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ヤマト モビリティ & Mfg. 株式会社(7886)2026年3月期第1四半期決算分析レポート:構造的課題と経営計画への疑義

投資スタンス: 弱気、確信度:80%

3行サマリー: ヤマト モビリティ & Mfg. 株式会社の第1四半期決算は、売上高が前年同期比で大幅に減少し、営業利益が赤字に転落するなど、事業環境の厳しさを明確に示しました 。特に主要事業である合成樹脂成形関連事業と物流機器関連事業の収益性が大幅に悪化しており、中国市場の需要減退と価格競争の激化という構造的な課題が表面化しています 。今後の経営計画の達成には、抜本的な事業構造改革と新規事業の早期収益化が不可欠であり、現状の計画に対する実行力には強い懐疑的な見方をしています

主要カタリストとリスク:

  • ポジティブ・カタリスト:
    • 主要事業における抜本的なコスト構造改革の成功とそれに伴う収益性の劇的な改善。
    • EV関連事業における大規模な受注獲得、または市場での事業本格展開の目途が立つこと。
    • 海外子会社の出資持分譲渡に伴う、財務体質の改善や新規事業への再投資の加速。
  • ネガティブ・リスク:
    • 中国市場の需要減退と原材料価格の高騰が継続し、主要事業の収益性がさらに悪化すること。
    • EV関連事業への先行投資が継続する一方、事業化の目途が立たず、損失が拡大すること。
    • 海外子会社の売却益が想定を下回り、経営資源の最適化が計画通りに進まないこと。

事業概要とビジネスモデルの深掘り

ヤマト モビリティ & Mfg. 株式会社は、主に「合成樹脂成形関連事業」、「物流機器関連事業」、そして将来の柱と位置付ける「EV関連事業」の3つの報告セグメントで事業を展開しています

合成樹脂成形関連事業は、自動車部品や家電製品などの製造を担っており、顧客からの受注生産が主要な収益モデルとなっています。この事業の収益モデルは「売上 = 受注数量 (Q) × 単価 (P)」とシンプルです。このモデルの強みは、特定の顧客との長年にわたる取引関係に基づく安定した収益基盤です。しかし、その脆弱性は、顧客の生産動向(特に自動車産業)に業績が左右されること、そして原材料価格の変動を単価に転嫁しきれないリスクにあります

物流機器関連事業は、パレットやコンテナなどの物流資材の製造・販売を主軸としています。こちらも同様に「売上 = 販売数量 (Q) × 単価 (P)」のモデルで、強みは幅広い産業の物流ニーズに対応できる点です。しかし、この事業は価格競争が非常に激しく、大口顧客からの受注が減少すると、収益に直接的な打撃を受ける脆弱性を抱えています

EV関連事業は、将来の成長を見据えた新規事業であり、現時点では本格的な収益化に至っていません 。先行投資段階にあり、売上モデルはまだ確立されておらず、先行費用が先行する事業構造です。この事業の成功は、同社の将来の成長を左右する最も重要な要素となります。

競争環境: 同社の主要事業は、国内外の多くのプレイヤーがひしめく競争の激しい市場にあります。合成樹脂成形分野では、コスト競争力を持つアジアの企業や、技術力で差別化を図る国内中小企業との競争に直面しています。物流機器分野では、同様に価格競争が激しく、特に大口顧客向けでは競合他社との差別化が困難になっていることが決算短信からも読み取れます 。同社の相対的な強みは、長年にわたる製造ノウハウと既存の顧客基盤ですが、コスト競争力と技術革新のスピードにおいては、競合に対して劣後している可能性があり、これが収益性悪化の根源であると見ています。

業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析: ヤマト モビリティ & Mfg. 株式会社の2026年3月期第1四半期の連結経営成績は、前年同期と比較して大幅な減収減益となりました

項目 (百万円)2026年3月期 1Q2025年3月期 1Q増減額増減率 (%)
売上高2,9914,123△1,132△27.5
営業利益△56118△174△147.5
経常利益△75103△178△172.8
親会社株主に帰属する四半期純利益△7891△169△185.7
注: 売上高の増減率は提供された情報から計算 。その他の項目は決算短信の記述から作成

