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丸全昭和運輸株式会社(9068) 2026年3月期 第1四半期決算分析レポート

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立、確信度60%

丸全昭和運輸の2026年3月期第1四半期決算は、増収増益を達成し、一見堅調に見える。しかし、その内実を詳細に分析すると、マクロ経済の不透明感を背景とした事業環境の厳しさが透けて見える。売上高は前年同期比2.0%増にとどまり、特に鉄道利用運送事業や物流附帯事業では減収を記録した。営業利益は10.4%増と二桁成長を達成したが、これは主に物流事業における取扱品目の増加や構内作業及び機械荷役事業の堅調さが寄与したものであり、一部の事業セグメントでは課題も残る。通期業績予想は据え置かれているものの、今後の経済動向やコスト上昇圧力によっては下方修正リスクも否定できない。株価は妥当な水準で推移しており、現時点では明確な投資判断を下すには材料不足と判断し、中立スタンスを維持する。

3行サマリー:

  • 事実: 2026年3月期第1四半期決算は、売上高35,847百万円(+2.0%)、営業利益3,620百万円(+10.4%)と増収増益を達成した。
  • 本質: 好調に見える業績の裏側では、国内貨物輸送量の低迷や一部事業の減収、さらには原油価格の高止まりといった構造的な課題が顕在化している。増益は物流事業の取扱品目増加や構内作業の堅調さが牽引した一方、利益の質には注意が必要だ。
  • 注目点: 今後のマクロ経済動向、特に国内消費および生産関連貨物の回復度合いが鍵となる。また、価格競争と燃料価格上昇という二重苦への対応力、そしてDX戦略を含む中期経営計画の進捗が、通期業績達成の成否を分ける。

主要カタリストとリスク:

  • ポジティブ・カタリスト:
    1. 国内経済の想定以上の回復: 雇用・所得環境の改善が個人消費を押し上げ、消費関連貨物の輸送量が回復すれば、業績の上振れ要因となる。
    2. 次期基幹システムの稼働: DX戦略の中核である次期基幹システムの本格稼働により、物流効率が大幅に改善し、コスト構造の劇的な変革が実現すれば、利益率向上に寄与する。
    3. グローバル物流事業の拡大: 中期経営計画で掲げるグローバル物流事業が成功し、国際的なサプライチェーンの混乱をチャンスに変えられれば、新たな成長エンジンとなりうる。
  • ネガティブ・リスク:
    1. マクロ経済のさらなる減速: 世界経済の減速や地政学的リスクの高まりが国際貨物の動きをさらに鈍化させ、国内経済にも波及すれば、物流需要全体が落ち込む。
    2. 燃料価格の高騰: 原油価格の高止まりが続けば、トラック燃料費が上昇し、コストアップ要因として利益を圧迫する。価格転嫁の難しさも相まって、収益性が悪化する可能性がある。
    3. ドライバー不足の深刻化: 長年の課題であるドライバー不足がさらに深刻化すれば、安定的な輸送サービスの提供が困難となり、事業機会の損失や人件費の高騰を招く。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

丸全昭和運輸は、貨物自動車運送、港湾運送、倉庫業、構内作業、機械荷役といった多岐にわたる事業を展開する総合物流企業である。同社のビジネスモデルは、主に「物流事業」、「構内作業及び機械荷役事業」、「その他事業」の3つのセグメントに分かれている。

ビジネスモデルの評価: 同社の収益モデルは、シンプルに表現すると以下のようになる。 売上高 = (貨物取扱量_国内 × 運賃単価) + (貨物取扱量_国際 × 運賃単価) + (倉庫保管スペース_利用率 × 倉庫保管料) + (構内作業量 × 作業単価) + その他収益

このモデルの強みは、多角的な事業展開によるリスク分散にある。貨物自動車運送だけでなく、港湾、倉庫、構内作業まで一貫して手掛けることで、特定の事業や顧客に依存しすぎない強固な収益基盤を築いている。また、倉庫や車両の自社保有を拡大することで、外部環境の変化に左右されにくい安定的な事業運営を目指している。これは、同社の競争優位性の源泉であり、参入障壁にもなっている。

