昨今、より良い収入を目指し、多くの人々が職場変更や副業への取り組みを強化しています。
よく、年収が多いに越したことはないと考えがちですが、実際には年収の増加に伴って、税金の比率も上昇する傾向にあります。
給料から自動的に税金が引かれるシステムにより、どの程度の割合で税金が引かれているのかは把握しづらいものです。しかし、具体的な金額を知っておくことは、財政計画において非常に重要です。
本稿では、年収から差し引かれる税金、税制の不利な面、そして最もコストパフォーマンスの良い年収範囲に関して、詳しく説明していきます。
給与から差し引かれる税金
税金の配分とその利用について
多くのサラリーマンにとって、月々の給料からはさまざまな種類の税金が控除され、最終的に手元に残る金額は銀行口座に振り込まれます。
重要なのは、年収というのは税金を差し引く前の総額であるため、実際に受け取る手取り額は年収より少ないということです。
特に注目すべきは、所得税に関しては、総所得金額に応じて税率が変化する点です。これは累進課税と呼ばれています。年収に変動があっても、各種税率にかかるパーセンテージは、ほぼ変わりません。
これにより、年収が高いほど、より多くの税金を負担することになるわけです。
給与から差し引かれる税金 | 税率 |
所得税 | 課税所得 × 5~45% |
復興特別所得税 | 所得税額 × 2.1% |
住民税 | (前年課税総所得 × 10% + 5,000円)/ 12ヶ月 |
健康保険 | 標準報酬月額 × 約4.95% (健保組合ごとに異なる) |
厚生年金 | 標準報酬月額 × 9.15% |
介護保険(40歳以上) | 標準報酬月額 × 0.9% |
雇用保険 | 賃金総額 × 0.3%~0.4% (業種による) |
課税所得と税率の関係
所得税の計算は、5%から45%にわたる7つの段階によって行われ、所得が増えるにつれて税率も上昇します。
特に、会社員にとっては重要なポイントとなります。年収が2倍に増えたとしても、増加する税率の影響で手取り額が2倍になるわけではありません。
ここでいう「所得金額」とは、単純に年収と同じとは限りません。
年収からは「給与所得控除」、「基礎控除」、そして「社会保険料控除」などの様々な所得控除額を差し引いた後の金額を指します。
例を挙げれば、年収が500万円の場合、その計算式は以下の通りです:500万円から262.6万円(給与所得控除144万円+基礎控除48万円+社会保険料控除70.6万円)を差し引いた額、すなわち237.6万円が大体の課税所得金額となります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円 以上330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円以上695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円以上900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円以上1,800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円以上4,000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
年収に応じた手取り金額の詳細
年収が上昇するにつれて、手取り金額の割合は減少する傾向にあり、年収が1,000万円に達すると、およそ3割近くが税金として天引きされることになります。
年収100万円と1,000万円を比較した場合、年収に対する税金の割合は13.6%の差が生じます。これは、年収の増加に伴い、手取り額の比率が低下することを示しています。
年収 | 手取り | 手取りの割合 |
100万円 | 84.9万円 | 84.9% |
200万円 | 162.0万円 | 81.0% |
250万円 | 202.3万円 | 80.9% |
300万円 | 238.3万円 | 79.4% |
350万円 | 277.1万円 | 79.2% |
400万円 | 315.4万円 | 78.8% |
450万円 | 353.1万円 | 78.5% |
500万円 | 390.9万円 | 78.2% |
550万円 | 424.6万円 | 77.2% |
600万円 | 462.3万円 | 77.1% |
650万円 | 499.4万円 | 76.8% |
700万円 | 528.9万円 | 75.6% |
800万円 | 590.7万円 | 73.8% |
900万円 | 653.4万円 | 72.6% |
1,000万円 | 713.4万円 | 71.3% |
最適な年収帯についての探求:600万円の魅力
一般的に考えられていることですが、最もコストパフォーマンスが高いとされる年収帯は「約600万円」です。これはさまざまな税金控除や家族構成の違いを考慮しても、一貫して該当する金額帯と言えます。
特に、年収が700万円を超えると、税制上の切り替えポイントにさしかかります。これは所得税の税率が10%(所得195万円以上330万円未満)から20%(所得330万円以上695万円未満)へ跳ね上がる境界です。このボーダーラインを超えると、税金負担は顕著に増加します。
