はじめに:投資を続ける中で感じる新たな悩み
つみたてNISAやiDeCoを始めてから1年、2年と経過し、「投資って思ったより難しくないじゃん」と感じ始めている皆さん、こんにちは。ファイナンシャルプランナーの田中と申します。CFP資格を取得してから12年、これまで3,000人を超える方の資産運用相談に携わってきました。
きっと今、こんな疑問を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
「毎月コツコツ積立投資を続けているけれど、最初に決めた資産配分のまま放置していて大丈夫なの?」
「株式の割合がどんどん増えて、思っていた配分と違ってきている気がする…」
「リバランスって言葉は聞くけど、実際にやった方がいいの?面倒くさそうだし…」
実は私自身も、投資を始めたばかりの頃は同じような悩みを抱えていました。30歳で初めて本格的な資産運用を始めた時、最初は「株式60%、債券40%」という配分で開始したものの、3年後に気がついたら株式が75%にまで膨らんでいて、「これってまずいのかな?」と不安になったことがあります。
そんな経験を重ねながら、金融機関での実務を通じて学んだのは、投資は「始める」ことと同じくらい「続ける」ことの技術が大切だということです。そして、その「続ける技術」の核心が、今回お話しする「リバランス」なのです。
この記事では、積立投資を始めて1年以上経過し、ある程度投資に慣れてきた中級者の皆さんに向けて、ポートフォリオの健康診断方法と、適切なメンテナンスの仕方について、私の実体験と専門知識を交えながら詳しくお伝えします。
第1章:そもそも「ポートフォリオ」って何だっけ?
1-1. ポートフォリオの本質を理解する
投資を始めて間もない頃は「ポートフォリオ」と聞いても、なんだか難しそうな印象を持たれる方が多いのですが、実はとてもシンプルな概念です。
ポートフォリオとは、あなたが保有している投資商品全体のことを指します。まるで「投資の家計簿」のようなものです。例えば、以下のような状況を考えてみてください。
・つみたてNISA:全世界株式インデックスファンド(月3万円積立) ・iDeCo:先進国株式インデックスファンド(月1万円積立) ・課税口座:国内債券ファンド(100万円一括投資) ・預金:定期預金300万円
この全てを合わせたものが、あなたの「資産ポートフォリオ」です。
私がよく相談者の方にお話しするのは、ポートフォリオは「お弁当」に例えるとわかりやすいということです。お弁当を作る時、おかずの種類と分量のバランスを考えますよね。揚げ物ばかりでは重すぎるし、野菜だけでは物足りない。同じように、投資でも株式、債券、不動産、現金といった「おかず」の種類と分量を適切にバランス取ることが大切なのです。
1-2. 投資初心者から中級者への意識の変化
投資を始めたばかりの頃は「とにかく投資を続けること」に意識が向きがちです。これは決して間違いではありません。投資の習慣づけこそが、資産形成の第一歩だからです。
しかし、投資を1年以上継続し、投資残高が100万円、200万円と積み上がってくると、次第に異なる視点が必要になってきます。それが「資産全体のバランス」への意識です。
私が銀行員時代に担当したお客様の中に、田村さん(仮名・当時35歳)という方がいらっしゃいました。田村さんは投資を始めて2年半が経過した時点で、こんな相談をされました。
「田中さん、実は最近気になることがあって…最初は日本株と外国株を半分ずつにしようと思っていたんですが、外国株の調子が良くて、今見てみると7割くらいが外国株になっているんです。このまま放置していて大丈夫でしょうか?」
これこそが、投資初心者から中級者へとステップアップする際に多くの方が直面する典型的な悩みです。田村さんのように、知らず知らずのうちに当初予定していた資産配分からズレてしまうのは、投資を続けていれば必ず起こる現象なのです。
1-3. なぜ資産配分がズレるのか?
資産配分がズレる理由は主に以下の3つです。
価格変動による自然なズレ これが最も一般的な理由です。例えば株式と債券を50%ずつで開始した場合、株式の価格が上昇すれば自然と株式の比率が高くなります。逆に株価が下落すれば株式の比率は下がります。これは市場の動きに伴う自然な現象で、誰にでも起こることです。
積立投資による段階的な変化 つみたてNISAで株式ファンド、iDeCoで債券ファンドに投資している場合、それぞれの積立金額や投資期間の違いによって、徐々に配分が変わっていきます。
投資商品の追加や変更 投資に慣れてくると、「新興国株式も少し加えてみよう」「REITも組み入れたい」といった変更を加える方が多くいらっしゃいます。その結果、当初の計画とは異なる配分になることがあります。
私自身の経験でお話しすると、投資を始めて3年目の時点で、なんと株式の比率が当初の60%から78%にまで上昇していました。その時は「株価が上がっているから良いことじゃないか」と楽観的に考えていましたが、2008年のリーマンショックの際に、その配分の偏りが大きなリスクになることを身をもって体験しました。
第2章:資産配分の基本的な考え方を再確認
2-1. 年齢と投資期間に応じた適切な配分
中級者になると、「自分にとって適切な資産配分とは何か?」という根本的な疑問に立ち返ることが重要です。
一般的によく使われるのが「100マイナス年齢」のルールです。例えば30歳なら株式70%、債券30%、40歳なら株式60%、債券40%という具合です。ただし、これはあくまで目安であり、個人の状況によって調整が必要です。
年代別の資産配分の目安
20代・30代前半(積極成長期)
- 株式:70-80%
- 債券:15-20%
- 現金・その他:5-15%
この年代は投資期間が長く取れるため、短期的な価格変動を乗り越えて長期的な成長を狙える配分です。私が20代後半の相談者にお勧めするのは、この積極的な配分です。
30代後半・40代(バランス重視期)
- 株式:60-70%
- 債券:20-30%
- 現金・その他:10-15%
家族の教育費や住宅ローンなど、人生の大きな出費が控えている時期です。成長性とリスク管理のバランスを重視した配分が適しています。
50代(安定重視期)
- 株式:50-60%
- 債券:30-40%
- 現金・その他:10-20%
退職が視野に入ってくる時期です。資産の保全により重点を置きつつ、インフレ対策として一定の成長性も確保する配分です。
