MENU

アイキューブドシステムズ:過去最高益更新の裏側にあるM&Aの影と、成長の持続性を問う決算分析

目次

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立、確信度60%

アイキューブドシステムズの2025年6月期通期決算は、売上高と営業利益が過去最高を更新し、表面上は力強い成長を示しています。しかし、この増収増益は主力のCLOMO事業のオーガニック成長に加え、買収した子会社ワンビ株式会社の業績が加算された結果であり、その本質を深く分析する必要があります。M&Aによる売上・利益の嵩上げ効果は一時的なものであり、今後の真価はCLOMO事業とワンビ社のシナジー創出と、それに伴う利益率改善にかかっています。中小企業への導入拡大によるARPU(ユーザーあたりの平均売上)の低下傾向は継続しており、クロスセルやアップセルによる収益性向上が今後の課題です。


3行サマリー

  • 何が起きたのか?:2025年6月期通期決算は、連結売上高が37.5億円(前年同期比+27.2%)、営業利益が9.1億円(同+30.8%)で、過去最高益を更新しました。
  • なぜそれが重要なのか?:この成長は、CLOMO事業の堅調な拡大に加え、2025年1月に連結子会社化したワンビ社の売上が上乗せされた結果です。単体決算では増収ペースが鈍化しており、買収効果を除いた既存事業の成長力と、ワンビ社とのシナジー創出による中長期的な利益構造の改善が問われています。
  • 次に何を見るべきか?:今後の焦点は、ワンビ社との連携強化によるWindows PC向けサービス市場への本格進出が、売上成長とARPU向上にどのように寄与するか、そして販管費増を上回る利益成長を実現できるかです。

主要カタリストとリスク

カタリスト(株価を押し上げる要因)

  1. Windows PC市場での成功事例創出:ワンビ社の「TRUST DELETE」との連携強化や、PC資産管理市場への本格参入が成功し、大型顧客獲得やARPU向上に繋がれば、新たな成長期待が高まる。
  2. 官公庁・医療機関市場での顧客基盤拡大:ISMAP登録やガバメントライセンスの提供、積極的なマーケティング活動が奏功し、高単価かつ安定した大規模案件を継続的に獲得できれば、株価の再評価に繋がる。
  3. NTTドコモとの連携によるOEM事業の加速:NTTドコモが「あんしんマネージャー」のサービス終了を控える中、「あんしんマネージャーNEXT」への移行が計画以上に加速すれば、顧客基盤のさらなる拡大が期待される。

リスク(株価を押し下げる要因)

  1. M&Aシナジーの不発:ワンビ社との連携が計画通りに進まず、技術・販路面でのシナジーが限定的だった場合、のれん償却費など販管費増に見合うだけの収益改善が見込めず、利益成長が鈍化する。
  2. ARPU低下傾向の継続と利益率悪化:中小規模企業への導入拡大がARPU低下を招き、高収益構造が損なわれるリスク。クロスセルやアップセル施策が不調に終われば、売上高は伸びても利益率が悪化する可能性がある。
  3. 競争激化による価格競争:MDM市場は依然として競争が激しく、今後、価格競争に巻き込まれれば、同社の高収益構造が脅かされる可能性がある。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

アイキューブドシステムズの事業は、主に

CLOMO事業投資事業の二つに分かれています。主軸は企業向けモバイル端末管理サービス(MDM)を提供するCLOMO事業で、企業のモバイル端末活用を支援することで収益を上げています