その点で、年収が600万円前後であれば、大多数の人々が10%の税率枠内に収まり、税率と収入の最適なバランスが得られます。そのため、税率の観点から見ると、「年収600万円前後」はコスパが良い年収と言えるのです。
パートナーの収入に関する最適戦略
さらに、パートナーの年収についても最適な戦略があります。パートナーの年収が103万円を超える場合、所得税の徴収が始まります。また、年収が101万円以上であれば、住民税も課されることになります。
一方、パートナーの年収が大体100万円以下であれば、これらの税金の支払い義務は発生しません。このため、パートナーの年収を100万円以下に抑えることが、税金負担を抑える上で賢い選択とされています。これを「100万円の壁」という言葉で表現することが一般的です。
ただし、自治体によってはこの数字に若干の差があり得るため、100万円は一般的なガイドラインとして理解しておくことが重要です。各自治体の詳細な税制については、それぞれ確認することをお勧めします。
年収増加に伴う税金面の懸念
年収が増加すると、税金面での損失が発生する可能性があります。ここでは、その背景を詳しく見ていきましょう。
所得税率の上昇
まず、年収の増加に伴い所得税率が5%から最大45%まで上昇します。これは、より多く働いて稼ぐほど、税負担が増加するという制度です。このシステムは、労働意欲を減退させる要因とも考えられ、日本の生産性向上に対する障壁としての意見もあります。
給与所得控除額の相対的減少
給与所得控除は、会社員に適用される経費のようなものです。この控除は、55万円から195万円の間で6段階に設定されています。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
162.5万円以下 | 55万円 |
162.5万円超180万円以下 | 収入金額 × 40% – 10万円 |
180万円超360万円以下 | 収入金額 × 30% + 8万円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額 × 20% + 44万円 |
660万円超850万円以下 | 収入金額 × 10% + 110万円 |
850万円超 | 195万円(上限) |
たとえば年収300万円と700万円のケースを比較すると、年収700万円の人の方が控除額は多いように見えます。しかし、実際には年収300万円の方が年収に対して30.3%の高い割合で給与所得控除を受けています。
- 300万円 × 30% + 8万円 = 90.8万円(年収の30.3%)
- 700万円×10%+110万円 = 180万円 (年収の25.7%)
これは、収入が増えると給与所得控除の相対的な割合が低くなるというシステムです。給与所得控除の上限が195万円と設定されているため、年収が850万円を超えると、年収が増えるほど給与所得控除の割合は低下します。
以上の要素から、年収が上がることの税金面でのデメリットは重要なポイントとなります。特に、税金負担の増加と給与所得控除の相対的減少は、収入増加の結果として検討すべき要素です。
配偶者控除の減額や失効について
配偶者控除は、特定の条件下で納税者に適用される税制上のメリットです。具体的には、この控除は納税者の年間総所得金額が1,000万円以下であり、さらに配偶者の年間総所得金額が48万円以下の場合に適用されます。
多くの人が意識するのは「年収103万円の壁」ですが、納税者自身の所得に関する条件があることはあまり知られていません。表に示されているように、納税者の所得レベルに応じて控除額が設定されており、所得が900万円以下の場合は38万円の控除が受けられます。
しかし、所得が900万円を超えると、控除額は26万円、さらに13万円へと段階的に減少していきます。そして、所得が1,000万円を超えると、配偶者控除の恩恵は完全になくなります。
このシステムは、納税者の所得レベルによって配偶者控除の適用範囲が大きく変わるため、年収の計画において重要な要素となります。特に高収入の個人にとっては、所得の増加が配偶者控除の減額や喪失に直結するため、注意が必要です。
納税者本人の合計所得金額 | 配偶者控除の金額(一般) |
900万円以下 | 38万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 |
1,000万円超 | 0円 |
児童手当制度の変更と所得による影響
児童手当は、中学校を卒業するまでの子どもを養育している家庭に対して支給される手当です。この手当の支給額は、児童の年齢や保護者の所得金額によって異なります。しかし、所得が一定額を超えると、満額の手当が受けられず、特例給付として月額5,000円が支給されることになります。
児童手当法の改正に伴い、2022年10月の支給分からは、この特例給付の廃止が予定されています。扶養家族の人数によって適用外となる所得金額は異なりますが、例えば子ども2人を養育し、年収103万円以下のパートナーを扶養している場合、年収1,200万円以上の場合には児童手当が支給されなくなる予定です。
