投資スタンス: 中立、確信度 70%
マキヤの2026年3月期第1四半期決算は、増収増益を達成し、特に小売業セグメントの収益性改善が際立った。しかし、これは前年同期に発生した大規模改装費用の一時的な剥落という特殊要因に大きく依存しており、本質的な収益力の大幅な向上とは評価しづらい。EC事業は引き続き高成長を維持しているものの、セグメント利益は依然として限定的であり、全社利益への貢献は道半ばである。通期業績予想は据え置かれたが、第1四半期の進捗率から見ると、達成は容易ではないと評価せざるを得ない。我々は、同社の堅実な経営と特定の成長ドライバー(EC事業や太陽光パネル設置など)を評価する一方、マクロ経済の不確実性や小売業界の構造的な課題を考慮し、中立的な投資スタンスを維持する。
3行サマリー:
- マキヤは第1四半期に増収増益を達成したが、これは前年の特殊要因(改装費用)の剥落が主因であり、本業の収益力改善は限定的。
- 堅調な小売事業と高成長のEC事業という二つの柱があるが、コスト増加圧力と激化する競争環境下で、通期目標達成には大きなチャレンジが伴う。
- 今後は、EC事業の黒字化に向けた進捗と、徹底したコスト削減、そして小売業における来店客数増加の継続性を注視すべきである。
主要カタリスト:
- ポジティブ:
- EC事業の早期黒字化と利益貢献: 高成長を維持しているEC事業が、のれん償却費を吸収し、セグメント利益に大きく貢献し始める。
- コストプッシュ型インフレの沈静化: 原材料価格やエネルギーコストの安定化により、売上原価率や販管費率が改善し、利益率が向上する。
- 新規出店・改装による客数増加: 積極的な店舗戦略が奏功し、既存店の売上高成長に加え、新規顧客の獲得が加速する。
- ネガティブ:
- インフレの長期化と個人消費の低迷: 消費者マインドの低下が客数減や買い控えを招き、売上高が鈍化する。
- 価格競争の激化: 競合他社の攻勢により、商品の価格設定が困難になり、粗利率が圧迫される。
- EC事業の成長鈍化と赤字の継続: 販管費増加に見合うだけの売上成長が見られず、セグメント赤字が恒常化し、全社利益を圧迫する。
事業概要とビジネスモデルの深掘り
マキヤグループは、地域密着型の総合小売業を中核に、不動産賃貸事業、そして近年注力しているEC事業を展開している。
ビジネスモデルの評価
同社の収益モデルは、非常に伝統的な小売業のそれに従う。
営業収益=(来店客数×買上点数×商品単価)+不動産賃料+EC事業売上
このモデルの強みは、地域に根差した店舗ネットワークと多岐にわたる事業ポートフォリオにある。
- 競争優位性: 地方都市における**「少子高齢化と人口減少」という課題に直面しつつも、「エブリデイロープライス」**戦略を徹底することで、価格に敏感な顧客層の支持を獲得している。多様な業態(エスポット、業務スーパー、ハードオフ、ダイソーなど)を組み合わせることで、顧客の様々なニーズに応え、一カ所で買い物を完結できる利便性を提供している。
- 脆弱性: 小売業界は、eコマースの拡大や他社の出店攻勢による**「価格競争の激化」に常に晒されている。また、国内物価の上昇による「可処分所得の減少」**は、消費者の買い控えを誘発するリスクとなり、売上高に直接的な悪影響を及ぼす。同社が掲げる「エブリデイロープライス」戦略は、インフレ環境下では粗利率を圧迫する両刃の剣ともなりうる。
競争環境
同社の主要な競合は、事業セグメントによって異なる。
- 小売業: 地域のスーパーマーケット、ドラッグストア、ディスカウントストア(例: 競合する業務スーパーフランチャイジー、ドン・キホーテなど)、そしてオンライン小売業者(Amazon、楽天市場など)。
- 不動産賃貸: 地域内の商業施設デベロッパーや不動産賃貸業者。
- EC事業: 既存の巨大ECプラットフォーム(楽天市場、Yahoo!ショッピングなど)や専門性の高いECサイト。
マキヤの相対的な強みは、リアル店舗の強固な顧客基盤と、EC事業を成長ドライバーとして育成しようとする戦略的柔軟性にある。しかし、EC事業においては、既存の巨大プラットフォームとの差別化が最大の課題であり、単なる「品揃え」や「価格」だけでは、その競争を勝ち抜くことは極めて困難である。同社が注力する**「売れ筋」商品の共同開拓・共同仕入・共同販売**は、利益率改善と差別化に向けた重要な一手であり、その成果の行方を注視する必要がある。
【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2026年3月期 1Q (百万円) | 2025年3月期 1Q (百万円) | 対前年同四半期増減率 (%) |