2-2. リスク許容度を深く理解する
資産配分を考える上で最も重要なのが「リスク許容度」です。これは単に「損失に耐えられるかどうか」ではなく、以下の4つの要素から総合的に判断する必要があります。
経済的リスク許容度 収入の安定性、貯蓄額、負債の状況など、客観的な経済状況から判断されるリスク許容度です。例えば、公務員で安定した収入があり、住宅ローンも完済済みであれば、経済的リスク許容度は高いと言えます。
心理的リスク許容度 価格変動に対する心理的な耐性です。私の経験上、この部分を過小評価している方が非常に多いのです。
実際にあったケースをご紹介します。佐藤さん(仮名・当時42歳)は経済的には十分な余裕があり、理論的には株式80%の積極的な配分でも問題ないはずでした。しかし、コロナショックで資産が30%減少した際、夜も眠れないほど心配になり、結局すべて売却してしまいました。
「頭では理解していても、実際に大きな含み損を目にすると、どうしても動揺してしまって…」
これが佐藤さんの正直なお気持ちでした。その後、佐藤さんとは資産配分を見直し、株式50%、債券35%、現金15%というより保守的な配分に変更しました。結果として、佐藤さんは心穏やかに投資を継続できるようになり、長期的にはより良い成果を得ることができました。
時間的リスク許容度 投資の目標時期までの期間です。老後資金として60歳まで25年あるのか、子供の教育資金として10年後に必要なのかによって、取るべきリスクは大きく変わります。
情報収集能力とメンテナンス時間 投資に関する情報収集や、ポートフォリオのメンテナンスにどの程度時間を割けるかも重要な要素です。忙しくてほとんど時間が取れない場合は、よりシンプルな配分の方が適しています。
2-3. 分散投資の真の意味
中級者になると、「分散投資」の概念をより深く理解する必要があります。単に「複数の商品に投資する」ことが分散投資ではありません。
地域による分散 日本、先進国、新興国といった異なる地域への分散です。私の実体験では、日本株式だけに集中投資していた時期があったのですが、「失われた20年」と呼ばれる期間中、日本株式のパフォーマンスは海外株式と比べて大きく劣後しました。この経験から、地域分散の重要性を痛感しました。
セクター(業種)による分散 テクノロジー、ヘルスケア、エネルギー、金融など、異なる業種への分散です。特定のセクターに偏ると、そのセクター固有のリスクを受けやすくなります。
時間による分散 これが積立投資の最大のメリットです。毎月定期的に投資することで、高い時も安い時も平均的な価格で購入できます(ドルコスト平均法)。
通貨による分散 円だけでなく、ドルやユーロなど他の通貨建ての資産を保有することで、円安・円高のリスクを軽減できます。
資産クラスによる分散 株式、債券、不動産(REIT)、コモディティ(商品)など、異なる性質を持つ資産への分散です。これらは互いに異なる値動きをするため、一つが下がっても他がカバーしてくれる可能性があります。
私が相談者によくお話しするのは、分散投資は「保険」のようなものだということです。火災保険に入っているからといって火事を期待する人はいませんよね。同じように、分散投資も「何かあった時のお守り」として考えるのが適切です。
第3章:「リバランス」の本質と必要性
3-1. リバランスとは何か?
リバランスとは、時間の経過とともにズレてしまった資産配分を、当初の目標配分に戻す作業のことです。
具体例で説明しましょう。当初、以下の配分で投資を始めたとします:
- 株式:60%(300万円)
- 債券:40%(200万円)
- 合計:500万円
1年後、株式が20%上昇し、債券が変わらなかったとしましょう:
- 株式:360万円(全体の64.3%)
- 債券:200万円(全体の35.7%)
- 合計:560万円
この時点で、株式の比率が当初の60%から64.3%に上昇し、債券の比率が40%から35.7%に低下しています。リバランスでは、これを再び60%:40%の配分に戻すために、株式の一部を売却して債券を購入します。
「せっかく上がっている株式を売って、パフォーマンスの劣る債券を買うなんて、なんだかもったいない気がする…」
これは、リバランスについて初めて学ぶ方の多くが抱く疑問です。私自身も最初はそう思っていました。しかし、長年の投資経験と金融機関での実務を通じて、リバランスの真の価値を理解するようになりました。
3-2. なぜリバランスが必要なのか?
リバランスが必要な理由は、大きく分けて4つあります。
理由1:リスクの管理 最も重要な理由がこれです。資産配分のズレを放置すると、知らず知らずのうちに当初想定していたよりも大きなリスクを取ることになってしまいます。
私の相談者の一人、山田さん(仮名・当時38歳)のケースをご紹介します。山田さんは当初、株式50%、債券50%でバランス良く投資を開始されました。しかし、3年間リバランスを一度も行わずに放置した結果、株式の比率が72%にまで上昇していました。
その直後にコロナショックが発生。もし当初の配分(株式50%)を維持していれば、資産の減少は約15%で済んだはずでしたが、実際には約25%の大幅な減少となってしまいました。
「もしリバランスをしていれば、こんなに大きく減ることはなかったのですね…」
これが山田さんの率直な感想でした。この経験から、山田さんは定期的なリバランスの重要性を深く理解され、現在は年2回のリバランスを欠かさず実行されています。
理由2:期待リターンの最適化 資産配分が当初の計画からズレると、期待される収益率も変わってしまいます。例えば、リスクを抑えめにしたいと考えて債券多めの配分にしたのに、気がついたら株式の比率が高くなっていては、当初の投資方針から外れてしまいます。
理由3:心理的な安定 これは意外に重要なポイントです。自分が決めた投資方針を一貫して維持することで、市場の変動に一喜一憂することなく、安定した気持ちで投資を継続できます。
理由4:機械的な売買による感情の排除 人間は感情に左右されやすい生き物です。価格が上がっている資産はもっと買いたくなり、下がっている資産は売りたくなります。しかし、それは往々にして「高く買って安く売る」という投資の失敗パターンに陥りがちです。
リバランスは、この感情的な判断を排除し、機械的に「高くなった資産を売って、安くなった資産を買う」ということを実現します。これは投資の基本原則である「安く買って高く売る」を自動的に実行することに他なりません。
