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「生活保護が年金より多い」の真実と制度の意味を冷静に考える

「年金をまじめに払い続けてきたのに、生活保護の方が金額が多いなんておかしい」

SNSや職場での雑談で、こんな声を耳にしたことはないでしょうか。この記事を読んでいるあなたも、同じような疑問や不安を抱えているかもしれません。

私は長年、ファイナンシャルプランナーとして数多くの方の家計相談を受けてきました。20代で株式投資で200万円を失い、30代で家計管理に失敗して借金200万円を背負った経験もあります。その後、独自の家計管理法で完済し、現在は3,000万円の資産を築けました。そんな私だからこそ、お金に関する不安や疑問の根深さを理解しています。

この記事では、「生活保護vs年金」という図式を超えて、なぜこのような状況が生まれるのか、そして私たちはどう考えるべきなのかを、データに基づいて冷静に解説します。

結論から申し上げると、生活保護と年金は根本的に異なる制度であり、単純に金額を比較して「おかしい」と判断するのは適切ではありません。しかし、この感情の背景には、社会保障制度への不信や将来への不安があることも事実です。

目次

【まず知っておきたい】生活保護と年金の基本的な違い

生活保護とは何か

生活保護は国民が最低限の生活を送れることを保証する最後のセーフティーネットです。この制度の根本的な考え方は、国民の最低限の生活を保障することです。

具体的には、年金の額が少なく最低生活水準を満たさない場合は、年金と生活保護の両立が可能です。つまり、年金をもらっていても、それが最低生活費を下回る場合は、差額を生活保護として受給できるのです。

2025年度の生活保護基準額(月額・東京23区・単身者65歳以上の場合)

  • 生活扶助(食費・光熱費等):約8万円
  • 住宅扶助(家賃):約5万3千円
  • 合計:約13万3千円

厚生労働省は、物価の高騰などを考慮して、生活扶助基準の特例として2023年と2024年に1人あたり月額1000円を一律で加算していましたが、2025年度からはさらに500円を上乗せし、加算額は月額1500円になります。

年金制度の仕組み

一方、年金制度は保険の仕組みです。年金の基本的な考え方は、高齢により働いてお金を稼ぐ能力が失われることに備えて老後の生活の安定を目指すことです。

2025年度の年金受給額

国民年金(老齢基礎年金・満額)

  • 月額69,308円(年額83万1,700円)

厚生年金の平均受給額

  • 全体平均:14万6,429円(国民年金含む)
  • 男性:16万6,606円、女性:10万7,200円

この数字を見ると、確かに国民年金の満額(約6万9千円)と生活保護(約13万3千円)を比較すると、生活保護の方が高額になります。

なぜ「生活保護の方が多い」状況が生まれるのか

制度設計の根本的な違い

この問題を理解するには、両制度の設計思想の違いを知る必要があります。

年金制度の考え方 現役時代に保険料を納めた実績に基づいて給付される「社会保険」です。納めた保険料が多ければ受給額も多く、少なければ受給額も少なくなります。これは「拠出」と「給付」の関係が明確な制度です。

生活保護制度の考え方 国が定めた「最低生活費」を保障する「社会扶助」です。個人の過去の拠出実績に関係なく、現在の収入が最低生活費を下回る場合に、不足分を補填します。

年金は人によって支給される額が異なるので、国民の生活を必ずしも保障するものではありません。備えるという意味では、保険に近い考え方といえるでしょう。

国民年金だけでは生活できない現実

私がファイナンシャルプランナーとして相談を受ける中で、最も多い悩みの一つが「国民年金だけで老後は暮らせるのか」という不安です。

国民年金満額でも月約7万円の現実

国民年金保険料は毎年改定されますが、2025年度は一律で、月1万7,510円です。仮に2025年度の金額を20歳から60歳までの40年間(480カ月)にわたって納めたとすると、国民年金保険料の総額は1万7,510円×480カ月=840万4,800円となります。

つまり、40年間で約840万円も保険料を支払って、受け取れるのは月約7万円。これでは確かに生活が困難です。

生活費の現実と比較

一人暮らしの高齢者の最低限の生活費を考えてみましょう:

  • 食費:3万円
  • 住居費(賃貸):5万円
  • 光熱費:1万円
  • 医療費:1万円
  • その他(被服費、通信費等):2万円
  • 合計:12万円

国民年金の満額約7万円では、明らかに不足します。この不足分を補うのが生活保護の役割なのです。

実際の数字で見る「年金と生活保護の関係」

年金受給者の生活保護受給の実例

年金受給者が生活保護を受給するにあたり、重要になるのが生活保護費=最低生活費−収入であるということです。

具体的なケース(東京23区・単身者65歳の場合)

年金受給額最低生活費生活保護費総受給額
3万円13万3千円10万3千円13万3千円
5万円13万3千円8万3千円13万3千円
7万円13万3千円6万3千円13万3千円
10万円13万3千円3万3千円13万3千円
13万3千円以上13万3千円0円年金額のまま