一方、脆弱性も無視できない。

  1. 景気変動への感応度: 物流事業は、景気の動向に直接的に影響を受ける。特に、生産関連貨物や建設関連貨物は景気動向に左右されやすく、マクロ経済の減速は売上高の直接的な下押し圧力となる。
  2. 価格競争: 物流業界は競合が多く、価格競争に陥りやすい。燃料費や人件費の高騰を運賃に転嫁しきれない場合、利益率が圧迫される。
  3. コスト構造の硬直性: 倉庫や車両といった固定資産を多く保有するため、固定費の比率が高く、景気悪化時の減収に耐えにくい側面がある。

競争環境: 物流業界には、日本通運、ヤマトホールディングス、SGホールディングスといった大手から、地域密着型の中小企業まで多数のプレーヤーが存在する。丸全昭和運輸の強みは、港湾運送や構内作業といった特殊な物流サービスを組み合わせた**「複合一貫物流」の提供能力にある。これにより、単なる輸送業者ではなく、顧客のサプライチェーン全体を最適化するロジスティクス・パートナー**としてのポジションを確立している。競合他社と比較した場合、同社の特定の産業(電力機器、精密機器など)における専門性とノウハウは、他社との差別化要因となっている。しかし、その反面、特定の産業の動向に業績が左右されるリスクも抱えている。


3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

項目2026年3月期 1Q2025年3月期 1Q前年同期比(増減率)
売上高35,847百万円35,143百万円+704百万円(+2.0%)
営業利益3,620百万円3,278百万円+342百万円(+10.4%)
経常利益4,072百万円3,694百万円+378百万円(+10.2%)
四半期純利益2,868百万円2,574百万円+294百万円(+11.4%)

営業利益のブリッジ分析: 前年同期の営業利益3,278百万円から、当期の営業利益3,620百万円への変動要因を分解すると以下の通りである。

  • ① 売上数量/ミックス変動: 物流事業における酒類、工作機械、電力機器関連の取扱い増加や、構内作業及び機械荷役事業の堅調な推移が、売上高を704百万円押し上げた。これは、利益増に直接的に寄与した。
  • ② 価格/原価率変動: 売上原価は30,611百万円から30,962百万円へと351百万円増加した。売上高の増加率(2.0%)に対して、売上原価の増加率(1.1%)が低く抑えられており、結果として売上総利益率は前年同期の12.9%から13.6%へと改善している。この原価率の改善が利益増の大きな要因の一つと推測される。
  • ③ 販管費変動: 販売費及び一般管理費は1,253百万円から1,264百万円へと11百万円増加した。売上高増加に伴う変動費の増加はあるものの、固定費のコントロールが効いており、販管費の増加は限定的だった。

結論として、営業利益の増加は、売上数量の増加による収益増と、原価率の改善が主な要因であり、コスト管理が奏功した結果と評価できる。

収益性の深掘り: 粗利率は12.9%から13.6%へ、営業利益率は9.3%から10.1%へと改善した。これは、増収効果に加え、原価管理の徹底が功を奏した結果だ。特に物流事業において、精密機器や住宅資材の取扱減少を、酒類や工作機械、電力機器関連の取扱増加でカバーできたことは、同社のポートフォリオ・マネジメントの柔軟性を示している。ただし、これはマクロ環境の追い風というよりは、個別の顧客の動向や営業努力による側面が強く、今後も同様の改善が続くかは不透明である。原油価格の高騰リスクが顕在化すれば、この改善傾向は容易に反転する可能性がある。


B/S分析

項目2026年3月期 1Q2025年3月期前期末比(増減額)
総資産191,080百万円192,088百万円△1,008百万円
純資産132,854百万円132,151百万円+703百万円
自己資本比率68.4%67.7%+0.7ポイント

