──逆風下で見えた“高収益モデル”の持続力と株主還元策の本気度
1. 決算総括 ― “期待外れ”ではなく“粘り強さ”が見えた3Q
ポイント数字
- 売上高 133.7億円(+5.7%)
- 営業利益 29.2億円(▲6.9%)
- 営業利益率 21.8% → 24.8%から▲3.0pt
- EPS 66.5円(▲3.5%)
専門家の目線
短期的には原価高で減益ですが、営業利益率が依然20%超は驚異的。景気循環に左右されにくい“更新需要”と、販売網・自社開発素材による価格決定力の高さが改めて確認できます。
2. 売上ドライバー分析 ― 回復の主役は「患者体験(PX)」需要
市場 | 売上 | YoY | 所感 |
---|---|---|---|
コア(医療従事者) | 97.2億円 | +5.1% | コロナで遅延した更新が本格再開。高耐久素材モデルの単価アップも寄与。 |
患者ウェア | 22.7億円 | +11.1% | 病院のPX向上投資が追い風。デザイン性と使い捨て防止で単価×数量とも成長。 |
手術ウェア | 12.3億円 | +3.5% | 価格競争が激しいが、機能性差別化でシェア維持。 |
海外 | 1.4億円 | ▲11.6% | 大口案件4Qシフト。売上規模はまだ小さいが、粗利率は国内より高い。 |
専門家の目線
PX関連投資は診療報酬改定の評価項目にも含まれ、長期トレンド化する可能性が高い。海外の一時的減収も4Qに跳ね返る公算が大きく、むしろ来期の伸びしろを確保した形です。
3. 粗利率悪化の正体 ― 原材料+円安のダブルパンチ
要因 | 粗利率影響 | 解説 |
---|---|---|
綿相場高騰 | ▲1.8pt | 原材料コストの約40%を綿が占める。 |
円安(平均¥150/$) | ▲1.0pt | 生産委託費の半分超がドル建て。 |
工場移転の物流費 | ▲0.8pt | ベトナム→インドネシア移管に伴う一過性。 |
海外比率拡大効果 | +0.6pt | 人件費抑制で部分吸収。 |
専門家の目線
“悪材料”はコスト側に集中し、販売力の弱化ではない。綿相場は24年末にピークアウト、円安も円高方向へ振れ始めており、来期の利益回復余地は十分残っています。価格転嫁余力が確認できるかが次の論点。
4. 販管費コントロール ― 人件費増でも率は低下
- 販管費 23.8億円(+1.9%)、販管費率 17.8%(▲0.6pt)
専門家の目線
賃上げと採用費を吸収しながら販管費率を下げたのは高い費用弾力性の証明。生産は変動費中心、販売は固定費最小化という“軽い”ビジネスモデルが生きています。
5. 財務体質 ― “自己資本比率92%”の意味
指標 | 当3Q | 前期末 | コメント |
---|---|---|---|
現金等 | 226.9億円 | 263.5億円 | 自己株買いで▲36.6億円 |
棚卸資産回転日数 | ≒150日 | ≒148日 | 適正範囲、在庫膨張なし |
有利子負債 | 0 | 0 | 無借金経営 |
自己資本比率 | 91.7% | 91.4% | さらに改善 |
専門家の目線
高配当+自己株買いでキャッシュアウトしてもネットキャッシュは約227億円。資金繰りリスクがほぼ存在しないため、市況悪化時でも配当維持の確度が高いとみています。
6. キャッシュフローと資本政策 ― “守り”から“攻め”へ
資本余力
- 3年間で自己株を21.8億円取得し、発行済株式の**14.7%**を保有。
- 1株当たり純資産は1,300円超。自己株の「消却 or M&A通貨活用」でEPS押し上げ余地継続。
専門家の目線
足元では自社株をタダ同然の資金コストで調達している状況。将来の還元総額を増やす“余白”を積み上げている点が、他の高配当銘柄と一線を画します。
7. ガイダンス達成可能性 ― 4QのKPIは「売上41億円・営業益11.7億円」
会社計画 vs 達成条件
- 4Q想定営業利益率 28.2%
- 達成可否のチェックポイント
- 海外大口案件の納品時期
- 原材料コストの天井確認
- 為替(平均¥145/$なら想定線)
専門家の目線
4Qは高マージンの海外・手術ウェア比率が上がる期。物流費の一過性要因も剥落し、会社計画は“保守的”との印象を受けます。逆に未達リスクはコストより案件遅延にあると分析。
8. 中期成長シナリオ ― “三層構造”が需要を下支え
- 医療従事者不足 & 感染対策強化
- 更新周期短縮=ストック型成長
- 患者体験(PX)の重要性上昇
- デザイン×サステナ素材=単価アップ
- アジアの病院インフラ整備
- 高粗利市場での新規開拓
専門家の目線
これらはマクロ環境に左右されにくい医療制度・社会課題ドリブン。結果として同社は**“リセッション・レジリエント”**なキャッシュマシンになり得ます。
9. バリュエーション & リスク評価
試算EPS | 想定PER | 理論株価 | 現行配当利回り(100円) |
---|---|---|---|
93円 | 15倍 | 1,400円 | 5.6% |
93円 | 20倍 | 1,860円 | 4.2% |
リスク
- 綿相場・為替の再上昇
- 医療機関の投資抑制長期化
専門家の目線
利回り5%超を維持しながらPER15倍ゾーンで放置されている状況は、配当成長株として割安。コストインフレが収束すれば利益回帰+PER是正のダブルリターンを狙える余地があります。
10. 結論 ― 「逆境=買い場」を示唆
- 営業利益率20%超・無借金という“鉄壁バランスシート”
- 逆風下でも配当増額&大型自己株買いを継続できるキャッシュ創出力
- コスト高が一服すれば、利益回復 > 株価回帰の順でモメンタムが出やすい
投資判断はご自身で。 しかし専門家としては、**“守りの強いインカム成長株”**を探す長期投資家にとって、同社はポートフォリオの安定装置になり得ると評価します。
参考資料
- ナガイレーベン株式会社「2025年8月期 第3四半期決算短信」
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