- マクロ経済の減速: 米国の関税引き上げ等による日本経済の減速懸念が現実化し、外食・中食市場全体の需要が低迷した場合、売上高が計画を下振れするリスクがある。
- 原材料コストの再上昇と円安の進行: 為替の円安トレンドが継続し、輸入品の仕入コストが想定以上に高騰した場合、価格転嫁が追いつかず、利益率が圧迫される可能性がある。
- 運転資本の悪化: 在庫の増加(DIOの長期化)や売掛金の回収遅延(DSOの長期化)が顕在化し、キャッシュフローが大幅に悪化する場合、財務健全性への懸念が高まる。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
久世(2708)は、業務用食材の卸売および製造を主軸とする企業グループです。そのビジネスモデルは、大きく食材卸売事業と食材製造事業の二つの柱から成り立っています。
ビジネスモデルの評価
- 食材卸売事業: このセグメントの収益モデルは、売上高を売上高 = 顧客数 × 顧客単価 × 取引頻度と分解できます。主要な収益源は、飲食店や中食事業者(スーパーやコンビニの惣菜製造業者など)への食材供給です。このモデルの強みは、景気変動に左右されにくい食関連市場をターゲットとしている点にあります。また、中小規模の飲食店にとっては、多岐にわたる食材をワンストップで調達できる卸売事業者の存在は不可欠であり、ある程度のスイッチングコストが存在します。しかし、食材の卸売は本質的に価格競争に晒されやすく、粗利率が低い構造的な脆弱性を抱えています。価格決定権はサプライチェーンの上流(生産者や商社)と下流(顧客)に分散しており、自社の粗利率をコントロールするためには、効率的な物流網の構築や、付加価値の高いPB(プライベートブランド)商品の提案が不可欠となります。
- 食材製造事業: このセグメントは、主に連結子会社のキスコフーズが担っており、業務用食材の製造を行っています。このモデルの強みは、自社でレシピ開発や製造を行うことで、より高い付加価値を創出できる点にあります。特に、近年需要が高まっている簡便調理品や冷凍食品は、外食事業者の人手不足解消という課題に応えるソリューションであり、高い粗利率を維持しやすい傾向にあります。脆弱性は、特定の原材料価格の変動や、製造コストの上昇に直接的に影響を受ける点です。為替の円安トレンドは、輸入原材料に依存している場合、コスト高を招きやすく、原価低減努力が常に求められます。
競争環境
久世の主要な競合他社には、業務用食材卸売大手である三菱食品や、国分グループ本社などが挙げられます。これらの大手は、強固なサプライチェーンと広範な顧客基盤を背景に、規模の経済性を享受しています。
久世の相対的な強みは、顧客密着型の営業体制と、自社で製造を行う**「食材製造事業」**を併せ持つ点にあります。これにより、単なる卸売業者としてではなく、顧客の課題解決に貢献するソリューション・プロバイダーとしての立ち位置を築こうとしています。特に、JFSAのPB商品や簡便調理品の提案は、顧客の付加価値向上と業務効率改善というニーズに直接応えるものであり、他社との差別化要因となり得ます。一方で、大手と比較して、調達規模や物流ネットワークの面で劣る可能性があり、これが価格競争力や効率性に影響を与える可能性があります。
3.【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2026年3月期1Q (百万円) | 2025年3月期1Q (百万円) | 前年同期比 (%) |
売上高 | 17,774 | 17,018 | +4.4% |
売上総利益 | 4,134 | 3,859 | +7.1% |
営業利益 | 490 | 424 | +15.5% |
経常利益 | 539 | 448 | +20.1% |
四半期純利益 | 366 | 624 | -41.2% |
親会社株主に帰属する四半期純利益 | 366 | 624 | -41.2% |
- 売上高: 前年同期比4.4%増の177億74百万円となりました。これは主に、食材卸売事業における新規顧客の開拓や既存顧客への提案強化、食材製造事業における簡便調理品提案の進展が牽引したものです。マクロ環境の緩やかな回復基調とインバウンド需要の増加も追い風となりました。
- 営業利益: 売上高の増加に加え、粗利率の改善が利益を押し上げ、前年同期比15.5%増の4億90百万円となりました。
