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パス株式会社(3840)2026年3月期 第1四半期決算分析:新体制下の多角化戦略、その収益性回復への道筋と潜む構造的課題

1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)

投資スタンス:中立、確信度:60%

パス株式会社の2026年3月期第1四半期決算は、売上高が前年同期比で大幅に増加した一方で、営業損失が拡大するという、事業ポートフォリオ変革の過渡期における複雑な様相を呈している。特にAI・テクノロジー事業やマーケット・エクスパンション事業といった新規事業への先行投資が費用を押し上げ、全社的な収益性を圧迫している。しかし、既存のコスメ事業とビューティ&ウエルネス事業は堅調に推移しており、成長の牽引役としての役割を果たしている点は評価できる。現時点では、新規事業の本格的な収益化が不透明であることから、株価の本格的な上昇には明確なカタリストが不足していると判断し、投資スタンスは**「中立」**とする。今後の経営陣の実行力と、先行投資が実を結ぶ兆候を注視する必要がある。

3行サマリー:

  • 何が起きたのか: 売上高は前年同期比22.3%増と成長を牽引するも、新規事業への先行投資と既存事業の販管費増加により、営業損失が前年同期の51百万円から154百万円に拡大し、収益性が大幅に悪化した。
  • なぜそれが重要なのか: 積極的な事業多角化は潜在的な成長機会を提供するが、現時点では旧来の主力事業が稼ぐ利益を新規事業への先行投資が食い尽くす構図となっており、投資家のリターンに直結する収益性の回復が最重要課題である。
  • 次に何を見るべきか: 既存事業における販売戦略の転換が収益改善に繋がるか、そしてAI・テクノロジー事業やマーケット・エクスパンション事業といった先行投資セグメントからの具体的な大型案件の受注や収益化の兆候を注視する必要がある。

主要カタリストとリスク: 【ポジティブ・カタリスト】

  • AI・テクノロジー事業の大型案件受注: 除染土壌洗浄装置や放射線測定装置の開発が最終段階にあり、大型案件の受注が発表されれば、将来の収益成長への期待から株価を押し上げる可能性が高い。
  • 既存事業の利益率改善: コスメ事業における粗利率の改善が継続し、ビューティ&ウエルネス事業での販売チャネル拡大が収益に貢献すれば、全社的な収益性改善が加速する。
  • 自己資本のさらなる強化: 新株予約権の行使による自己資本の増加が続き、財務基盤が安定することで、事業投資への懸念が後退する。

【ネガティブ・リスク】

  • 新規事業の収益化遅延: 開発中の製品が市場に受け入れられず、あるいは競争激化により計画通りに収益が上がらなければ、先行投資が回収できず、さらなる赤字拡大を招く。
  • 継続企業の前提に関する疑義: 継続的な営業損失、純損失、および営業キャッシュフローのマイナスが続き、経営改善策が奏功しない場合、継続企業の前提に関する重要な不確実性が払拭できず、株価にネガティブな影響を与える可能性がある。
  • マクロ経済の悪化: 米国の保護貿易主義政策や世界的なインフレの再燃により、日本経済も低迷すれば、個人消費の節約志向が強まり、コスメ事業などの売上に悪影響を及ぼすリスクがある。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

パス株式会社は、コスメ事業、ビューティ&ウエルネス事業、再生医療関連事業を中核に据えつつ、新中期経営計画の下、AI・テクノロジー事業、マーケット・エクスパンション事業、インベストメント事業といった成長戦略事業を新たに立ち上げ、多角的な事業ポートフォリオを構築している