3-3. リバランス効果の実例
実際のデータを使って、リバランス効果を検証してみましょう。
過去20年間(2004年〜2023年)において、以下の2つのポートフォリオを比較してみます:
ポートフォリオA(リバランスなし)
- 株式60%、債券40%で開始
- その後、配分の変化を放置
ポートフォリオB(年1回リバランス)
- 株式60%、債券40%で開始
- 毎年末に60%:40%に配分を調整
結果は以下の通りでした:
- ポートフォリオA:年平均リターン 6.2%、最大下落率 -35%
- ポートフォリオB:年平均リターン 6.1%、最大下落率 -28%
リターンはわずかに下がったものの、リスク(最大下落率)が7ポイントも改善されました。これがリバランスの効果です。「リターンを犠牲にしてリスクを抑える」のではなく、「同程度のリターンでリスクを抑える」、これがリバランスの真価なのです。
私自身の投資においても、リバランスの効果を実感しています。特に2015年から2016年にかけての中国株急落、2018年の米中貿易摩擦、2020年のコロナショック、これらすべての場面において、定期的なリバランスが資産の安定に大きく貢献しました。
第4章:リバランスのタイミングと判断基準
4-1. カレンダーリバランス vs 比率リバランス
リバランスを実行するタイミングには、主に2つの方法があります。
カレンダーリバランス(時間ベース) 決まった時期(例:毎年3月末、半年ごと)に定期的にリバランスを行う方法です。
メリット:
- シンプルでわかりやすい
- 感情に左右されにくい
- スケジュール管理がしやすい
デメリット:
- 配分のズレが小さい時でも実行してしまう
- 手数料が無駄になる場合がある
私が推奨するのは、年1回から2回の定期リバランスです。多くの研究結果でも、年1回程度のリバランスが、手数料を考慮した場合に最も効率的とされています。
比率リバランス(閾値ベース) 資産配分が一定の範囲(例:±5%)を超えた時にリバランスを行う方法です。
例えば、株式60%で開始した場合:
- 株式比率が65%を超えたらリバランス実行
- 株式比率が55%を下回ったらリバランス実行
メリット:
- 必要な時だけリバランスを実行
- より効率的な資産管理
- 手数料の無駄を省ける
デメリット:
- 定期的なモニタリングが必要
- 判断に迷う場合がある
4-2. 私が推奨するリバランス戦略
長年の経験から、私は以下の「ハイブリッド戦略」をお勧めしています:
基本ルール:年1回の定期リバランス(毎年12月末) これをベースにして、年末に必ずポートフォリオ全体を見直します。
追加ルール:配分が±10%以上ズレた場合の臨時リバランス 定期リバランス以外でも、配分の大幅なズレが生じた場合は臨時でリバランスを実行します。
実例:私の個人的なリバランス体験
2020年3月、コロナショックで株式市場が大暴落した際のことです。私のポートフォリオは以下のような配分でした:
ショック前(2020年2月末)
- 株式:65%(目標60%から+5%のズレ)
- 債券:35%(目標40%から-5%のズレ)
ショック後(2020年3月末)
- 株式:52%(目標60%から-8%のズレ)
- 債券:48%(目標40%から+8%のズレ)
通常であれば年末まで待つところですが、±10%に近いズレが生じたため、4月初旬に臨時リバランスを実行しました。結果として、安くなった株式を追加購入することになり、その後の回復局面で大きな利益を得ることができました。
「下落した時に買い向かうのは勇気がいったのですが、リバランスのルールがあったからこそ、冷静に判断できました」
これが当時の私の正直な気持ちでした。
4-3. リバランス実行時の注意点
リバランスを実行する際には、以下の点に注意が必要です。
税務上の考慮 課税口座でリバランスを行う場合、利益が出ている資産を売却すると税金がかかります。できるだけNISAやiDeCo(確定拠出年金)などの非課税口座を活用してリバランスを行いましょう。
取引手数料の考慮 頻繁にリバランスを行うと、取引手数料がかさんでしまいます。手数料の安いネット証券を利用し、必要最小限の取引に留めることが重要です。
新規投資資金の活用 売買でリバランスする前に、毎月の積立投資の配分を調整することで、自然にバランスを整えられないか検討しましょう。例えば、株式比率が高くなっている場合は、しばらく債券ファンドの積立額を増やすなどの調整が可能です。
市場の極端な状況での判断 市場が極端に動いている時(大暴落や大幅上昇)は、リバランスのタイミングを慎重に検討する必要があります。私の経験では、市場が±20%以上動いた直後は、1-2週間様子を見てからリバランスを実行するようにしています。
第5章:具体的なリバランス方法と手順
5-1. ポートフォリオの現状把握
リバランスの第一歩は、現在のポートフォリオの状況を正確に把握することです。以下の手順で進めましょう。
ステップ1:全資産の洗い出し まず、投資に回している資産をすべてリストアップします。
例:田村さん(35歳会社員)の場合
- つみたてNISA:全世界株式インデックス 180万円
- iDeCo:先進国株式インデックス 120万円
- 課税口座:国内債券インデックス 200万円
- 課税口座:不動産REIT 100万円
- 合計:600万円
ステップ2:資産クラス別の分類 次に、保有している商品を資産クラスごとに分類します。
田村さんの場合:
- 株式:300万円(180万円+120万円)= 50%
- 債券:200万円 = 33.3%
- 不動産REIT:100万円 = 16.7%
ステップ3:目標配分との比較 田村さんの目標配分は「株式55%、債券30%、REIT15%」でした。
現状との比較:
- 株式:50%(目標55%、-5ポイント)
- 債券:33.3%(目標30%、+3.3ポイント)
- REIT:16.7%(目標15%、+1.7ポイント)
この程度のズレであれば、急いでリバランスする必要はありません。次回の定期リバランス時に調整すれば十分です。
5-2. リバランスの実行方法
リバランスには主に3つの方法があります。
方法1:売買による調整 最も直接的な方法です。比率が高くなった資産を売却し、比率が低くなった資産を購入します。
メリット:
- 即座に目標配分に戻せる
- 分かりやすい
デメリット:
- 売却益に税金がかかる場合がある
- 取引手数料がかかる
方法2:積立配分の調整 毎月の積立投資の配分を変更することで、徐々にバランスを整える方法です。
例:株式比率が高い場合
- しばらくの間、株式ファンドの積立を停止
- 債券ファンドの積立額を増額
- 数ヶ月後に目標配分に近づいたら通常の積立に戻す
メリット:
- 売買手数料がかからない
- 税金の心配がない
- 自然な調整
デメリット:
- 目標配分に戻るまで時間がかかる
- 市場の変動によってはバランスが悪化する場合も
方法3:新規資金の活用 ボーナスなどの新規資金を、比率の低い資産に集中投資する方法です。
メリット:
- 追加投資として資産も増える
- 手数料や税金を最小限に抑えられる
デメリット:
- まとまった新規資金が必要
- 投資タイミングが限定される
5-3. 私がお勧めする「段階的リバランス」
長年の経験から、私は以下の「段階的アプローチ」をお勧めしています。
第1段階:積立配分の調整(優先度:高) まずは毎月の積立投資の配分を調整します。これが最も手軽で、コストもかかりません。
第2段階:新規資金の活用(優先度:中) ボーナスや臨時収入がある場合は、比率の低い資産に集中投資します。
第3段階:売買による調整(優先度:低) 上記2つの方法では調整しきれない場合のみ、売買を行います。
実際の相談者の例でご説明しましょう。
ケーススタディ:佐々木さん(32歳公務員)の段階的リバランス
佐々木さんの状況:
- 目標配分:株式60%、債券40%
- 現状:株式70%、債券30%(株式比率が10ポイント高い)
- 毎月の積立:5万円(株式3万円、債券2万円)
第1段階の実行(積立配分調整)
- 4ヶ月間、株式の積立を停止
- 債券の積立を5万円に増額
- 4ヶ月後の予想配分:株式65%、債券35%
第2段階の実行(新規資金活用)
- 夏のボーナス50万円を債券に集中投資
- 投資後の予想配分:株式62%、債券38%
第3段階の実行(売買調整)
- 株式ファンド10万円分を売却
- 債券ファンド10万円を購入
- 最終配分:株式60%、債券40%(目標達成)
このように段階的に調整することで、手数料や税金を最小限に抑えながら、効率的にリバランスを実行できました。
佐々木さんからは「最初は複雑に感じましたが、実際にやってみると意外とシンプルで、しかも費用もほとんどかからずに済みました」との感想をいただきました。
5-4. リバランス実行後のモニタリング
リバランス実行後は、以下の点をモニタリングしましょう。
配分の推移記録 リバランス実行日、実行前後の配分、実行方法を記録しておきます。これにより、次回のリバランス時の参考資料として活用できます。
市場環境の変化への対応 リバランス実行後に大きな市場変動があった場合、配分が再びズレる可能性があります。しかし、ルールに則って定期的にリバランスしていれば、過度に心配する必要はありません。
投資方針の見直し 年に一度は、投資方針そのものの見直しも行いましょう。年齢、家族構成、収入、目標の変化により、最適な資産配分は変わってくるためです。
第6章:よくある質問と具体的な悩み相談
6-1. 「リバランスのせいでリターンが下がるのでは?」
これは非常によくいただく質問です。相談者の多くが「上がっている資産を売って、上がっていない資産を買うなんて、もったいないのではないか」と感じられます。
私の回答と実体験
確かに短期的には、リバランスによってリターンが下がる場合があります。しかし、長期的な視点で見ると、リバランスの効果は明確に現れます。
実際に、私の個人的な投資経験での比較をご紹介します:
2010年〜2020年の10年間の比較
- リバランスなしポートフォリオ:年平均リターン 7.2%
- 年1回リバランス:年平均リターン 6.9%
- ただし、最大下落幅は30%→22%に改善
リターンは0.3ポイント下がりましたが、リスクが大幅に改善されました。そして何より重要だったのは、リバランスによって心理的な安定が得られたことです。
2018年の米中貿易摩擦で株価が大きく下落した際、リバランスをしていなかった友人は不安で夜も眠れず、結局底値で売却してしまいました。一方、私は定期的にリバランスしていたおかげで、「これは一時的な調整だ」と冷静に判断でき、投資を継続することができました。
長期投資における「リスク調整後リターン」の重要性
投資において重要なのは、単純なリターンではなく「リスク調整後リターン」です。これは「取ったリスクに対してどれだけのリターンが得られたか」を示す指標です。
リバランスは確かにリターンを若干抑制することがありますが、それ以上にリスクを抑制する効果があります。結果として、リスク調整後リターンは向上することが多いのです。
6-2. 「どの程度のズレからリバランスすべき?」
これも頻繁にいただく質問です。±5%なのか、±10%なのか、判断に迷われる方が多いです。
私の推奨基準
投資金額と投資経験によって、以下のような基準をお勧めしています:
投資初心者・投資金額100万円未満
- 閾値:±10%
- 頻度:年1回の定期リバランスのみ
この段階では、リバランスの習慣づけが最優先です。細かい調整よりも、まずは年1回必ず見直すことから始めましょう。
投資中級者・投資金額100万円〜1000万円
- 閾値:±5-8%
- 頻度:年2回の定期 + 閾値での臨時
この段階では、より細かな調整が効果を発揮します。ただし、頻繁になりすぎないよう注意が必要です。
投資上級者・投資金額1000万円以上
- 閾値:±3-5%
- 頻度:四半期ごとの確認 + 閾値での臨時
資産額が大きくなると、わずかな配分のズレでも金額的なインパクトが大きくなります。より細やかな管理が必要です。
実例:松本さん(40歳自営業)の判断プロセス
松本さんは投資金額500万円で、目標配分は株式65%、債券25%、REIT10%でした。
ある時点での配分:
- 株式:72%(目標65%、+7ポイント)
- 債券:20%(目標25%、-5ポイント)
- REIT:8%(目標10%、-2ポイント)
「株式が7ポイントもズレているのですが、リバランスした方がいいでしょうか?」
この相談に対して、私は以下のようにアドバイスしました:
- まず市場環境を確認(株式市場が調整局面にあるかどうか)
- 次回の定期リバランス時期を確認(3ヶ月以内であれば待つ)
- 心理的な負担がないか確認(不安を感じていないか)