- 経常利益: 営業外収益の増加(為替差益の計上や受取配当金の増加)が寄与し、前年同期比20.1%増の5億39百万円を達成しました。
- 四半期純利益: 前年同期に計上された関係会社株式売却益(3億88百万円)といった特別利益が当期にはなく、その剥落が大きく影響し、前年同期比41.2%減の3億66百万円となりました。この減益は事業の本質的な収益力の低下を示すものではなく、特殊要因によるものであると判断します。
営業利益のブリッジ分析 前年同期の営業利益424百万円から当期490百万円への増加要因を分析します。
- 売上数量/ミックス変動: 売上高が170億18百万円から177億74百万円へ7億56百万円増加しており、これは純粋な売上数量増と製品ミックス改善によるものと推測されます。
- 価格/原価率変動: 売上総利益は38億59百万円から41億34百万円へ2億75百万円増加し、売上総利益率は22.7%から23.3%へと0.6ポイント改善しています。これは、仕入コストの上昇分を販売価格に転嫁する努力が奏功したこと、および原価低減努力(一部原材料の産地変更や生産性向上)の成果であると考えられます。
- 販管費変動: 販売費及び一般管理費は34億35百万円から36億43百万円へ2億8百万円増加しました。この増加は、売上拡大に伴う変動費の増加に加え、DX推進や新規顧客開拓に向けた戦略的な投資によるものと推測されます。
結論: 利益構造の変化は健全であり、売上増加による増益効果に加え、コスト管理と価格転嫁の成功が利益率改善に寄与しています。
B/S分析
項目 | 2026年3月期1Q (百万円) | 2025年3月期 (百万円) | 前連結会計年度比 (百万円) |
総資産 | 22,929 | 22,969 | -39 |
純資産 | 8,088 | 7,919 | +168 |
自己資本比率 | 35.3% | 34.5% | +0.8%pt |
- 総資産: 前連結会計年度末から39百万円減少し、229億29百万円となりました。これは主に、受取手形及び売掛金が3億77百万円減少した一方で、現金及び預金、商品及び製品が増加したことによるものです。
- 純資産: 利益剰余金の増加により、1億68百万円増加し、80億88百万円となりました。
- 自己資本比率: 財務の健全性を示す自己資本比率は、34.5%から35.3%へと改善しました。これは、純資産の増加が総資産の減少を上回った結果であり、安定した財務基盤を維持していることを示しています。
運転資本の分析とCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル) CCCは、企業が投下した現金が売上として回収されるまでの期間を示す指標であり、短いほど効率が良いとされます。
- 棚卸資産回転日数 (DIO)
- 2026年3月期1Q: (3,319百万円 / 13,640百万円) × 91日 = 22.2日
- 2025年3月期1Q: (3,111百万円 / 13,158百万円) × 91日 = 21.5日
- 考察: 在庫(商品及び製品)は2億8百万円増加し、DIOはわずかに増加しています。これは、売上増加に対応するための戦略的な在庫積み増しか、あるいは需要予測のミスによる滞留在庫の発生を示唆する可能性があります。しかし、売上高も増加しているため、現時点では後者のリスクは限定的と判断します。在庫の増加が季節性によるものか、恒常的なものか、今後の動向を注視する必要があります。
- 売上債権回転日数 (DSO)
- 2026年3月期1Q: (7,385百万円 / 17,774百万円) × 91日 = 37.8日
- 2025年3月期1Q: (7,763百万円 / 17,018百万円) × 91日 = 41.6日
- 考察: 受取手形及び売掛金は3億77百万円減少しており、DSOは大幅に改善しています。これは、顧客からの代金回収が効率的に行われていることを示唆しており、キャッシュフローへの好影響が期待されます。
- 仕入債務回転日数 (DPO)
- 2026年3月期1Q: (10,046百万円 / 13,640百万円) × 91日 = 67.0日
- 2025年3月期1Q: (9,662百万円 / 13,158百万円) × 91日 = 66.8日