ビジネスモデルの評価

パス株式会社のビジネスモデルは、旧来の**「プロダクト・アウト型」から、新規事業を交えた「ソリューション・提供型」**へと転換しつつある。

  • コスメ事業、ビューティ&ウエルネス事業:
    • 収益モデル: 売上高 = 販売数量 × 販売単価。
    • 強み: 「Ex: BEAUTE」冷感コスメシリーズや「スピード・シェープ」「歩トレパット」といったヒット商品を有し、季節需要や特定の機能性に訴求する製品で、一定のブランド認知度と顧客層を確保している 。ECモールでの販売比率増加により粗利率が改善している点は、流通コストの最適化が進んでいることを示唆している 。
    • 脆弱性: 競合の多い市場であり、消費者の節約志向やトレンドの変化に影響されやすい。LTV(顧客生涯価値)向上を目指す戦略的マーケティング施策として、販管費を意図的に傾斜配分しているが、これが効果的に新規顧客獲得とロイヤルカスタマー化に繋がらなければ、単なるコスト増に終わり、収益性を悪化させるリスクがある 。
  • 再生医療関連事業:
    • 収益モデル: 売上高 = 細胞培養加工サービス提供件数 × 単価 + 化粧品OEM/原料販売数量 × 単価。
    • 強み: 特定細胞加工物製造許可を取得した新施設を開設し、将来的な需要拡大に備えている点は先行投資として評価できる 。東京医科大学との共同研究による新商品開発は、技術的な優位性を確立する潜在能力を持つ 。
    • 脆弱性: 化粧品原料販売の回復が遅れており、粗利率の高い事業の売上比率低下がセグメントの収益性を圧迫している 。先行投資が続くフェーズであり、本格的な収益貢献には時間がかかる。
  • AI・テクノロジー事業:
    • 収益モデル: 売上高 = 除染装置/放射線測定装置の受注件数 × 単価 + 機器のメンテナンス・サービス収入。
    • 強み: 三和製作所の完全子会社化により、除染土壌やALPS処理水関連といった社会課題解決に直結する独自の技術・製品を持つ 。長期的な需要が見込まれる有望な市場に参入している点は大きな魅力。
    • 脆弱性: 現在は大型案件が仕掛中であり、具体的な受注実績と収益貢献がまだ見えない状況 。開発・製造コストが先行するビジネスモデルであり、受注が遅れればキャッシュフローを圧迫する。

競争環境

コスメやビューティ&ウエルネス事業においては、大手化粧品メーカーから新興のD2Cブランドまで、多数の競合が存在し、差別化が難しい市場である。同社の「Ex: BEAUTE」シリーズはニッチな市場で一定の地位を築いているものの、他社との比較で圧倒的なブランド力やマーケティング予算を持つわけではない。

一方、AI・テクノロジー事業が対象とする除染や放射線測定の分野は、技術的な参入障壁が高く、競合は限定的である。特にリアルタイムでトリチウム濃度が測定できる装置や、新型土壌汚染洗浄装置といったユニークな技術は、他社に対する明確な競争優位性となりうる


3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

項目2026年3月期1Q (百万円)2025年3月期1Q (百万円)前年同期比 (増減率)計画比 (進捗率)
売上高599490+22.3%13.6%
営業利益△154△51-201.9%
経常利益△157△45-248.9%
親会社株主に帰属する四半期純利益△152△47-223.4%

営業利益のブリッジ分析:

  • 2025年3月期1Q営業損失:△51百万円
  • 変動要因分析:
    • ①売上数量/ミックス変動: 売上高が109百万円増加したことによる利益貢献。コスメ事業の「Ex: BEAUTE」シリーズ好調や、ビューティ&ウエルネス事業の自社製品販売増が寄与 。
    • ②価格/原価率変動: コスメ事業でのECモール販売比率増加により粗利率が改善したが、再生医療関連事業での高粗利率な化粧品原料販売の不振により、全体での影響は限定的か 。
    • ③販管費変動:これが最大の要因。 前年同期比で167百万円増加し、営業利益を大きく圧迫 。
      • コスメ事業: 顧客獲得のための戦略的マーケティング施策として、上半期に販管費を意図的に傾斜配分 。
      • ビューティ&ウエルネス事業: 将来的な販売チャネル拡大のための人員増などの先行支出 。
      • 新規事業セグメント(AI・テクノロジー、マーケット・エクスパンションなど): 事業開始に伴う人件費、研究開発費、広告宣伝費などの先行投資が費用を押し上げ、利益を毀損 。
  • 2026年3月期1Q営業損失:△154百万円

収益性の深掘り: 売上高が22.3%増加しているにもかかわらず、営業損失が2倍以上に拡大したことは深刻な課題である 。売上総利益率は2025年3月期1Qの54.2%から55.1%へと微増しているが、販管費が売上高の80.9%(前年同期は64.7%)を占めるまで膨れ上がっている 。これは、先行投資フェーズにある新規事業がまだ売上を十分に生み出せていない一方で、費用だけが先行しているためであり、経営陣が掲げる成長戦略のコストが可視化された結果と言える。