このように、年金額に関係なく、最終的な手取り額は最低生活費(約13万3千円)で一定になります。年金をもらえるようになったとしても年金額は「収入」とみなされ、生活扶助費はその分を控除した額が支給されます。「生活扶助+年金」が支給されるわけではありません。そうすると毎月の受取額は変わらないということになります。

「年金だけ」と「生活保護のみ」の比較

では、年金保険料を一切払わずに生活保護だけを受給した場合と、年金保険料を払い続けた場合を比較してみましょう。

ケース1:年金保険料を40年間支払った場合

  • 保険料総額:約840万円
  • 受給額:月約7万円(年金)+月約6万円(生活保護)=月約13万円

ケース2:年金保険料を一切支払わなかった場合

  • 保険料総額:0円
  • 受給額:月約13万円(生活保護のみ)

この比較だけを見ると、「年金保険料を払わない方が得」という印象を持つかもしれません。しかし、これには重要な見落としがあります。

生活保護受給の現実と制約

生活保護の受給条件

1つ目の条件は、生活保護費よりも収入が少ないことです。2つ目の条件は、貯金などの資産を所有していないことです。

生活保護を受給するには、厳格な条件をクリアする必要があります:

資産の活用

  • 預貯金は基本的に認められない
  • 不動産や自動車は原則として売却が必要
  • 生命保険の解約返戻金も活用対象

能力の活用

  • 現在の収入に関わらず、就労による収入を得ることが客観的に困難であると判断されなければ生活保護は受給できません。
  • 65歳を超えていても、働ける状態なら就労が求められる場合がある

扶養義務者からの援助

  • 親族からの経済的援助が可能な場合は、それが優先される

生活保護受給時の制限

生活保護を受けることができたとしても、生活する上での制限が設けられています。原則として自動車を持つことはできません。自動車は資産とみなされるからです。

主な制限事項

  • 自動車の保有は原則禁止
  • 海外旅行や国内旅行の制限
  • 生命保険への加入制限
  • ローンやクレジットカードの利用制限
  • 定期的なケースワーカーの訪問調査

私がこれまで相談を受けた方の中にも、「生活保護の方が金額は多いかもしれないけれど、これらの制限を考えると、年金をもらいながら自分なりに工夫して生活する方がいい」とおっしゃる方が多くいらっしゃいました。

社会保障制度の本来の意味を考える

年金制度の意義

年金制度には、単なる「老後の仕送り」以上の意味があります。

社会連帯の仕組み 現在の年金制度は「賦課方式」と呼ばれ、現役世代が高齢世代を支える仕組みです。これは、社会全体で高齢者を支えるという連帯の精神に基づいています。

インフレ対応機能 年金には物価上昇に対応する仕組みがあります。国民年金保険料は名目賃金変動率によって、老齢基礎年金額は名目手取り賃金変動率、或いは物価変動率によって毎年度改定されることで、ある程度はインフレにも対応できるようになっています。

長期的な安定性 生活保護は生活状況の変化や制度変更により受給できなくなる可能性がありますが、年金は一度受給権を得れば生涯にわたって受給できます。

生活保護制度の必要性

一方で、生活保護制度も社会にとって不可欠です。

最後のセーフティネット どんなに注意深く生きていても、病気、事故、経済的困窮など、予期せぬ事態に陥る可能性は誰にでもあります。私自身も20代で投資に失敗し、30代で借金を抱えた経験があります。そんな時、最後に頼れる制度があることの安心感は計り知れません。

社会全体の安定 生活保護制度があることで、極度の貧困による社会不安を防ぎ、社会全体の安定に寄与しています。

「不公平感」の正体と向き合い方

なぜ不公平に感じるのか

多くの方が抱く「生活保護の方が年金より多いのはおかしい」という感情の背景には、以下のような心理があります:

努力が報われない感覚 40年間コツコツと年金保険料を支払い続けたのに、結果的に生活保護と同じかそれ以下の生活水準になってしまうことへの失望感。

制度への不信 「まじめに保険料を払っても意味がないのではないか」という制度自体への疑問。

将来への不安 「自分の老後は大丈夫なのか」という漠然とした不安の表れ。

冷静に考えるべきポイント

しかし、この感情には以下のような認識の誤りが含まれていることも事実です:

比較対象の誤り 年金受給者と生活保護受給者では、置かれている状況が全く異なります。生活保護を受給している方の多くは、さまざまな事情により年金保険料を十分に支払えなかった方々です。