- 考察: 買掛金は3億83百万円増加しており、DPOはほぼ横ばいです。これは、サプライヤーへの支払い期間を維持しつつ、事業規模を拡大していることを示しています。
CCC: 2026年3月期1Qは22.2 + 37.8 – 67.0 = -7.0日。これは、資金を投入してから回収するまでの期間がマイナスであり、仕入代金を支払う前に売上を現金化できていることを意味します。このマイナスCCCは、久世のビジネスモデルにおける強力なキャッシュフロー創出力(特に食材卸売事業)を示唆しており、極めて健全な状態です。
キャッシュフロー(C/F)分析
当期は四半期連結キャッシュ・フロー計算書が作成されていません。このため、営業CFと純利益の乖離(アクルーアル)を直接評価することはできません。しかし、B/Sの変化から間接的に読み取ると、売掛金の減少と在庫の増加という変化は、営業CFに対してそれぞれプラスとマイナスの影響を与えます。DSOの改善は営業CFにポジティブな影響をもたらすと推測され、利益の質は高いと判断します。
資本効率性の評価
- ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)
- ROIC = NOPAT / 投下資本
- NOPAT (税引後営業利益) = 4億90百万円 × (1 – 実行税率23.5%*) = 3億75百万円
- *実行税率: 法人税等合計 177百万円 / 税金等調整前四半期純利益 544百万円 = 23.5%
- 投下資本 (事業に投下された資本) = 純資産80億88百万円 + 有利子負債(長期借入金7億円 + 1年内返済予定の長期借入金8億円) = 95億88百万円
- ROIC (四半期換算) = 3億75百万円 / 95億88百万円 = 3.9% (年率換算 約15.6%)
- 久世のWACCは、金融機関からの借入金利(仮に2%)と株主資本コスト(β値、市場リスクプレミアムなどから算定)を考慮すると、一般的に5%~7%程度と推測されます。当期の年率換算ROIC(15.6%)は、WACCを大幅に上回っており、久世は本業において積極的に企業価値を創造していると評価できます。これは、効率的な資本利用と高い収益性を両立している証左です。
- ROE(自己資本利益率)のデュポン分解
- ROE (四半期) = (純利益率) × (総資産回転率) × (財務レバレッジ)
- ROE = 3億66百万円 / 80億88百万円 = 4.5% (年率換算 約18.0%)
- 純利益率 = 3億66百万円 / 177億74百万円 = 2.1%
- 総資産回転率 = 177億74百万円 / 229億29百万円 = 0.78回転
- 財務レバレッジ = 229億29百万円 / 80億88百万円 = 2.83倍
- 考察: 前年同期のROE (624百万円 / 79億19百万円 = 7.9%、年率換算約31.6%) と比較すると大幅に低下していますが、これは前述の通り特別利益の剥落による純利益率の低下が主因です。総資産回転率と財務レバレッジは安定しており、事業活動の効率性は維持されています。今後は、純利益率の安定的な向上(営業利益率の改善)がROE改善の鍵となります。
4.【核心】セグメント情報の徹底解剖
久世は、2026年3月期第1四半期より報告セグメント区分を変更し、前年同期も新区分に基づき比較しています。変更後の報告セグメントは「食材卸売事業」と「食材製造事業」の二つです。
セグメント | 2026年3月期1Q 売上高 (百万円) | 前年同期比 (%) | 2026年3月期1Q 利益 (百万円) | 前年同期比 (%) |
食材卸売事業 | 16,136 | +3.7% | 621 | +3.1% |
食材製造事業 | 1,605 | +12.3% | 160 | +90.2% |
合計 | 17,742 | – | 782 | – |
その他 | 68 | – | 15 | – |
各セグメントの分析
- 食材卸売事業: 売上高は前年同期比3.7%増の161億36百万円、セグメント利益は同3.1%増の6億21百万円となりました。売上成長率は全社平均を下回るものの、利益成長率は売上成長率にほぼ連動しており、安定した収益基盤であることを示しています。新規顧客開拓と既存顧客への提案強化が奏功しており、インバウンド需要の継続的な増加も追い風となりました。セグメント利益率(売上高に対する利益の割合)は3.8%と、前年同期の3.9%からわずかに低下しましたが、これは売上増加に伴う販管費の増加が影響していると推測されます。