B/S分析

  • 総資産: 3,310百万円(前連結会計年度末比 +58百万円) 。
    • 有形固定資産が1,591百万円と前年度末から166百万円増加しているが、これは主に建設仮勘定が167百万円増加したことによるもので、再生医療関連事業の新施設開設などが影響していると推察される 。
  • 純資産: 2,546百万円(前連結会計年度末比 +71百万円) 。
    • 親会社株主に帰属する四半期純損失を計上したにもかかわらず、新株予約権の行使により資本金と資本剰余金がそれぞれ114百万円増加し、自己資本が増強された 。
  • 自己資本比率: 76.5%(前連結会計年度末 75.5%) 。
    • この高い自己資本比率は、新株予約権の行使による財務基盤の強化が大きく寄与しており、継続企業の前提に関する疑義を解消するための重要な施策として機能している 。

運転資本の分析(CCC): 残念ながら、キャッシュフロー計算書が提供されていないため、詳細なキャッシュ・コンバージョン・サイクルの分析は不可能である 。しかし、貸借対照表の情報から間接的に読み解くことは可能だ。

  • 売上債権: 受取手形及び売掛金は前連結会計年度末の233百万円から220百万円に減少 。売上高が増加しているにもかかわらず債権が減少していることから、売上債権回転日数(DSO)は短縮し、キャッシュ回収効率が改善している可能性がある。これは評価できる点だ。
  • 棚卸資産: 商品及び製品が前連結会計年度末の751百万円から826百万円に増加 。売上高の増加を上回るペースでの在庫増加は、将来の販売を見込んだものか、あるいは売れ行きが鈍化している可能性を示唆する。特に再生医療関連事業における化粧品原料販売の遅れが、在庫の滞留や陳腐化リスクを高めている可能性があり、今後の推移を注視する必要がある
  • 仕入債務: 支払手形及び買掛金は前連結会計年度末の182百万円から147百万円に減少 。これは買入債務回転日数(DPO)の短縮を意味し、サプライヤーへの支払いサイトが短くなっている可能性がある。

以上のことから、運転資本の効率性は改善傾向にある可能性があるが、在庫の増加と仕入債務の減少は、キャッシュアウトを早める要因となりうる。

キャッシュフロー(C/F)分析

当四半期連結累計期間に係る四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていないため、直接的な分析は不可能である 。しかし、継続企業の前提に関する注記には、前連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローのマイナス538百万円、および当第1四半期連結累計期間における営業損失154百万円が明記されており、継続的に営業活動によるキャッシュアウトが発生していることがわかる 。これは、本業がキャッシュを生み出せていない状態であり、財務基盤の安定には新株予約権の行使のような外部からの資金調達に依存していることを示唆する。

資本効率性の評価

ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト) ROIC = NOPAT / 投下資本 (注) NOPATは税引後営業利益、投下資本は有利子負債+株主資本

2026年3月期第1四半期の営業利益は△154百万円であり、NOPATはマイナスとなる。これは、同社が投下した資本から利益を生み出すどころか、資本を毀損していることを意味し、ROICはマイナスで、当然ながらWACCを大きく下回っている。事業ポートフォリオ変革に伴う先行投資フェーズであるとはいえ、この状況が続けば企業価値は破壊され続けることになる。経営陣は、各事業の投資収益性を厳密に管理し、投資が早期に利益に転化するような戦略を実行しなければならない。

ROE(自己資本利益率)のデュポン分解: ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

  • 純利益率: 当第1四半期は純損失を計上しており、純利益率はマイナス。
  • 総資産回転率: 売上高599百万円、総資産3,310百万円であり、回転率は低い。
  • 財務レバレッジ: 自己資本比率が非常に高いため、財務レバレッジは低い。

結論として、ROEはマイナスであり、株主資本を効率的に活用して利益を生み出せていない。収益性(純利益率)の悪化が、ROE低迷の最大の要因である。


4. セグメント情報の徹底解剖

セグメント2026年3月期1Q 売上高 (千円)前年同期比 売上増減 (千円)2026年3月期1Q 営業利益/損失 (千円)前年同期 営業利益/損失 (千円)
コスメ事業268,963+72,578△28,899+1,011
ビューティ&ウエルネス事業214,641+21,007△11,913△9,340
再生医療関連事業95,057△3,790△22,492+1,902
サスティナブル事業60△1,172△14,372△15,679
マーケット・エクスパンション事業429(比較なし)△10,722(比較なし)
インベストメント事業9,999(比較なし)+8,280(比較なし)
AI・テクノロジー事業10,199(比較なし)△36,148(比較なし)