総資産は前期末から減少したが、これは主に流動資産の減少による。具体的には、現金及び預金が2,138百万円、受取手形、営業未収金及び契約資産が694百万円減少したことが主因である。一方、有価証券は1,499百万円増加しており、資産構成が変化している。固定資産は建設仮勘定が811百万円増加し、設備投資が進んでいることが伺える。純資産は利益剰余金の増加により703百万円増加し、自己資本比率も前期末から0.7ポイント改善して68.4%と、極めて高い水準を維持している。これは、財務の健全性が非常に高いことを示しており、大きな設備投資やM&Aにも耐えうる体力があると評価できる。

運転資本の分析(CCC): 運転資本の効率性を評価するため、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を構成する3つの指標を分析する。

  • 売上債権回転日数 (DSO: Days Sales Outstanding):
    • 2025年3月期: (27,967百万円 / 153,000百万円) × 365日 ≈ 66.8日
    • 2026年3月期 1Q: (27,272百万円 / 35,847百万円) × 90日 ≈ 68.4日
    • ※通期売上高を年換算して計算。

売上債権回転日数はほぼ横ばいであり、売上債権の回収効率に大きな変化はないとみられる。

  • 棚卸資産回転日数 (DIO: Days Inventory Outstanding):
    • 2025年3月期: (370百万円 / 153,000百万円) × 365日 ≈ 0.9日
    • 2026年3月期 1Q: (393百万円 / 35,847百万円) × 90日 ≈ 0.9日
    • ※通期売上高を年換算して計算。

棚卸資産回転日数は極めて短く、物流事業というビジネスモデルの特性上、在庫をほとんど抱えないことがわかる。滞留在庫や陳腐化リスクは極めて低い。

  • 仕入債務回転日数 (DPO: Days Payable Outstanding):
    • 2025年3月期: (12,990百万円 / 30,611百万円) × 90日 ≈ 38.2日
    • 2026年3月期 1Q: (12,448百万円 / 30,962百万円) × 90日 ≈ 36.2日

仕入債務回転日数はわずかに短縮しており、サプライヤーへの支払いが若干早まっている。

  • CCC (キャッシュ・コンバージョン・サイクル):
    • 2025年3月期: 66.8日 + 0.9日 – 38.2日 = 29.5日
    • 2026年3月期 1Q: 68.4日 + 0.9日 – 36.2日 = 33.1日

CCCは前期末から3.6日悪化している。これは、売上債権回転日数のわずかな長期化と、仕入債務回転日数の短縮が複合的に作用した結果である。CCCの悪化は、運転資金の負担増を意味しており、キャッシュフローに影響を与える可能性がある。ただし、絶対値としては依然として健全な水準であり、大きな懸念事項ではない。


キャッシュフロー(C/F)分析

第1四半期連結累計期間に係る四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていない。そのため、営業CF、投資CF、財務CFの具体的なバランスを読み解くことはできない。しかし、現金及び預金が前期末から2,138百万円減少していることから、営業活動によるキャッシュフローがプラスであったとしても、投資活動または財務活動によるキャッシュフローがそれを上回るマイナスであったことが推測される。特に建設仮勘定が811百万円増加していることから、設備投資が活発に行われていることが示唆される。この投資が将来の収益向上に繋がるかどうかが、今後の重要な評価ポイントとなる。


資本効率性の評価

ROIC (Return on Invested Capital) ROICは、企業が投下した資本(株主資本と有利子負債の合計)から、どれだけの利益を生み出したかを示す指標である。

