【投資判断はご自身で】ファーマライズホールディングス〈2796 東証スタンダード〉
調剤薬局チェーンの「勝ち筋」は本当に残っているのか――。
〈2796 ファーマライズホールディングス〉は、この1年で売上高+16.6%と急拡大する一方、営業利益は▲67.9%と急落しました。「M&A で膨らんだ規模」と「PMI 遅延が生む粗利圧縮」という二律背反を抱える同社を、最新決算短信と新中期経営計画「Make a Leap 2027」から読み解きます。カギを握るのはROIC と営業レバレッジの反転——投下資本 300 億円超を活かし切れるのか、それとも財務レバレッジが重荷となるのか。国内最高峰アナリスト視点で、数字の裏側にある戦略・リスク・投資シナリオまで踏み込み、あなたの投資リサーチを一段深めます(※投資判断は自己責任で)。
目次
1. 決算ハイライト ― 16.6%増収の裏で“利益急減”はなぜ?
数字で確認
| FY2024 | FY2025 | YoY | 中計最終年(FY2028)目標 |
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売上高 | 544.6億円 | 635.1億円 | +16.6% | 700億円 |
営業利益 | 9.1億円 | 2.9億円 | ▲67.9% | 16億円 |
親会社純利益 | ▲3.5億円 | ▲3.7億円 | 赤字拡大 | 7億円 |
ROIC | 2.1% | ▲0.4% | ▼2.5pt | 4.5% |
専門家の視点
- 増収のドライバーは M&A 寄与が 9 割:GOOD AID(38店)と寛一商店グループ(54店)を抱き込み店舗数は 401→449。既存店伸びは想定より鈍い。
- 利益急減の本質は “PMI(統合)遅延”:報酬改定よりも、統合プロセスに伴う一過性費用(システム統合・在庫調整・退職給付引当など)で約 4 億円押し下げ。
- 資本効率マイナス転落:ROIC▲0.4%は WACC(推定 8%)を大幅に下回り、経済的付加価値はマイナス。投下資本 318 億円に対し稼ぐ力が乏しい。
2. セグメント別分析 ― 調剤薬局の“営業レバレッジ”が急低下
数字で確認
セグメント | 売上高 | YoY | セグ利益 | YoY |
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調剤薬局 | 526.3億円 | +19.1% | 5.78億円 | ▲47.3% |
物販(ドラッグ・CVS) | 86.9億円 | +5.0% | ▲0.44億円 | 赤字縮小 |
医学資料保管 | 6.09億円 | ▲8.2% | 0.51億円 | ▲43.4% |
医療モール | 5.11億円 | +1.1% | 1.03億円 | ▲8.9% |
専門家の視点
- 調剤薬局:報酬改定(300 店舗超減算)▲7 億円に加え、PMI 費用▲4 億円。営業利益率は 1.0%→0.4%へ急落。「粗利改善より費用抑制」が急務。
- 物販:CVS 新店が牽引し売上伸長。まだ赤字だが 0.5 億円改善。出店 ROI が 24〜30 ヶ月と長い点は要モニタリング。
- 医学資料保管:病院の廃棄サイクル遅延で減収。契約単価は防衛されており、来期は反発余地。
- 医療モール:固定費インフレ(光熱費+人件費)を価格転嫁できず、利益が削られた。テナントリテンション率は 98%と高水準で底堅い。
3. キャッシュフロー & 財務安全性 ― “買収で膨らんだレバレッジ”をどう見る
数字で確認
- 営業CF:+13.1億円(▲14.0億円)
- 投資CF:▲44.6億円(大型 M&A)
- フリーCF:▲31.5億円
- Net D/E:1.6倍 → 同業平均(TS 0.8〜1.0 倍)を超過
専門家の視点
「営業CF 1 年分で大型買収 3 件分の投資」
粗利の回収ペースに比べ投資キャッシュアウトが先行。財務体質そのものはまだ破綻水準ではないが、Net Debt/EBITDA 10.9 倍は日本の調剤小売上場企業の中でワースト 3。金利上昇局面で増資警戒シナリオを織り込む必要がある。
4. 新中期経営計画「Make a Leap 2027」—達成可能性を検証
KPI & ギャップ分析
| FY25 実績 | FY28 目標 | コメント |
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売上高 | 635 億円 | 700 億円 | CAGR 3.3%。買収休止を前提にすると既存店成長 2%+新規出店 1%で達成可能圏。 |
営業利益 | 2.9 億円 | 16 億円 | PMI&DX のシナジー計 13 億円積上げが前提。人件費高どこまで吸収? |
ROIC | ▲0.4% | 4.5% | 資本コスト超えには 6%台が必要。数値目標は保守的と言える。 |
専門家の視点
- PMI 高速化が KGI:新旧システム統合を 18→12 ヶ月に短縮。実現すれば販管費率▲0.8pt。
- DX 投資の選択と集中:クラウド薬歴 60%→100%、在庫自動発注導入で在庫回転+0.5回想定。
- コミュニティ戦略:「カフェにゃーまらいず」(p12 図表)を 50 施設へ拡大し、在宅処方せん流入率+2pt を狙う。
5. リスク & オポチュニティマップ
領域 | ポジティブ要因 | ネガティブ要因 |
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規制 | 在宅・施設調剤報酬の加算拡大 | “300 店舗超減算”恒久化・要件強化の恐れ |
コスト | DX による業務センター化 | 薬剤師給与水準上昇(前年比+4.8%) |
財務 | 自己株買いで EPS 下支え | Net Debt/EBITDA >10× による評価ディスカウント |
ESG | 5 マテリアリティ KPI 公開 | CO₂ 30% 減目標のベースライン曖昧で信頼性低 |
6. 今後 12 か月のウォッチポイント
四半期 | マイルストーン | 注目 KPI |
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1Q(8月) | 買収店 PMI 進捗 | 営業利益率 1%回復なるか |
2Q(11月) | 処方せん枚数開示 | YoY +5%以上なら中計軌道に回帰 |
4Q(翌5月) | 政策動向 | 診療報酬改定 骨子案—特別減算有無 |
7. 筆者の示唆 ― 株価シナリオをどう描くか
- ベースケース:営業利益率 2.3%達成=株価レンジ+15%
- ブルケース:PMI+DX が想定以上 → 利益率 3%、ROIC 6%=株価+30〜40%
- ベアケース:PMI 再遅延+報酬追加減算 → 利益率 1%割れ=株価▲20〜30%
結論: 投資妙味は「PMI×DX」の時間軸次第。足場固めが成功し、FY26 で ROIC が WACC を超えるかが勝負所。