制度の目的の違い 年金は「保険」、生活保護は「救済」という、そもそもの目的が異なる制度を同列に比較すること自体に無理があります。

トータルでの比較の重要性 金額だけでなく、自由度、社会的地位、心理的な満足感なども含めて総合的に判断する必要があります。

私たちはどう行動すべきか

年金制度を最大限活用する方法

1. 未納期間を作らない 国民年金の未納期間があると、その分受給額が減ってしまいます。経済的に厳しい時期は、免除制度や猶予制度を積極的に活用しましょう。

2. 厚生年金への加入期間を延ばす 国民年金と違い、厚生年金は原則70歳まで加入でき、厚生年金保険料を納めることができます。60歳以降も可能な限り厚生年金に加入して働くことで、受給額を増やすことができます。

3. 繰り下げ受給の活用 老齢年金の受給開始は原則65歳からですが、66歳~75歳の間に遅らせることができます。これを「繰り下げ受給」といいます。繰り下げ受給で、受給開始を1か月遅らせるごとに、受け取れる年金額が0.7%ずつ増加。最大で75歳まで繰り下げることで年金額が84%増加します。

年金だけに頼らない老後資金づくり

私的年金の活用

  • iDeCo(個人型確定拠出年金)
  • 国民年金基金(自営業者等)
  • 個人年金保険

資産形成の多様化

  • NISA制度を活用した長期投資
  • 不動産投資
  • 預貯金以外の金融商品

私自身も、年金制度だけに頼るのではなく、複数の収入源を確保することで老後の安心を築いてきました。30代で借金200万円を完済した後は、つみたてNISAと確定拠出年金を中心とした資産形成により、現在3,000万円の資産を築くことができました。

社会保障制度への理解を深める

正確な情報の収集 SNSやメディアの断片的な情報に惑わされず、厚生労働省や日本年金機構などの公式情報を確認する習慣をつけましょう。

専門家への相談 ファイナンシャルプランナーや社会保険労務士などの専門家に相談することで、自分の状況に最適な対策を見つけることができます。

建設的な議論への参加 感情的な批判ではなく、建設的な制度改善の議論に参加することが重要です。

制度改善に向けた議論の方向性

現在検討されている改革案

政府や有識者の間では、以下のような制度改善が議論されています:

基礎年金の充実 基礎年金の給付水準を約3割引き上げる案も提示されています。この財源として、厚生年金の積立金を活用することが検討されています。

厚生年金適用拡大 パート・アルバイトなどの短時間労働者への厚生年金適用を拡大し、将来の年金受給額増加を図る政策が進められています。

高齢者雇用の促進 70歳まで働ける環境整備により、厚生年金加入期間の延長と受給額の増加を目指しています。

私たちにできること

1. 制度への理解を深める まずは現行制度を正しく理解することから始めましょう。誤解に基づく批判は建設的な議論を阻害します。

2. 政治への参加 選挙での投票や政治家への意見表明を通じて、制度改善に向けた政治的意思を示すことが重要です。

3. 世代間の対話 異なる世代の間で、それぞれが抱える困難や不安について率直に話し合うことで、相互理解を深めることができます。

まとめ:制度の意味を理解し、冷静な判断を

「生活保護が年金より多い」という問題は、確かに存在します。しかし、それを単純に「おかしい」と批判するのではなく、なぜそのような状況が生まれるのか、そして私たちはどう対応すべきかを冷静に考えることが重要です。

この記事で伝えたかった重要なポイント

  1. 制度の目的の違いを理解する 年金は「保険」、生活保護は「救済」という異なる役割を持つ制度です。
  2. 数字だけでなく総合的に判断する 金額だけでなく、自由度や安定性なども含めて評価することが大切です。
  3. 自分でできる対策を講じる 制度に文句を言うだけでなく、自分自身の老後資金づくりに取り組みましょう。
  4. 建設的な議論に参加する 感情的な批判ではなく、具体的な改善案を考える姿勢が重要です。

私がファイナンシャルプランナーとして皆さんにお伝えしたいのは、**「お金は人生を豊かにするための手段であり、無理をしてまで増やすものではない」**ということです。年金制度への不満や生活保護への偏見を持つよりも、自分自身が安心して老後を迎えられるよう、今できることから始めていただきたいと思います。

将来への経済的な不安は、誰もが抱える自然な感情です。しかし、その不安を他者への批判や制度への文句に向けるのではなく、自分自身の行動に変えていくことで、より良い未来を築くことができるはずです。

次の一歩として

この記事を読んで、年金や生活保護について新たな視点を得られた方は、ぜひ以下のような行動を検討してみてください:

  • 自分の年金記録を「ねんきん定期便」で確認する
  • iDeCoやNISAなどの税制優遇制度について調べる
  • ファイナンシャルプランナーや社会保険労務士への相談を検討する
  • 家族や友人と老後資金について話し合う機会を作る

一人ひとりが制度を正しく理解し、自分なりの準備を進めることで、社会全体がより安定し、誰もが安心して暮らせる社会に近づくことができるでしょう。

あなたの将来への不安が、この記事を通じて少しでも軽くなり、前向きな行動への第一歩となることを心から願っています。

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