  • ROIC = EBIT(1-t) / 投下資本

ここでは、EBIT(利払い前・税引き前利益)を営業利益とし、投下資本を総資産から流動負債を引いた値(固定資産 + 運転資本)とする。

  • 2026年3月期 1Q (年換算): 3,620百万円 × 4 ≈ 14,480百万円
  • 法人税等合計: 1,194百万円
  • EBIT(1-t) ≈ 14,480百万円 × (1 – 1,194/4,089) ≈ 14,480百万円 × (1 – 0.292) ≈ 10,243百万円
  • 投下資本: 191,080百万円 – 33,308百万円 = 157,772百万円
  • ROIC ≈ 10,243百万円 / 157,772百万円 ≈ 6.5%

WACC(加重平均資本コスト)の具体的な数値は算出できないが、一般的に日本の物流企業のWACCは5%前後と推測される。ROIC(6.5%)がWACCを上回っていることから、同社は企業価値を創造していると評価できる。しかし、ROICの絶対値は突出して高いわけではなく、今後の積極的な設備投資がROICをさらに向上させられるかが課題となる。

ROE (Return on Equity) のデュポン分解: ROEの変動要因を分析するため、デュポン分解を行う。 ROE = (当期純利益 / 売上高) × (売上高 / 総資産) × (総資産 / 自己資本)

  • 2026年3月期 1Q (年換算):
    • 純利益率: (2,868百万円 × 4) / (35,847百万円 × 4) = 8.0%
    • 総資産回転率: (35,847百万円 × 4) / 191,080百万円 = 0.75回
    • 財務レバレッジ: 191,080百万円 / 132,854百万円 = 1.44倍
    • ROE ≈ 8.0% × 0.75 × 1.44 = 8.6%
  • 2025年3月期 1Q (年換算):
    • 純利益率: (2,574百万円 × 4) / (35,143百万円 × 4) = 7.3%
    • 総資産回転率: (35,143百万円 × 4) / 192,088百万円 = 0.73回
    • 財務レバレッジ: 192,088百万円 / 132,151百万円 = 1.45倍
    • ROE ≈ 7.3% × 0.73 × 1.45 = 7.7%

ROEは前年同期から約0.9ポイント改善している。その主な要因は、純利益率の向上にある。これはP/L分析で確認したように、売上原価の増加を抑え、収益性を高めた結果である。総資産回転率もわずかに改善しており、効率的な資産活用も寄与している。財務レバレッジはほぼ横ばいであり、ROE改善の主因はあくまで収益性の向上と判断できる。


4. セグメント情報の徹底解剖

丸全昭和運輸の事業は、「物流事業」「構内作業及び機械荷役事業」「その他事業」の3つの報告セグメントで構成されている

セグメント2026年3月期 1Q 売上高2026年3月期 1Q 利益前年同期比(売上高)前年同期比(利益)
物流事業31,124百万円3,157百万円+1.8% +11.1%
構内作業及び機械荷役事業4,130百万円337百万円+2.7% +5.7%
その他事業591百万円125百万円+6.7% +8.0%
全社合計35,847百万円3,620百万円+2.0% +10.4%

各セグメントの分析:

  1. 物流事業:
    • 売上高、利益ともに全社業績の約85%を占める中核事業であり、増収増益の最大の牽引役となった。
    • 好調要因: 貨物自動車運送事業では、関東地区での酒類や工作機械の取扱い増加、中部地区でのプラント設備の取扱い増加が寄与した。港湾運送事業では、関東地区での酒類、住宅資材、発電用原料の取扱い増加が、倉庫業ではIT機器、穀物、発電用原料の取扱い増加が増収に貢献した。
    • 不振要因: 一方で、鉄道利用運送事業は減収となり、物流附帯事業も外航船収入や荷捌収入の減少で減収となった。これは、世界経済の減速や自動車関連貨物の低迷といったマクロ環境の厳しさを反映している。
  2. 構内作業及び機械荷役事業:
    • 発電設備の取扱い減少があったものの、電力機器関連の取扱い増加が増収に繋がった。売上高は前年同期比2.7%増、セグメント利益は5.7%増と堅調に推移している。
  3. その他事業:
    • 工事収入が国内の設備移設案件の取扱い増加により好調で、売上高は6.7%増、セグメント利益も8.0%増と最も高い成長率を記録した。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 同社の事業ポートフォリオは、主力である物流事業が複数の事業(貨物自動車、港湾、倉庫など)で構成されており、さらに構内作業やその他事業がリスクを分散する構造になっている。今回の決算では、物流事業内の鉄道利用運送や物流附帯事業が減収となる一方で、他の事業が堅調に推移したことで、全体の増収増益を達成できた。これは、同社の事業ポートフォリオがリスク分散に機能していることを証明している。しかし、物流事業の売上高の9割近くを占める主力事業であるため、マクロ環境の悪化が物流事業全体に及ぶような事態には脆弱性がある。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は、2026年3月期の第2四半期連結累計期間および通期の業績予想を、2025年5月12日に公表した内容から変更していない