営業収益 | 23,007 | 21,131 | +8.9% |
営業利益 | 603 | 439 | +37.3% |
経常利益 | 639 | 464 | +37.7% |
親会社株主に帰属する四半期純利益 | 441 | 340 | +29.8% |
同社は第1四半期に増収増益を達成した。営業収益は前年同期比8.9%増の230億7百万円、営業利益は同37.3%増の6億3百万円となった。
営業利益のブリッジ分析: 前年同期の営業利益439百万円から当期の営業利益603百万円への変動要因を分解する。
- 売上増加による利益増:
- 営業収益は1,876百万円増加した(23,007 – 21,131)。
- 売上総利益率は前年同期23.7%(5,151 / 21,131)から、当期24.2%(5,567 / 23,007)へと**+0.5ポイント改善**している。
- これにより、売上増加による売上総利益の増加額は、約1,876百万円 × 24.2% = 約454百万円と推計される。
- 販管費変動による利益増減:
- 当期の販管費は4,964百万円に対し、前年同期は4,712百万円であり、252百万円増加した。
- 販管費の増加要因は、主に**「販売費」の増加(+120百万円)と「水道光熱費」の増加(+50百万円)**にある 。
- 一方で、販管費の売上比率は、前年同期の22.5%から当期の21.7%へと0.8ポイント減少しており、これは**「前年同期にエスポット新横浜店の大規模改装による一時的な改装経費が発生した」**ためと説明されている 。
- この特殊要因がなければ、販管費の増加はさらに大きくなっていた可能性が高い。
- 利益変動の要因分析:
- 売上増加による利益増: +454百万円
- 販管費増加による利益減: -252百万円
- 合計: +202百万円
この推計結果は、実際の営業利益増加額164百万円(603 – 439)と乖離があるが、これは主に売上総利益率の変動が単純な売上増加によるものではないことを示唆している。より詳細な分析では、売上構成の変動(EC事業やノンフードの寄与度上昇)や、商品鮮度管理の徹底による**「値引き・廃棄ロス率の改善」**が粗利率向上に寄与したことが確認できる 。
結論として、当期の大幅な増益は、売上成長による利益貢献と、前年同期の特殊要因(改装費)の剥落による販管費率の改善という二つの要素によってもたらされた。特に後者の影響が大きく、本質的な収益力の大幅な改善と判断するには慎重な姿勢が必要である。
B/S分析
- 資産: 前連結会計年度末と比較して13百万円増加し、39,841百万円となった 。
- 流動資産は1,437百万円減少し、その主因は**「現金及び預金」の1,330百万円の減少と「売掛金」の87百万円の減少**である 。
- 固定資産は1,450百万円増加し、これは**「土地」が1,031百万円、「建物及び構築物」が695百万円増加したことによる 。これは、既存店舗の不動産取得が主要因であり、M&Aや大規模な設備投資が行われていることを示唆している。
- 負債: 前連結会計年度末と比較して391百万円減少した 。
- 流動負債は591百万円減少し、「買掛金」の494百万円減と**「未払法人税等」の237百万円減**が主因である 。
- 固定負債は199百万円増加し、「長期借入金」が200百万円増加したことが原因である 。
- 純資産: 前連結会計年度末と比較して405百万円増加し、21,200百万円となった 。
- **自己資本比率は53.2%**となり、前年度末の52.2%から1.0ポイント改善しており、財務の安定性は高まっている 。
運転資本の分析: キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)を構成する各日数を計算し、経営効率を評価する。
- 売上債権回転日数(DSO)= (売掛金 / 営業収益) × 90日
- 2025年3月期末: (2,123,501千円 / 39,827,386千円) × 365日 = 19.5日
- 2026年3月期1Q末: (2,035,501千円 / 23,007,701千円) × 90日 = 7.9日
- コメント: 営業収益が四半期ベースに変わっているため単純比較は難しいが、売掛金の絶対額が減少していることから、債権回収は順調であると推察される。
- 棚卸資産回転日数(DIO)= (商品 / 売上原価) × 90日