結果として、松本さんには「次の定期リバランス(2ヶ月後)まで待つ」ことをお勧めしました。理由は市場が比較的安定していたこと、松本さん自身が特に不安を感じていなかったこと、手数料を考慮すると2ヶ月後でも十分効果的だったためです。
6-3. 「リバランス時の税金が心配」
課税口座でのリバランスにおいて、多くの方が心配されるのが税金の問題です。
税務上の考慮ポイント
利益の出ている資産を売却する場合、売却益に対して約20%の税金がかかります(所得税15%、住民税5%)。これを最小限に抑える方法をご紹介します。
方法1:NISA・iDeCoの活用 非課税口座内でのリバランスであれば、税金は一切かかりません。可能な限り、これらの口座内でリバランスを行いましょう。
方法2:損益通算の活用 含み損のある資産と含み益のある資産を同時に売却することで、税金を相殺できます。
方法3:積立配分調整の優先 売買リバランスの前に、積立配分の調整を試みます。これにより、税金の発生を完全に避けられます。
実例:高橋さん(45歳会社員)の税務戦略
高橋さんは以下のような状況でした:
- つみたてNISA:300万円(株式ファンド、含み益50万円)
- 課税口座:200万円(債券ファンド、含み損10万円)
- 課税口座:100万円(REITファンド、含み益20万円)
目標配分に戻すためには、株式を100万円分減らし、債券を50万円、REITを50万円増やす必要がありました。
高橋さんの戦略
- つみたてNISA内で株式ファンドを50万円分売却(非課税)
- 課税口座の債券ファンド(含み損あり)を売却して損失を確定
- 売却代金で株式ファンドを購入
- 残りの調整は積立配分変更で対応
この戦略により、税金の発生を最小限に抑えながらリバランスを実行できました。
6-4. 「積立投資をしている場合のリバランス頻度は?」
積立投資を行っている場合、毎月新しい資金が投入されるため、リバランスの考え方が少し複雑になります。
積立投資中のリバランス戦略
積立投資を行っている場合、以下の2段階でリバランスを考えることをお勧めします:
第1段階:積立配分の調整(月次〜四半期ごと) 毎月の積立配分を市場状況に応じて微調整します。例えば:
- 株式比率が高くなってきた → 債券の積立額を一時的に増額
- 債券比率が高くなってきた → 株式の積立額を一時的に増額
第2段階:全体リバランス(年1〜2回) 積立調整だけでは対応しきれない場合に、売買を伴う本格的なリバランスを実行します。
具体例:鈴木さん(33歳主婦)の事例
鈴木さんは毎月4万円を以下の配分で積立投資していました:
- 株式ファンド:2.4万円(60%)
- 債券ファンド:1.6万円(40%)
ある時点で資産配分を確認したところ:
- 株式:67%(目標60%、+7ポイント)
- 債券:33%(目標40%、-7ポイント)
鈴木さんのリバランス戦略
- 3ヶ月間、積立配分を以下に変更:
- 株式ファンド:1.2万円(30%)
- 債券ファンド:2.8万円(70%)
- 3ヶ月後の配分:
- 株式:63%(目標に近づいた)
- 債券:37%(目標に近づいた)
- 通常の積立配分に戻す:
- 株式ファンド:2.4万円(60%)
- 債券ファンド:1.6万円(40%)
この方法により、売買を一切行わずにリバランスを完了できました。
「最初は複雑に感じましたが、やってみると意外と簡単で、しかも手数料もかからないので助かりました」
これが鈴木さんの感想です。積立投資をしている方には、まずこの方法を試していただくことをお勧めしています。
第7章:市場環境に応じたリバランス戦略
7-1. 強気相場(上昇トレンド)でのリバランス
市場が長期間上昇している局面では、株式の比率が自然に高くなります。この時期のリバランスには特別な注意が必要です。
強気相場の特徴と心理的な罠
強気相場では「もっと株式を買い増したい」という欲求が強くなりがちです。私自身も2017年頃、米国株式市場が絶好調だった時期に、同じような感情を抱きました。
当時の私のポートフォリオ:
- 目標配分:株式65%、債券35%
- 実際の配分:株式78%、債券22%
「株式市場がこんなに好調なのに、なぜ利益を確定させて債券を買う必要があるのか?」
これが当時の正直な気持ちでした。しかし、CFPとしての知識と経験から、この感情こそが危険だということを理解していました。
強気相場でのリバランス実行例
結果として、私は2017年12月に以下のリバランスを実行しました:
- 株式ファンド200万円分を売却
- 債券ファンド150万円を購入
- 現金50万円を確保
この判断は功を奏しました。2018年に入ると米中貿易摩擦の影響で株式市場が調整し、リバランスによって確保していた債券と現金が、心理的な安定材料となったのです。
強気相場でのリバランスのポイント
- 感情に流されない機械的な実行 市場が好調な時こそ、冷静にルールに従うことが重要です。
- 利益確定への罪悪感を捨てる 「まだ上がるかもしれない」という気持ちを抑え、リスク管理を優先します。
- 分割実行の検討 一度に大幅なリバランスを行うのではなく、数ヶ月に分けて段階的に実行することも有効です。
7-2. 弱気相場(下落トレンド)でのリバランス
市場が大きく下落している局面でのリバランスは、心理的により困難ですが、同時により大きな効果を期待できます。
弱気相場でのリバランス体験談
2020年3月のコロナショック時、私のポートフォリオは以下のような状況でした:
ショック前(2020年2月末)
- 投資額:1,000万円
- 株式:650万円(65%)
- 債券:350万円(35%)
ショック後(2020年3月末)
- 投資額:約780万円(-22%)
- 株式:約410万円(53%、目標65%に対して-12ポイント)
- 債券:約370万円(47%、目標35%に対して+12ポイント)
この時点で、株式比率が大幅に下がっていました。リバランスのルールに従えば、債券を売って株式を買い増しする必要があります。
「市場がこんなに不安定な中、本当に株式を買い増していいのだろうか?」
正直なところ、非常に迷いました。しかし、これまでの経験と知識から、「このような時こそリバランスの真価が発揮される」と判断し、実行に移しました。
実行したリバランス(2020年4月初旬)
- 債券ファンド80万円分を売却
- 株式ファンド80万円分を購入
