1. 会社概要とビジネスモデル
- 東証プライム上場、国内最大の自転車専門チェーン「サイクルベースあさひ」を直営+FCで547店展開(1Q末)。
- SPA × OMO:自社企画商品(粗利高)、EC・店舗一体運営でLTV最大化。
Expert Insight
都市型小型店を「EC受取ハブ」兼「修理拠点」に据える戦略は、アフターサービス収益を伸ばしながら物流費を圧縮できるのがミソ。業界平均がECと実店舗を個別最適で回しているのに対し、あさひは 「お客様導線ごとに原価を最適化」 しており、中期的に粗利率を2〜3pt底上げできる構造を持つ。
2. 1Q決算ハイライト
1Q FY25 | 1Q FY26 | YoY | Check Point | |
---|---|---|---|---|
売上高 | 269.3億円 | 271.0億円 | +0.6% | 電動アシスト構成31.3%へ上昇 |
営業利益 | 36.7億円 | 32.7億円 | ▲10.8% | 賃上げ・DX投資で販管費率+1.2pt |
営業利益率 | 13.6% | 12.1% | ▲1.5pt | 依然として同業平均(7〜8%)超 |
上期計画進捗 | — | 72% | — | 例年より高い前倒し進捗 |
Expert Insight
減益の主因は「費用先行」だが、粗利率45%台を維持したまま物流・人件費を吸収している点に注目。1QでDX関連費用の約4分の1を計上済みで、2Q以降は費用増加ペースが鈍化する可能性が高い。結果として通期ガイダンス(営業利益+2.4%)の上振れ余地が見える。
3. PL:数字の裏側を読む
3.1 販管費ブレイクダウン
費目 | YoY増減 | 要因 |
---|---|---|
人件費 | +1.9% | 2期連続ベースアップ+店舗スタッフ教育強化 |
運送保管料 | +10.2% | EC比率上昇による配送量増加 |
減価償却費 | +14.5% | 基幹システム稼働によるランニングコスト増 |
Expert Insight
運送保管料の“膨張”はネガティブに映るが、売上1円あたりの配送コストは前年並みに抑制。基幹システム投資も**在庫回転日数の短縮(▲13.7億円)**を生み、キャッシュ創出力向上へ寄与している。
4. BS/CF:財務健全性を検証
- ネットキャッシュ企業:有利子負債ゼロ、現金等136億円(+36.5億円)。
- 商品在庫▲13.7億円で3期ぶり減少、在庫回転日数を約8日短縮。
- 自己資本比率70.8%で依然安全域。
Expert Insight
家計向け耐久財セクターは景気後退局面で在庫がキャッシュを食い尽くすリスクが高いが、あさひは「ICT化+リユース拡販」で在庫を圧縮。ネットキャッシュを厚く保ち、不況局面での攻め(M&A・出店加速)オプションを確保している。
5. 業界トレンドとポジショニング
- エレクトリックシフト:電動アシスト台数はJEMA統計で年+9.4%。あさひの電動売上は+8.6%で市場並みを確保。
- メンテナンス志向:買替サイクル長期化 → 購入後サービス市場(粗利率50%超)が拡大。
- OMO深耕:EC化率19.1%は業界トップクラス、公式アプリDL+12%でCRM基盤強化。
Expert Insight
自転車小売は**「製品売り切り型」から「サブスク・サービス型」へ転換期。あさひは全国修理ネットワークと中古買取を抑え、“二次流通+定期交換パーツ”でサブスクに近い継続課金モデル**を構築しつつある。
6. 中期計画「VISION 2025」進捗
KPI | 目標 | 1Q実績 | 評価 | コメント |
---|---|---|---|---|
EC化率 | 16.9% | 19.1% | ◎ | 目標超過達成、物流稼働率80%へ上昇 |
都市型小型店 | 年+4店 | +1店 | ○ | ハブ網12→15店ペースは射程圏 |
リユース整備能力 | +25% | 西日本SC稼働 | ○ | 商品化リードタイム▲20% |
DX/物流投資実行 | 35億円 | 26%消化 | ◎ | 進捗前倒しで来期費用減に寄与 |
Expert Insight
OMO完成度が高まるほど既存店の坪効率が改善し、新規出店の投資回収期間が短くなる(都市型店は従来6.5年→5年弱へ)。これはROICを中期で+1.5pt押し上げる潜在力を持つ。
7. バリュエーションとシナリオ分析
シナリオ | EPS(円) | PER想定 | 株価レンジ(円) | ドライバー |
---|---|---|---|---|
Base | 140 | 15倍 | 2,100 | ガイダンス通り、利益+2.6% |
Bull | 150 | 17倍 | 2,550 | EC25%、営業利益率7%回復 |
Bear | 125 | 13倍 | 1,625 | 電動需要鈍化+販管費高止まり |
Expert Insight
現在株価が想定レンジ下限に近い場合、“EC KPI”と“販管費率”が月次で改善確認できればリレーティング余地が大きい。逆に原油高・円高局面で値下げ圧力が強まると粗利率が2pt縮小するシナリオがBearケース。
8. リスクとチェックポイント
発生確率 | 影響度 | リスク | モニタリング指標 |
---|---|---|---|
高 | 中 | 円高 ⇒ 売価下落圧力 | 四半期粗利率、為替感応度▲0.7pt/10円 |
中 | 高 | 賃上げトレンド長期化 | 売上高人件費率(現15.5%) |
低 | 高 | バッテリー火災など安全事故 | BAA適合率・自主回収件数 |
Expert Insight
“安全リスク”はブランド毀損に直結。決算説明資料13ページの「安全サポート月間」施策のように、自主点検をリコール前に仕掛ける姿勢がESG・IR双方で評価されやすい。
9. まとめ
- 費用先行の減益は織り込み済みで、上期進捗72%とむしろ前倒し。
- EC・サービス収益化が進み、**「利益成長の二段ロケット」**発射準備完了。
- 投資判断の鍵は、粗利率の死守と人件費生産性の向上——この2指標を四半期ごとにチェックしたい。
DYOR(Do Your Own Research) — 市場の潮目を見極めるのは、常にあなた自身です。