一方で、年収960万円から1,200万円の範囲の所得者には、月額5,000円が支給され続けることになっています。このため、年収が1,000万円を超えると、高い税率や手当の減少により、実際に手にする金額の増加が少ないと感じることがあります。
これらの変更は、特に子どもを持つ家庭においては年収の計画に影響を与える要素です。手取り額が増加することを期待していた家庭にとっては、税率の上昇や手当の減少は、収入の増加を実感しにくくする要因となり得ます。
児童の年齢 | 児童手当の額 (一人あたり月額) | 特例給付 ※所得制限限度額以上の 所得の場合 |
3歳未満 | 一律15,000円 | 5,000円 |
3歳以上小学校修了前 | 10,000円 (第3子以降は15,000円) | 5,000円 |
中学生 | 一律10,000円 | 5,000円 |
公的支援金の制度と所得に応じた給付額の変化
所得が増加すると、公的な支援金の給付額に影響が出ることがあります。これは、支援金制度が一定の所得水準以下の家庭を対象にしているためです。例えば、「すまい給付金」という制度では、マイホーム購入者に対して、年収に応じた金額が助成されます。この制度の特徴は、受給できる金額が年収によって異なる点にあります。
具体的には、専業主婦と中学生以下の子ども2人を抱える家庭が、年収450万円以下の場合、最大で50万円の給付が可能です。しかし、年収が700万円になると給付額は大幅に減少し、10万円にまで下がります。さらに、年収775万円を超えると、給付は一切受けられなくなります。
同様に、「高等学校等就学支援金制度」という高校生に対する授業料助成の制度もあります。私立高校に通う生徒の場合、世帯年収が910万円未満の家庭には、一律11万8,800円の助成が行われます。これに対し、年収が590万円未満の家庭では、39万6,000円の助成が受けられます。
このように、世帯年収が低い家庭ほど、公的な支援金の恩恵をより多く受けられる仕組みとなっています。給付金の目的は、経済的に厳しい家庭への支援を強化することにあるため、年収が増えるにつれて支援金額が減少するというのは、この制度の基本的な考え方に沿っています。これらの制度を利用する際は、所得の変動が給付金額に与える影響を理解し、計画的に対応することが大切です。
高収入者向けのお得な税制優遇制度の活用
所得が多いほど税金も高くなりがちですが、高収入者だからこそ活用したい、税制上のお得な制度がいくつか存在します。ここでは、そのような制度を紹介し、効果的な節税方法について考えてみましょう。
ふるさと納税の利用
ふるさと納税は、自分が住む自治体以外に税金を寄付することで、その額に応じて住民税や所得税が控除される制度です。寄付した自治体からは、その額に応じて様々な返礼品がもらえるのが魅力です。この制度のポイントは、寄付額から2,000円を差し引いた金額が税控除の対象となることです。事実上、税金の前払いのような形になりますが、高収入者はこの上限額も高くなるため、節税効果が期待できます。日用品や食料品など、日々の生活に役立つ返礼品を受け取ることができるため、積極的に活用することがおすすめです。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の活用
次に、資産運用を考えている高収入者には、iDeCoの利用が非常に有効です。iDeCoは、老後資金を自分で積み立てる個人型の確定拠出年金制度で、積立てた金額が所得控除の対象となり、所得税や住民税の節税に繋がります。さらに、通常の株や投資信託の場合、得た利益に対して約20%の税金がかかりますが、iDeCoを利用した場合は運用益が非課税となる大きなメリットがあります。ただし、60歳まで資金を引き出すことができないという制約があるため、この点は留意が必要です。しかし、高収入者ほど節税メリットが大きいため、老後資金の形成を考える上で非常に有利な制度と言えるでしょう。
これらの制度をうまく活用することで、高収入者は税制上の不利をある程度カバーし、賢く資産形成を行うことが可能です。自分の所得に合わせた適切な制度の選択と活用は、賢い資産運用の鍵となります。
最適な年収の戦略的な検討
年収と生活コストのバランスを考える際には、コストパフォーマンスが最も高いとされる600万円前後の年収を目安とすることが有益です。しかし、自分自身のライフスタイルや家計の状況を考慮して、最適な年収を見極めることが重要です。
手元に残る収入を最大限に増やすためには、税制上の各種控除や利用可能な支援制度、さらにはふるさと納税などの制度を活用することが効果的です。これらの制度を上手く使うことで、年収に関わらず手取りの増加が期待できます。
もちろん、収入を増やすこと自体はポジティブなことですが、収入増加に伴う税金の負担や利用可能な支援制度の変更なども意識することが大切です。そのため、現在の年収に満足するだけでなく、税金や各種制度の影響を加味した上で、自身のキャリアプランを戦略的に考えることが重要になります。
結局のところ、年収と生活のバランスは個々のライフスタイルや価値観に大きく依存します。自身にとっての最適な年収を理解し、適切な税制優遇措置や支援制度を活用することで、より豊かな生活を目指しましょう。