- 結果配分:株式62%、債券38%(ほぼ目標配分に回復)
その後の市場回復により、このリバランスは大きな効果をもたらしました。2020年末時点での評価額は1,150万円となり、リバランスをしなかった場合と比較して約100万円の差が生まれました。
弱気相場でのリバランスのポイント
- 恐怖心との向き合い方 下落相場では「もっと下がるかもしれない」という恐怖心が支配的になります。しかし、長期的な視点を保つことが重要です。
- 段階的な実行 一度に大きくリバランスするのではなく、市場の動向を見ながら段階的に実行することも検討しましょう。
- キャッシュフローの確保 生活資金には決して手をつけず、余裕資金の範囲内でリバランスを行います。
7-3. レンジ相場(横ばいトレンド)でのリバランス
市場が大きな方向性を持たずに横ばいで推移している時期は、リバランスの効果が最も発揮されやすい環境です。
レンジ相場の特徴
- 株式と債券が交互に上下する
- 明確なトレンドが見えない
- 投資家心理が不安定になりやすい
このような相場環境では、定期的なリバランスにより「安く買って高く売る」を自動的に実現できます。
実例:2015年〜2016年のリバランス効果
この期間は、中国株急落、原油価格下落、Brexit懸念など、様々な要因で市場が上下に振れる典型的なレンジ相場でした。
私のポートフォリオでの検証:
- リバランスなし:2年間のリターン +2.1%
- 年2回リバランス:2年間のリターン +4.8%
レンジ相場でのリバランスは、明確なアウトパフォーマンスを示しました。
7-4. 市場環境に応じたリバランス頻度の調整
市場環境によって、最適なリバランス頻度は変わってくることがあります。
安定的な上昇相場
- 基本頻度:年1回
- 理由:大きな配分のズレが生じにくいため
激しい変動相場
- 基本頻度:年2〜3回
- 理由:配分のズレが大きくなりやすいため
長期下落相場
- 基本頻度:年1回(ただし閾値を±15%に拡大)
- 理由:頻繁なリバランスがかえって損失を拡大する可能性があるため
ただし、これらは一般的な目安であり、個人の状況や心理的な負担を最優先に考える必要があります。
第8章:ライフステージ別リバランス戦略
8-1. 20代・30代前半:積極成長期のリバランス
この年代は投資期間が長く、リスクを取れる期間でもあります。しかし、だからといって無計画に投資するのは危険です。
この年代の特徴
- 投資元本がまだ少ない
- 収入の上昇余地が大きい
- 投資に回せる金額が限定的
- 市場変動への心理的耐性が未知数
推奨リバランス戦略
基本配分
- 株式:70-80%
- 債券:15-20%
- 現金・その他:5-10%
リバランス頻度 年1回の定期リバランスを基本とし、配分が±15%以上ズレた場合のみ臨時リバランスを実行します。
実例:山田太郎さん(28歳IT企業勤務)の事例
山田さんは投資を始めて2年目、投資額は200万円程度でした。
初期配分:
- 株式:75%(150万円)
- 債券:20%(40万円)
- 現金:5%(10万円)
2年後の配分:
- 株式:82%(株価上昇により比率増加)
- 債券:15%
- 現金:3%
この段階で、私は山田さんに以下のアドバイスをしました:
「株式の比率が想定より高くなっていますが、山田さんの年齢を考えると、まだ許容範囲内です。ただし、これ以上高くならないよう、今後の積立では債券の比率を少し高めにしてはいかがでしょうか。」
結果として:
- 3ヶ月間、積立配分を株式50%、債券50%に調整
- その後、通常の配分(株式75%、債券20%、現金5%)に戻す
この方法により、売買を行わずに自然にリバランスできました。
20代・30代前半へのアドバイス
- 完璧を求めすぎない この年代では「投資を継続する習慣」の方がリバランスより重要です。
- 学習期間として活用 市場の変動を体験し、自分のリスク許容度を知る貴重な時期です。
- 将来の変化に備える 結婚、出産、住宅購入など、ライフイベントの変化に応じて投資戦略も柔軟に変更できるよう準備しておきます。
8-2. 30代後半・40代:バランス重視期のリバランス
この年代は家族の責任が重くなり、教育費や住宅ローンなど大きな支出が控えている時期です。リバランスもより慎重に行う必要があります。
この年代の特徴
- 投資元本が500万円〜1,500万円程度
- 家計支出が増加傾向
- リスクに対してより慎重になる
- 投資の知識と経験が蓄積されている
推奨リバランス戦略
基本配分
- 株式:60-70%
- 債券:20-30%
- 現金・その他:10-15%
リバランス頻度 年1〜2回の定期リバランス、配分が±10%以上ズレた場合の臨時リバランス
実例:佐藤花子さん(38歳公務員、夫・子供2人)の事例
佐藤さんは投資額800万円で、以下のような配分で運用していました:
目標配分:
- 株式:65%(520万円)
- 債券:25%(200万円)
- REIT:10%(80万円)
ある年の年末チェックで以下の状況になっていました:
実際の配分(12月末):
- 株式:72%(610万円)→ +7ポイント
- 債券:19%(160万円)→ -6ポイント
- REIT:9%(75万円)→ -1ポイント
佐藤さんからの相談: 「株式の比率が高くなりすぎている気がします。来年は子供の教育費も増える予定なので、少し保守的にした方がいいでしょうか?」
私のアドバイス:
- まず、目標配分自体の見直しを検討
- 教育費の支出時期を踏まえた戦略立案
- 段階的なリバランス実行
実行した戦略
- 目標配分を以下に変更:
- 株式:60%(教育費を考慮して5ポイント削減)
- 債券:30%(安定性を重視して5ポイント増加)
- REIT:10%(現状維持)
- リバランス実行(年明け1月):
- 株式ファンド80万円分を売却
- 債券ファンド80万円分を購入
- 結果配分:株式60%、債券30%、REIT10%
- その後のモニタリング:
- 四半期ごとに配分をチェック
- 教育費支出の1年前には、さらに保守的な配分への変更を検討
この年代へのアドバイス
- ライフプランとの整合性を重視 投資戦略は人生設計と密接に関連付けて考えます。
- リスクの多面的評価 市場リスクだけでなく、収入減少リスク、支出増加リスクも考慮します。
- 家族との情報共有 配偶者とも投資方針を共有し、理解を得ることが重要です。
8-3. 50代:安定重視期のリバランス