ビジネスモデルの評価

CLOMO事業は、**サブスクリプション型SaaS(Software as a Service)**という極めて強固なビジネスモデルを構築しています。

  • 収益モデル: 売上高 = 既存顧客の月額利用料 + (新規顧客数 x 新規ライセンス単価) + (既存顧客へのアップセル/クロスセル x 追加ライセンス単価)
  • 強み:
    1. 安定的な収益基盤: 単体売上高の94%がストック収益で構成されており、景気変動に左右されにくい安定した収益基盤を確立しています。解約率が低いMDMサービスは、継続的な収益を生み出し、長期的な事業計画を立てやすいというメリットがあります。
    2. 高収益構造: クラウドサービスであるため、事業規模が拡大してもサーバー等の運用コスト増加は抑制され、ソフトウェア開発費用も事業規模に非連動です。また、販売パートナー主体の営業活動により、営業コストを抑制でき、スケールメリットを享受しやすい構造です。
    3. 高いスイッチングコスト: 一度MDMサービスを導入すると、他社サービスへの乗り換えには端末の再設定や従業員への周知が必要となり、時間的・コスト的な負担が大きいことから、顧客の囲い込みに成功しています。
    4. 強固なパートナーシップ: OS開発元であるGoogleの「Android Enterprise Gold Partner」に認定されており、最新の技術サポートを優先的に受けられることで、製品品質の継続的な向上を実現しています。さらに、NTTドコモへのOEM提供は、自社だけでは獲得が難しい大規模顧客基盤へのアクセスを可能にしています。
  • 脆弱性:
    1. ARPU低下傾向: 中小規模企業への導入が拡大した結果、ARPUは低下傾向にあります。これは一見すると顧客層の拡大と捉えられますが、高単価な大企業顧客とのバランスが崩れると、全体の収益性が悪化するリスクを孕んでいます。
    2. M&A依存のリスク: 過去最高益の更新は、ワンビ社のM&Aに大きく依存しています。今後もM&Aを継続していく場合、買収対象の選定やシナジー創出の失敗が、財務リスクとして顕在化する可能性があります。

競争環境

国内MDM市場は、アイキューブドシステムズが14年連続でシェアNo.1を達成しているものの、依然として競争が激しい市場です。主要な競合他社としては、サイバーリーズン、モビリティ管理サービスの提供会社などが挙げられます。

  • 同社の相対的な強み:
    • 統合力: 販売、開発、運用、サポートのすべてを自社で一貫して行っている点が最大の強みです。これにより、顧客ニーズを直接吸い上げて迅速に製品に反映でき、顧客満足度の高いサービス提供を実現しています。
    • セキュリティ品質: 政府のセキュリティ評価制度であるISMAPに登録されており、官公庁市場開拓において大きな競争優位性を持ちます。競合サービスでISMAPに登録しているのはわずか2社のみであり、この認証は同社にとって重要な差別化要因です。
  • 同社の相対的な弱み:
    • グローバル展開: 競合他社にはグローバルで事業を展開している企業が多く、海外市場におけるブランド力や顧客基盤では劣る可能性があります。ただし、子会社10KN COMPANY LIMITED (ベトナム)を有しており、海外展開への足掛かりは持っています。
    • PC市場での新規性: ワンビ社買収によってPC市場に本格参入しますが、この市場にはすでに多くの競合が存在します。今後はPCとモバイルの統合管理というニーズをいかに取り込めるかが鍵となります。

3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

項目(百万円)2024年6月期実績2025年6月期実績増減額増減率計画比
売上高(連結)2,9493,749+800+27.2%+1.3%
売上総利益(連結)2,1872,697+509+23.3%
営業利益(連結)692905+212+30.8%+6.1%
経常利益(連結)668877+209+31.3%
親会社株主に帰属する当期純利益(連結)463558+95+20.5%

営業利益のブリッジ分析

前年同期の営業利益692百万円から当期の905百万円への変動要因を分解します。

  • 売上高の増加(+800百万円)
    • CLOMO事業のオーガニック成長による売上増加
    • ワンビ社の業績連結(6ヶ月分)による売上増加(+282百万円)
    • 投資事業の売却収益計上(+120百万円)
  • 売上原価の増加(△291百万円)
    • M&Aに伴うCLOMO事業の売上原価増加
    • 投資事業の売却原価(99百万円)および評価損の計上
  • 販売費及び一般管理費の増加(△296百万円)
    • M&Aや採用活動に伴う人件費増加
    • M&A関連費用、のれん償却費の発生
    • 医療・官公庁市場向けマーケティング費用増加

この分解から、営業利益の増加は売上高の増加が主な要因であり、特にM&Aによる売上上乗せ効果が利益貢献に大きく寄与していることがわかります。しかし、同時に売上原価や販管費も増加しており、M&Aに伴うコスト増が利益成長の足を引っ張っている側面も見られます。

収益性の深掘り

  • 粗利率: 2024年6月期の74.2%から2025年6月期は71.9%へと2.3pt低下しました。これはM&Aによるコスト構造の変化が主因です。ワンビ社の事業はCLOMO事業とは異なるコスト構造を持っており、連結されたことで全体の粗利率を押し下げたと考えられます。また、投資事業の売却原価計上も影響しています。
  • 営業利益率: 2024年6月期の23.5%から2025年6月期は24.1%へと0.6pt増加しました。これは売上高の増加が販管費の増加を上回った結果です。ただし、販管費の増加要因にはM&A関連費用やのれん償却費といった一時的・非現金的な費用も含まれており、利益の質については慎重に評価する必要があります。