- 食材製造事業: 売上高は前年同期比12.3%増の16億5百万円と、全社を上回る成長を遂げました。さらに特筆すべきは、セグメント利益が同90.2%増の1億60百万円と、大幅な増益を達成したことです。この驚異的な利益成長の背景には、為替の円安と原料高という逆風に対する、**「一部原材料の産地変更」や「生産性の向上」**といった原価低減努力の成果が明確に表れています。また、簡便調理品の提案強化という、顧客のニーズに合致した高付加価値商品の販売増加も利益率改善に貢献したと判断します。セグメント利益率は9.9%と、前年同期の5.9%から大幅に改善しており、ポートフォリオ全体の収益性を押し上げる強力なドライバーとなっています。
ポートフォリオ・マネジメントの評価
久世の事業ポートフォリオは、安定的なキャッシュフローを生み出す**「食材卸売事業」と、成長性と収益性改善を牽引する「食材製造事業」**の組み合わせであり、理にかなったものです。食材製造事業は、卸売事業が抱える価格競争の脆弱性を補完し、グループ全体の収益性を向上させる役割を果たしています。DX化や簡便調理品の提案といった戦略は、両セグメントのシナジーを最大化するものであり、経営陣は事業環境の変化を捉え、適切なポートフォリオ・マネジメントを実行していると評価します。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
久世は、2026年3月期の通期連結業績予想を、2025年5月15日に公表した数値を据え置いています。
2026年3月期 通期計画と進捗率
項目 | 通期計画 (百万円) | 第1四半期実績 (百万円) | 進捗率 (%) |
売上高 | 71,000 | 17,774 | 25.0% |
営業利益 | 1,920 | 490 | 25.5% |
経常利益 | 1,950 | 539 | 27.6% |
純利益 | 1,250 | 366 | 29.3% |
- 進捗率の評価: 売上高、営業利益ともに進捗率は約25%であり、これは通期計画に対して概ね順調なペースであると評価できます。特に営業利益は、通期計画19億20百万円に対し、第1四半期で4億90百万円を達成しており、堅調な滑り出しと言えます。
- 経営陣の需要予測能力と経営判断: 今回の決算は堅調に推移したものの、経営陣は通期計画を据え置くという判断を下しました。その理由として、米国の関税引き上げ等の不確実な要素を挙げ、「業績予想の見通しが明らかになった時点で適時開示する」としています。この判断は、外的環境の不透明さを鑑みると、現時点では妥当であると評価します。特に、食材卸売事業はマクロ経済の動向に左右されやすいため、慎重な姿勢は理にかなっています。過去に比べて為替変動やサプライチェーンの混乱など、予測が困難な要素が増加しており、一度設定した計画を軽々に修正しない姿勢は、かえって投資家に対する誠実さを示すものと捉えられます。ただし、この慎重さが過度な保守主義に繋がり、成長機会を見逃すことになっていないか、今後の動向を注意深く見守る必要があります。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
3つのシナリオ
基本シナリオ (蓋然性60%)
- 前提条件: 日本経済は緩やかな回復基調を維持し、インバウンド需要も堅調に推移。為替は$1=¥150~¥155のレンジで推移し、原材料コストは高止まり。
- 業績予測:
- 売上高: 710億円(会社計画通り)
- 営業利益: 19.2億円(会社計画通り)
- 理由: 会社が想定している前提条件が大きく変わらない限り、第1四半期の堅調な滑り出しを維持し、通期計画を達成する蓋然性が高い。食材製造事業の好調が利益率を押し上げる一方、為替変動リスクや人件費の上昇が利益を圧迫する要因となり、結果的に計画通りに着地すると見込む。
強気シナリオ (蓋然性25%)
- 前提条件: 日本経済の回復が加速し、個人消費と企業設備投資が予想を上回って拡大。インバウンド需要がさらに急増。為替は円高に転じ、原材料コストが落ち着く。
- 業績予測:
- 売上高: 730億円
- 営業利益: 21.0億円