成長ドライバーと課題の特定:

  • コスメ事業: 売上高は前年同期比約37%増と大幅に伸長し、全社売上の約45%を占める主要な成長ドライバー 。特にヒット商品「Ex: BEAUTE」冷感コスメシリーズの好調と、新商品の販売が寄与している 。しかし、戦略的な販管費の傾斜配分により、営業利益は1百万円の黒字から28百万円の赤字に転落した 。これは、事業の収益性改善と成長投資のバランスが課題であることを示唆する。
  • ビューティ&ウエルネス事業: 売上高は前年同期比約11%増と堅調 。自社製品「スピード・シェープ」などの好調が貢献している 。しかし、将来的な販売チャネル拡大のための先行投資により、営業損失が拡大した 。
  • 再生医療関連事業: 売上高は微減 。これは、新施設の開設に伴うコスト増と、高粗利率の化粧品原料販売の不振が重なり、営業利益は大幅な赤字に転落した 。新施設の本格稼働による収益貢献が今後の焦点となる。
  • 新規事業(マーケット・エクスパンション、AI・テクノロジー): これら新設セグメントは、売上高が極めて限定的であるにもかかわらず、合計で46百万円もの営業損失を計上し、全社的な赤字拡大の最大の要因となっている 。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、既存の主力事業(コスメ、ビューティ&ウエルネス)でキャッシュを稼ぎ、それを将来の成長が見込まれる新規事業(AI・テクノロジーなど)に再投資する**「事業ポートフォリオのリバランス」**を試みていると解釈できる。しかし、現状は、既存事業の稼ぐ力が弱く、新規事業への投資コストがそれを上回るため、全社的な収益性が悪化している。この戦略が成功するかどうかは、AI・テクノロジー事業の大型案件受注や、マーケット・エクスパンション事業の本格的な収益化が早期に実現できるかにかかっている。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

会社は2026年3月期の通期連結業績予想として、売上高4,419百万円、営業利益24百万円を掲げており、今回の第1四半期決算ではこれを修正していない

計画未達/超過の場合の要因分析: 第1四半期の実績は、売上高599百万円(通期計画進捗率13.6%)、営業損失154百万円(通期計画の営業利益24百万円に対し大幅な乖離)であり、計画は大幅に未達となっている

経営陣は、第1四半期の業績影響は一時的なものであり、今後、業績回復は十分に可能であると認識している 。この判断の背景には、コスメ事業の販管費の傾斜配分が下半期にかけて効果を発揮すること、そしてAI・テクノロジー事業における大型プロジェクトの受注が下期以降に業績に反映されるという見通しがあると考えられる

しかし、第1四半期で既に通期営業利益計画の6倍以上の赤字を計上している現状は、極めて厳しく、経営陣の需要予測能力やコスト管理能力に重大な疑問符がつく。 会社側はAI・テクノロジー事業の大型案件が「仕掛中」であり、今後の業績に反映されるとしているが、具体的な受注時期や規模が不明瞭なままでは、楽観的な見通しに過ぎない。もし大型案件の受注が遅延すれば、通期計画の達成は極めて困難となる。この状況で計画を修正しないという経営判断は、投資家に対する強いメッセージではあるが、同時にリスクも伴う。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12~24ヶ月の業績について、以下の3つのシナリオを提示する。

シナリオ1:強気シナリオ

  • 前提条件:
    • コスメ事業における戦略的マーケティング施策が成功し、ロイヤルカスタマーが継続的に増加。
    • AI・テクノロジー事業で、開発中の除染装置や放射線測定装置の大型案件受注が早期に決定。
    • 新規事業への先行投資コストが、予想以上に効率的に収益に結びつく。
  • 予測レンジ:
    • 売上高:4,500〜5,000百万円
    • 営業利益:50〜100百万円
  • トリガーとなるカタリスト:
    • AI・テクノロジー事業での具体的な受注発表。
    • コスメ事業での新規顧客獲得数やLTVの改善を示すKPIの開示。
    • 新たな協業やM&Aによる事業シナジーの創出。