B/S分析

  • 資産、負債、純資産の増減: 総資産は前期末比8.3億円増加し、44.4億円となりました。これは主に現金及び預金、売掛金、顧客関連資産の増加によるものです。負債は5.5億円増加し、15.8億円となりました。特に契約負債が大幅に増加しており、前受収益が順調に積み上がっていることを示唆しています。純資産は2.8億円増加し、28.6億円となりました。しかし、自己株式の取得により自己資本比率は前期末の71.2%から57.7%へと13.5pt減少しています。
  • 運転資本の分析:
    • 売上債権回転日数(DSO): 売上債権 / 売上高 x 365
      • 2024年6月期:332百万円 / 2,949百万円 x 365 = 41.1日
      • 2025年6月期:418百万円 / 3,749百万円 x 365 = 40.7日
    • 棚卸資産回転日数(DIO): 棚卸資産は重要性が乏しいため、ここでは省略します。
    • 仕入債務回転日数(DPO): 買掛金 / 売上原価 x 365
      • 2024年6月期:46百万円 / 761百万円 x 365 = 22.1日
      • 2025年6月期:54百万円 / 1,052百万円 x 365 = 18.7日
    • CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル): DSO + DIO – DPO
      • 2024年6月期:41.1 – 22.1 = 19.0日
      • 2025年6月期:40.7 – 18.7 = 22.0日
    CCCは悪化傾向にありますが、これはワンビ社の連結による一時的なものと考えることができます。売上債権回転日数はほぼ横ばいで安定しており、売上代金の回収が順調であることを示唆しています。一方で、仕入債務回転日数が短縮しており、サプライヤーへの支払いが早まったことがCCC悪化の一因となっています。これは、取引条件の変化やM&Aに伴う支払いサイトの変更によるものと推測されます。

キャッシュフロー(C/F)分析

  • 営業CF: 10.1億円(前年同期8.2億円)と大幅に増加しました。これは増益に伴うものです。特筆すべきは、税金等調整前当期純利益(8.8億円)を上回る営業CFを創出している点です。これは減価償却費やのれん償却費といった非現金支出が利益を押し下げているためであり、利益の質は高いと評価できます。
  • 投資CF: 36百万円の使用(前年同期6.2億円の使用)と大幅に改善しました。これは前連結会計年度にM&Aによる支出が大きかった反動であり、当期は無形固定資産の取得による支出(2.3億円)があったものの、連結範囲の変更を伴う子会社株式の取得による収入(3.1億円)がこれを相殺しました。
  • 財務CF: 5.6億円の使用(前年同期4.5億円の使用)と使用額が拡大しています。これは主に自己株式の取得による支出(4.0億円)と配当金の支払い(1.6億円)によるものです。

全体として、本業で稼いだキャッシュをM&Aや自己株式の取得、株主還元に充てるという健全なキャッシュフローサイクルが確認できます。

資本効率性の評価

  • ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)
    • ROIC = NOPAT / 投下資本
      • NOPAT(税引き後営業利益) = 905百万円 x (1 – 30%) = 633.5百万円
      • 投下資本(有利子負債 + 自己資本) = 0 + 2,860百万円 = 2,860百万円
      • ROIC = 633.5 / 2,860 = 22.1%
    • WACC(加重平均資本コスト)は、同社が有利子負債を持たないため、株主資本コスト(CAPM)で代用します。
      • 株主資本コスト = リスクフリーレート + β x (市場リスクプレミアム)
      • 一般的に、SaaSビジネスのβは1.2~1.5程度、市場リスクプレミアムは6%と仮定します。
      • 株主資本コスト(WACC)= 1% + 1.3 x 6% = 8.8%
    • ROIC (22.1%) > WACC (8.8%) となり、同社は強力に企業価値を創造していると評価できます。これは、有利子負債に頼らず、内部資金と株主からの資本を効率的に活用し、高い利益を上げていることを意味します。M&Aによる資産増はあるものの、のれんや顧客関連資産の増加が将来の超過収益力に繋がるのであれば、この傾向は継続すると考えられます。
  • ROE(自己資本利益率)
    • ROE = 純利益率 x 総資産回転率 x 財務レバレッジ
      • 純利益率: 558百万円 / 3,749百万円 = 14.9%(前年同期比15.7%)
      • 総資産回転率: 3,749百万円 / 4,438百万円 = 0.85回(前年同期比0.82回)
      • 財務レバレッジ: 4,438百万円 / 2,860百万円 = 1.55倍(前年同期比1.40倍)
    • ROEは、純利益率のわずかな低下を、総資産回転率と財務レバレッジの上昇で補い、全体として上昇しました。M&Aによって総資産と総負債が膨らんだ結果、財務レバレッジが高まり、ROEを押し上げる形となっています。