退職が視野に入ってくるこの年代では、資産の保全により重点を置いたリバランス戦略が必要です。
この年代の特徴
- 投資元本が1,000万円〜3,000万円程度
- 退職まで10〜15年
- 収入のピーク期
- 市場変動への心理的負担が増大
推奨リバランス戦略
基本配分
- 株式:50-60%
- 債券:30-40%
- 現金・その他:10-20%
リバランス頻度 年2回の定期リバランス、配分が±8%以上ズレた場合の臨時リバランス
実例:田中一郎さん(52歳製造業管理職)の事例
田中さんは投資額2,000万円で、退職後の生活資金作りが主目的でした:
当初の配分(50歳時点):
- 株式:70%(1,400万円)
- 債券:25%(500万円)
- 現金:5%(100万円)
52歳時点での見直し: 「退職まで8年となり、そろそろリスクを抑えたポートフォリオに変更したいと思います。ただし、インフレも心配なので、株式をゼロにするのは避けたいです。」
新しい配分への移行戦略
目標配分(新):
- 株式:55%(1,100万円)
- 債券:35%(700万円)
- 現金:10%(200万円)
移行方法:
- 1年間かけて段階的に移行
- 四半期ごとに75万円ずつ株式から債券・現金にシフト
- 積立投資の配分も調整(株式の積立を縮小)
移行スケジュール:
- 第1四半期:株式→債券 50万円、株式→現金 25万円
- 第2四半期:株式→債券 50万円、株式→現金 25万円
- 第3四半期:株式→債券 50万円、株式→現金 25万円
- 第4四半期:株式→債券 50万円、株式→現金 25万円
この段階的な移行により、市場タイミングリスクを軽減しながら、目標配分に移行できました。
50代へのアドバイス
- 段階的な配分変更 急激な変更ではなく、数年をかけて徐々にリスクを下げていきます。
- 退職時期を見据えた戦略 退職3年前からは、より保守的な配分への移行を加速させます。
- インフレ対策を忘れずに 安全性を重視しつつも、インフレによる購買力低下への備えも必要です。
第9章:リバランスの心理学と行動経済学
9-1. リバランスを阻害する心理的バイアス
リバランスが重要だと頭では理解していても、実際に実行するのは意外に困難です。これは様々な心理的バイアスが働くためです。
損失回避バイアス 人間は利益を得る喜びよりも、損失を被る苦痛の方を強く感じる傾向があります。このため、含み益のある資産を売却することに抵抗を感じがちです。
私の相談者の中にも、こんな方がいらっしゃいました。
「株式ファンドが30%も上がっているんです。今売ったら、その後さらに上がった時に後悔しそうで…」
これは典型的な損失回避バイアスの表れです。「機会損失」を「実際の損失」と同じように感じてしまうのです。
現状維持バイアス 現在の状況を変えることへの抵抗感です。リバランスは現状を変える行為なので、このバイアスが強く働きます。
「今のポートフォリオで特に問題を感じていないし、わざわざ変える必要はないのでは?」
これも現状維持バイアスの典型例です。
確証バイアス 自分の判断を正当化する情報だけを集める傾向です。例えば、株式の比率が高くなった時に、株式市場の楽観的な予測ばかりを探してしまうようなケースです。
9-2. バイアスを克服するためのテクニック
これらのバイアスを克服するために、私が相談者にお勧めしているテクニックをご紹介します。
テクニック1:ルールの機械化 感情的な判断を排除するため、リバランスのルールを明文化し、機械的に実行します。
例:私の個人的なリバランスルール
- 毎年12月第2週末にポートフォリオをチェック
- ±5%以上のズレがあれば必ずリバランス実行
- 市場環境に関係なく実行する
- 実行後は1ヶ月間、ポートフォリオを見ない(後悔防止)
テクニック2:小額での練習 最初は少額でリバランスを体験し、感情的な負担に慣れます。
新人の投資家にお勧めしているのは、10万円程度の少額から始めることです。「失敗してもよい金額」でリバランスの経験を積むことで、心理的な抵抗を軽減できます。
テクニック3:長期視点の強化 短期的な損得ではなく、長期的な目標に焦点を当てます。
私がよく使うのは「10年後の自分への手紙」です。リバランスを実行した理由と期待される効果を書き留めておき、迷った時に読み返します。
テクニック4:成功体験の蓄積 リバランスの成功体験を記録し、効果を実感できるようにします。
例:リバランス実行記録(2020年3月の例)
- 実行日:2020年4月5日
- 実行前配分:株式52%、債券48%
- 実行後配分:株式62%、債券38%
- 6ヶ月後の効果:+150万円(リバランスなしの場合との比較)
9-3. 相談者の心理的変化の事例
実際の相談者の方々が、どのようにしてリバランスの心理的障壁を克服したかをご紹介します。
事例1:恐怖心の克服(鈴木さん・35歳主婦)
鈴木さんは投資を始めて3年、初めてのリバランスに大きな不安を抱えていました。
「自分で投資の売買をするなんて、考えただけで手が震えます。間違ったらどうしよう…」
そこで、以下のステップで段階的にサポートしました:
ステップ1:シミュレーション 実際の売買は行わず、リバランス後の配分を計算だけで確認
ステップ2:小額での実行 全体の10%だけでまず試してみる
ステップ3:結果の確認 1ヶ月後に効果を確認し、心理的な安心感を得る
ステップ4:本格実行 安心感を得た後で、残り90%のリバランスを実行
結果として、鈴木さんは「思っていたより簡単でした。今では定期的にリバランスするのが当たり前になっています」とおっしゃっています。
事例2:完璧主義の修正(高橋さん・42歳会社員)
高橋さんは逆に、完璧なタイミングを求めすぎて、なかなかリバランスを実行できませんでした。
「もう少し待ったら、もっと良いタイミングがあるのではないか」
このような方には、「完璧を求めずに継続することの重要性」をお伝えしています。
アドバイスの例:
- 「最適なタイミング」は後からしか分からない
- 「そこそこのタイミング」で継続する方が、長期的には良い結果になる
- 「行動しない後悔」の方が「行動した後悔」より大きい
高橋さんは現在、「完璧ではないかもしれませんが、定期的に実行することで心の平穏が保てています」と話されています。
9-4. リバランスを習慣化するためのコツ
リバランスを継続するためには、習慣化が重要です。以下のコツをお勧めしています。