シナリオ2:基本シナリオ

  • 前提条件:
    • 既存事業は堅調に推移し、売上は計画通りに成長。
    • 新規事業への先行投資は継続するが、収益化には時間を要する。
    • AI・テクノロジー事業の大型案件は下期に一部受注するが、本格的な収益貢献は来期以降となる。
  • 予測レンジ:
    • 売上高:4,200〜4,400百万円
    • 営業利益:△50〜20百万円
  • トリガーとなるカタリスト:
    • 再生医療関連事業の売上高改善。
    • AI・テクノロジー事業における小規模な案件の受注発表。
    • 経営計画の進捗を示す四半期決算。

シナリオ3:弱気シナリオ

  • 前提条件:
    • コスメ事業のマーケティング施策が不発に終わり、販管費増加が収益性改善に繋がらない。
    • AI・テクノロジー事業の大型案件受注が、開発の遅延や競合の台頭によりさらに遅れる。
    • 新規事業への先行投資コストが予想以上に膨らみ、赤字が拡大。
  • 予測レンジ:
    • 売上高:3,800〜4,200百万円
    • 営業利益:△200〜△100百万円
  • トリガーとなるリスク:
    • 四半期連続での営業損失拡大。
    • 新規事業における開発プロジェクトの中止または遅延発表。
    • 金融市場の悪化による資金調達環境の厳格化。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法

  • PER(株価収益率): 純損失を計上しているため算出不可能。
  • PBR(株価純資産倍率): 株価は33.48円、1株当たり純資産は33.47円であり、PBRはほぼ1倍 。
  • EV/EBITDA: EBITDA(営業利益+減価償却費)も大幅なマイナスであるため、算出しても意味をなさない。

結論: 現在のバリュエーション指標は、事業ポートフォリオ変革期特有の過渡的な業績によって歪んでおり、相対評価は困難である。PBRが1倍近辺で推移していることから、株価は解散価値に近く、今後の成長期待や不確実性を織り込んだ状態と言える。AI・テクノロジー事業の収益化が実現すれば、株価は大幅なプレミアムで評価される可能性がある一方で、計画未達が続けば、さらにディスカウントされるリスクを内包している。

絶対評価法

簡易的なDCF法による理論株価の試算は、現在の事業計画の不確実性が高すぎるため、現実的ではない。将来のキャッシュフローを予測するための前提となる売上高や利益率の蓋然性が低く、WACCや永久成長率といった仮定値のわずかな変動が理論株価に大きな影響を与えてしまうためである。


8. 総括と投資家への提言

パス株式会社の第1四半期決算は、売上成長と先行投資による収益性悪化という二面性を示した。既存事業が売上成長を牽引している一方で、新規事業が重しとなり、全社的な赤字を拡大させているのが現状である。この構造的な課題は、経営陣が掲げる事業ポートフォリオ変革の**「痛みのフェーズ」**と解釈できるが、投資家としては、その痛みがいつ終わり、利益という果実が実るのかを注視する必要がある。

核心的な投資魅力:

  • 潜在的な成長性: AI・テクノロジー事業が持つ、除染や放射線測定といった社会課題解決に直結する独自の技術は、長期的に巨大な市場となりうる。
  • 財務基盤の強化: 継続的な新株予約権の行使による自己資本の増加は、事業継続性を高め、積極的な事業投資を可能にする。

最大の懸念事項:

  • 新規事業の収益化不透明性: 先行投資が続く新規事業からの具体的な収益貢献がいつから始まるのか、具体的なタイムラインが見えない。
  • 経営陣の実行力: 大幅な計画未達にもかかわらず通期計画を据え置いた経営判断の妥当性が問われる。

明確な投資スタンス:中立

現状は、先行投資コストが業績を圧迫する段階にあり、株価の本格的な上昇を期待するには時期尚早と判断する。

投資家が注視すべき最重要KPIとイベント:

  • AI・テクノロジー事業の受注残高: 四半期報告書などで開示される場合、仕掛中の案件が実際にどれだけ受注に繋がっているかを確認。
  • 既存事業の販管費の推移: コスメ事業での販管費が収益性改善に貢献しているか、対売上高比率の推移を監視。
  • キャッシュフローの状況: 営業キャッシュフローの赤字幅が縮小しているか、または黒字転換しているか。

これらのKPIに改善が見られ、特にAI・テクノロジー事業からの具体的な収益化の兆候が確認できた場合に、投資スタンスを「強気」に引き上げることを検討する。それまでは、経営陣の戦略実行能力を慎重に見極める必要がある。

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