4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

アイキューブドシステムズの事業はCLOMO事業投資事業の2つのセグメントに分かれています。

項目(単位:千円)CLOMO事業(2025年6月期)投資事業(2025年6月期)
売上高3,628,799120,991
セグメント利益/損失(△)930,277△25,198

CLOMO事業の好調要因

  • 売上貢献度: 全体売上高の96.8%を占める中核事業であり、セグメント利益も9.3億円とグループ全体の利益を牽引しています。
  • 成長ドライバー:
    1. OEM提供を通じた顧客基盤の拡大: NTTドコモへのOEM提供サービス「あんしんマネージャーNEXT」が好調に進み、導入法人数の増加ペースが加速しています。これにより、単体ではリーチしにくい大規模な顧客層を効率的に獲得しています。
    2. 市場拡大: 3G停波やDX化の進展、PHSサービス終了に伴うモバイル端末への移行が、MDM市場全体の追い風となっており、同社の売上成長を後押ししています。
    3. M&Aによる事業領域拡大: ワンビ社の連結化により、PC管理市場へ本格参入しました。2025年6月期はワンビ社の売上(6ヶ月分)が2.8億円と、CLOMO事業の売上増に大きく貢献しました。
    4. Windows PC市場への進出: 今後、モバイル端末とPCの統合管理ニーズが高まる中で、ワンビ社との連携は大きな成長機会となります。同社が持つPC向け製品のブランド力と豊富なOEM実績は、CLOMO事業の新たな成長エンジンとなる可能性を秘めています。

投資事業の評価

  • セグメントの役割: 投資事業は、CVCを通じてCLOMO事業と親和性の高いスタートアップ企業に投資することで、事業機会の獲得やM&Aを目的としています。
  • 課題とリスク: 2025年6月期は営業投資有価証券の売却益を計上し売上高は1.2億円となったものの、セグメント利益は2,500万円の赤字です。これは、投資活動による評価損や運営費用が発生しているためと考えられます。投資事業は先行投資フェーズであり、短期的な収益貢献よりも中長期的なシナジー創出を目的としているため、赤字自体は想定内と評価できます。しかし、投資先の選定や売却タイミングによっては、今後も大きな損失を計上するリスクを孕んでいます。

ポートフォリオ・マネジメントの評価

経営陣は、CLOMO事業という安定的なキャッシュカウを軸に、投資事業という新たな成長の種を育て、M&Aによって事業領域を拡大するという明確なポートフォリオ戦略を実行しています。この戦略は、安定と成長の両立を目指すものであり、評価に値します。特に、ワンビ社の買収は、モバイルとPCの統合管理という市場トレンドを捉えた戦略的な一手であり、CLOMO事業の脆弱性(モバイル市場への依存)を補完するものです。ただし、M&Aによるのれん償却費など、連結PLへの影響は今後も注視していく必要があります。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

アイキューブドシステムズは、2026年6月期の中期売上目標として50億円を掲げています。今回の2025年6月期連結売上高実績は37.5億円であり、目標達成に向けた順調な進捗を示しています。

項目(百万円)2025年6月期通期計画2025年6月期通期実績進捗率
売上高3,7003,749101.3%
営業利益853905106.1%

今回の決算は、売上高、営業利益ともに計画を上回る着地となりました。特に、営業利益が計画比で+6.1%の超過となったことは高く評価できます。この要因は、CLOMO事業の好調な売上成長と、ワンビ社の連結化による利益貢献が想定を上回ったためと推察されます。

経営陣の需要予測能力と実行力は、今回の実績を見る限り妥当であったと評価できます。積極的なM&Aやマーケティング投資を行いつつも、利益計画を上回る着地を実現できたことは、コストコントロール能力の高さも示唆しています。今後の焦点は、2026年6月期の計画達成に向けた実行力となります。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12~24ヶ月の業績について、3つのシナリオを提示します。

シナリオ1:強気シナリオ

  • 前提条件:
    • 国内DX需要が引き続き堅調に推移。
    • ワンビ社との連携が計画以上に進み、Windows PC市場で高単価の大型案件を複数獲得。
    • NTTドコモの「あんしんマネージャー」からの移行がスムーズかつ加速。
    • クロスセル/アップセル施策が成功し、ARPUの低下が抑制されるか、改善に転じる。
    • 人件費や広告宣伝費の増加を上回る売上成長を実現。
  • 売上・利益予測レンジ:
    • 売上高:48億~52億円
    • 営業利益:12億~14億円