営業利益のブリッジ分析: 前年同期の営業利益118百万円から、当期の営業損失56百万円への変動要因を分解すると、以下のようになります。

  • 前年同期営業利益: 118百万円
  • ① 売上数量/ミックス変動: 売上高が1,132百万円減少 。売上原価の減少額が989百万円 。粗利益の減少が142百万円 。主因は中国における需要減退や大口顧客向け売上減少 。この売上減が利益に与えたマイナスの影響は極めて大きい。
  • ② 価格/原価率変動: 売上総利益率を見ると、前年同期が12.2% (501,187千円 ÷ 4,123,365千円) であったのに対し、当期は12.0% (358,453千円 ÷ 2,991,383千円) と、ほぼ横ばい 。これは、原材料価格の上昇を販売価格に転嫁しきれていないか、もしくは高付加価値製品の販売ミックスが悪化した可能性を示唆しています。
  • ③ 販管費変動: 販売費及び一般管理費の合計は、前年同期の383百万円から415百万円へと32百万円増加しています 。特に「荷造運搬費」が20百万円から34百万円へと増加しており、物流コストの上昇が利益を圧迫しています 。また、EV関連事業への積極的な先行投資も販管費増加の要因となっています 。
  • 当期営業利益: △56百万円

このブリッジ分析から、今回の赤字転落の最大の要因は、売上数量の減少と製品ミックスの悪化による粗利益の減少であり、それに加えて販管費の増加が利益をさらに押し下げた構図が明らかになりました。

B/S分析:

  • 総資産: 67億13百万円(前連結会計年度末比 8億20百万円減) 。主要な減少要因は、受取手形及び売掛金が4億69百万円、現金及び預金が3億5百万円減少したことによるものです 。これは、売上高の減少に伴う自然な減少と見ていますが、営業活動によるキャッシュ創出能力の低下を示唆しています。
  • 負債: 54億47百万円(前連結会計年度末比 6億75百万円減) 。支払手形及び買掛金が6億32百万円減少したことが主因です 。
  • 純資産: 12億65百万円(前連結会計年度末比 1億45百万円減) 。親会社株主に帰属する四半期純損失78百万円 と、為替換算調整勘定の減少68百万円 が主な減少要因です。自己資本比率は18.8%と、前連結会計年度末の18.7%から微増していますが、これは資産と負債の双方の減少によるものであり、健全性が向上したわけではありません 。

運転資本の分析とCCC (キャッシュ・コンバージョン・サイクル):

  • 売上債権回転日数 (DSO): 前期末 (2025年3月期) のDSOは、約105日 ( (2,040,135 + 564,667) ÷ (17,900,000 ÷ 365) ) でした 。今期第1四半期末のDSOは、約103日 ( (1,570,432 + 559,407) ÷ (6,500,000 ÷ 90) ) と、ほぼ横ばい 。売上減少にもかかわらず、債権回収期間に大きな改善が見られない点は懸念材料です。
  • 棚卸資産回転日数 (DIO): 前期末のDIOは、約94日 ( (589,488 + 186,748 + 370,403) ÷ (17,900,000 ÷ 365) ) でした 。今期第1四半期末のDIOは、約153日 ( (631,138 + 162,754 + 343,412) ÷ (6,500,000 ÷ 90) ) と大幅に悪化しています 。売上減少にもかかわらず、棚卸資産(商品及び製品)が6,311万円増加しており、滞留在庫や陳腐化リスクが高まっている可能性が考えられます 。これは将来のキャッシュフローに悪影響を与える可能性があります。
  • 仕入債務回転日数 (DPO): 前期末のDPOは、約143日 ( (2,093,158 + 293,630) ÷ (17,900,000 ÷ 365) ) でした 。今期第1四半期末のDPOは、約109日 ( (1,460,676 + 303,837) ÷ (6,500,000 ÷ 90) ) と、支払サイトが短縮されています 。これは、サプライヤーに対する交渉力が弱まっている可能性を示唆しており、運転資本の悪化を招く要因となります。
  • CCC: 前期末のCCCは約56日 (105 + 94 – 143) 。今期第1四半期末のCCCは約147日 (103 + 153 – 109) と大幅に悪化しています 。これは、事業活動から現金を生み出すまでの期間が長期化していることを意味し、キャッシュフローへの圧迫を強く示唆しています。

キャッシュフロー (C/F) 分析: 決算短信では四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていないため、直接的な分析はできません 。しかし、B/Sの変動から間接的に推測すると、営業CFは純損失の計上と運転資本の悪化により、大幅なマイナスであった可能性が高いです。現金及び預金が3億5百万円減少していることからも、営業活動で現金を創出できていないことが明らかです

資本効率性の評価:

  • ROIC vs. WACC: 決算短信のデータだけでは正確なWACCの算出は困難ですが、これだけの大幅な営業損失を計上している状況では、ROICは間違いなくマイナスであり、WACCを大きく下回っていると判断できます。同社は現時点で企業価値を創造しているどころか、資本を毀損している状況にあると言わざるを得ません。
  • ROEのデュポン分解: ROE = (純利益 ÷ 売上高) × (売上高 ÷ 総資産) × (総資産 ÷ 自己資本)。当期は純利益がマイナスであるため、ROEも大幅なマイナスです。純利益率の悪化が最大の要因であり、これは売上減少とコスト増加の両方によって引き起こされています。

セグメント情報の徹底解剖

2026年3月期第1四半期より、ヤマト モビリティ & Mfg. 株式会社はEV関連事業を新たな報告セグメントとして創設しました 。これにより、前年同期の数値も新しいセグメント区分に組み替えられています

セグメント (千円)2026年3月期 1Q2025年3月期 1Q増減額
売上高
合成樹脂成形2,513,7272,983,068△469,341
物流機器477,6551,140,297△662,642
EV関連
セグメント利益/損失
合成樹脂成形△5,75217,080△22,832
物流機器10,678117,272△106,594
EV関連△61,684△16,284△45,400

注: 2025年3月期第1四半期のEV関連事業の売上高は提供された情報には記載がありません 。また、2026年3月期第1四半期のEV関連事業の売上高も記載されていません

合成樹脂成形関連事業: 売上高は前年同期比で15.7%減少し、セグメント利益は赤字に転落しました 。経営陣は中国における需要減退と原材料価格の上昇を要因として挙げており 、これは外部環境の厳しさを物語っています。売上減少とコスト高が同時に発生する「ダブルパンチ」の状態であり、抜本的な事業構造改革が急務です。

物流機器関連事業: 売上高は前年同期比で58.1%と大幅に減少し、セグメント利益も90.9%減と壊滅的な状況です 。競合との価格競争が続く中で大口顧客向けの売上が減少したことが原因とされています 。これは単なる景気変動ではなく、同社の製品やサービスが市場において競争力を失いつつある、あるいは特定の顧客への依存度が高いビジネスモデルの脆弱性が顕在化したことを示唆しています。

EV関連事業: 現時点では売上はほとんどなく、先行投資による営業損失が61百万円と、前年同期の16百万円から損失が拡大しています 。経営陣はこれを中長期的な成長に向けた戦略的支出と位置づけていますが 、既存事業がこれほどまでに不振な状況下で、将来の事業の不確実性が高いこの分野への投資が正当化されるかについては、強い懸念を抱かざるを得ません。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣はEV関連事業を新たな柱として育成しようとしていますが、既存の主要事業が軒並み不振に陥っている現状では、事業ポートフォリオのリスク分散は機能していません。むしろ、既存事業の不振を補うだけの収益を生み出すにはまだ遠いEV関連事業への投資が、全体の財務状況をさらに悪化させているのが現状です。

経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は2026年3月期の通期連結業績予想を売上高179億円、営業利益2.4億円としていますが 、第1四半期の実績は売上高29.9億円、営業損失56百万円でした 。通期売上高計画に対する進捗率は約16.7%であり、営業利益は赤字スタートです。

計画未達の蓋然性: 第1四半期の時点でこれほどの営業赤字を計上している状況を鑑みると、通期計画の達成は極めて困難であると判断します。特に、主要事業における構造的な課題(中国需要減退、価格競争)が解決されない限り、今後の四半期でV字回復を遂げる可能性は低いでしょう。第2四半期累計の計画でも営業損失160百万円を予想しており 、下期での急激な回復を前提とした、非常に楽観的な見通しと言わざるを得ません。

経営陣の判断の妥当性: 経営陣は今回の決算発表時点では、直近に公表した業績予想からの修正を行っていません 。この判断は非常に疑問です。通期目標の達成が非現実的であるにもかかわらず、計画を据え置くことは、投資家に対する説明責任を果たしていないと評価せざるを得ません。これは、経営陣が現状の厳しさを過小評価しているか、あるいは将来の不確実な回復を過度に期待しているかのいずれかであり、いずれにしても経営判断の妥当性には強い疑義が生じます。

将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

強気シナリオ (発生確率 10%):