- 2025年3月期末: (5,908,054千円 / 15,979,581千円) × 365日 = 135.0日
- 2026年3月期1Q末: (5,884,549千円 / 17,440,188千円) × 90日 = 30.4日
- コメント: 同様に四半期ベースでの比較ではあるが、在庫水準が売上原価に対して適正に管理されていることを示唆する。「品切れ」の撲滅と「値引き・廃棄ロス」の削減に取り組んだという記述 は、この棚卸資産回転日数の改善に寄与していると考えられる。
- 仕入債務回転日数(DPO)= (買掛金 / 売上原価) × 90日
- 2025年3月期末: (6,832,495千円 / 15,979,581千円) × 365日 = 156.0日
- 2026年3月期1Q末: (6,337,810千円 / 17,440,188千円) × 90日 = 32.7日
- コメント: 買掛金が減少しており、支払いサイトが短縮傾向にある。これは、仕入先との関係性を強化する一方で、短期的なキャッシュアウトを増加させる可能性がある。
全体として、運転資本の管理は堅実に行われているが、長期的な観点では、棚卸資産の質、特にEC事業やリユース事業における在庫の陳腐化リスクを継続的に監視する必要がある。
キャッシュフロー(C/F)分析
当第1四半期連結累計期間に係る四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていない 。ただし、B/Sの変動から推測すると、現金及び預金が1,330百万円減少している 。これは、有形固定資産の取得(土地、建物など)に伴う投資活動によるキャッシュアウトが、営業活動によるキャッシュインを上回ったためと考えられる。
- 営業CFと純利益の乖離(アクルーアル):
- 営業CFに関する情報がないため、正確なアクルーアル分析はできない。
- しかし、純利益が441百万円であるのに対し、現金及び預金は減少していることから、純利益が必ずしも同額のキャッシュを生み出しているわけではないことがわかる。これは、固定資産の取得など、将来の成長に向けた戦略的な投資が先行しているためと推測される。利益の質を評価するためには、今後のキャッシュフロー計算書の開示が待たれる。
資本効率性の評価
- ROIC (Return on Invested Capital):
- 税引き後営業利益 (NOPAT) = 603百万円 × (1 – 実効税率)
- 投下資本 (IC) = 負債合計 + 純資産合計 – 営業外負債 = 18,640百万円 + 21,200百万円 – 買掛金 (6,337百万円) = 33,503百万円
- ROIC (概算) = (603百万円 × (1 – 30%)) / 33,503百万円 = 約1.26%
- コメント: これは第1四半期のみの数字であり、通期換算すると改善する見込みだが、WACC(一般的に3-5%)と比較すると、現時点では企業価値を創造しているとは言い難い状況である。しかし、これは積極的に設備投資を行っているフェーズであることを考慮する必要がある。将来的にこれらの投資が収益を生み出し、ROICがWACCを上回るかが重要な焦点となる。
- ROE(自己資本利益率)のデュポン分解:
- ROE = 親会社株主に帰属する四半期純利益 / 純資産 = 441百万円 / 21,200百万円 = 2.08% (四半期ベース)
- 純利益率 = 441百万円 / 23,007百万円 = 1.92%
- 総資産回転率 = 23,007百万円 / 39,841百万円 = 0.58回
- 財務レバレッジ = 39,841百万円 / 21,200百万円 = 1.88倍
- コメント: ROEは純利益率と総資産回転率のバランスに支えられている。特に、総資産回転率が比較的高い水準にあることは、資産を効率的に活用できていることを示唆している。しかし、純利益率は1.92%と低水準であり、これがROEを押し下げる主因となっている。
【核心】セグメント情報の徹底解剖
マキヤグループの事業は「小売業」「不動産賃貸事業」「EC事業」の3つの報告セグメントに分かれている 。
各セグメントの業績
セグメント | 営業収益 (百万円) | 対前年同四半期増減率 | 営業利益 (百万円) | 対前年同四半期増減率 | 利益率 (%) |
小売業 | 21,007 | +8.3% | 675 | +27.9% | 3.2% |
不動産賃貸事業 | 102 | -0.1% | 32 | -14.3% | 31.4% |
EC事業 | 1,898 | +16.3% | 0 | – | 0.0% |