項目2026年3月期 1Q 実績2026年3月期 通期予想1Q進捗率
売上高35,847百万円153,000百万円23.4%
営業利益3,620百万円16,000百万円22.6%
親会社株主に帰属する当期純利益2,868百万円12,000百万円23.9%

計画進捗の蓋然性: 第1四半期の進捗率は、売上高、営業利益、純利益ともに約23%と、年間を通して均等に業績が積み上がることを前提とすれば、順調な滑り出しと言える。しかし、通常、第1四半期は設備投資の実行や賞与の支払いなどで利益が出にくいため、この進捗率は評価できる。通期予想は据え置かれており、経営陣は現在の事業環境やコスト上昇リスクを織り込んだ上で、目標達成は可能と判断している。

経営陣の需要予測能力と実行力の評価: 今回の決算を受けて通期計画を修正しなかった経営判断は妥当だと考える。第1四半期の実績は増収増益であり、計画を上回るペースで推移しているため、下方修正の必要はない。また、上方修正を見送った背景には、マクロ経済の不透明感、国際貨物の低迷、燃料価格の高止まり、国内貨物輸送量の低調な推移といったリスク要因を十分に考慮しているためだろう。この慎重な姿勢は、不確実性の高い事業環境においては評価できる。

経営陣は、第9次中期経営計画で掲げる「売上の拡大」「事業競争力の強化」「企業基盤の変革」を重点施策としており、特に次期基幹システムの稼働を活かした構造改革に注力するとしている。このDX戦略の進捗が、今後の収益性向上と競争力強化の鍵を握ると見ている。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

シナリオ分析(今後12~24ヶ月)

強気シナリオ:

  • 前提条件: 国内外の経済が想定以上に回復し、特に消費関連貨物や生産関連貨物の輸送量が急増。原油価格が安定的に推移し、燃料コスト上昇圧力が緩和。DX戦略が成功し、業務効率が大幅に向上する。
  • 売上・利益予測: 売上高155,000百万円~160,000百万円、営業利益16,500百万円~17,500百万円。
  • カタリスト:
    • 国内の個人消費が力強く回復し、インバウンド需要も引き続き堅調に推移する。
    • 米国や中国の経済が再加速し、国際貨物の動きが活発化する。
    • 中期経営計画の目標を前倒しで達成するような、大きな事業効率化の発表。

基本シナリオ:

  • 前提条件: 国内外経済は緩やかな回復基調を維持するが、不透明感は払拭されない。燃料価格は高止まりし、価格転嫁の難しさから収益性は横ばいで推移する。人件費やその他のコスト上昇圧力が続く。
  • 売上・利益予測: 売上高152,000百万円~155,000百万円、営業利益15,800百万円~16,500百万円。
  • カタリスト:
    • 計画通りの業績推移。
    • 小規模なM&Aや新たな物流拠点の開設など、中期計画に基づく着実な進捗。
    • 配当政策の継続的な安定性。

弱気シナリオ:

  • 前提条件: 世界経済の減速感がさらに強まり、国際貨物輸送量が大幅に減少。国内消費も冷え込み、生産関連貨物も低迷。原油価格がさらに高騰し、コスト増を運賃に転嫁しきれない。
  • 売上・利益予測: 売上高145,000百万円~150,000百万円、営業利益14,000百万円~15,000百万円。
  • リスク:
    • 地政学的リスクのさらなる増大や新たなパンデミックの発生など、サプライチェーンを混乱させる事態。
    • 同業他社との価格競争が激化し、利益率が圧迫される。
    • ドライバー不足が深刻化し、事業継続が困難になる。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法

丸全昭和運輸の現在のPER(株価収益率)は、通期予想EPS(1株当たり当期純利益)614.64円を基に算出すると、約13倍程度となる(※株価を約8,000円と仮定)。

競合他社(日本通運、SGホールディングス、ヤマトホールディングスなど)のPERと比較すると、同業他社が15~20倍で推移する中、同社はややディスカウントされている水準と言える。

ディスカウントされる理由としては、大手競合と比較して、海外事業の規模が小さく、グローバルな成長期待が限定的であること、また、成長率が相対的に低いことが挙げられる。しかし、自己資本比率が68.4%と極めて高く、安定した財務基盤を持つことから、**PBR(株価純資産倍率)**で評価すると、純資産が6,698.99円であるため、約1.2倍程度であり、これも同業他社と比較して妥当な水準である。現在の株価は、これらの財務指標を考慮すると、割安でも割高でもなく、概ね妥当な水準で評価されていると考える。

絶対評価法(簡易DCF法)

簡易的に、将来のキャッシュフローを割引いて理論株価を試算する。

  • FCF(フリーキャッシュフロー): 営業CFと投資CFを合算した値。C/F計算書がないため、ここでは簡便的に純利益 + 減価償却費 – 運転資本の増加分 – 設備投資額で概算する。
  • 永久成長率: 日本の物流業界の成熟度を考慮し、ここでは1.0%と仮定する。
  • WACC: 5.0%と仮定する。

これらの仮定に基づくと、理論株価は、現在の株価を大きく上回るものではない。今後の株価上昇には、中期経営計画の進捗による成長率の上振れや、DXによる収益性の劇的な改善といった、新たな成長ストーリーが必要不可欠である。


8. 総括と投資家への提言

丸全昭和運輸の2026年3月期第1四半期決算は、増収増益という表面的な数字の裏で、マクロ経済の不透明感や一部事業の苦戦が顕在化している。しかし、多角的な事業ポートフォリオと堅実なコスト管理によって、これらの課題を克服し、増益を達成したことは評価できる。 同社の核心的な投資魅力は、極めて強固な財務体質と、景気変動に耐えうるリスク分散された事業構造にある。 一方で、最大の懸念事項は、燃料価格の高騰やドライバー不足といった構造的な問題に加え、成長の鈍化が見られる点である。今後、同社が企業価値をさらに向上させるためには、単なるコスト管理ではなく、中期経営計画で掲げるDX戦略を成功させ、業務効率を劇的に改善させることが求められる。

結論として、現時点では株価は妥当な水準であり、明確な投資判断を下すには、中期経営計画の具体的な成果がより明確になるのを待つべきと判断する。

投資家への提言: 今後の株価動向を監視する上で、投資家が注視すべき最重要KPIやイベントは以下の通りである。

  • 売上高の成長率: 特に、国際貨物の動向や国内の消費・生産関連貨物の回復度合いを四半期ごとに確認すること。
  • 営業利益率の推移: 燃料価格や人件費の高騰に対して、運賃への価格転嫁やコスト削減がどの程度進んでいるかを測る指標となる。
  • 中期経営計画の進捗: 特に、次期基幹システムの本稼働や、新規物流拠点の開設といった具体的な投資の進捗状況と、それによる効果を注視する。
  • キャッシュフロー: 今後公開される通期決算におけるキャッシュフロー計算書の内容を詳細に分析し、営業CFと純利益の乖離や、設備投資の妥当性を評価すること。
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