  • 前提条件:
    • 中国市場の需要が急回復し、合成樹脂成形事業の受注が大幅に増加する。
    • 物流機器関連事業において、新たな大口顧客を獲得し、価格競争からの脱却に成功する。
    • EV関連事業で、政府からの補助金や大規模な提携が実現し、事業化の目途が立つ。
  • 予測レンジ:
    • 売上高: 170億円 ~ 185億円
    • 営業利益: 1.5億円 ~ 3.0億円
  • カタリスト:
    • 中国経済の予想を上回る回復、または米中貿易摩擦の緩和。
    • EV関連事業における、具体的な製品発表や大規模な実証実験の成功。
    • 主要セグメントでのサプライチェーン再構築や大幅なコスト削減策の発表。

基本シナリオ (発生確率 60%):

  • 前提条件:
    • 中国経済は低迷が続き、主要事業の売上は回復が限定的となる。
    • 価格競争とコスト高が継続し、利益率は低水準にとどまる。
    • EV関連事業への先行投資は継続するが、本格的な収益化には至らない。
  • 予測レンジ:
    • 売上高: 140億円 ~ 160億円
    • 営業利益: △1.0億円 ~ 0.5億円
  • カタリスト:
    • 特になし。現状の構造的な問題が継続。
  • リスク:
    • 既存事業の収益性がさらに悪化すること。
    • EV関連事業の投資が拡大し、損失が当初の想定を上回ること。

弱気シナリオ (発生確率 30%):

  • 前提条件:
    • 世界的な景気後退が加速し、既存事業の需要がさらに急減する。
    • 原材料価格の高騰がさらに進行し、収益性が大幅に悪化する。
    • EV関連事業への投資が失敗に終わり、特別損失の計上を迫られる。
  • 予測レンジ:
    • 売上高: 120億円 ~ 140億円
    • 営業利益: △3.0億円 ~ △1.0億円
  • リスク:
    • 世界経済の急減速、特に中国市場のさらなる低迷。
    • 主力製品における価格競争がさらに激化し、マージンが消滅すること。
    • 海外子会社の出資持分譲渡が計画通りに進まず、財務の健全化が遅れること。

バリュエーション(企業価値評価)

現状の業績と将来の不確実性を考慮すると、伝統的なPERやPBRによるバリュエーションは困難であり、大きな意味を持ちません。営業利益が赤字であるためPERは算出できず、PBRも純資産の毀損リスクを考慮すると、将来的な参考値とはなり得ません。 EV/EBITDAも同様に、EBITDAがプラスであるかを精査する必要があり、現状では有効な指標とは言えません。

  • 相対評価法: 競合他社と比較しても、同社の収益性の悪化は際立っており、現状の株価は、既存事業の構造的な問題がすでに織り込まれていると解釈できます。しかし、EV関連事業への過度な期待が株価を支えている可能性も否定できません。この点から、現在のバリュエーションは、割安とは言えず、むしろリスクに対してプレミアムを払っている可能性があると見ています。
  • 絶対評価法: 簡易DCF法を適用する場合、将来のキャッシュフローは極めて不確実性が高いです。特にEV関連事業のキャッシュフローは現時点でほとんど予測不可能です。そのため、現在の事業構造を前提としたDCF法では、理論株価は現在の株価を大幅に下回ると考えられます。

総括と投資家への提言

ヤマト モビリティ & Mfg. 株式会社の2026年3月期第1四半期決算は、同社の主要事業が抱える構造的な脆弱性が明確に表れた内容でした。中国市場の需要減退と価格競争の激化という外部環境の厳しさに加え、内部的には棚卸資産の増加や仕入債務の短縮など、運転資本の悪化が進行しており、キャッシュフロー創出力の低下が懸念されます。

投資スタンス: 弱気スタンスを維持します。経営陣が公表している通期計画は非現実的であり、これを修正しない経営判断には強い不信感を抱かざるを得ません。既存事業の構造改革が不十分なまま、不確実性の高い新規事業への投資を継続することは、短期的な財務悪化を招くだけでなく、中長期的な企業価値創造の妨げになるリスクが高いと判断します。

監視すべき最重要KPIとイベント:

  1. 各セグメントの利益率: 特に合成樹脂成形事業と物流機器関連事業における粗利率と営業利益率の動向。価格転嫁の進捗状況を測る重要な指標です。
  2. 運転資本の変化: 特に棚卸資産の増加が続かないか、CCCが悪化し続けないかを注視。キャッシュフロー創出能力の健全性を測る上で不可欠です。
  3. EV関連事業の進捗: 具体的な受注や提携、製品化に向けたマイルストーンが発表されるか。単なる先行投資ではなく、具体的な成果が求められます。
  4. 業績予想の修正: 次回以降の決算で、非現実的な通期計画が修正されるか。経営陣の現実認識と実行力を評価する上で、最も重要なイベントとなります。
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