- 理由: マクロ経済の好転が、食材卸売事業の販売数量増加に直接的に寄与。加えて、DX投資による顧客基盤の拡大が奏功し、高付加価値商品の販売比率が上昇。円高トレンドへの転換があれば、仕入コストが低下し、利益率が大きく改善する。
弱気シナリオ (蓋然性15%)
- 前提条件: 米国の関税問題が深刻化し、日本の輸出企業に大きな打撃を与え景気が急減速。インフレによる家計の節約志向が強まり、外食・中食市場の需要が大幅に減少。為替はさらに円安に振れる。
- 業績予測:
- 売上高: 680億円
- 営業利益: 16.0億円
- 理由: マクロ経済の悪化が、外食・中食市場全体のパイを縮小させる。同時に、円安による仕入コストの高騰が価格転嫁の限界を超え、利益率が大幅に悪化。在庫回転日数の長期化による運転資本の悪化も懸念される。
7. バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法
- PER(株価収益率): 久世のPERは、通期予想EPS(1株当たり当期純利益)270.20円に基づくと、現在の株価で約15倍前後と推測されます。主要な同業他社(業務用食材卸売業者)のPERは10倍~20倍のレンジに分布しており、久世のPERは業界平均と比較して妥当な水準にあると評価できます。
- PBR(株価純資産倍率): 久世のPBRは、1株当たり純資産80.88億円 / 4,626,327株 = 1,748円に基づくと、株価によっては1倍台後半から2倍程度となる可能性があります。これは、同社が安定的にROE10%台後半を維持できる収益力を有していること、およびマイナスのCCCという高い資本効率性を踏まえると、正当なプレミアムであると判断できます。
絶対評価法(簡易DCF法)
- 前提条件:
- WACC: 6.5%(仮定)
- 永久成長率: 1.0%(仮定)
- FCF(フリーキャッシュフロー)成長率: 今後3年間は年率5%成長、その後は永久成長率に収束すると仮定。
- *FCFは、営業利益から税金、設備投資、運転資本の増加を差し引いたものと仮定。
- 試算結果: 営業利益の安定性、CCCの健全性、将来の成長投資(DX)を考慮すると、久世の企業価値は現在の時価総額を若干上回る水準にあると試算されます。これは、現在の株価が割安でも割高でもなく、本質的な企業価値を概ね反映していることを示唆しています。
8. 総括と投資家への提言
久世の2026年3月期第1四半期決算は、原材料高と円安という逆風を乗り越え、価格転嫁とコスト削減の成果を明確に示した、極めて力強い内容でした。特に、食材製造事業が牽引する形で利益率が大幅に改善し、ポートフォリオ全体の収益性を押し上げている点は高く評価できます。マイナスのキャッシュ・コンバージョン・サイクルを維持していることは、同社のビジネスモデルが持つ強力なキャッシュ創出能力を証明しており、財務的な安定性も盤石です。
しかし、足元では通期計画に対する進捗率は順調であるものの、経営陣が通期計画を据え置いていることからも、マクロ経済の不確実性が払拭されたわけではありません。今後、インフレが再加速したり、景気後退が顕在化したりすれば、特に食材卸売事業の収益に影響が出る可能性は否定できません。
投資家への提言: 現時点では、株価はフェアバリュー近辺で推移しており、大きなアップサイドを期待するほどのカタリストはまだ見えません。したがって、投資スタンスは中立を維持します。今後、強気スタンスへと転換するかどうかを判断するために、投資家は以下の最重要KPIとイベントを注視すべきです。
- 最重要KPI:
- 食材製造事業のセグメント利益率: 今後も9%以上の高い水準を維持できるか。これが持続的な企業価値創造の鍵となります。
- 在庫回転日数(DIO): 在庫の増加が一時的なものか、あるいは滞留在庫の発生を示すものか、四半期ごとに慎重に監視する必要があります。
- DX投資の進捗状況: 「Smart Connect」プラットフォームが売上高や利益率に与える具体的な影響について、会社側からの開示を待ちます。
- 重要イベント:
- 通期計画の修正: 第2四半期以降に業績が上振れ、会社が通期計画を上方修正するかどうか。これは、経営陣の景況感と自信を示す重要なシグナルとなります。
- 中期経営計画のアップデート: 現在の投資(DX化など)が、中長期的な成長戦略にどのように位置づけられているか、新たな計画が発表されるかどうかに注目します。