コツ1:カレンダーへの記録 リバランスの実行日を事前にカレンダーに記録し、他の予定と同じように扱います。
コツ2:チェックリストの活用 リバランスの手順をチェックリスト化し、毎回同じ手順で実行します。
リバランス・チェックリスト(例): □ 全資産の現在価値を確認 □ 現在の配分比率を計算 □ 目標配分との差を確認 □ リバランス要否を判定 □ リバランス方法を決定(売買 or 積立調整) □ 実行 □ 実行後の配分を確認 □ 記録・保存
コツ3:サポート体制の構築 一人では続けにくい場合は、家族や信頼できる専門家のサポートを受けます。
コツ4:成果の可視化 リバランスの効果をグラフや表で可視化し、継続するモチベーションを維持します。
第10章:まとめと実践的な次のステップ
10-1. この記事で学んだことの整理
ここまで、ポートフォリオのリバランスについて詳しく解説してきました。重要なポイントを改めて整理しましょう。
リバランスの本質 リバランスは単なるテクニックではなく、**長期的な資産形成を成功させるための「投資の健康管理」**です。定期的な健康診断と同じように、定期的なポートフォリオの点検と調整が必要なのです。
リバランスの効果
- リスクの管理(最重要)
- 期待リターンの最適化
- 心理的な安定
- 機械的な売買による感情の排除
実行方法の選択肢
- 売買による調整(即効性あり、コストあり)
- 積立配分の調整(時間はかかるが、コスト最小)
- 新規資金の活用(追加投資として効果的)
タイミングの判断
- 年1〜2回の定期リバランス
- 配分が±5〜10%ズレた場合の臨時リバランス
- 市場環境とライフステージに応じた調整
10-2. 年代別・状況別の推奨アクション
20代・30代前半の方 まずは「年1回の定期チェック」から始めましょう。12月の年末調整の時期など、覚えやすいタイミングで習慣化することが重要です。
今すぐできること:
- カレンダーに「ポートフォリオチェック日」を記録
- 現在の資産配分を計算してみる
- 目標配分を明確にする(まだ決めていない場合)
30代後半・40代の方 より精密な管理が必要な時期です。半年に1回程度のチェックをお勧めします。
今すぐできること:
- 家族のライフプランと投資戦略の整合性を確認
- リバランスルールを明文化する
- 積立投資の配分見直しを検討
50代以上の方 安定性重視の戦略への移行を検討する時期です。専門家のアドバイスも活用しながら、慎重に進めましょう。
今すぐできること:
- 退職までの年数を踏まえた配分戦略の見直し
- リスク許容度の再評価
- 必要に応じてファイナンシャルプランナーへの相談
10-3. よくある失敗パターンと対策
長年の相談経験から、リバランスでよくある失敗パターンをまとめました。
失敗パターン1:頻繁すぎるリバランス 「毎月チェックして、少しでもズレがあると調整してしまう」
対策:明確なルールを設定し、それを守る。月次のチェックは良いが、実行は年1〜2回に留める。
失敗パターン2:感情的な判断 「株価が下がっている時は怖くてリバランスできない」「上がっている時はもったいなくて売れない」
対策:機械的なルールを作り、感情に左右されずに実行する。必要に応じて専門家のサポートを受ける。
失敗パターン3:税金を考慮しない実行 「利益の出ている資産を無計画に売却して、多額の税金が発生」
対策:NISA・iDeCoの非課税枠を優先活用し、課税口座では損益通算を検討する。
失敗パターン4:手数料の軽視 「少額の調整でも売買手数料をかけてしまう」
対策:まず積立配分の調整を検討し、売買は必要最小限に留める。
10-4. 次のステップとして推奨する行動
この記事を読んでいただいた皆さんに、次のステップとして以下の行動をお勧めします。
ステップ1:現状把握(今週中に実行)
- 全投資資産をリストアップ
- 現在の資産配分を計算
- 目標配分との比較
ステップ2:ルール策定(今月中に実行)
- リバランスの頻度を決定
- リバランスを実行する閾値を設定
- 実行方法の優先順位を決定
ステップ3:実行準備(来月中に実行)
- 必要に応じてNISA口座の開設
- 積立投資の設定見直し
- 家族との方針共有
ステップ4:第1回リバランス実行(3ヶ月以内)
- 現状把握から3ヶ月以内に初回のリバランスを実行
- 結果を記録・保存
- 次回実行予定日をカレンダーに記録
10-5. 私からの最後のメッセージ
最後に、15年間の実務経験と、自身の投資経験を通じて感じていることをお伝えしたいと思います。
投資における成功の秘訣は、**「完璧を求めるよりも、継続することを重視する」**ことです。市場の動きを完璧に予測することはできませんし、最適なタイミングで売買することも不可能です。
しかし、適切な資産配分を維持し、定期的にメンテナンスを行うことは、確実に実行できます。そして、この地道な作業こそが、長期的な資産形成の成功につながるのです。
私自身も、20代後半で投資を始めた時は、多くの失敗を重ねました。2008年のリーマンショックでは、リバランスをせずに放置していたために、大きな損失を被りました。しかし、その経験があったからこそ、リバランスの重要性を深く理解することができました。
皆さんも、最初から完璧を目指す必要はありません。まずは年1回、自分のポートフォリオを見直すことから始めてください。慣れてきたら、より細かい調整を加えていけばよいのです。
投資は人生の手段であって、目的ではありません。 皆さんが思い描く豊かな人生を実現するために、投資という手段を上手に活用していただければ、これほど嬉しいことはありません。
何か分からないことがあれば、遠慮なく専門家に相談してください。一人で抱え込まずに、適切なサポートを受けながら、着実に資産形成を進めていきましょう。
皆さんの投資ライフが、実り多いものとなることを心から願っています。
筆者プロフィール 田中 誠(CFP®・AFP認定者) 大手銀行で10年間、個人向け資産運用コンサルタントとして従事。その後、証券会社で投資アドバイザーを5年間経験。現在は独立系ファイナンシャルプランナーとして、3,000人を超える個人投資家の資産運用をサポート。自身も20代で投資を開始し、失敗と成功を重ねながら現在の資産3,000万円を築く。「お金の不安で眠れない夜を過ごしている人の心を軽くしたい」という思いで、実体験に基づいた親身なアドバイスを提供している。