シナリオ2:基本シナリオ

  • 前提条件:
    • MDM市場は予測通り安定成長。
    • ワンビ社との連携は段階的に進むが、大型案件獲得には時間を要する。
    • NTTドコモからの移行は計画通りに進み、堅調な顧客数増加を維持。
    • 中小企業向け導入の拡大によりARPUの低下傾向は継続。
    • M&A関連費用、人件費、販管費の増加が利益成長を一定程度抑制。
  • 売上・利益予測レンジ:
    • 売上高:44億~47億円
    • 営業利益:10.5億~12億円

シナリオ3:弱気シナリオ

  • 前提条件:
    • 国内のIT投資が減速。
    • ワンビ社との連携が遅延し、シナジーがほとんど創出されない。
    • PC市場での競争が激化し、新規顧客獲得が難航。
    • ARPUの低下が想定以上に進み、収益性が大幅に悪化。
    • M&A関連コストや販管費の増加が売上成長を上回り、利益率が低下。
  • 売上・利益予測レンジ:
    • 売上高:40億~43億円
    • 営業利益:8億~10億円

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法

  • 競合他社比較:
    • PER(株価収益率): 高い収益成長率を考慮すると、類似SaaS企業はPERで50倍以上のプレミアムで評価されることが多い。同社のPERは今後の成長期待を織り込んで評価されるべきです。
    • EV/EBITDA: EV/EBITDAは、M&Aや負債を含む企業価値を評価する際に有用な指標です。同社は有利子負債を持たないため、EV=時価総額となります。
  • 評価: 同社の安定的な収益基盤と高い成長性、そしてMDM市場での圧倒的なシェアを考慮すると、PERやEV/EBITDAにおいて、業界平均以上のプレミアムで評価されるべきです。特に、ISMAP登録による官公庁市場開拓の潜在力や、Windows PC市場への進出は、今後の成長期待を高める要因であり、株価にプレミアムが乗る論拠となります。

絶対評価法(簡易DCF法)

  • 前提:
    • FCF(フリー・キャッシュ・フロー)は、営業CFから投資CFを差し引いたものと仮定。
    • WACCは8.8%と仮定。
    • 永久成長率(g)は、日本の名目GDP成長率を参考に1.5%と仮定。
  • 評価:
    • FCF = 営業CF 10.1億円 – 投資CF 0.36億円 = 9.74億円
    • 継続価値 = 9.74億円 x (1+1.5%) / (8.8% – 1.5%) = 136.3億円
    • 理論企業価値 = 136.3億円
    • 発行済株式数:5,306,750株
    • 理論株価 = 136.3億円 / 5,306,750株 = 2,569円
    これはあくまで非常に簡易的な試算ですが、将来の成長を織り込むことで、現在の株価に比べ、潜在的な上昇余地があることを示唆しています。

8. 総括と投資家への提言

今回の決算は、表面的な数値だけを見れば非常に好調ですが、その裏側にあるM&Aによる成長を正しく理解することが極めて重要です。CLOMO事業のオーガニックな成長が安定していることに加え、ワンビ社の買収はモバイルからPCへと市場を拡大する戦略的な一手であり、経営陣の先見性を評価できます。今後、両社のシナジー創出に成功すれば、同社は新たな成長ステージへと突入するでしょう。

投資家への提言:

  • 投資スタンス: 中立を維持します。M&Aによる成長の持続性を見極める必要があるため、現時点での積極的な買い増しは推奨しません。
  • 今後の注視点:
    1. Windows PC向けサービス関連の進捗: 今後、ワンビ社との技術連携や共同開発による新機能のリリース、PC市場での大型顧客獲得のニュースに注目してください。
    2. ARPUの動向: 決算資料でARPUの推移が示されるため、引き続き中小企業導入による低下傾向が継続するか、高単価なサービス提供により改善に向かうかを注視してください。
    3. 販管費の増加とその内容: M&A関連費用やのれん償却費に加え、どの分野に販管費が増加しているのかを詳細に分析し、それが将来的な売上・利益成長に繋がるための先行投資であるかを見極めてください。
    4. 2026年6月期通期計画の進捗: 発表された連結業績予想に対し、四半期ごとの進捗率を追跡し、計画達成の蓋然性を評価し続けてください。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次