好調セグメントと不振セグメントの要因分析
- 小売業 (好調):
- 要因: 「フード(食品)」部門が全ての業態で好調に推移し、生鮮食品、日配食品、加工食品のいずれも前年同期を上回った 。「ノンフード(非食品)」部門も、HBC商品やリユース事業が順調であった 。この売上増に加え、前年同期に発生した大規模改装費用がなくなったことで、営業利益は大幅に増加した 。
- 評価: 売上高の増加は堅調な顧客需要と、値引き・廃棄ロス削減の取り組みが奏功した結果と評価できる。しかし、利益の大幅増は特殊要因に依存しており、来期以降も同等の伸びを期待するのは非現実的である。真の収益力改善には、継続的なコスト削減と、売上高成長の維持が不可欠である。
- EC事業 (潜在的成長ドライバー):
- 要因: 営業収益は前年同期比16.3%増と高い成長率を維持しており、EC事業の**「売れ筋」商品の共同開拓・共同仕入・共同販売**に取り組んだ成果が出始めている 。しかし、のれん償却費算入後の営業利益は0百万円であり、前年同期の27百万円の損失からは改善したものの、依然として黒字化には至っていない 。
- 評価: EC事業は、マキヤグループが将来の成長エンジンとして最も期待しているセグメントである。高成長は評価できるが、利益貢献が実現しない限り、投資家は成長の持続性に対して懐疑的な見方を変えないだろう。今後の焦点は、のれん償却費を吸収し、恒常的に利益を創出できるビジネスモデルを確立できるかである。
- 不動産賃貸事業 (安定収益):
- 要因: 営業収益は微減(-0.1%)し、営業利益も減少(-14.3%)した 。これは、新規出店に伴う不動産賃借料の増加があった一方で、既存店舗の不動産取得により賃借料の支払いが減少したことなど、複合的な要因が考えられる 。
- 評価: 安定した収益源ではあるものの、大きな成長は期待できない。しかし、この事業がもたらすキャッシュフローは、小売業やEC事業への投資を支える重要な基盤となる。
ポートフォリオ・マネジメントの評価
経営陣は、地域密着型小売業という安定基盤を維持しつつ、成長が見込めるEC事業を育成するというバランスの取れたポートフォリオ戦略を推進していると評価できる。EC事業との「売れ筋」商品における連携は、リアル店舗とオンラインのシナジーを追求する優れた取り組みである。しかし、EC事業の利益貢献が遅れている現状は、ポートフォリオ全体のリスク分散効果を限定的なものにしている。
経営計画の進捗と経営陣の評価
マキヤの2026年3月期
通期連結業績予想は据え置かれている 。
- 第2四半期(累計)予想:
- 営業収益: 46,314百万円
- 営業利益: 930百万円
- 通期予想:
- 営業収益: 94,427百万円
- 営業利益: 2,330百万円
今回の第1四半期の実績と比較すると、以下のような進捗状況が見られる。
項目 | 1Q実績 | 2Q累計予想 | 進捗率 |
営業収益 | 23,007百万円 | 46,314百万円 | 49.7% |
営業利益 | 603百万円 | 930百万円 | 64.8% |
営業収益の進捗率は50%に満たないが、第1四半期は一般的に売上が伸びにくい時期であることを考慮すると、妥当な水準と評価できる。しかし、営業利益の進捗率が64.8%と非常に高いのは、前年同期の特殊要因(改装費)の剥落が主因であり、このアドバンテージは第2四半期以降はなくなる。そのため、第2四半期単体では、第1四半期単体よりも利益成長率は鈍化する可能性が高い。
この状況で通期予想を据え置いた経営陣の判断は、楽観的であるとの懸念を抱かせる。特に、第2四半期累計の営業利益予想が930百万円であるのに対し、第1四半期で既に603百万円を計上している。つまり、第2四半期単体ではわずか327百万円の営業利益しか見込んでいないことになり、これは前年同期比では大幅な減益となる。経営陣は、第1四半期のような特殊要因に依存しない、本質的な収益力改善の道筋を明確に示す必要がある。
将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
今後12~24ヶ月間の業績について、以下の3つのシナリオを提示する。
強気シナリオ
- 前提条件:
- マクロ経済: 国内景気は緩やかに回復し、インフレは落ち着きを見せる。個人消費は堅調に推移する。
- 市場成長率: 小売業界全体の市場規模は横ばい〜微増で推移する。
- 為替レート: 安定。
- 予測レンジ:
- 営業収益: 96,000〜98,000百万円
- 営業利益: 2,500〜2,700百万円
- カタリスト:
- EC事業が黒字化を達成し、全社利益に貢献する。
- 「値引き・廃棄ロス率」の改善がさらに進み、粗利率が恒常的に向上する。
- 新規出店や改装が奏功し、来店客数と買上単価が同時に上昇する。
基本シナリオ
- 前提条件:
- マクロ経済: 景気回復は緩慢で、物価高は継続する。可処分所得の減少傾向が消費者マインドを抑制する。
- 市場成長率: 小売業界の競争は激化し、市場は成熟期に入る。
- 為替レート: 概ね安定。
- 予測レンジ:
- 営業収益: 94,000〜95,000百万円
- 営業利益: 2,300〜2,400百万円
- カタリスト:
- 堅実な小売事業の成長とコスト削減努力が続く。
- EC事業は成長を続けるものの、黒字化には至らない。
弱気シナリオ
- 前提条件:
- マクロ経済: 国内景気が後退し、物価高と円安がさらに進行。消費者の買い控えが顕著になる。
- 市場成長率: 競合の攻勢により、市場シェアを奪われ、売上高が減少する。
- 為替レート: 円安が進行し、輸入コストが増加する。
- 予測レンジ:
- 営業収益: 90,000〜92,000百万円
- 営業利益: 2,000〜2,200百万円
- リスク:
- EC事業の成長が鈍化し、投資が裏目に出る。
- 人件費や水道光熱費の増加が販管費をさらに圧迫し、利益率が低下する。
- 価格競争の激化により、粗利率が想定以上に悪化する。
バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法
- PER: 2026年3月期通期予想の一株当たり純利益152.10円 に基づき、株価(仮に3,000円とする)を評価すると、PERは19.7倍となる。小売業界の平均PERが15〜20倍程度であることを考慮すると、現時点ではおおむね適正水準か、やや割高に評価されていると判断できる。これは、EC事業という成長ドライバーへの期待が織り込まれている可能性が高い。
- PBR: 株価(3,000円)を一株当たり純資産2,121.45円 で割ると、PBRは1.41倍となる。これは小売業の平均的な水準であり、特別割安でも割高でもない。
絶対評価法
簡易的なDCF法を用いて試算する。
- 仮定:
- WACC (加重平均資本コスト): 5.0%
- 永久成長率 (g): 1.0%
- NOPAT (税引き後営業利益) の予測: 2,330百万円 (通期予想) × (1 – 30%) = 1,631百万円
- 投下資本の増加率: 1.5%
- 継続価値 (Terminal Value):
- TV=NOPAT/(WACC−g)=1,631百万円/(5.0
- エンタープライズ・バリュー (EV):
- EV=現在のNOPAT+TV=1,631百万円+40,775百万円=42,406百万円
- 株主価値:
- 株主価値=EV−ネットデット=42,406百万円−(負債合計−現金及び預金)=42,406百万円−(18,640百万円−3,125百万円)=26,891百万円
- 理論株価:
- 理論株価=株主価値/発行済株式数=26,891百万円/9,993,407株=約2,691円
- コメント: この試算はあくまで簡易的なものであり、多くの仮定が含まれるが、現在の株価水準(約3,000円)が、基本シナリオにおける業績を既に織り込んでいる可能性を示唆している。
総括と投資家への提言
マキヤの第1四半期決算は、増収増益という表面的な数字は良好だが、その中身を深く分析すると、本質的な収益力改善は道半ばであると結論付けられる。特に、前年の特殊要因の剥落による利益増という点が、我々の評価を慎重にさせる最大の理由である。同社の経営戦略である**「収益性の拡大」「資本効率の向上」「株主還元の充実」** は理にかなっているが、それらの目標達成には、今後さらなる努力が必要となる。
投資スタンス: 堅実な小売事業を評価する一方、マクロ経済の不確実性とEC事業の収益性改善の遅延を懸念し、引き続き中立のスタンスを維持する。
監視すべき最重要KPIとイベント:
- EC事業の収益性改善: 次の決算で、EC事業がのれん償却費を吸収し、セグメント利益が黒字化するかどうか。
- 小売業の来店客数と買上単価の動向: 経営努力による客数増加が持続し、それが売上高成長に繋がるか。
- 通期業績予想の修正有無: 第2四半期以降、利益成長率が鈍化すると予測される中で、経営陣が通期予想を据え置くか、下方修正するか。
投資家は、これらのKPIを注視し、同社の経営戦略が利益という形で結実するまで、当面は中立的なスタンスで様子見することを推奨する。